考えるための書評集

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『非属の才能』　山田玲司

　「のけ者」や「はみ出し者」のなかにこそ、成功や世の中を変えてゆく才能があるのだと宣言した本であり、この国の「みんなと同じ」主義に踏みつけにされてきた人にはたいそう勇気づけられる本になるだろう。

　はっきりいって行列やだれかの後をついてゆく人に成功も変化もおこせない。考えたら当たり前のことだ。「前例」のあとをついてゆく人は過去のコピーにしかすぎないし、成功や才能は人と違う道でしか花開かないものである。

　著者の山田怜治司は『Bバージン』や『ゼブラーマン』などを書いた漫画家であり、おおくの天才や才能ある人にインタビューした結果、このような結論を導くにいたったということだ。

　楽しいし、わくわくする本である。「みんなと同じ」でしか生きられないこの国ではたいそうありがたい本である。のけ者のやはみ出し者、孤立している者には心の支えになる本になるだろう。

　ただ私にはそういうはみ出し者が通用するのは漫画家や芸術家、科学者の一部の専門家であって、大多数のサラリーマンには「非属の才能」は必要ないものだから、手放しで礼賛する気にはなれない。そういう大多数の集団の中で生きなければならない者たちには「のけ者」や「孤立」させられることはたいそうキツイ体験であり、ツライものである。「みんなと同じ」でないと生きられない環境がこの国の大半ではないだろうかと思う。だからヘタに「非属」を手放しで礼賛するのは控えたほうがいいのではないかと思う。

　そりゃあ、私だって「みんなと同じ」主義の生き方は大嫌いだ。だけど才能や創造が必要な職場に属せる人もまた少ない。「みんなと同じ」主義の環境で生きてゆくには「非属の才能」を求めるのは少々キケンに思えるのである。

　こういう「みんなと同じ」主義を嫌ってきた人は歴史にもたくさんいる。哲学者ではキルケゴールやニーチェ、トックヴィル、J・S・ミルなどが画一化、均質化する人間をたいそう不安に憎悪に燃えて怒っていたし、エーリッヒ・フロムやオルテガ・イ・ガセット、デヴィッド・リースマンなどの社会学者が画一化する人間集団に警鐘を鳴らしていた。

　日本はそういう先人の警鐘をちゃんと聞き入れずに、みごとに大量生産の画一化ルールに国家全体で呑みこまれていった愚かな国である。「みんなと同じ」主義をやめろだとかキケンだとか声を大にしていってきた人はほとんどいない。集団からの仲間外れ、「村八分」をなによりも恐れる人間集団をつくりだしただけである。そして窒息しそうな、似たり寄ったりのつまらない人を大量に生産しただけであり、世間の決められたコースにぶら下がる人たちだけを大量につくりだしたのである。

　本文から感銘した部分を抜き出そう。よい言葉がたくさんある。これはジョン・スチュアート・ミルの『自由論』と似ているといってもいいと思う。自由とは「非属」のなかにあるといわれているのである。

「そんな世代(戦後生まれの親たち)の価値観は何かといえば、つぎのひと言に集約される。
「いかに"よい群れ"に属するか」

　そうである、大企業や一流企業などのよい群れに属することで自分が偉くなったような悲愴な錯覚に世間や母親は染まってきたものである。私にはそれがケンカで負けて母親をつれてくる卑怯な弱虫にしか思えないのだが。

「人気スポーツや漫画、音楽の世界で頂点を目指すことは、ゴールデンウィークに行楽地へと向かう高速道路に乗るのと同じことだろう。
つまり、王道は大渋滞しているのだ」

　「成功のハイウェイは大渋滞」――いい言葉である。だから学歴競争やお受験はバカみたいに過熱するのである。裏道や抜け道の成功者がたくさん出てくる社会になったほうが楽しいと思うし、成功や勝ち組とかてんで関係のない世界で幸福で満足に生きられる人生もあるのだとみんなは知ったほうがいいのではないかと思う。

「「配給待ちの長い行列に並んでいるオス」と「前人未到の山に分け入って獲物を探してくるオス」の違いを、彼女たちは遺伝子レベルで本能的に嗅ぎ分けているとも言える。
つまり、群れのなか限定の優等生に、いまのメスの遺伝子は「NO」を突きつけているのだ」」

　これは非属の者にたいするかなりの褒め言葉だろう。ほんとうにそうかとちょっととまどうが、女性はかなり保守的に思えるからだ。前人未到や道から外れる人間は多くの失敗例やただのスピンアウトで終わる人生のほうがはるかに多いだろうと思う。そこは誤ってはならない。下流とか下層とかよばれる層のほうが多いだろう。そういう社会のレッテルと｢宝物」を嗅ぎ分ける能力がないからこそ、安全パイを女性は選ぶのではないか。

「新しいことにチャレンジすれば、結果は必ず"失敗"である」

「皮肉なことに、結婚などの「人生における幸福の象徴的出来事」が逆に自分の生き方を狭め、生活の細々とした雑事に追われているうちに、自分が「納税マシーン」や「消費マシーン」にされていることすらわからなくなってしまうのだろう」

　われわれの社会は「みんなと同じ」や「場を乱してならない」という教えを金科玉条に守ってきた国である。その場に属する集団の和や一体感をなによりも重視してきた国である。そのために「嫌われ者」や「のけ者」、「はみ出し者」はたいそう嫌われて、忌避されてきた。しかしそこで守られてきたものは変化や創造をひとつも生み出せない画一化集団の仲良しゴッコだけである。このルールをすべての人に押しつけられたら、画一と同質の強制空間で、集団は衰えて停滞するだけだろう。

　私たちは仲間外れをなによりも恐れる集団をつくったがゆえにこそ、人間の才能や創造性を抹殺してきたといえるのである。私たちは仲間外れを恐れない集団をつくらないことには、偉人も天才も、成功者も生み出さないのではないかと思う。なによりも大多数の人たちの幸福も満足も生み出さないだろう。

絶望に効くクスリ―ONE ON ONE (Vol.11) (YOUNG SUNDAY COMICS SPECIAL)

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2007年12月の新刊

　遅くなりました。12月の新刊情報です。amazonの画像UPやリンクは遅れがちなので、新刊情報は遅めに作成したほうがいいみたいです。

　なお、この新刊情報は以下のサイトからの新刊情報に依拠しております。その中から私のフィルターや私の好みに合ったものを紹介するようにしています。詳細は以下のサイトで。

新刊・近刊書籍情報　2007年12月　人文書

第三の消費文化論―モダンでもポストモダンでもなく (叢書・現代社会のフロンティア 11)

「第三の」と銘打たれる消費文化論はどのようなものなんでしょうか。『日本人は何のために働くのか』は衝動買いしそうになったのですが、昭和の企業史にはちょっとためらいました。哲学だったらすぐに買うのですけどね。

少女像、少女規範はおもしろそうですね。ブルデューの『結婚戦略』は注目。『合コンの社会学』はしっかりと学問できていますかね。

『国家はいらない』はアナーキニズムですね。『世界史なんていらない』ってやっぱり西欧中心主義にNOなんですかね。『カラオケ化する世界』って受け手がつくり手との境界をなくしていることをいっているのでしょうか。

2020年の日本からの警告 A Warning From Future Japan (Kobunsha Paperbacks 115)

団塊世代はJrともども「難民」と名づけられる不幸な親子世代ですね。でもそれは日本全体にも適用されることなんでしょうけど。

『世界ホームレス百科事典』なんて本があるんですね。『欲望について』のような根本的な哲学論考はやはり大事な哲学の基本的ないとなみですね。

マンガ論やサブカル論です。マンガ論はきっちりと学問できるようなものになったのでしょうか。

『日本の行く道』は橋本治ですが、学問レベルにたっしていますかね。『偽装建築国家』はあらためて本で検証するのも、ニュースの垂れ流しより必要なことですね。

サルから探る暴力と、憎悪の世紀。ニ十世紀は大量殺戮の時代でした。国民が兵隊となったとき、市民も殺戮される兵隊となったわけですね。国民国家はまれにみる残酷な殺し合いを生んでしまいました。

心身の合一―マールブランシュとビランとベルクソンにおける (ちくま学芸文庫メ 1-2)

ベルクソンと禅のいっていることはもしかして近いことなんでしょうか。メルロ＝ポンティも上田閑照もいずれも難解ですね。

『世間体の構造』はNHKブックスで読んだと思いますが、あまり記憶がないなぁ。でも日本人にとって世間の存在はとても大事なものですね。

温暖化論って真に受けたほうがいいのか、疑ったほうがいいのか。生産や経済のあり方を変えることって人類にできるものなんでしょうか。

『東洋的専制主義』ってウィットフォーゲルの本がありますが、なんか恐ろしい統治スタイルですね。秦の始皇帝とか西大后とかを思い浮かべたらいいんでしょうか。

近代の京阪神や大阪を捉えた本ですね。

飛鳥や山辺の道の古社はロマンがあり、またのどかな田舎に癒されますね。『そこに日本人がいた！』は海を渡ったご先祖様たちをとりあげていて、島国だからこそ日本人は海洋渡航をたくさんおこなってきたと思います。おもしろそうですね。

反米大陸―中南米がアメリカにつきつけるNO! (集英社新書 420D) (集英社新書 420D)

哀しいことに20世紀は大量虐殺の時代でした。西洋人はアメリカでそれをおこない、覇権を握ったアメリカは力をもちましたが、多くの国々から嫌われてもいますね。

無能な者たちの共同体

まもなく日本が世界を救いますベン&龍10の緊急提言

新自由主義の嘘 (双書哲学塾)

歴史叙述としての映画―描かれた奴隷たち

夢の世界とカタストロフ

社会学の思想 7 (7) 人類学的な省察クリフォード・ギアツ

コミュニティ安全と自由の戦場

アマゾン・アソシエイトをクビになった私。

　アソシエイト契約をしているamazonから送られてくるメールを見てみたら驚愕した。

「このたび2007年10月の紹介料のお支払い手続きを開始いたしました。あなたのアソシエイトアカウントはすでにクローズされておりますので、今回が最後のお支払いとなります。」

