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社説

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国会論戦―党首討論に注目したい

 大型連休が明け、09年度補正予算案をめぐる与野党の論戦が本格化した。

 連休前の朝日新聞の世論調査では、57%の人が麻生内閣を「支持しない」といい、61%が小沢氏は「代表を辞める方がよい」と答えた。国民の6割が2大政党の党首にそろってNOを突きつける異様な状況だ。

 衆院予算委員会の初日、民主党は菅直人、前原誠司の両元代表を質問に立て、税金の無駄遣いや医療の立て直しなどで論戦を挑んだが、麻生首相を追い詰めるような迫力はなかった。

 小沢代表の公設秘書が違法献金事件で逮捕、起訴されてからの、民主党の失速を象徴するかのようだ。

 事件を質問でとりあげた菅氏は、次のように述べた。

 「西松建設の献金をめぐって、与党関係者への捜査があるのか、小沢代表への捜査が終わったのか、はっきりしない。国民の政権選択があと4カ月に迫った段階で、こんな中途半端な状態をいつまで続けるのか」

 森法相は明確な答弁を避けたが、小沢氏秘書の問題がのど元に刺さったトゲのようになってしまった民主党のいらだちを映し出している。

 一方の麻生首相は、一時は10%台前半まで落ちた内閣支持率が上向きだした。補正予算が成立すれば、有利な時期を選んで解散・総選挙に打って出る構えをちらつかせている。

 連休中に中国と欧州への訪問をこなし、週明けにはロシアのプーチン首相を東京に迎える。外交面でも実績を積み上げて見せたいということだろう。

 しかし、かつて燃え上がった自民党内の麻生おろしは収まったとはいえ、麻生首相で本当に総選挙に勝てるのかどうか、疑念が消えたわけではない。あくまで「敵失」に助けられていることが大きいのだろう。

 このまま選挙を迎えれば、一票をどう使ったものやら、かなりの国民が考えあぐねることにならざるを得ない。

 すっきりしない政治状況のなかで、民主党が来週13日に党首討論を開きたいと自民党に提案した。党首討論にはあまり熱心ではない小沢氏がなぜ重い腰をあげたのか、真意はよくわからないが、注目すべき場となろう。

 小沢氏は事件について、また事件に対する自らの姿勢について明確に説明すべきだが、それだけではない。例えば民主党政権ならこの経済危機にどう立ち向かうのかを明らかにしてもらいたい。今の民主党には、そんな基本的な発信が決定的に欠けているからだ。

 きのうの審議では、民主党が掲げる対案の財源を問う声が閣僚らから相次いだ。菅氏らは論戦を避けるつもりはないと反論したが、守勢は明らかだ。この閉塞(へいそく)状況を打ち破る一つのステップとして、党首討論はなかなかの舞台になるのではないか。

銀行・証券再編―顧客の役に立ってこそ

 メガバンクが大手証券を傘下に抱える。そうした銀行・証券の垣根を越えた業界再編が続き、日本の金融地図が大きく変わりつつある。

 メガバンク・グループのうち三井住友は、日興系の2証券を統合したうえで10月に買収する。すでに提携している大和証券グループを交えた再々編もにらむ。みずほはきのう、傘下の新光証券とみずほ証券を合併させた。

 三菱UFJは、米金融大手モルガン・スタンレーの日本法人と系列の三菱UFJ証券とを来春に統合する。いずれも大手証券の一角になる。

 相次ぐ再編は、以前から準備してきたみずほを除くと、世界的な金融危機の副産物だ。米国の親会社の経営悪化で日本の子会社が売りに出されたことなどがきっかけになった。

 米国では、利益の急拡大をねらった大手証券はバブルに沈み、証券業務を統合して巨大化した銀行もリスク管理に失敗し、窮地に立っている。

 そんな流れを周回遅れで追うように、日本ではメガバンク中心の総合金融化が進む。折しも6月には、銀行と証券など金融業界内の垣根を低くする規制緩和が実施される。総合金融の世界的モデルが消えたいま、どんな姿をめざすのだろうか。

 各行は「金融のデパート」になるとの目標を掲げている。確かに利用者にとって、ひとつの窓口で受けられる金融サービスが増えるのは便利だ。

 しかし、銀行と証券の機能をうまく使い分けられないと、顧客には不都合も起きる。銀行が融資を回収するために、証券会社を使って借り手企業に債券を出させるような事態だ。経営陣はこうした弊害を避ける態勢づくりに細心の注意を払わねばならない。

 金融バブルのあとだけに、野放図なビジネスに走る危険は当面は少ないだろう。むしろ心配なのは、形式主義で堅苦しいメガバンクの企業風土が幅をきかせ、魅力的で多様なサービスを生み出す活力が銀行・証券業界に衰えるのではないか、ということだ。

 銀行合併を重ねてメガバンクの寡占体制ができるにつれ、日本の金融は中身や動きがどこも似たり寄ったりになってきた。風土が異なる証券業界の主要部分までこうした体質に染まるのは好ましいことではない。

 金融庁も、巨大総合金融グループの時代にふさわしい監督の仕方を整える必要がある。バブルを防ぎ、経営を健全に保つことが最も大切だ。ただし、細かなことにまで口を出して経営の自主性を制約し、お役所のような金融機関をつくることになっても困る。その点に意を用いてもらいたい。

 銀行と証券。相異なるビジネス文化の出合いと融合によって、経済社会を支えもり立てていく。こうした実り豊かな複合体をめざしてほしい。

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