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社説:米金融検査公表 楽観するのはまだ早い

 注目されていた大手金融機関向け特別検査の結果を米金融当局が公表した。19社中9社が“合格”、残る10社は合計約7・4兆円の資本増強という宿題を与えられた。

 市場はひとまず安心したようではある。しかし特別検査は最初の通過点に過ぎない。米経済の本格回復に不可欠な金融機能の正常化に向けた道のりはこれからが本番だ。

 今回の検査は、米経済がこの先「最悪のシナリオ」をたどった場合、追加の損失をカバーするだけの資本を備えているかを金融機関ごとに調べたものだ。結果が出たことで、これまで漠然と業界全体を覆っていた不安が後退し、課題が具体的に見えるようになった。「資本は十分」とのお墨付きを得た銀行は市場から資金を借りやすくなる可能性がある。

 しかし、政府が描いた「最悪のシナリオ」は「最悪」にはほど遠いといった指摘も少なくない。特に商業用不動産を対象とした貸し出しが回収不能になる確率や、金融機関の収益見込みが甘いといった批判があるようだ。市場取引がなく客観的な「時価」が存在しない証券化商品の損失評価も緩すぎる恐れがある。もし想定より悪い経済状況に陥れば、当然、損失額はもっと膨らみ、資本がさらに必要となろう。オバマ政権の金融安定化への取り組みが信頼を失うことにもなりかねない。

 ガイトナー財務長官は「今回の検査により金融機関の貸し出し能力が高まるだろう」と胸を張る。ところが、貸し出しが回復に向かうどころか、しばらくは、逆にしぼり込まれる恐れが懸念されている。

 今回“合格”となった金融機関は貸し出しを増やしてくれそうなものだが、実際は一刻も早く政府の関与から自由になろうと、公的資金の返済を最優先させる雲行きである。

 一方で追加の資本を求められた金融機関は、政府の持ち株比率をこれ以上高めないようにと、市場からの資本調達に懸命だ。その際、少しでも必要な調達額が小さくて済むように資産の圧縮を目指すと見られる。貸し出し増とは逆方向の行動が心配されるわけだ。米金融当局はそうした弊害が広がらないよう金融機関の行動を注視していく必要がある。

 金融安定化でもう一つの柱となる不良資産の売却もこれからだ。今回の検査公表を受けて市場に安心感が広がったとしても、不良資産の抜本処理の手を緩めるようなことがあってはならない。

 できるだけ民間資金を活用し、政治的に不人気な公的資金の追加投入を回避したいというのがオバマ政権の願望かもしれない。期待通りとなるに越したことはないが、楽観の根拠は今のところ乏しい。

毎日新聞 2009年5月9日 東京朝刊

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