　いったいどういう意味だろう。いやな想像が頭を駆けめぐる。ぐるぐる。

　売り上げが低いから、外資系のamazonのことだから、こういう儲けの低い契約者は手数料や手間がかかるだけだからクビにされたのかと思った。「YOU ARE FIRE！」だ。

　なるほど納得するのである。amazonの支払は毎月だが、銀行振り込みは5000円を越えないと振り込まれないので、私の場合はおおよそ三ヶ月に一回支払われている。

　たとえば12月は56冊発送されて私の紹介料は2,398円。11月は70冊発送されて2,963円。この三ヶ月で201冊発送されて8,260円。

　その前の三ヶ月が285冊発送されて12,760円。その前の三ヶ月が171冊発送されて7,667円。

　こういう低いセールスマンは外資系ではクビをばっさり切られるのだ。さすが外資系だと思った。企業に属していたら売上不振でクビを切られるのだ。そういうのが世間の常識というものだ。私は自分の甘さを認識した。

　やっぱりamazonアソシエイトするからにはベストセラーをずらっとならべて、「この本がいい！」とか「この本は最高です」、「この本を読まなきゃ損」とか「読み逃したら一生の不覚」とかのセールス言辞をまくしたてなければいけないのか。それがセールスをするうえでの常識というものか。

　私のアソシエイト成績は「おまえは売る気はあるのか！」とか「売ってくるまで帰ってくるなー！」とか、「タダめし社員」だとか、企業のセールスマンならぼろクソ罵られられるようなセールス・ポイントだろう。ネットのアソシエイト契約もそのような売り上げ邁進に協力しなければならないものか。私の頭のなかをよからぬ思いが駆けめぐる。

　でも、なんのことはない、「アカウントはクローズされました」という文面でググってみると、ニュースで誤発送の記事が出ているではないか。みんな低いアソシエイト料ゆえにどきっとしたみたいだ。

　勘ぐればこのようにアソシエイト契約者にカツを入れるためか、それともじつは秘密裏に売り上げの低いアソシエイト契約者をほんとうに一律リストラするつもりだったのかもしれない。ふつうの企業ならそういうことをしそうなものだ。またわれわれはamazonから売り上げが低いぞとか、ノルマを達成しろ、とかのゲキを飛ばされたことがない。ほとんどの人は低い紹介料に甘んじているのではないだろうか。amazonはそういうぬるま湯体質に「仕掛けた」のかもしれないな。

　amazonのアソシエイトにはこういうお知らせがのっていた。

2007年10月紹介料について ―　お詫びと訂正のお知らせ

12月27日に当プログラムより2007年10月のマンスリーレポートを送信いたしましたが、一部のメンバー様に対し、「アソシエイトアカウントはすでにクローズされておりますので、今回が最後のお支払いとなります。」という誤った内容のご案内をお送りしていたことが判明いたしました。
本メールを受け取られた一部の皆様には大変ご心配をおかけいたしましたことをお詫びいたします。

皆様のアカウントは引き続きご利用していただくことができます。また、設置されているリンクについても紹介料は問題なくトラックされておりますのでご安心ください。

ご迷惑をおかけいたしましたことを、スタッフ一同心よりお詫び申し上げます。

　そう遠くない未来にアソシエイトの大量リストラの記事が出るかもしれないな。まあ心の準備だけはしておこう。。そうなる前に親類知人友人に本を買ってくれ買ってくれとセールス回りするべきなのか(笑)。。

『葬られるサラリーマン』　藤井厳喜

葬られるサラリーマン (ベスト新書 169)
(2007/12/08)
藤井厳喜

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　「安定的な正規雇用たるサラリーマンは一部の管理職を除いて消滅する」――このコピーで購入を決意した。これは90年ころからいわれていたことだが、現状はどのくらいになっているのかこの本から読みとりたいと思った。

　藤井厳喜という人は本屋で見かけるタイトルをながめると「国家破産」だとか「総下流時代」とか悲観的で極論のヴィジョンが多そうだ。かつて私は90年代に浅井隆の一連の「大恐慌再来」本にハマって、ビジネス書や文明論をかたっぱしから読み漁った時期があった。たしかに日本発の恐慌になりかかったのだが、日本経済はなんとかそれを抑えることができたので、のちに浅井隆のような悲観的でセンセーショナルなビジネス書はあまり信用しないほうがいいと思うようになった。

　藤井厳喜という人の本を見ていると、なんとなくイメージがダブるのである。しかしそれにしても経歴がすごいな。クレアモント大学、ハーバード大学院、国際問題研究所員。でも出す本はなんかうさんくさい煽情本なのである。この本を読んでみてもニュースの寄せ集めみたいな本である。わからない人である。

　前から思っていたことだが、おおくのビジネス書はハードカバーの必要がないと思っていた。文庫くらいの価値しかないと思っていた。研究書でない啓蒙本は文庫の価格でいいくらいだ。この新書のように薄っぺらい新書で出るのがぴったりだと思う。電車の片道で読んであとはゴミ箱行き。薄いビジネス書ってそのくらいの価値しかないと私は思っていたのである。

　本文の話に入ろう。サラリーマンの消滅は、明治維新のときのように国民の一割程度の武士階級が消滅したことと同じよう現象になるだろうという。グローバル経済により賃金のフラット化がすすむ。ホワイトカラーの業務である人事や経理はすでに賃金の安い中国に流出している。アウトソーシングの拠点となっているのは中国の大連である。

　ブルーカラーのマニュアル労働はすでに第三世界に流出しており、だから安い中国品が大量に流入し価格破壊をおこしていたのだが、ホワイトカラーの労働の流出もすでにはじまっているのである。同一労働が低賃金でなされるのなら、同じ土俵で競争するしかない。賃下げの圧力は中国賃金なみに下げられるところまで進むのだろうか。規制緩和や賃下げによって、資本や雇用を流出させないようにするしかないのである。日本人の賃金や生活はどこまで下がりつづけるのだろう。

　ジョージ・ブッシュは「オーナーシップ・ソサエティ」という未来像を提唱した。「すべての人が企業経営者になる」ということだ。あなたは会社を設立し、自分ひとりのオーナー社長になり、年金や保険も自分で考えなさいということである。悪くいえば、「個人請負」の非正規労働になれということなのである。保険や年金は国家や企業が保障する時代は終わったということである。

　年収200万未満の給与所得者はすでに22,8％にたっした。五人にひとりだ。この年収200万時代は、やがて三十代、四十代にも押し寄せてくる。サラリーマンの給料は9年連続ダウン、非正規雇用は1千677万人、正規雇用は3千393万人までに減少している。景気はよくなっているといわれるが、非正規雇用を増やしているからこそ企業は利益を上げられつづけるのである。

　しかし悲観的な面ばかりがあるわけではない。保険さえ払われれば、自由の利く非正規雇用を選ぶ人も多いはずである。正規雇用はがんじがらめであり、自由の代償に安定が与えられ、職業選択の自由は人生に一回しかなかった。これからの雇用は不安定にはなるが、自由である可能性もひろがっているのである。

　公務員や大学教授、医者などのステータスがありエリートといわれた職業も没落してゆくという。公務員は赤字自治体ばかりだし、大学は少子化の波をもろにかぶるし、医者も増加によりステータスも高給も期待できなくなるという。

　まあ、ビジネス書というのは変化を大きくとりあげて煽り立てるものである。そうすれば売れるし、多くの人の関心をひく。私もいぜんはビジネス書の変化にころりとだまされて、ちっとも変わらない日常や毎日の落差に愕然としたものである。つまりはビジネス書というのは変化を大げさに書き立てて、われわれの興味を駆り立てるのだが、変化は緩慢にしかやってこないものなのである。だから変化の進み具合は5割程度に割り引いて考えるか、現実はそうかんたんに変化するものではないと頭を冷やしたほうがいいかもしれない。

　まあ、しかしこの非正規雇用化と賃下げは確実にやってくるものと覚悟しておいたほうがいいだろう。私は日本はオランダ・モデルを採用すべきだと思っている。正規雇用にとどめようとムダな努力をするのではなく、流れを先取りしなければならないと思う。男もパートで堂々と生きられる社会は自由への希望である。正規雇用は人生の剥奪でもあったからである。非正規と賃下げを前向きに捉えるべきなのである。

　あとひとつ考えたくなったのは賃金のフラット化は中国とか東南アジアとくらべてどこまで進むのかということを知りたくなった。日本の10分の一の賃金とかいわれる中国の人件費にまで日本人の給料は落ちてゆかなければならないのだろうか。未来を予測する上で、賃金のフラット化はどこまで必要なのかと考えることは、われわれの将来を予想する上でひじょうに大事な点だと思う。日本が先進国で豊かになるということは賃金も世界でかなり高くなるということなので、金持ち国家になるということは一般庶民にとってはとんでもないしっぺ返しを喰らうことのようだ。世界有数の賃金をもらってしまったら、安い給料とは闘えなくなる。とんでもない悲劇というものだ。

『ルポ最底辺』　生田武志

　ルポ最底辺―不安定就労と野宿 (ちくま新書 673)
　生田武志

　釜ヶ崎でみずから日雇い労働者として働き、ホームレス支援団体としてかかわる著者が釜ヶ崎、ホームレスの状況をつづったレポである。

　大阪市に住んでいて、しょっちゅう西成を通るし、公園や河川をよくサイクリングして青テントを多く見てきた私であるけれども、外からしかながめられない彼らの実情や内実をすこしは肉迫して知ることができた。

　しかし私がいまいちばん知りたかったのは労働者としての彼らである。日雇い労働者はなぜ生まれるのか、産業構造はなぜ彼らを必要とするのか、またなぜこういう特殊な町を形成しなければならなかったのか、といったことで、生まれ出る経済の原因の方を知りたかったのである。状況や悲惨な姿ではなかったのが選択のずれであった。原因をつかむことで防止の策を考えられないかということである。

