第1回では、自分の力で日本の未来、世界の未来は意外と、いくらでも変えることができる、という話をしてきました。では、変化とは何か、もう少し具体的に考えていきましょう。私が定義する「変化」とは、より良い方向に向かって私たちが変わっていくことですが、そのためには、私たちが新しい考え方を柔軟に採り入れるとともに、そのために、社会で才能ある人が若いうちから活躍できる仕組みを整えることです。
例えば、天動説と地動説の交代をケースに考えていきましょう。ニコラウス・コペルニクスが著書『天球の回転について』で、当時の主流学説だった「天動説」に対し、「地動説」を初めて公に唱えたのは、1543年のヨーロッパでのことでした。その後、1600年代のガリレオを初めとして、弾劾を受けながらも、さまざまな地動説を唱える学者が跡を絶ちませんでした。
さらに、正しいはずの天動説では、さまざまなほころび、例えば一年の長さが暦と異なるとか、惑星の位置が天動説で計算される緯度と異なる、木星に衛星があるなど、理論的なほころびが目立つようになったのです。
そうしますと、徐々に天動説を信じる人が減ってきて、地動説を信じる人が増えていきます。特にそれは世代交代で加速されます。すなわち、天動説を信じていた人が考えを改め地動説に変化したのではなく、はじめから理論を学ぶときに地動説が当たり前だと受け止める若い人たちが増えてきて、天動説を信じている高齢者がだんだんと死亡することで、天動説は地動説に取って代わられたのです。
つまり、変化に必要なものは考え方の交代であり、世代の交代です。そして、日本がなかなか変わらない、変われない仕組みは、皮肉なことに、世界一を誇る長寿と、高齢者ががんばりすぎる仕組みにあるのです。
例えば、ノーベル賞の受賞は通常、60歳以上の高齢者が受賞対象となりますが、対象となる業績のほとんどは、20代後半から30代までに発表したものばかりです。これはなぜかというと、経験と創造性、それに体力のバランスが、その時期がもっともいいと考えられるためです。例えば、アインシュタインの特殊相対性理論は26歳、一般相対性理論は37歳の発表です。40代以降は理論の証明や平和活動に貢献するものの、業績的には目立たなくなっていきます。
ところが、日本では30代で活躍できる場所はあまりありません。難しい試験を突破し、東大から国家公務員となってキャリア官僚となった人たちでさえ、20代や30代のうちは、書類整理やコピー取り、会議の手配のような、考えられないレベルの業務に就いています。大学でも、30代ではなかなか教授になることはできず、研究に対する予算も人手も不足しています。明らかに、これは人材資源の無駄遣いです。
11月に行われた大統領選で、アメリカの国民は、共和党の72歳のマケイン候補ではなく、民主党の47歳のオバマ候補を次期大統領として選びました。ところが、日本では自民党の麻生総理が68歳、民主党の小沢代表が66歳です。民間企業の定年が65歳であることを考えても、かなりの高齢です。アメリカは拙速なところがあり、間違いも多い国家運営を行っていますが、それでも、この時期に40代の大統領を選ぶことができることに、変化への底力を感じます。
日本が大きく変わり、大きく伸びた時期が、近年に2回あります。それは、明治維新と第2次世界大戦後です。そして、この2つの時期の共通点は「若者が活躍できたこと」です。江戸幕府の幕閣が倒幕で追放され、新政権についた薩長を中心とした幹部は20代から30代が多く、伊藤博文は倒幕のときにまだ26歳、初代の内閣総理大臣に就任したときも44歳という若さでした。首相就任の決め手になったのも、低い身分でありながらも、実務と英語力に長けていたからです。
ところが、明治維新が終わると、だんだんと若年層が活躍できる場が失われてきて、従来どおりの官僚制が中心となり、軍部も幹部養成学校の成績順で出世が決まるような硬直化が進むようになります。そのことで、日本は再び、明らかに合理的な判断を欠いた決断を繰り返し、第2次世界大戦に突入していくのです。
第2次世界大戦に敗戦したことで、再び、若年層が活躍する時期が日本に訪れます。戦犯として高齢な指導者たちが一斉に、官僚も企業も、20万人も公職追放になったためです。結果、政府も企業も、若い人たちで回さざるを得ませんでした。さらに、支配者としてやって来たGHQの人たちも、アメリカでは実現できなかった、日本に真の民主主義の理想の国を作るということに燃えた、20代や30代の若者が中心で、先進的な憲法をはじめ、さまざまな制度を作っていったのです。
しかし、明治維新で革新された仕組みが50年程度で制度疲労したように、戦後の新しい仕組みも、敗戦から63年たった今、制度疲労を起こしてしまっています。今、私たちが変化のために必要なことは、知らず知らずに進む「天動説」のような常識が現実と食い違ってきている点を見極め、まだ少数派かもしれないけれども正しい見方である「地動説」のようなものをひとつでも多く見つけ、開発し、その新しい仕組みに仲間を募って、少しずつですが、でも、大胆に、新しいことを仕掛けていく仕組みなのです。
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