【健康】多様化するうつ(2) 薬物療法が中心 種類と量、調整しながら2009年5月8日 うつ病治療の中心は現在、薬物療法だ。抗うつ薬が主に使われ、抗不安薬などさまざまな薬が処方されている。治療効果が上がっている新世代の薬も登場し、治療に役立っている。 (鈴木久美子) 「治療ガイドラインと医師の経験に基づいて、患者さん一人一人の特徴に十分配慮した微調整をしながら処方するのがうつ病の薬だ」 東京女子医科大神経精神科の坂元薫教授は投薬の考え方をこう説明する。 使用する薬の中心は、抗うつ薬だ。「うつ病に伴う気分の落ち込みや不安、こだわりを軽くして、回復を助ける」と杏林大の田島治教授(精神医学)は解説する。 主に使われているのは、SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)で、日本では一九九九年から使用が始まった。四商品がある。翌年から一商品だけだが、新薬SNRI(選択的セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬)も出た。 五〇年代から使われていた抗うつ薬は、口が渇いたり、便秘、だるさのほか多量服薬すると心停止により死に至るなど重い副作用があった。SSRIやSNRIは「第三世代」と呼ばれ、効果はほぼ同じで、こうした副作用が少ないといわれる。「うつ病は心の風邪。気軽に病院に行こう」と呼びかけるキャンペーンのきっかけにもなった。 脳内には、セロトニンやノルアドレナリンといった神経伝達物質があり、神経細胞から放出されて近くの別の神経細胞の受容体に結合して、細胞間に情報を伝える。うつ病患者は、同物質が少ない上に、結合しきれなかった同物質が、放出した神経細胞に戻って取り込まれてしまう。同薬はそれをブロックし、情報伝達を活発にする仕組みだ=イラスト。 処方では、徐々に服用量を増やしていくのが特徴だ。一−二週間ごとに増やし、患者に適切な量にする。 「薬量を増やすことに抵抗感を持つ患者さんも多い。医師が最初に処方の基本方針をしっかり説明することが大切だ」と坂元教授は言う。少量のまま飲み続けても、効かなければ意味がない。 効果が表れるまでに二週間ほどかかる。服用中にいきなりやめると、吐き気やめまい、ふらつき、といった「中断症候群」の症状が出る。 SSRIには前世代薬のような副作用は少ないが、まれに服用初期や増量時に、不安や焦燥感、怒りっぽさなど「アクチベーションシンドローム(賦活症候群)」と呼ばれる症状が出る。 効果が思わしくない場合は、ほかの抗うつ薬に変えたり、抗不安薬や気分安定薬などと組み合わせる。日本では、抗不安薬の消費量が多く、米国の約七倍という。米国はSSRIだけを使うが、日本は抗不安薬を一緒に処方する場合が多い。 併用が不安の解消に有効だという検証結果に基づいているが、六週間を過ぎると効果に差がなくなることも分かっている。短時間で効果が切れる抗不安薬がよく使われ、患者が不安から薬を欲しがり、医師が処方を続けて依存症になる場合もあるという。 だが「作用時間の長いタイプの抗不安薬を医師が適切に処方すれば、依存は起こりにくい」と坂元教授は話す。医師に相談し適切な知識を持って自分に合った処方で服用すれば、心配ない。 現在では、抗うつ薬だけでも約三−四割に効果がある。 坂元教授は「最初の薬で十分な効果が見られなくても、次の薬に変更することで良くなる人も多い。あきらめないで治療を続けてほしい」と話す。
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