　おそらく彼らがおおく従事する土木・建設業は公共事業縮小のため、日雇い労働はまっさきに仕事を失い、90年代半ば以降あきらめて青テントに暮らすようになっていったのだろう。角栄土建国家の終焉、または公共事業でカネを回すケインズ政策の構造転換の結果でもあるのだろう。

　そしてこの釜ヶ崎や野宿者の実情をつづったレポートは現在おこりつつある雇用崩壊の警鐘も鳴らしている。

「釜ヶ崎をはじめとする寄せ場は、今まさに問題となっている「不安定雇用と労働者派遣」のはらむ諸問題を長年にわたって示してきた場所なのである」

　釜ヶ崎で長年おこってきた状況はいままさに派遣法解禁により全国にひろがろうとしているのである。はっきりいって、こんな恐ろしく、深刻な前触れはない。西成を一度でも見た人はわかると思うが、こんな町が全国に拡散し、不可視の状態でひろがることがどんな恐ろしいことは想像できると思う。異国か、法律番外地のように見えたものである。そしてそのような町をつくりだすのは個々の人間ではなく、産業構造であり、雇用形態なのである。派遣業解放は開けてはならないパンドラの箱を開けてしまった気がしてならない。

　90年代前半までの野宿者は日雇い労働者がほとんどだったが、それ以降はふつうの人たち――前職が正社員やフリーターの者もおおく占めるようになった。大阪市内でも行路死数は2005年で1213人もたっしている。結核はアフリカよりも高く世界最悪の感染地ともいわれている。「国境なき医師団」は「野宿者のおかれている医療状況は海外の難民キャンプのかなり悪い状態に相当する」といっている。野宿者数は減ったとされるが、高齢による生活保護のおかげによるとされる。こんな町や状況が「特例区」のように存在するのである。

　そしておそらくは雇用の流動化はそういう状況にいっそう拍車をかけることだろう。とんでもない雇用の崩壊と生活の崩壊がはじまろうとしている。スラムや貧困街が形成された時代はいままさにはじまった、いや、というよりか蓄積されつつあるのだろう。

　じつは西成の状況はある程度知っているのであまり驚きはしなかったが、この書でいちばん衝撃だったのは、先進諸国のホームレス数である。アメリカで350万人、西ヨーロッパでは300万人、25歳以下の割合は約二割、イギリスではホームレス家族が5万にものぼり、フランス20万人、ドイツ54万人と記されている。規模やケタが違う。これは衝撃だ。先進諸国の市民たちが大量に難民キャンプ化しているのである。

　おそらく日本にも遅かれ早かれ同じような状況がやってくるのだろう。この世界はいったいどうなってしまったんだろうと思う。この件に関してはもうすこし調べたいと思っているが、ヨーロッパの若者の失業状況でもそうだったが、日本にはあまり報告や報道が入ってこないのである。先進諸国は明日のわれわれの姿だというのになぜこの重要な暮らしの部分が入ってこなくなったのだろう。

　とんでもない社会に転がり落ちないために早く状況を知ることと対策が打たれる必要があると思われる。野宿者問題はわれわれとは無関係ではないこの社会の未来の姿を示しているのである。

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古代冬至ラインの痕跡とクリスマスの類似性

　いやにこだわりますが、日本古代の冬至信仰とクリスマスは似ているということを地図上で実証したいと思います。

　この地図であらわしているラインは、冬至の日の出と日没がわかるラインです。これをレイライン(光・太陽の道)といいますが、右ななめに降りる線が冬至の日の出が見られるラインです。左ななめに降りるラインが冬至の日没が見られるラインです。

　そしてラインとラインを結ぶ端には、古代からの古神社や神と崇められた神体山が位置するわけです。つまり冬至の日の出や日没がながめられる場所に神社や神体山は位置していたわけです。

　たとえば上左から三番めの住吉大社からは二上山のコブのあいだに冬至の日の出がのぼり、その向こうには死者の国といわれた当麻寺が位置します。これはぎゃくにいえば、当麻寺あるいは二上山からは夏至の日没が住吉大社の方角に沈むということです。

　上二番めのラインは四天王寺と耳成山がレイラインで結ばれています。この近くには飛鳥や藤原京など古代大和の中心地があったわけですね。

　そして左四番めのラインは高安山と等乃伎(とのき)神社を結び、淡路島の由良の門と結びイランがあります。これは『古事記』にこの地に巨木があり、その影は高安山と淡路島にたっしたという記述と重なりますね。

　つまり古代日本人は冬至をたいへんに重要な日として位置づけ、その日の出と日没が見られる場所を聖なる場所として結びつけたわけですね。

拡大地図を表示

　古代人が観念していた世界観とは光の弱まる冬至に太陽は死に、ふたたびよみがえると考えていました。古代天皇はその日に太陽神と一体化し、あるいは性交することにより、新しい年の太陽を生み出すと考えていました。神との性交はこの世のはじまりや豊穣や再生を生み出すものであったわけですね。冬至にこのような儀式がおこなわれていたと考えられます。

　キリスト教もそれまでヨーロッパを支配していたミトラ教の冬至の信仰をとりいれたと思われます。ミトラ神は冬至に死に、三日後の25日によみがえると考えられていたわけです。キリスト復活神話はそのエピソードをみごとにとりこんでいますね。

　太陽やこの世は冬至にいったん死に絶えてしまうわけです。そしてそれぞれの時代の為政者たちは神と交わることによって、新しい年の太陽や世界を生み出すと考えられていました。それはヨーロッパのキリスト教やミトラ教を信仰していた人たち、そして古代日本の天皇も同じ世界観・信仰を共有していたわけです。

　じつはクリスマスも、古代日本の冬至にたいする考え方も同じであったわけですね。そしてそのような世界や太陽は性交によって新たによみがえるという信仰が日本人の表面から忘れられたとき、クリスマスは外来の宗教としてやってきたわけですね。

　もしクリスマスにカップルがセックスに励んでいたとしたら、それは古代天皇の太陽と世界の再生の祈りを無意識にくりかえしていることになりますね。世界を生み出すわけですね。

　いやはや、じつにあっけないオチでした。

▼参考文献
　『神社の系譜』　宮元健次　文春新書
　『天照大神と前方後円墳の謎』　大和岩雄　六興出版
　『大和の原像』　小川光三　大和書房
　『不死と性の神話』　吉田敦彦　青土社

2007年　ことしのグレート・ブックス

　当サイトでは書評にグレート・ブックスという私のベスト本を選出するようにしています。私の感覚に決定打を打ったという本のみを選んで、選定基準はけっこう厳しいです。一年をしめくくるにあたって、2007年のグレート・ブックスをあげておきます。

　ことしのグレート・ブックスは少なかったです。3冊だけでした。

　選評理由です。　
　女の子どうしって、ややこしい！　レイチェル・シモンズ
　チンパンジーの政治学―猿の権力と性　フランス・ドゥ・ヴァール
　権力(パワー)に翻弄されないための48の法則(上)　ロバート・グリーン
　権力(パワー)に翻弄されないための48の法則(下)　ロバート・グリーン

　これらの本は人間関係の闘争、集団内での力関係の抗争やあつれきをあつかっています。人間関係の闘争面により焦点を当てた本ですね。会社集団に長くいると、どうも人を嫌ったり、いじめたり、連合が形成されたりと、人間関係の闘争面がめだってくるように思われます。私の性格ゆえなのか、それとも人間の集団というものはそういうものなのか。

　「男子家を出ずれば七人の敵あり」ということわざがまったく身に沁みてくるいさかいの年でありましたので、私は上の三冊にたいへん感銘をうけたわけです。だけどこの闘争状態にどのように解決を見い出せばいいのかはいぜんとして不明のままです。嫌われたり、憎まれたり、ムカついたりと、人間の集団とはこのような波間にただようしかないものなのでしょうか。

　暴力や威嚇や権力で勝ち抜くか、それともひたすら他人や集団に迎合してカドをとって屈従してゆくか。私は孤立主義とアンチ集団迎合のためにテキをかなりつくり出すのだと思います。個人は信頼しても、集団はいっさい信用しないのが私の頑な過ぎる思いですからね。そりゃあ、テキが束でかかってくるというものですね(泣)。

　もうすこし次点に近かった本をあげておきます。
　

　私の書評はこちらです。　
　人体失敗の進化史　遠藤秀紀
　子ども社会の心理学　マイケル・トンプソン
　モラル・ハラスメントが人も会社もダメにする　イルゴイエンヌ
　パパ、ママぼくを巻き込まないで!―　ブロック、バーテル
　「最後の社会主義国」日本の苦闘　レナード・ショッパ
　雇用融解　風間直樹
　日本残酷物語〈5〉近代の暗黒　山本周五郎・宮本常一
　カイン　中島義道
　イギリスにおける労働者階級の状態　フリートリヒ・エンゲルス
　オオカミと生きる　ヴェルナー・フロイント

　『人体失敗の進化史』は私たちの身体をつくる心臓や肺、耳などがどのようにできあがったのかを教えてくれる興味ふかい本です。『パパ、ママぼくを巻き込まないで！』はたぶん家庭ではよく起こりがちな闘いのパターンを教えてくれるのだと思います。『「最後の社会主義国」日本の苦闘』は日本は社会主義であること、それへのサイレント・テロが進行していると洞察した本ですね。『雇用融解』はTVやマスコミがあまり紹介しない労働の現場の変化を暴いていますね。

　『日本残酷物語〈5〉近代の暗黒』は明治や大正の労働のヒドさがあぶり出されていて、以後私は日本の明治・大正の労働の本を読むようになりました。『日本の下層社会』や『女工哀史』、『職工事情』、または『イギリス労働者階級の状態』のようなむかしの労働についての本ですね。現代の派遣業解禁、雇用の流動化はおそらくこのような悲惨な労働市場を生み出すのだと警鐘の意味をもって読みました。

