性の問題、その治療とは
2009年05月01日15時35分 / 提供:医療・介護情報CBニュース
【第59回】榎本稔さん(榎本クリニック・理事長)
榎本クリニックは性依存症者に対する治療的な試みとして、SAG(Sexual Addiction Group-meeting)と称する治療グループを開催するなど、全国でもまれな取り組みを進めている。榎本稔理事長は5月9日に立ち上げられる、幅広く性の諸問題を扱う「日本『性とこころ』関連問題学会」の大会長も務める。性依存症とはどのような病気なのか、その治療とはどのように進められていくのか、話を聞いた。
―性の多様化が叫ばれていますが、同時にさまざまな問題が浮かび上がってきていると指摘する声があります。
昔は姦通罪で女性が厳しく取り締まられていましたが、戦後、男女交際が自由になりました。いわゆる性の規制緩和、自由になってきたんですね。これが性の多様化に結びついたということです。
性の問題というのは、社会が作り出す病気だと僕は思います。そして、何も今更始まったことではない。
男の性意識、性欲は基本的にずっと変わっていない。ただ、それを社会的に規制しようとすると、いろいろな問題が出てくるのではないかと考えています。
―インターネットの発達などによる急速な情報化社会への転換の影響を危惧する声もあります。
これは統計を取っていないので断言はできません。ネット上では、倒錯的なサイトはたくさんあります。盗撮系や小児性愛、死体性愛など異常性愛を専門にしているサイトというのは、本人が持っている病理を深めることになるのかなと個人的には思います。
情報を選択する力がある時に見るのと、まだその力がないような幼い時に見るのとでは、違うと思います。女性と交際した経験があって、女性の裸に対してある程度免疫がある人が見る場合は、倒錯的なものを見たとしても情報を選択できますよね。これは有害だ、これは有害でないと。それが子どものように情報の選択力が全くない場合、そういうものなのだと思ってしまいます。
携帯電話はもっと規制しにくいですよね。
―榎本クリニックは性依存症者に対する治療的な試みとして、SAGを開催するなど、全国でもまれな取り組みを進めています。
誤解しないでほしいのですが、性犯罪者イコール性依存症ではありません。反復性があって、衝動的、強迫的、貪欲的であるという依存症の定義を満たしている必要があります。例えば、強姦や痴漢が一回だけで終わっている人もいる。性依存症というのは病気なので、一回で終わっている人はそうではないと判断していますが、一回でも行動化してしまうことが「病気」に相当するのか、これは難しいところです。
今までの性犯罪の処遇の歴史というのは、犯人が性依存症であっても、厳罰を追求するだけで、治療は一切行われませんでした。
ただ、2004年に起きた奈良県の少女誘拐殺人事件がきっかけで、変化が起きました。この犯人は、過去に児童に対する性的犯罪の前科があり、何回か繰り返しているということが分かりました。ここで、初めて厳罰化だけでなく、更生するには治療が必要だという視点が加わったのです。
また、海外では性犯罪者に対する司法と連携したプログラムがあり、実際に成果を上げています。
わたしたちは、治療を「依存症」という枠組みでやっていますが、依存症かどうかというのは断言できない側面を持っています。ただ、繰り返しているし、衝動性が高いし、強迫的で、貪欲的であるという「依存症」の条件を満たしている。では、それを実証するような研究があるかというとほとんどない。
ただ、多くの人に理解されて、支持されないとこの取り組みの普及はできません。その中で、一番分かりやすい枠組みというのは、依存症でした。
ですから、これは政治的な戦略です。やはり、多くの人に支持されて初めてこの取り組みは実を結んでいくと考えています。結局、一般市民の人に理解されずに、いくら治療を進めていたとしても、ただ、性犯罪者を囲って何か教えているだけだと思われる。そこに理論的な枠組みがあって、かつ多くの人に理解されたものでないと取り組みが広がっていかないのです。
これまで医療の中で培って来た依存症の治療、すなわちアディクションモデルというのは、歴史が長い。こうして使ってきた依存症の治療の枠組みを上手に当てはめながら、いわゆる性的な逸脱行動を繰り返す人々の治療に一番合う形はどういうものがあるか、加工しながらやっているというのが今の段階です。
―性依存症は他の依存症と違い、性犯罪につながりやすく、結果として被害者が出てしまうという問題がありませんか。
その通りです。性犯罪が起きると世間の目は被害者側につくわけです。「なんというひどい犯人だ、あいつはどうにかしないといけない、もう閉じ込めておけ」という声の中で、加害者(が性依存症であった場合)の治療プログラムを行うにしても、「あいつは治るわけない」と思われるわけです。では、そういうプログラムをやっているところは、もしかしたら加害行為に加担しているのではないかと思う人もいるわけですよ。
ここで、使えるのがアディクションモデルです。被害者が加害者を理解するのは無理ですが、回復のための治療を受けていく過程の中で、加害者について考えるときが必ず出てきます。その時に、あれは性依存症という病気なのだという理解の仕方ができることで自分の問題を整理するときに有効であると感じます。
