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はしか・髄膜炎―予防接種で700万人の命を守る

2009年5月8日

  • 国境なき医師団@西アフリカ

写真【1】ナイジェリア・カツィナ州で行われている髄膜炎の予防接種。MSFは例年、世界各地のはしかや髄膜炎の流行地で、現地の保健当局と協力して、大規模な予防接種を実施している。写真【2】チャド東部は極めて治安が悪く、カージャックなどの犯罪が頻発している。MSFは、予防接種チームを乗せた車が狙われる危険を避けるため、現地で古いトラックを手配した。写真【3】チャド東部の村々をまわる予防接種チームは、その日の接種を終えると、村の空き地にマットレスを敷き、蚊帳を張って休む。翌朝、朝日とともに目を覚まし、荷物の片付け、トラックの点検などを済ませて、朝食をとった後、治安状況を確認して、7時には次の接種実施地に向かう。写真【4】ナイジェリア・カツィナ州の予防接種会場。大規模な予防接種を効率的に実施するには、入念な準備が必要になる。会場では、ロジスティシャンが誘導路を作って人びとを並ばせ、物資の手配と廃棄物の管理を担当する。接種する人、ワクチンの希釈と注射器への注入を行う人、そして受付担当の3人一組で、1分間に6人のペースで接種を行う。写真【5】コールドチェーンによるワクチンの温度管理は、ロジスティック面の活動のなかでもとくに重要である。ワクチンは2度から8度の間で保管、輸送されなければ効力を失ってしまう。チームはワクチンを保冷剤とともにクーラーボックスに詰めて、接種会場まで低温のまま届ける。写真【6】ナイジェリア・ジガワ州の診療所で治療を受けている子どもとMSFのスタッフ。患者が一刻も早く治療を受けられるよう、MSFは地域の診療所を拠点にして治療を提供し、重症患者のみを病院に搬送している。 写真【7】髄膜炎の予防接種を受けるため、ニジェール・マラディの予防接種会場で列を作って待つ人びと。予防接種を受けるのは2才から30才までの子どもや若者で、接種を受けると3年の間、感染から身を守ることができる。

【1】ワクチンの接種は、特定の病気への感染から多くの人びとの命を守ることができる、とても有効な手段である。しかし世界には、ワクチンで予防することも、薬で治療することもできる病気が、いまだに多くの人びとの命を奪っている現実がある。たとえば、はしか。はしかの予防接種が行き渡っていない国はアフリカやアジアを中心にまだまだ多く存在し、その結果、年間数十万人の子どもがはしかで命を落としている。

【2】国境なき医師団(MSF)は、アフリカの国、チャドで今年2月からはしかの大規模な予防接種を行った。チャドは、国内の政情不安に加えて、隣国の紛争の影響を大きく受けていることもあり、保健衛生事情が非常に悪い。はしかの予防接種を受けている1歳児の比率は2割程度にすぎず、世界で最も低い水準に留まっている。MSFはチャド保健当局の要請を受けて、チャド東部で生後6カ月から14歳の子どもたち10万人を対象とする予防接種を行った。

【3】チャドのように、治安が悪く、道路や電気などのインフラも整っていない場所での予防接種実施は容易ではない。チャド東部の予防接種チームは、医療従事者、ロジスティシャン(物資調達管理調整員)、運転手など約50人からなり、拠点となるキャンプを設営しながら村々をまわった。メンバーは7組に分かれて、キャンプから毎日違う場所に赴いて予防接種を実施する。6週間にわたってこの活動に参加した看護師は「トラックの部品が壊れたり、タイヤがパンクしたりして、移動に想定していた倍の時間がかかることも多くありました」と話している。

【4】はしかと並んで、ワクチンで予防できるにもかかわらず、多くの人の命を奪っている病気に「髄膜炎」がある。髄膜炎は世界中で発生するが、とくにアフリカ大陸を西岸のセネガルから東部のエチオピアにかけて横切る「髄膜炎ベルト」とよばれる地域に位置する国々は、毎年12月から5月の乾期にかけて大規模な流行に見舞われる。今年は、ナイジェリア、ニジェール、チャドの3カ国だけでもすでに1900人以上が犠牲になっている。流行が例年に比べて深刻な広がりを見せているため、MSFは、これまでの活動で最大規模の730万人を対象とする予防接種をこの3カ国で実施することを決めた。

【5】道路や電気などが整っていない環境で予防接種を実施するうえでの大きな課題の一つが、「コールドチェーン」と呼ばれる、ワクチンの効力を守るための低温輸送システムの確保である。この時期、「髄膜炎ベルト」上に位置する国々では日中の気温は日陰でも40度以上になる。その上、地方の町や村は電化されていないことが多く、ワクチンを低温で輸送するには周到な手配が必要とされる。たとえば、1万人分のワクチンを低温で輸送するには、冷凍庫1台、冷蔵庫1台、クーラーボックス5個、ワクチン運搬ケース10個、保冷剤400個などを用意しなければならない。電気が通っていない場所では、発電機を用意してこれらの装置を動かす。

【6】また予防接種と並行して、患者の治療、地域の診療所への薬の提供、データの収集や分析を行うことも重要である。髄膜炎は脳膜に発生する恐ろしい病気で、現在流行している型の髄膜炎に感染し、発症した場合、治療を受けなければ2人に1人が命を落とす。ニジェールやナイジェリアで話されているハウサ語では、髄膜炎患者は「頭を動かせない人」と呼ばれる。患者は実際、頭痛、高熱、吐き気に加えて、首を動かせないという症状に苦しめられる。しかし治療方法はごく単純で、ほとんどの患者は抗生物質を投与すれば短期間で回復する。症状が現れてから2日以内に死亡する患者が多数を占めるため、迅速な治療が必要とされている。

【7】MSFは4月末現在、3カ国で500万人以上に対して髄膜炎のワクチン接種を終えた。その結果、患者の数は現在減少傾向にある。髄膜炎の流行期が終わるまでのあと数週間、活動を継続し、さらに200万人への接種を行う予定である。

MSFの西アフリカ諸国における髄膜炎の予防接種実施の詳細はこちらから。

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○ 3,000円で、はしかのワクチン170人分を購入することができます。

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