　ことしの前半は人間関係の闘争に焦点を当てた本を読み、後半は『日本残酷物語』に触発されて明治・大正の労働本を読みすすめたということになりますね。思索に深い実りがもたらされた年であるというよりか、仕事の忙しさが増してきて自分の時間が確保できないという境遇になってきましたね。ニュースやマスコミもかなりスルーしてしまうようになりましたし。

　ことしは書評を数えてみたら、トータルで77冊の本を読んだことになります。たぶんに少ないほうなんでしょう。毎年何冊読むか数えたことはないのですが、あきらかにペースダウンは否めないんでしょう。新書のような本はすぐ読めますが、ぶあつい本となると二、三週間かかります。そういう本を読むときはペースが落ちるのでしょうね。

　ことしのネットではこのサイトもはてなブックマークに注目されるようになりまして、たまに突出的なアクセスを迎えることも出てきました。だいたいひどい2ちゃんねる言語や心ない批判が飛び交ったりしてビビﾞりまくりですが、こういうブックマークで注目記事がピックアップされるというのはようやくネットも検索以上の編集能力が生み出されてきて、かなり好ましい状況だと思っています。

　ただ、はてな村のブックマーク基準は趣味嗜好のカテゴライズがなされていませんので、最大公約的なぶくマでしかないわけですが。いわばベストセラーやチャート・ランクしかないわけで、そういう本をあまり読まない私はその基準に選ばれても目的は違うような。。　でもうれしいことではありますが。

　FC2ブログでは新しく「拍手ボタン」という機能が追加されましたね。下のほうにあるボタン・クリックです。どの記事が読者の方に好評であったのか、スルーされたのかよくわかって、なかなかいい機能だと思います。コメントのようにプレッシャーがかかることもありませんしね。アクセス解析はただ閲覧した数がわかるだけで、記事の好感や感触はわからないわけで、一歩ふみこんだ機能だと思っています。拍手記事ランクがすぐわかる機能ができればいいのですがね。

　ただ書く側としては拍手ボタンにふりまわされたくない、読者の方々の好評を狙うより、自分にとって必要でたいせつなことを書きたいと思う気持ちをいちばん大切にしたいと思っております。ウケねらいはそのくらいの記事にしかなりませんしね。

　数年間のグレート・ブックスをあげておきます。　
　2006年のグレート・ブックス8冊
　2005年ことしの読書テーマ
　ことしのベスト本は男女の違いを語った恋愛本である。　2004年
　近年まれに見るベスト本　2004-1999　過去のホームページです。

『プレカリアート』　雨宮処凛

プレカリアート―デジタル日雇い世代の不安な生き方 (新書y 181)
雨宮処凛

　とうとうここまで来てしまったかという感がする。「社会の底が抜け始めている」。

　「プレカリアート」というのは「プレカリオ(不安定な)」と「プロレタリアート」の造語である。たぷんに一般のサラリーマンや世間の主婦や一般の人たちは、いま若者の雇用におこっている状況がほぼ見えていないのだと思う。「ネットカフェ難民」とか「フルキャスト業務停止」とかのニュース言語を聞いても、その背景でおこっている深刻な意味を理解していないだろう。労働の現場がどんどん流動化するということはどういうことなのか、まだ安定的な中州でたたずんでいられる人たちにはまったく想像を絶する世界なのかもしれない。

　フリーターといってもピンからキリがいると思う。社員と同じように働き安定的な雇用についているフリーターもいるだろうし、いちばんプレカリアートという言葉にぴったりするデジタル日雇い労働のフリーターもいるだろう。時給の安い飲食店なんかで働くフリーターもいるだろうし、製造業の短期派遣の厳しい状況にいるフリーターもいるだろう。いちばん深刻なのは日雇い派遣のフリーターである。

　日雇い労働というのは「人間扱いしてもらえない」感覚を味わう職種といってもいいだろう。この本には日雇い労働がどのようなものかの詳細はあまり載せられていないが、「毎日初心者で、「こいつは誰だ」という顔で見られる」、そんな体験を毎日しなければならないのである。フルキャストやグッドウィルといった派遣会社は日雇い派遣の大手で、こんな業種が急成長しているのである。

　これはいわばかつての日雇い労働者の町、釜ヶ崎や山谷の拡散化であり、これらの町の一般化なのである。ふつうの若者がこのような日雇い労働に呑まれる現実がおこっているのである。そこから「ネットカフェ難民」や若者のホームレス化がおこってくるのである。戦前にスラムや貧民街が形成されたような過去がふたたび戻ってこようとしているのである。おそらく労働の現場がそこまでひどくなっていることを世間の人は知らないのだろう。

　著者の雨宮処凛(かりん)はプレカリアートのデモやイベントをおこなう作家であり、「すごい生き方」というブログもやっていて(告知ばかりなのであまり読まないが)、フリーター時代には食えないからバイトの掛け持ちをしていた。彼女より短い労働で高給をもらっている人たちに「気楽でいいね」「働く気はあるの？」といわれて悔しい思いをしたそうである。ここまでの一般の人たちとの断絶があるのである。

　雇用が流動化し、不安定化したげんざいの労働市場にとつぜん放り出されたポストバブル世代は、「格差社会の実験台」または「不安定労働の実験台」のような存在になっている。生き方のモデルケースもなくなった。運よく正社員になっても信じられないほどの長時間労働。「マトモに働こうと思ったのにひどい職場だった」。かといって非正規で働いても不安定。どうすれば食いっぱぐれずに、ホームレスにならずに、過労死せずに、安心して生きていけるかわからない。

　若い女性の専業主婦願望が高まっている。半数が非正規雇用につかざるをえない彼女たちは結婚したほうがまだマシと考える。しかし同世代の男のフリーター率も高い。一家の大黒柱であった男性はパート主婦のような待遇になってしまっているのである。専業主婦を食わせることのできる正社員男性の争奪戦がおこる。正社員男性を獲得できなかった女性の行く末のモデルケースもないのである。

　「いったいどうやったら安心して生きていけるのか」――若者たちは新しく雇用が崩壊した日本の最前線でカナリアのような役割を背負ってとまどっているのである。いずれこの波は安穏としている日本全体を呑みこんでゆくことだろうが。

　かつてはいい大学を出ていい会社に入って定年まで一生安泰だといったふつうのサラリーマンの人生はかれらの前から消滅してしまった。私はちょうどバブルの最後あたりに社会に出たが、こんな人生は死にそうなほど退屈に思えてドロップアウトした。いまの世代には羨ましく郷愁されたりするのだろうが、かれらの前にふたたび死にそうに安定した雇用はもう戻ってくることはないのだろう。「安定の自然刑」から逃れられてよかったじゃないかといっても、それを知らない世代にいっても恨まれるだけだろう。かれらや親たちはそういう安定席に座りたくてたまらないみたいであるが、これにはこれでツライものもあったのである。佐高信が「社畜」や「滅私奉公」といった怒っていた時代もあったのである。

　若者の雇用の最前線は自立した生活や結婚、家庭のなりたたない状況におかれている。だれかの政権のせいではなくて、企業や国家が国民の生活を保障するという時代が終わろうとしているのかもしれない。それは国家間競争や国家間戦争が激しかった時代に、国民として保障したほうが自国により奉仕しやすかったからだろう。冷戦の終了やグローバリズムによってその条件が崩れ去ってしまった。保障するウマみを失った企業や国家は人々を見捨て始めたのだろう。社会主義前夜、壮絶な資本主義の時代の逆戻りである。だれかが保障してくれるから安心という時代は終わってしまうのだろう。

　世間はしっかりとこの雇用の崩壊状況、不安定化を知らなければならないと思う。もっと労働の現場、こんにちの姿を知らせなければならない。これが私たちの明日の社会の姿なのだから。

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「平均」のウソ八百とバカさ加減！

　日本人の平均所得とか平均貯蓄額の高さをみてどきっとして自分の低さに嘆いたことはないだろうか。なんで世間はこんなに高いんだろうと不思議に思ったことはないだろうか。同じように江戸時代や発展途上国の「平均寿命」の20歳とか30歳とかの低さに疑問を感じたことはないだろうか。

　どうもおかしいなとかなんだとか違うんじゃないかと思っている人はまともで、ハナから信じ込んでいる人もかなりいるのだろう。むかしやよその国の人は30歳くらいまでしか生きられなかったと大マジメに信じいてたりする。

　「平均」という数字のマジックはどうしてこう愚かな誤謬を植えつけてしまうのか。どうして「平均」の誤解を世間や学校はちゃんと啓蒙しないのか。かくいう私も「平均」のウソっぱちの正確な理由を知らなかったので統計のウソについての本を読みたかったのだが、ネットで調べてみたら、いくらかはそのからくりについて知ることができた。各種資料をコピペさせていただきたいと思う。

「10 世帯のうち9 世帯が100 万円を持っていて、残りの１世帯が１億円を持っている場合には、平均値が1,090 万円となってしまう。　貯蓄保有世帯3,710 世帯のうち約７割が平均値よりも少ない。」――平均値と中央値

　これはぶっ飛ぶだろう。9割の世帯が1000万の貯蓄に嘆息してしまう。たった一軒の一億円貯蓄が1000万円に跳ねあげてしまうのである。9割の家庭がまわりを見渡してよその家庭はなんて金持ちなんだろうと自身の不幸と境遇に落胆することだろう。

「家賃が１万円のアパートと、月９万円の賃貸マンションが並んでいたとすると、２軒の家賃の平均は５万円。」――平均という「現実」は存在しない

　たとえば一万円の家賃でピーピーいっている貧乏人は世間の平均5万の家賃をみて、世間様はなんて金持ちだろうと嘆くことだろう。9万の家賃が平均をぐっと押しあげるのである。平均とは金持ちと貧乏人の額をまず混ぜ合わせて、それを頭数で割る。とうぜんの金持ちの額のほうにひっぱられる。平均はいつでも私たちの頭上高くに私たちを見下げるのである。