ただ、病気という枠組みをつくることで、加害者の中には開き直る人が出てくる。俺は病気だ、俺は悪くない、病気だから仕方ないじゃないかと。つまり、病気であるということには、メリット・デメリットがあり、あまりにも病理化してしまうと、本人が背負う責任を免じさせてしまう機能を持っている。この辺りが非常にデリケートなところです。
―性依存症の治療は、逸脱した性行動を正常に戻すということなのでしょうか。
そういう考えではありません。例えば、アルコール依存症の人は酒を飲みたいという気持ちは一生続くといいます。
性依存症も、例えば露出したいといった願望が頭に浮かぶことは止めようがない。ただ、それをどうコントロールするかという方法を教えることしかないと考えています。気持ちそのものは我々にはどうすることもできない。それが統合失調症などの治療と違うところです。統合失調症の幻覚や妄想は、薬を出せば抑えられる。私たちは、性依存症の患者が、SAGに通うことによって社会問題化させないことを目指しているわけです。
―こうしたさまざまな問題が起きている中、なかなか治療が広がっていかない現実があるようですね。
医療を考えてみると、本来は自分から病気であると認識し、自ら進んで病院に来る。医師も患者の言うことを信じた上で治療します。
ところが依存症はそうではない。自分から、「私はアルコール依存症です」、「性依存症です」という人はまずいない。周りが困ったり、あるいは警察に捕まったりして、治療を受けに来る。彼らは病気であるという意識がないのです。それに、酒が飲みたいのに医師は酒を飲ませてくれない。だから、命よりも大切な酒を取り上げた憎らしい存在と医師について思う。しかも、依存症の人は医師の言うことを絶対に聞かない。だから、普通の精神科の医師はなかなか対応したがらない。
―普及という課題を解決する方策はどのように考えますか。
SAGのグループができて、3年がたちましたが、まだ性依存症を治療するための受け皿はほとんどないのが現状です。来る5月9日に「日本『性とこころ』関連問題学会」を立ち上げますが、私たちの取り組みなどの周知を進めたいという狙いがあったからです。
そもそも治療自体についても、従来のアディクションモデルで対応できる部分もあるのですが、やはりどうしても解明できていない部分が存在して、これはどうすればいいのかということで、まだ答えが出ていないんですよね。学会の中でも「性犯罪者は更生できるのか」という根本的な議論をしたいと考えています。
結局、性依存症、性同一性障害、結婚活動の話もすべて性とこころということをフィールドに、そこから派生している問題です。これを学術的に、エビデンスをしっかりと積み重ねた議論をできる場所が日本にあるのかというとありません。それでうちの特徴としてなかったら作ろうと(笑)。
精神障害者の退院支援策など策定へ
【関連記事】
「日本『性とこころ』関連問題学会」
動きだす「性依存症」への取り組み
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―性の多様化が叫ばれていますが、同時にさまざまな問題が浮かび上がってきていると指摘する声があります。
昔は姦通罪で女性が厳しく取り締まられていましたが、戦後、男女交際が自由になりました。いわゆる性の規制緩和、自由になってきたんですね。これが性の多様化に結びついたということです。
性の問題というのは、社会が作り出す病気だと僕は思います。そして、何も今更始まったことではない。
男の性意識、性欲は基本的にずっと変わっていない。ただ、それを社会的に規制しようとすると、いろいろな問題が出てくるのではないかと考えています。
―インターネットの発達などによる急速な情報化社会への転換の影響を危惧する声もあります。
これは統計を取っていないので断言はできません。ネット上では、倒錯的なサイトはたくさんあります。盗撮系や小児性愛、死体性愛など異常性愛を専門にしているサイトというのは、本人が持っている病理を深めることになるのかなと個人的には思います。
情報を選択する力がある時に見るのと、まだその力がないような幼い時に見るのとでは、違うと思います。女性と交際した経験があって、女性の裸に対してある程度免疫がある人が見る場合は、倒錯的なものを見たとしても情報を選択できますよね。これは有害だ、これは有害でないと。それが子どものように情報の選択力が全くない場合、そういうものなのだと思ってしまいます。
携帯電話はもっと規制しにくいですよね。
―榎本クリニックは性依存症者に対する治療的な試みとして、SAGを開催するなど、全国でもまれな取り組みを進めています。
誤解しないでほしいのですが、性犯罪者イコール性依存症ではありません。反復性があって、衝動的、強迫的、貪欲的であるという依存症の定義を満たしている必要があります。例えば、強姦や痴漢が一回だけで終わっている人もいる。性依存症というのは病気なので、一回で終わっている人はそうではないと判断していますが、一回でも行動化してしまうことが「病気」に相当するのか、これは難しいところです。
今までの性犯罪の処遇の歴史というのは、犯人が性依存症であっても、厳罰を追求するだけで、治療は一切行われませんでした。
