子どもの臓器提供を論点にした臓器移植法改正の動きが急速に高まっている。世界保健機関(WHO)が海外渡航による移植の自粛を促す新指針を今月にも決める見通しとなったことが大きい。改正をめぐる議論は今国会の焦点になってきた。
臓器を提供する場合のみ脳死を人の死とする日本の臓器移植法は、一九九七年に施行された。医療関係者のほか法律や宗教家ら幅広い分野の専門家が集まった臨時脳死及び臓器移植調査会(脳死臨調)などでの激論を経、国民的な関心が高まる中での、わが国独自の結論だった。
それから十一年余り。脳死者からの移植はわずか八十一例にすぎない。海外へ渡って移植の機会を待つ子どもも後を絶たない。現行法は、その付則で施行後三年で見直すとされていたが、継続審議のまま経過した。
現在、衆院に議員立法で提出されている改正案は三案。A案は脳死を一律に人の死とし、提供者の年齢制限をなくして家族の同意で提供できる。B案は現行法の枠組みのまま提供できる年齢を十五歳以上から十二歳以上に引き下げる。C案は逆に脳死の定義を厳格化するというものだ。さらに折衷の第四案などが検討されている。
潮流は、現行法を緩和して子どもへの移植に道を開く方向だ。共同通信社が全国会議員を対象に行ったアンケートでも、今国会での改正に八割以上が賛成し、臓器提供の年齢制限撤廃に七割以上が賛成している。
半面、脳死を一律に人の死とすることへの賛同は五割に満たない。脳死そのものへのためらいが社会に強く存在していることを裏付けているといえよう。
救える命を自分の国で救いたいという思いは当然のことだ。その意味で、法律改正をたなざらしにしてきたのは「立法の不作為」と言っていい面がある。だが一方で、臓器不足の「外圧」に押されるあまりの性急さを危ぶむ声があるのも事実だ。
死の定義や自己決定の問題を改正で変えていいのか。小児科医の七割が困難と答える子どもの脳死診断をどう考えるか。被虐待児の紛れ込みをどう防ぐか―などはやはり難しい。
国会が結論を先延ばしにしてきたのも、こうした難しさゆえといえるが、今国会では真摯(しんし)な議論をたたかわしてほしい。議員有志から出ている脳死臨調のような組織の設置も一考に値しよう。国民の側も関心を持って社会的なムーブメントをもう一度呼び起こし、脳死移植への理解を深めたい。
二〇一〇年に開かれる核拡散防止条約(NPT)再検討会議の準備委員会がニューヨークの国連本部で開かれている。「核兵器のない世界」を目標に掲げるオバマ米大統領の積極姿勢を追い風に、同会議が歴史的な進展の場となるのか、準備委の成果を注視する必要があろう。
NPTは核兵器の拡散を防ぎ、米ロ英仏中の核保有国に核軍縮を義務付けた国際条約。運用点検のため五年ごとに再検討会議を開いている。前哨戦となる準備委は同会議の議題などを事前に討議するのが目的だ。
各国の基調演説の中で、米のゴッドメラー首席代表は「核兵器と核テロの脅威に有効に対処できるようNPTを強化せねばならない」と、国際社会の行動を求めたオバマ大統領のメッセージを読み上げた。
日本の首席代表、柴山昌彦外務政務官は中曽根弘文外相が発表した「世界的核軍縮のための十一の指標」を提案。オバマ大統領のプラハでの演説を契機に醸成されてきた核軍縮の機運を「再検討会議につなげることが必要」と強調した。また、非政府組織(NGO)枠で演説した広島、長崎の両市長も核廃絶に向けた取り組み強化を訴えた。
NPTの柱は「核軍縮」「核不拡散」「原子力の平和利用」の三つだ。〇五年の再検討会議では核保有国と非保有国が対立、成果なく決裂した。NPT体制の改善、強化策が急務とされるが、その前に大きく立ちはだかるのが北朝鮮やイランの核問題だ。さらにNPT未加盟の核保有国インド、パキスタン、イスラエルをどう枠組みに取り込むかも課題といえよう。
核軍縮への機運は高まりつつある。準備委は「核の秩序」再構築に向けた議論を深めるとともに、再検討会議の実効を挙げるため結束を図るべきだ。
(2009年5月8日掲載)