「年収200万円の人が四人、1000万円の人が一人いたとします。平均年収は360万円です。」――男性会社員の平均年収５４１万円！　安すぎ！

　もし同じ会社に勤める年収200万の四人は「おいおい、だれがそんなにもらっているんだ？」と疑心暗鬼になるだろう。じつはひとりの1000万円の高所得者が200万円の所得者の平均を高いものに引きあげているのである。この四人は平均の高さに自分の低さを嘆き、給料を低く申告する同僚を信じなくなるだろう。

「所得金額階級別世帯数の分布をみると、「300～400万円未満」が 12.2％、「100～200万円未満」が11.6％と多くなっている。中央値は 476万円であり、所得金額が世帯全体の平均額（579万7千円）より低い世帯の割合は59.7％となっている」――「厚生労働省：平成１６年国民生活基礎調査の概況」

　字がつぶれてしまったので「厚生労働省：平成１６年国民生活基礎調査の概況」を見ていただきたい。6割の家庭が平均より低くなっているのがグラフでよくわかるだろう。6割の家庭は平均所得の前に撃沈するのである。

「勤労世帯の貯蓄額の「平均」は1,356万円である。ところが、このデータの「中央値」は900万円であり、「最頻値」にいたっては、265万円と大幅に下がる。最も多い回答が「最頻値」265万円であったのも、納得がいくだろう。」――『平均』の落とし穴

　貯金の平均が1356万だといわれると茫然とするしかないだろう。しかし最も回答の多い金額は265万だったのである。すこしは安心できたかもしれない。大多数は平均より少なく位置し、少数の金持ちが平均をぐんとひきあげるのである。貯金ゼロの家庭も多いのである。

「2004年の平均貯蓄額1398万円は、貯蓄ゼロ世帯を外して計算した値です。ゼロ世帯を含めると1022万円。これでもまだ多い印象です。貯蓄額順に並べてちょうど真ん中にくる中央値は、ゼロ世帯込みで430万円。だいぶ実感に近づいてきました。ちなみに多数派はどこかと言うと、ゼロ世帯になります。」

　平均というのは大多数の人を心理的に抹殺する殺人マシーンのような気がしてくる。なぜマスコミは平均だけをばっと出して、中央値や最頻値または大多数はどこに位置するのか知らせないのだろう。意図的に庶民をバカにして恐怖に陥らせて、煽らせたいだけなのか。もうみなさんは平均の数字をバカにして、「不親切な報道者は東京タワーにぶら下がっておれ！」とでも悪態をつくのが精神上にいいのかもしれない。

　つぎは平均寿命についてのべたい。平均寿命といえば、むかしの人たちの平均寿命をもちだして「30歳や40歳までしか寿命がつづかなかったなんて、なんてかわいそうな。。」と思うことだろう。縄文時代や原始時代にいたっては「20歳にも届かないなんて。。現代に生まれてよかった」と思う人がいるのではないかと思う。

「紀元前１１世紀～１世紀「縄文時代」の日本人の寿命は、　男女とも　１４．６歳　だったそうである。１８８０(明治１３)年　　男　３６歳　女　３８歳」――日本人は、いつ頃から"長生き"になったのか？　[平均寿命]から読み解く

　みなんさはご存知だろうと思うが、これは人間ひとりひとりの寿命が20歳や30歳で終わっていたというのを意味しない。平均という数字の大ウソである。この平均寿命という言葉はまぎらわしく、おおくの人にむかしの人の寿命の激短ぶりを信じさせてしまう。10歳や20歳で人類が死んでいたら子孫は存続していない。

「江戸期の乳幼児（０～５才）の死亡率は全死亡率の７０～７５％も占めており、こうした乳幼児の大量死亡が江戸時代の特に農民の平均寿命を２８歳前後に押し下げていたわけです。

乳幼児の死亡を除外してみますと江戸時代の６０歳の日本人の平均余命がほぼ１４歳というデータがあり、高度医療、終末期医療の発達した現代と比較しても決して比較にならない寿命ではなかったと思われます。

　また江戸時代には８０・９０歳の高齢者も多く、安永５年（１７７６年）には江戸で１００歳前後の高齢者が１０人以上もおり、寛政７年（１７９５年）の記録では越中富山の五箇の庄では百歳以上の老人がままあり、８０歳以下では夭折（ようせつ；若死）といわれていたとの記録があります。」―― おくすり博物館

　平均寿命の短さをひき上げる要因は乳幼児の死亡率の高さにある。7、8割の赤ん坊が生後すぐに死んでしまえば、たとえ80歳まで生きていた人がいたとしても、数字の上では28歳とかの平均になる。

　平均寿命は勘違いさせてしまうのである、あたかも個人の寿命がそんなに短かったと。平均という数字がいかに当てにならないか、人を混乱させているかこの数字でもわかるというものである。私の実感としては、この数字をくわしく追究したみようという殊勝な人が少ないことから、けっこうぼんやりと個人の寿命だと思い込んでいる人が多いのではないかと思う。

　というか、そういうふうに認識させる数字だとしか思えない。人は老人まで生きるのがふつうだから、赤ん坊を入れた平均値だとはなかなか認識できない。とくにこんにちでは赤ん坊が生後すぐに死ぬことは極端に減ったのだから。

　平均という数字はどうも私たちの素朴な認識の弱点を狙ったゲリラに思えてくる。じつは私たちは「平均」という概念をまったく理解していないのではないかと思える。みんなの平均だとか思ったらおおいに勘違いである。寿命の概念に大人や老人は入れられて、赤ん坊は入れられてなかったりするのではないか。収入や貯蓄の額の多寡の平均の意味を理解できていないのではないか。平均が計算されてその過程でどのように偏りや歪みが生じているのか理解せずにかんたんに類似値の平均だと勘違いしてしまう。

　これからは「平均」という言葉に出会ったらまったく信頼しないほうがいい。偏りや歪みを読み解いた資料を見ることができて、はじめてその平均は理解できるものだと考えるほうがいい。平均の数字を2つ3つぽんと出すマスコミには以後そのマスコミを信頼しないほうがいいだろう。

▼追記　ついでに年金の受給額はおおくの人が３万とか6万だとかの記事を見かけましたので、そのグラフを見られてはいかがですか。数字でウソをつくな！（その２４）　日本の年金は世界一！　この金額で5、6割は占めるのではないか。こんな額でも払っておいたほうがいいのか。高齢のときには小額のお金でも役に立つのか。なんかかなりヤバそう。。

クリスマスが「性なる夜」になった理由

　クリスマス・イルミネーション

　ことしもクリスマスのシーズンがやってきた。キリストの誕生を祝う祭日が、日本ではなぜカップルの「性なる夜」になったのか。てんで信仰のないキリスト教でどうして日本人は厚かましくもキリストの誕生日に酔い、カップルは性交に励むのか。このおかしな謎を解く鍵は、意外に古代日本の世界観および天皇の儀式にあったのである。

　去年もこのテーマについて書いたのだが、ブログは過去の記事がかえりみられることは少ないので、ことしも書くことにしよう。BGMにクリスマスソングの定番をユーチューブでいかがですか(別ウィンドウで開きます)。

　Happy Xmas (War Is Over) - John Lennon
　Wham- Last Christmas
　山下達郎 - クリスマス・イブ
　Sakamoto Ryuichi - Merry Christmas Mr. Lawrence
　Enya - Silent Night (in Irish) Christmas Lyrics
　Gloria Estefan-Silent Night
　Jackson 5- I saw mommy kissing Santa Claus

　謎を解く鍵は季節の太陽にある。それも日本の古代神社や山岳にその根拠はのこされているのである。キリストの誕生日とされる12月25日は冬至であり、太陽が一年でいちばん弱まる時期である。古代の人はこの日太陽が死ぬ日だと観念した。そして新たに生まれる日だとした。

　古代日本人は太陽が沈む西の方角に黄泉の国、死者の国を思い描いていた。そして東の山に新しい太陽の生まれる国を思い描いた。太陽は東の山に生まれ、そして西の山もしく海で死ぬのである。そこは聖なる地であり、神の山として祭られたり、あるいは神聖な神社が建てられた。

　古代日本ではこのような神体山や神社仏閣が太陽の季節ごとにのぼったり沈んだりする地に結びつけられていた。冬至や夏至、または春分・秋分の太陽の日の出・日の入りの地点に神体山が鎮座していたり神社は建てられたのである。天皇または巫女はそのような方角を結びつける聖なる場所から、太陽の死と再生を祈念したのである。

　古代の人は太陽は冬至に死に、新たによみがえると考えた。そしてその死と再生を生成させるのは神々の性交である。つまりは太陽や季節は、性交によって生み出されるものなのである。神は、あるいは神と目された天皇は性交によって新たな再生を生み出す。この世界は神々の性交によって生み出されるものなのだ。神である天皇は性交の儀式によって新たな年の世界や太陽または神々を生み出すのである。

　このような性交によって太陽または大地母神といったものが生み出されると考える世界観は世界中で信仰されていた。太陽神が信仰された地域はエジプトや南米、またはひろくユーラシア大陸にひろがっていたのはご存知であろう。太陽がいちばん弱まる冬至はこの世界の根源である太陽の死と新たな再生の日である。したがってこの日は世界中でいちばん重要な日と目されたのである。

　キリストもおそらくは太陽神または大地母神、あるいは穀霊といったものが仮託されて人格されたものだと思われる。殺されて、死んで、新たに復活するキリストの神話は、穀物の収穫と春の芽生えを象っているものだと思われる。あるいは太陽の死と再生であり、またはこの世界、大地の死と再生である。世界中でひろく信仰され、日本でも古代に信仰されていた世界観がこのキリスト教には色濃く刻印されているのである。

　したがってこの日本にキリスト教が入ってきたとき、日本の神話と同じ要素をもつ太陽の死と再生が日本人の心によみがえったとしてもなんら不思議はない。そしておそらくは日本の穀物の収穫の豊穣や再生の願いはしばしば性的放縦として許容されてきたものである。性交がこの世の豊かさや実りを約束するのである。むかしの日本人はこのような観念のもとに性的放縦に勤しんだのである。

