10万人とも20万人とも言われ、深刻化するフランスのホームレス問題を題材にした「ベルサイユの子」が東京・シネスイッチ銀座で公開中だ。「現実に対して正確であるように努めた」とピエール・ショレール監督は語る。
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貧困をテーマにする上で気を付けたのは、過酷さを強調したり、ロマンチックな表現をしたりしないこと。「マニュアル調の映画にはしたくなかった。特定の家族像、人物像に閉じこめず、キャラクターが本来持っている人格の力を探求していった」
ベルサイユ宮殿そばの森に、多くのホームレスがいる。世間の交わりを断ち切って暮らす男性ダミアン(ギョーム・ドパルデュー)が、幼い息子を抱える失業者の女性ニーナと出会う。翌朝、ニーナはメモと子供を残して姿を消す。子供はダミアンが面倒を見ることになる。
女性は「失業は宿命ではない」などと書かれた新聞記事を読んだのがきっかけで老人ホームの採用試験を受け、職を得た。フランスでは、ニーナのような女性は特別ではないという。シングルマザーが多く、ホームレスの中にも若い女性が多い。
「社会が適応性を与えてくれるわけでもない中で、自立を現実にするには、自分自身が変わらないといけない」とショレール監督はいう。
「彼女がダミアンという人物と出会い、子供を預けたのは、勇気かもしれない。新聞記事を見たことで、前に進もうと決めたわけだから」(高橋昌宏)