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米金融当局が、大手19銀行に対する特別検査の結果を公表した。これをもとに当局は楽観的な空気を広めようと努めているが、そんなにうまく事が運ぶのか、疑念は消えない。
検査は、今後2年で米経済が一段と悪化した場合に、銀行の自己資本がどれだけ不足するかを推計した。19行で最大5992億ドル(59兆円)の損失が生じ、うち10行が計746億ドル(7.4兆円)の資本不足に陥る可能性があると指摘された。
不足行は半年以内に資本を増強しなければならない。独力で調達できない場合は、政府が公的資金を注入する。ただし、各行は「政府の資金は必要ない」と説明している。
連邦準備制度理事会のバーナンキ議長も「今回の結果は投資家や世論に安心感を与えるだろう」と胸を張った。議長はこのところ「米景気は今年遅くに上向くと期待している」と語るなど、強気の見通しを語っている。ニューヨーク市場の株価も歓迎して、一時8500ドル台を回復した。
しかし、米銀の損失や資本不足がこの程度で済むのだろうか。
国際通貨基金(IMF)は4月時点で、米銀全体に2兆8千億ドルの損失があり、資本増強が最大5千億ドル必要になると推計している。
一方、大手19行の資産は米銀全体の3分の2を占めるといわれる。検査結果を単純に1.5倍しても損失は9千億ドル、資本増強は1100億ドルにしかならない。その差はざっと3倍、5倍にもなる。「IMFの推計は過大」と議長は言いたげだが果たしてどうか。住宅価格の下落もまだ続いている。
日本のバブル崩壊後をたどれば、旧大蔵省が当初発表した不良債権は18兆円だったが、その後発表し直すたびにずるずると増え、結果的には100兆円前後にまでふくらんだ。裏には、公的資金の投入に猛反対する世論と、銀行行政の失敗を表面化させたくない旧大蔵省の思惑があった。
米当局もいま苦しい立場にある。銀行に注入できる公的資金の残額は1346億ドルしかない。議会は高給を享受した金融界に不信を募らせており、資金枠の追加を通すのは極めて難しい。もし話を切り出せば金融界に対する責任追及論に火がつき、官民共同で基金を設け不良債権を買い取っていく、というオバマ政権の金融再生策が空中分解しかねないところにいる。
そうした事情から当局は事を荒立てるのを避け、検査結果が手持ちの資金枠に収まるよう穏便に済ませたのではないか。そんな疑念もぬぐえない。
米当局は楽観シナリオに賭けた。当面は共同基金での不良債権買い取りに軸足が移る。だが、もし損失処理を先送りすれば、経済の落ち込みを長引かせ、傷を深めることになる。
新型の豚インフルエンザは、衰えを見せない。最初に見つかったメキシコではやや収まってきているようだが、米国や欧州諸国などすでに20カ国以上に及び、患者も2千人を超した。
日本政府は、ウイルスの上陸を防ごうと、空港などで乗客の健康状態を調べ、懸命の水際作戦を続けている。しかし、数日間の潜伏期間もあり、検疫をすり抜けても不思議はない。国内に入ってくるのは時間の問題だろう。
舛添厚労相が認めたように、水際作戦は「時間稼ぎ」だ。肝心なのは水際作戦の先、つまり、国内で感染が広がったときに社会が混乱しないよう、しっかり備えを固めておくことだ。
これまでにわかっている範囲では、今回の新型ウイルスの毒性は弱く、毎年冬に流行するインフルエンザとほぼ同じ程度らしい。タミフルなどの薬が有効で、重症になるのは、もともとほかの病気があったり、受診が遅れたりした人が多いようだ。
ただ、理由はわからないが高齢者より若い人に感染が多く、下痢も目立つなど、ふだんのインフルエンザとの違いもある。恐れすぎることはないが、警戒は怠らないようにしよう。
気がかりなのは、発熱などを訴えて病院を訪れた人が、受診を拒否される例が早くも相次いでいることだ。
政府の新型インフルエンザに関する行動計画は、毒性がもっと強い鳥インフルエンザを想定しているため、防護服に身を固めた重装備で訓練が行われてきた。現在の検疫も、ゴーグルをつけたものものしい姿で行われている。こうしたことが医療機関の側に過剰な警戒心を生み、診療拒否につながっていることはないだろうか。
厚生労働省は、正確な情報を行き渡らせ、医療現場が混乱しないよう、努めてもらいたい。
現在の計画では、流行の初期は、患者を隔離するとともに学校閉鎖などで感染の拡大を抑えるとされている。だが問題は、感染がさらに拡大したときだ。医療機関には大勢の患者が殺到することが予想される。
計画では、この段階になると病院には重症者だけを受け入れ、軽症者は自宅で療養することになっている。しかし現実には、医師や看護師も、感染したり、子どもの学校が閉鎖されたりして、職場に出られないことも増えるだろう。そうした中で、大勢の患者にどう対応するのか。
綿密な計画作りが必要だ。ドライブスルー方式や宅配などで軽症者に薬を配る仕組みも考えておきたい。
私たち一人ひとりの行動も、きわめて重要だ。健康管理や手洗いを徹底する。もし感染したら、できるだけ外出せず、外に出るときはマスクをして、せきやくしゃみを通じて他人にうつさないようにする。それが基本だ。