　クリスマスあるいは冬至とは新たな年の収穫や太陽、または大地の種つけや豊穣を願う祈念の日である。それは再生や豊穣は性交によってもたらされるものである。古代日本の天皇はこのようなことを願い、そして日本の庶民も性的放縦によってそれを願ってきたことだろう。

　つまりはこの世界の死と再生が性交によって願われる日なのである。クリスマスは外来のキリスト教がやってきたものというよりか、古代から信仰されていた日本の太陽あるいは穀物、大地の死と再生の世界観がよみがえったものといえるのである。したがって日本のカップルはクリスマスにおおいに性交に励むのである。

　これはもともと日本にもあったものである。キリスト教もその太陽や大地の死と再生の世界観が語られたものであり、日本と共通の神話を根底で語っており、したがって太古からある日本古来の信仰を再現しているに過ぎないのである。同じ共有されていた物語がキリスト教という新たな装いでやってきたから知らなかっただけであり、同じ物語の土台は西洋でも日本でも太古から信仰されてきたものなのである。

　私たち日本人は古代日本人が信仰していた太陽や大地の死と再生を、外来のクリスマスにおいて性交によって願うのである。西洋のキリスト教は性をはげしく抑圧する時代が長かったが、日本においては性的放縦や容認は長く現代に近くまでつづいており、したがって「性なる夜」はクリスマスに容易に復活したのだろう。

　私たちはキリスト教というヨーロッパのパッケージにだまされているが、古来からある太陽や大地の死と再生の信仰をクリスマスの夜に再演するのである。カップルは新しい年の太陽や大地をこの日に種つけ、または新たに生み出そうとして性交するのである。世界は性交によって豊穣に豊かに生み出されるのである。

▼関連記事
　クリスマスと性交と太陽の再生
　古代レイライン探索
　太陽の死と再生と性交

▼参考文献　私の書評にリンクしています。
　宮元健次『神社の系譜』　文春新書
　大和岩雄『天照大神と前方後円墳の謎』　六興出版
　吉村貞司『原初の太陽神と固有歴』　六興出版
　井本英一『飛鳥とペルシア』　小学館
　吉田敦彦『不死と性の神話』　青土社
　宮田登『王権と日和見』　吉川弘文館
　エリアーデ『豊穣と再生』　せりか書房
　クラップ『天と王とシャーマン』　出版文化社

『桃太郎の母』　石田英一郎

新訂版桃太郎の母 (講談社学術文庫)
石田英一郎

　人類の太古には「死と再生」の世界観が根本にあったと思われる。そして現代でもそのパラダイムに生きていると思われるのだが、それをしっかり知る満足のゆく文献と出会えない。それらしきことに触れているようなこの本を手にとった。

　まだまだ満足できない。どのような文章や洞察に出会えればその真髄に触れたと思えるのだろうか。

　この本は死と再生およびそれにかかわりのある「水界」を中心に月との関係や、隠れた太陽、桃太郎の母、穀母などの神話が世界中から集められてくる。いずれも死と再生のモチーフが色濃く中心を貫いているのである。その世界観をあらわすいくつかの文章を引用しよう。

「中国や日本の月の桂をはじめ、何らかの潅木を月世界に見ようとする分布の広い信仰も、植物界における死と復活の反覆を月に結びつけた結果とは解しえられないであろうか」

「思うに動植物ことに植物の生成発育にたいする水の恵みを、不死永生、多産豊穣の女性原理の象徴としての月に帰せしめた原初の素朴な生命の欲求にもとづくものであろう。月神話にゆかりの深い、蛇、ひきがえる、熊、犬などの動物が、同時にまた水神水精の性格を帯びてくる所以も、これを理解するに難くないのである」

「アメノウズメの裸身顕露を、冬から春に移る季節祭に、死せる自然の力および太陽神に回春を促す笑いの秘儀に関連せしめて論じられる」

「通常無花果(いちじく)の樹によって最高神たる太陽が地上に降り、<母なる大地>もしくは<妻なる大地>とまぐわいするという信仰が支配しており、多くの島(小スンダ列島あたり)ではこの季節になると、無軌道な性的乱交が行われるか、もしくはこの種の乱交の記憶をとどめた祭事が挙行されるという」

「紅白の顔料もしくは仮面によってヨメの装いをした少女が水の神として登場し、日の神と交わることによって田の神は生まれるのであった」

「この母子の夫婦から生まれた子供の屍体から、稲その他の栽培植物が生まれ出たという農耕神話がこれにつづき、人類の母祖が同時に穀母神の性格を示す。ある日、レナは彼らの子供たちのうちの二人をつれて畑に行き、これを殺してバラバラに切りこまざいた上、その血や肉や骨を畑にまき散らすと、さまざまの農作物が生まれた」

「私の講演では、古代のトウモロコシ儀礼が、どうして日本のにいなめ祭と関係があるのか分からなかったという批評を承った。日本の新嘗の祭りは、年ごとの稲の収穫をことほぐとともに、あくる年のゆたかなみのりを保証しようとする意図を、その根底とするものと理解してきた」

　死と再生の世界観は稲や穀物にも象られたし、太陽や月のサイクルにも投影されたし、そのようなサイクルを促したり、復活したりする意味で、人間の性交や誕生は儀礼づけられた時代があったのである。穀物や太陽、月はいちど死んで、人間および神が性交することによって新たに生まれ、再生する。この世界はいちど死に、性交によって新たな生が付与されるのである。太古の人たちには世界はそのように観念されていたのである。

　私はこの世界観をじゅうぶんに味わい尽くしたいと思うのである。おそらくはキリストの復活にもその神話が刻印されていると思われるし、世界の季節ごとの祭にもその世界観が付与されているだろうし、日本の天皇もそのような儀礼をおこなっており、日本の神体山や神社仏閣の方角にもその神話が塗りこめられているのである。この世界観を知らずして人間の文化を理解できるといえるだろうか。だから私はこの世界観をもっと知りたいと思うのである。

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竹内まりやをYouTubeで聴く

　YouTubeではかならず「竹内まりや」の映像がUPされていないか検索してしまいます。竹内まりやはクオリティの高い曲を安定して聴けますよね。すこし増えたようなので、みなさんにまとめて聴いてもらいたいと思います。

　【2008/3/10追加】　動画がかなり削除されていました。邦楽は著作権がカタイですね。広告と見なせば宣伝効果はあると思うんですが。新しい動画もみつけましたのでUPしておきますが、寿命は短そうなので気をつけてください。

　【2008/9/24】　リンク先はほとんど削除されていたのですが、いくらか復活できました。×印は見当たりませんでした。×印が増えてゆくのはご了承ください。

　【2009/4/20】　リンクを貼り直しましたので、お早めにごらんください。

　

　竹内まりや　カムフラージュ
　いちばん好きな曲かもしれませんね。完成度が高いです。中山美穂の物思いに沈んだ顔と、バックの森林の緑がともにとてもきれいでしたね。

　竹内まりや　駅　2000
　はじめて聴いたとき、他人事とは思えない曲でした。

　竹内まりや　返信
　『出口のない海』の主題歌で、上野樹里のビデオがいいですね。

　竹内まりや　元気を出して
　女性たちに圧倒的な支持があった曲ですね。

　竹内まりや　真夜中のナイチンゲール
　このころTV主題歌などのタイアップが最高潮に達したころだったと思います。TVから流れてくる竹内まりやの曲を聴いて「いいなぁ」と思ったものでした。

　竹内まりや　天使のため息 1999
　これはラヴ・ソングの域をこえている曲ですか。

　シングル・アゲイン
　竹内まりやサンは長年の恋を思う詩があってそれもいいんですね。

　涙の One-Side Love
　物語風の曲がいいですね。

　届かぬ想い
　この唄ははじめて聴いたのですが、アルバムの中の一曲って感じの唄ですね。

　竹内まりや　毎日がスペシャル
　曲はいいたいことはわかるのですが、ムリなポジティヴさはしんどいかなと。竹内サンのタイプではないかと。

　竹内まりや　時空の旅人
　英語の曲としてクオリティの高い曲を聞かせてくれますね。声を聴いているとどうしてもカレン・カーペンターを思い出してしまうのですが。

　竹内まりや -チャンスの前髪
　『肩ごしの恋人』につかわれていたのですが、あまり印象なかったです。竹内まりやの神通力は落ちたか。たぶん私の好きなバラードでなかったからでしょう。

　竹内まりや　家に帰ろう(マイ・スイート・ホーム) 　1993
　このころはふっくらしていたのですね。のちにアイドルに提供した曲や、不倫の唄、TVとのタイアップなどで、女性たちの共感をどんどん集めてゆく時期でもあったのですね。

　人生の扉　竹内まりや
　五十をこえたミュージシャンは数えるほどしか生き残っていませんね。そして五十をこえて人生を終焉のほうからながめる目も養われてゆくのですね。

　竹内まりや－スロー・ラヴ
　NHKの『SONGS』という番組は見ました。ちょっと気負いが大きすぎたかなという感がなかったわけでも。。

　竹内まりや　リンダ
　女性たちのハートをがっちりとつかむ曲でしたね。

　竹内まりや　ボーイハント　2003
　オールディーズを歌っていますね。

　竹内まりや～明日のない恋
　美人は年をとっても美人として見れるものですね。女でなくなるおばちゃんもたくさんいる中で。。

　×けんかをやめて
　男の私には是認できない唄ですが(笑)。

　竹内まりや　Forever Friends
　友だち共同体の唄。孤独好みの私は趣味ではありませんが。

　竹内まりや　september
　ちょっとアイドルっぽいかも。
　
　竹内まりや　不思議なピーチパイ
　このころは唄のうまいアイドルなんて必要なかったのだと思います。松田聖子や中森明菜、小泉今日子などのかわいいアイドルが席巻する時代でしたからね。ソングライターに専念してよかったと思います。

