きょうのコラム「時鐘」 2009年5月8日

 出掛けた先でキジを見た。「ケーン、ケーン」という鋭い声がして、あたりを見回したら近くに1羽、悠然と歩いていた

よく見かけるのか、と居合わせたお年寄りに尋ねると、首を横に振り、「イヤやわ。地震が来るのかね」。キジが鳴くのは地震の前触れ、という言い伝えがある、と教えてくれた。まさか、と聞き流した。鋭い鳴き声は異変を告げる予兆に聞こえなくもないが、いちいちおびえていては、身が持たない

キジが鳴いても騒ぎにならないが、異常な発熱や下痢は、国内外を揺るがし続ける。「弱毒性」の新型インフルエンザなら、むやみに恐れることはないはずなのに、死者は増え続ける。猛烈な感染の広がりに怖さは増すが、ちゃんと治療薬の備えはある。多くの情報が飛び交うが、どこまで怖いのか判然としない。過敏も鈍感も、危うい

キジの鳴き声を聞いたお年寄りは、あれから地震の備えを確かめたに違いない。根拠のない俗信、と笑ってのんきに構えるより、防災の「警告」と受け止める方が、利口な暮らしであろう

難事ではあるが、過敏でも鈍感でもない備えはできる。