ただ、2004年に起きた奈良県の少女誘拐殺人事件がきっかけで、変化が起きました。この犯人は、過去に児童に対する性的犯罪の前科があり、何回か繰り返しているということが分かりました。ここで、初めて厳罰化だけでなく、更生するには治療が必要だという視点が加わったのです。
また、海外では性犯罪者に対する司法と連携したプログラムがあり、実際に成果を上げています。
わたしたちは、治療を「依存症」という枠組みでやっていますが、依存症かどうかというのは断言できない側面を持っています。ただ、繰り返しているし、衝動性が高いし、強迫的で、貪欲的であるという「依存症」の条件を満たしている。では、それを実証するような研究があるかというとほとんどない。
ただ、多くの人に理解されて、支持されないとこの取り組みの普及はできません。その中で、一番分かりやすい枠組みというのは、依存症でした。
ですから、これは政治的な戦略です。やはり、多くの人に支持されて初めてこの取り組みは実を結んでいくと考えています。結局、一般市民の人に理解されずに、いくら治療を進めていたとしても、ただ、性犯罪者を囲って何か教えているだけだと思われる。そこに理論的な枠組みがあって、かつ多くの人に理解されたものでないと取り組みが広がっていかないのです。
これまで医療の中で培って来た依存症の治療、すなわちアディクションモデルというのは、歴史が長い。こうして使ってきた依存症の治療の枠組みを上手に当てはめながら、いわゆる性的な逸脱行動を繰り返す人々の治療に一番合う形はどういうものがあるか、加工しながらやっているというのが今の段階です。
―性依存症は他の依存症と違い、性犯罪につながりやすく、結果として被害者が出てしまうという問題がありませんか。
その通りです。性犯罪が起きると世間の目は被害者側につくわけです。「なんというひどい犯人だ、あいつはどうにかしないといけない、もう閉じ込めておけ」という声の中で、加害者(が性依存症であった場合)の治療プログラムを行うにしても、「あいつは治るわけない」と思われるわけです。では、そういうプログラムをやっているところは、もしかしたら加害行為に加担しているのではないかと思う人もいるわけですよ。
ここで、使えるのがアディクションモデルです。被害者が加害者を理解するのは無理ですが、回復のための治療を受けていく過程の中で、加害者について考えるときが必ず出てきます。その時に、あれは性依存症という病気なのだという理解の仕方ができることで自分の問題を整理するときに有効であると感じます。
ただ、病気という枠組みをつくることで、加害者の中には開き直る人が出てくる。俺は病気だ、俺は悪くない、病気だから仕方ないじゃないかと。つまり、病気であるということには、メリット・デメリットがあり、あまりにも病理化してしまうと、本人が背負う責任を免じさせてしまう機能を持っている。この辺りが非常にデリケートなところです。
―性依存症の治療は、逸脱した性行動を正常に戻すということなのでしょうか。
そういう考えではありません。例えば、アルコール依存症の人は酒を飲みたいという気持ちは一生続くといいます。
性依存症も、例えば露出したいといった願望が頭に浮かぶことは止めようがない。ただ、それをどうコントロールするかという方法を教えることしかないと考えています。気持ちそのものは我々にはどうすることもできない。それが統合失調症などの治療と違うところです。統合失調症の幻覚や妄想は、薬を出せば抑えられる。私たちは、性依存症の患者が、SAGに通うことによって社会問題化させないことを目指しているわけです。
―こうしたさまざまな問題が起きている中、なかなか治療が広がっていかない現実があるようですね。
医療を考えてみると、本来は自分から病気であると認識し、自ら進んで病院に来る。医師も患者の言うことを信じた上で治療します。
ところが依存症はそうではない。自分から、「私はアルコール依存症です」、「性依存症です」という人はまずいない。周りが困ったり、あるいは警察に捕まったりして、治療を受けに来る。彼らは病気であるという意識がないのです。それに、酒が飲みたいのに医師は酒を飲ませてくれない。だから、命よりも大切な酒を取り上げた憎らしい存在と医師について思う。しかも、依存症の人は医師の言うことを絶対に聞かない。だから、普通の精神科の医師はなかなか対応したがらない。
―普及という課題を解決する方策はどのように考えますか。
SAGのグループができて、3年がたちましたが、まだ性依存症を治療するための受け皿はほとんどないのが現状です。来る5月9日に「日本『性とこころ』関連問題学会」を立ち上げますが、私たちの取り組みなどの周知を進めたいという狙いがあったからです。
そもそも治療自体についても、従来のアディクションモデルで対応できる部分もあるのですが、やはりどうしても解明できていない部分が存在して、これはどうすればいいのかということで、まだ答えが出ていないんですよね。学会の中でも「性犯罪者は更生できるのか」という根本的な議論をしたいと考えています。
結局、性依存症、性同一性障害、結婚活動の話もすべて性とこころということをフィールドに、そこから派生している問題です。これを学術的に、エビデンスをしっかりと積み重ねた議論をできる場所が日本にあるのかというとありません。それでうちの特徴としてなかったら作ろうと(笑)。
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