　みんなひとり　松たか子
　いいすよね。孤独だからこそ絆を求めるって。

　竹内まりや　色・ホワイトブレンド
　竹内さんはこういう曲も提供してたのかと。

▼私は三枚のアルバムを聴いています。『Bon Appetit！』と『Quiet Life』と『REQUEST』です。ある曲を気に入って購入というパターンでしたが、こんかいの『Denim』はまだそういう曲に出会ってないぞと。

　竹内まりや　Wikipedia
　批評を書いてみようと思ったのですが、まだ書けないですね。詩における人生観とか、または商業的戦略からみる竹内まりやとか。ムズカしくて書けません。

『近代ヤクザ肯定論』　宮崎学

近代ヤクザ肯定論―山口組の90年
宮崎学

　人材派遣大手のフルキャストは港湾労働に労働者を派遣してなぜ事業停止のおとがめを喰らったのか。港湾労働はなぜそこまで危険な要素をふくむのか。沖仲仕とよばれる労働者はなぜ独特のイメージをまとわされているのか。

　「フルキャストを事業停止に追い込んだ港湾荷役」　EU労働法政策雑記帳

　上記のような記事がある。日本の最大のヤクザである山口組は神戸の港湾労働から生まれてきたのである。また日雇い労働者の労働派遣はヤクザの手配師によって握られている。なぜ労働派遣はヤクザと結びつくのか。ヤクザはなぜ労働派遣の仕事と重なるのか。

　そのような疑問を解く本としてこの本を読んだ。労働派遣の業種がおおく解禁されたことにより、またヤクザが切り開いてきた前近代の歴史がよみがえるのではないか、そのような懸念を抱きながらページを繰った。

　山口組は神戸の港湾労働組織から生まれた。港湾労働は過酷な労働であり、前歴を問わない荒くれ者や流れ者がおおく、強い統率能力がなければ作業を運営できなかったのである。そこに暴力を背景とした近代ヤクザ組織が生み出される由縁があったのである。山口組はさいしょ暴力団としてよりか、沖仕の組としてはじまり、労働力供給業や人足部屋のなかのひとつの組として生まれたのである。労働者の、あるいは下層民たちの組織としてなりたったにすぎない。

　港湾労働の貨物取扱量は季節的にも日々の変動においても激しいものがあり、船会社、荷主は労働者を直接雇用せず、海運運送業者にまかせるほうが経営ロスをふせげる。流動性を避けたい海運業者もまた同じで、下請け業者にそれを転嫁しようとする。下請け業者は縄張りによって大口取引を独占しようとし、暴力的なヤクザが生まれる。作業の変動のロスをふせぐために臨時労働者や日雇い労働者が下層社会からひきつれられてくることになる。ヤクザと日雇い労働者はこのような抑圧された下層の社会から結びついて生まれてきたのである。

　戦後GHQは民主化政策において労働者供給事業を禁止した。労働者は事業主と直接雇用関係に立たしめ、中間介在者を排除するとうたったのである。前近代的な親方・子方制を解体しようとしたのである。その日暮らしの労働者は会社の常雇労働者として就職することになったのである。このおかげで戦後の日本人はだいぶ安定し中流といわれる生活を確保できるようになったと思われるのに、なぜこの禁止規定が解除されなければならなかったのか。

　この政策はたちまち過当競争を生んだ。港湾労働は変動が激しい業界であるが、常雇労働者を遊ばせておくわけにはゆかず、値引き競争がはじまり、船会社や大商社も値引き攻勢をかけてくる。こうしてまたもや闇の下請けや日雇い労働が復活することになる。闇にはヤクザが暗躍する土壌がある。そしておそらく港湾や建設の日雇い労働市場などは社会の必要悪としてヤクザに容認されるようになっていったのではないか。

　私はこのような人材派遣業にまつわるどす黒い歴史を知りたかったので、山口組がその後どのような経過をたどったのかはあまり興味がない。このような歴史を背負った派遣業はおおきく解禁される経過をたどったのは近年知られることである。この社会は過去の歴史をふたたびくり返してしまうのだろうか。

　本書は下層労働者や、あるいは被差別民、在日コリアンが生きてゆくうえでどうしても結成せざるを得なかったヤクザの結びつきが描かれている。社会の底辺として生きざるを得なかった人たちの苦闘の歴史である。そういう差別や暴力、排除を生み出しておきながら、踏みつけにした集団をさらにそのマイナスのイメージで固める、そういった社会の鈍感さに異議申し立てをおこなった書であると思う。

　ヤクザの捉え方やイメージが変わるかもしれないが、暴力や殺人を盾にする集団をもちろん肯定することはできないのである。なにより恐ろしいし、かかわりになりたくない人たちである。だが虐げられた人たちが生きのびるために選択しなければならなかったただひとつの道が暴力団でしかなかったとするのなら、かれらは私たちの暴力的な姿を一手にひきうけた姿だといえるだろう。かれらは被抑圧者としての姿をその出自にもつのである。

　派遣や非正規化の雇用の流れに不安や恐れを感じている人には派遣業の過去をひもとくという意味で、参考にしてほしい本である。

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なぜ下請け、日雇いは生まれるのか

　こんかいのエッセイはあくまでも思考の訓練用です。問うことによって関心を高め、問いへの執着力を強めるためのたたき台です。したがって答えは正確でも、データから得られたものではありませんし、稚拙な推論に終始すると思います。

　知識の楽しみとはこのような謎解きの問いにあるのですが、学校やマスコミはできあがった答えを与えてしまうために人々から知の楽しみを奪いとってしまいます。答えの出ない問いこそ、私たちの関心や興味をいちばんなひきつけるのですが、答えのない問いはたしかに苦しいのですが、与えられた答えしか知らない人はかなり不幸なことだと思います。

　こんかいの問いはなぜ下請けは生まれるのかということである。仕事の注文をうけると、元請がおおくのマージンをとり、下請け、孫請けと仕事が丸投げされるごとに受注額は減り、収入も減り、しかも元請はてんで仕事をせずじっさいに仕事をうけもつのは下請けや孫請けなのに名前も出ないし収入も減る、どうしてこんな不公平でゆがんだ多重下請け構造があるのかと思う。

　建設業界の仕組み
　IT業界の給与格差を探る！元請と下請でいくら違う？

　しかしも元請は受注額を下げたり、コストを中国以下に下げろと要求できることもできるし、急な注文やむりな納期を迫ることもできる(マスコミが書かない「下請け」の本音)。下請けは大手受注先をうしなえば倒産の危機におちいるため、泣く泣く要求を呑まざるを得ない。産業界というのは日本国内においても、または先進国-後進国においても、このような搾取、ヒエラルキー構造でなりたっているといえる。派遣やフリーター、中国研修生などの過酷な労働が急増したのもこのような搾取構造があるからだと思われる。

　元請はなぜこのような支配的で権力的な立場を維持できるのか。注文が受注先からちょくせつにくれば、下請けはたいそう助かるわけだが、元請がすっとばされることはない。ネームヴァリューであったり、信用であったり、過去の慣行であったり、受注に対応できる技術力であったりするのだろう。なぜ下請けは元請のような地位につけないのだろうか。

　建設業界は伝統的にこのような重層下請け構造でなりたっているし、トヨタやニッサンなども傘下に多くの下請企業や系列企業を抱えることによって競争力をつけている。いわゆる企業城下町を形成する。何次もの下請けはコストや需要減のしわ寄せを喰らい、緩衝材としての役割を背負わされ、悲鳴をあげている。派遣やフリーターが景気の緩衝材として利用されている構造と同じである。最下層は日雇い労働者として不安定で先の当てのない労働に従事するのである。

　TV業界も同じである。TV局は番組をつくらず、じっさいにTV番組をつくっているのは製作プロダクションといわれる下請企業である。スポンサーからの受注額は手数料(マージン)を多くとられ、受注額は下げられ、納期は早められ、無理難題の注文やコスト削減を求められる。そうして悲鳴をあげる下請企業は派遣やフリーター、または正社員も深夜残業などの過酷な労働で酷使して、なんとか元請の要求に答えるのである。

　コスト削減や何次ものマージンによって減らされた受注額によって、下層の下請企業は注文を受けざるを得ないのである。このような下請けのしわ寄せによって、低コストの競争力の強い元請大企業は大きな儲けを得るのである。日本国内ではコストが下げられないとわかったら、中国人の低賃金で働かせればいいのである。

　産業には流行や栄枯盛衰もあるし、定期的・永続的に仕事があるというわけではない。とくに受注がないと仕事がきょくたんにないのが、建設業や港湾労働といったものである。土木建設業というのはビルや道路ができてしまったら仕事がない。その期間に社員を雇っておくと膨大なコストのムダを生じる。したがって建設業は伝統的に日雇い労働者をおおく抱えてきた。仕事のない期間を会社内に抱えておくのではなく、仕事が生じたら外部から人をかき集めてくるのである。

　定期的に収入のない労働者は安定した収入を得ることができない。したがって貧困街やスラム街を形成してきたのである。仕事は一般の企業のように継続的にあるとは限らない。ビルや道路ができると仕事はお払い箱だ。そうして収入が断たれた労働者は貧困に落ちざるをえないのである。

　じつのところ産業界のおおくの企業はこのような需要によって労働者を削減できる構造を欲しているものである。社内失業者を抱えるような高コスト体質の企業にはなりたくない。しかし戦後は高度成長やキャッチアップがつづいたり、人手不足が深く心配されたり、また社会主義や福祉国家、あるいは労働運動の激しさや法律の規制もあって、終身雇用のような従業員囲い込みがおこなわれてきたため、雇用をかんたんに切り捨てるような、労働者を外部にプールするような構造をとってこなかった。

　建設業や港湾労働などに残されただけであった。これらの業界はどうしても労働者を継続的に抱え込むことはできなかったのだろう。おかげで不景気や需要の少ないときには労働者を外部に放り出せばよかったし、景気がよくなれば労働市場から調達すればよかった。その間、仕事のない生身の労働者は貧困の時期をしのがなければならなかったわけだが。

　建設業だけがずるいとなって製造業やほかの業種でもこのような景気緩衝材としての派遣業が認められるようになった。自社内にプールするコストを嫌い、有期期限や低賃金で働かせる労働者を確保することに成功したわけだ。いわばこれは日雇い労働者のような状況の人たちを拡大するということなのだ。仕事のない期間に放り出される労働者が増えるということなのだ。きょくたんになれば、日本全国「西成化」とよばれる状況になってなってもおかしくないのである。

　下層にしわ寄せする構造、下層にコストや低待遇を押しつけることによって大企業や元請企業の競争力や売り上げをあげる構造はここにきてますます極大化しつつある。権力や支配の力関係がますます極端になる構造が完成されつつある。力のある者とない者の暴力や搾取、またはいじめの構造は全社会的に覆っているわけである。なるほど中学生がいじめで弱い子を追いつめるのは社会の「正義」を擬態しているわけである。

　なぜ下請け多重構造が生まれるのか。なぜ元請は強大な権力や支配力を維持できるのか。そのような問いはその強大な権力を掘りくずす要素やユニットをとりだすきっかけを生み出さないだろうか。問いかけることによって権力の源泉を見い出すのである。源泉をとり出すことによって、権力の要素を奪いとれないだろうか。あるいは権力を弱めることはできないか。甘すぎるか。

　この多層ヒエラルキー構造を是正する道は見い出せないか。貨幣の構造はこのような結果を必然的に招来してしまうのか。問いかけることによって、このヒエラルキー構造を掘りくずす方法を見つけることこそが思考の役割ではないかと思う。

『「しきり」の心理学』　林理

「しきり」の心理学―公式のリーダーと非公式のリーダー
(1998/05)
林理

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　古本屋でたまたま見つけて、「非公式のリーダー」という存在がおもしろいかなと思って読んでみたのだが、あまり参考になる知見がくわわったわけではない。

　私の職場でも公式のリーダーは現場のスタッフたちに比べると権力がよわく、傀儡といった感じがしないでもない。現場の作業の実権を握っている者が、公式のリーダーの情報量や技能よりどうしても勝ってしまうのである。だから非公式のリーダーという存在に目をひかれたのである。公式のリーダーというのは対外的なリーダーであるようである。集団というものはじっさいは非公式のリーダーがとり「しきる」ものなのである。

　非公式のリーダーとは「まあまあ型」や「ゴリ押し型」、「おれだよ型」、「小学校の遠足型」の4分類に分けられるとされる。専制タイプと民主的タイプの両極端がなるわけである。

　集団のとりきめというのはたいがいは「自分には利害のないどうでもいいこと」である。そしてそういうとりきめはほとんどが好みの問題である。好みを決める際に非公式のリーダーがしきることになる。好みの問題は非公式のリーダーの専横になりやすく、それで派閥ができたり、陰湿なものになりやすいのである。ながく積み重なった社内の慣行や蓄積を知っているものに新参者はたちうちできない。非公式のリーダーの権力の源泉をしっかり見極めることが社内遊泳には大切なものなのである。

　それにしても集団論や組織論でこれがいいという本にはなかなか出会えない。会社に長くいると対立や抗争ばかりが起きる。私の性格が悪いのか、職場とはこういう人間関係の戦争の場なのか。ついこないだも上司にケンカ腰で殴られそうになり、辞めようか、労働基準局に相談しに行こうかと悩んでいる最中である(泣)。私はうまく人にとりいるとか、おべっかができなく、いちど許せないと思ったら頑なになるところなんかが抗争に放り込まれる原因になったりするのかなと思う。自分では穏やかな人間だと思っているんですが(悲)。。ま、この上司はいつもケンカ腰なのでとっくに相手しなかったからキレられたのですけど。。

　▼いままでそういう集団抗争や権力闘争で参考になった本の私の書評をあげておきます。ほんとに役に立つ本は少ないのが残念です。

　『権力(パワー)に翻弄されないための48の法則〈上〉』　ロバート・グリーン
　権謀術数を生きるには最高の本。
　『チンパンジーの政治学』　フランス・ドゥヴァール
　まるで人間のボス争い、派閥闘争そのもの。
　『女の子どうしって、ややこしい！』　レイチェル・シモンズ
　裏攻撃やいじめ、仲間外れ、女性の集団も同じことである。
　『子ども社会の心理学』　マイケルトンプソン
　グループのオキテを泳いできた子ども時代とはなんだったのか。
　マキアヴェリ　『君主論」
　やっぱりマキャベリズムで生きなければならないのかも。

『仕事(WORKING)！』　スタッズ・ターケル

仕事(WORKING)!
スタッズ・ターケル

　700ページのぶあついこの本を読みとおすのはけっこう苦痛であった。いろいろな職業についている人がどのような気持ちをもって働いているのかと知るには115の職業にインタビューしたこの本をおいてほかにはなく、絶版のこの本を古本屋で探し回ってようやく手に入れたのだけど、そうそうページはすすまなかった。

　この本は1972年に出版され、全米で長期ベストセラーとなったという触れ込みだが、とうじアメリカはヒッピーやフラワーチルドレンとかでアメリカの若者が働かなくなった時代だった。だからこのような仕事についての集大成のような本は出版されなければならなかったのだと思う。日本では20年後のバブル期にフリーターやだめ連、またはおくれてニートによって労働倫理への懐疑がわきおこったが、私たちは仕事にたいするなにがしかの見解の成果を手に入れただろうか。

　あいかわらず仕事なんかしたくないという気持ちと仕事をしなければ生きられないという矛盾した気持ちの板ばさみになっているのではないかと思う。そして仕事とはなにかと思う。思ったところで仕事をしなければならない。堂々巡りである。そして仕事への問いはおさきざりにされ、深く追究されずに、私たちは仕事という懐疑を根底に持ちながら働きつづけなければならないのである。

　ターケルのこの本はそのような問いに答えてくれる本ではないと思う。浅い読み方しかできなければ、これはたんなる職業のインタビュー集でしかない。さまざまな職業の聞き取り調査が羅列されているだけである。製鉄所労働者、季節労働者、坑夫、売春婦、ビル管理人、工場長、トラック運転手、レジ係、ウェイトレス、騎手、保母、墓堀り、植木職人、床屋。仕事について考える材料はたっぷり与えられるのだが、先へと進む思考のたたき台は与えられるわけではない。そういうところで無味乾燥の感が読書中におこるのである。
　
　私たちは仕事によって人間の価値や意味が決められたりする。「ただ」のウェイトレスといわれたり、ああ、あの仕事といった見下された評価をされたり、あの仕事についている連中はこんなやつらだといった評価をされたりする。仕事は人間の価値や評価をあらわすとされる。そしてそのような価値に反抗したり、自分をうちのめしたり、納得させたり、闘わなければならなかったりする。私たちは仕事の評価と自分の価値と対峙しなければならないのである。

　荷物エレベータ係のある男は労働者はたがいに軽蔑したがる、おれがナンバーワンだといって他人を見下す、どんなプライドがあるのかといっている。職業にはランクや地位の問題がつねにつきまとう。自尊心やプライドの問題である。あるスチュワーデスはいう。自分ではつまらない死にそうな仕事だと思われていても、ほかの人にはかっこいいと思われている。そういう人間の序列にかかわる問題が私たちをさいなますのである。

　職業貴賎や職業差別にかんする問題をわれわれは克服できたか。マスコミはそのような問題を隠蔽し、差別用語によって問題をくるみ、ひた隠しにしてきた。まるで表にあらわさなかったら問題は解決するかのごとくである。社会全体としての問題は個人の重すぎる問いとしてひとりひとりにのしかかられただけである。隠蔽された問題はしずかに私たちを問えない問題としてさいなますのである。

　またこの分業社会のひとつの職業に費やす人生の意味や価値はあるのかといった問題もある。職業の無価値感といった悩みとも対峙しなければならない。職業的にひくいと思われている仕事に生涯つかなければならない労働者はそのような無価値感とどのように闘えばいいのだろうか。私たちはこのような問いと面と向かって問いつづけてきただろうか。

　副社長や社長を歴任したコンサルタントの男はいう。会社とはジャングルだ、人間対人間の見えない戦いを数多く経験しなければならないという。まったくそのとおりだと私も実感をもって思う。部下は自分の地位を狙っている、指の一振りでクビをいいわたされる心配もある、社長になるとだれとも口を聞けなくなる、会社内部には噂やゴシップが流れ、オフィスは電線でつながっているようだと。会社とは人間関係の戦場だと思う。私たちはこのような戦場でも闘って生き残らなければならないのである。

　19歳の看護助手は寮制学校の経験から、人の上に立たないとみんなに軽蔑されていじめられると学んだ。自分が恐い人間だと思われなければ、のけ者にされたり、こづきまわされたりするのを見てきた。そして患者への共感や同情をもたない仕事振りをおこなっている。会社とは人間のこのような動物的な闘いをひきだしてしまう集団の戦場ではないかと私は思う。

　このような問いや考察をターケルのこの本からひきだしてくるのはかんたんではない。この本はたんに仕事についてのインタビューが羅列されているだけだからだ。この豊富な材料をうまくつかいこなせるかどうかはまったく読者自身の問いや洞察能力にかかっているわけだ。おそらく私たちは仕事に対するそのような問いをほとんどもってこなかったのだと思う。

　ある映画評論家はいっている。映画では仕事はめったにあつかわれない、七不思議のひとつだ、映画産業は複合巨大企業に牛耳られていて、この関係から手を切らなければぜったいに暴露的になれないと。私たちの社会も同じような構造のテレビ業界に牛耳られているのではないだろうか。そして私たちは商品や広告の甘い消費社会の夢を見せられるだけで、裏方でどのようなことがおこなわれているのか、いっさい見れなくされてしまっているのである。仕事とは現代の「放送禁止用語」なのかもしれない。