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更新:5月7日 10:30インターネット:最新ニュース

本当に中国が悪い? IT製品情報の強制開示に先進国がNO

 中国のITセキュリティー製品強制認証制度が、日本をはじめ先進諸国で物議を醸している。先に訪中した麻生太郎首相も導入撤回を求めた。各国の反発は、ソフトウエアのソースコードなど知的財産が侵害されるとの懸念にある。しかし、一連の対応は行き過ぎた中国バッシングになっていないか。(肖宇生)

■「たら」「れば」が多い日米欧の報道

 中国政府は当初、ITセキュリティー製品の強制認証制度を今年5月に導入しようとしていた。これに対し、先進各国のメディアは、ソースコードの強制開示が製品の知財侵害につながるなどの理由で大きく取り上げ、中国政府の政策的意図や関連業界の危惧の声などを報じてきた。

 しかし、どのメディアを見ても、制度の詳細をきちんと伝えて問題を論じた記事はなかった。「国際標準に合わない」「相互認証が認められていない」など、議論の前提や根拠の在り処が明示されないまま、論調が一人歩きしているような気がしてならない。

 そもそも各国の報道があった時点ではまだ、中国政府は同制度の細則を発表していない。にもかかわらず既成事実のように中国政府を悪役に決め付けるような報道姿勢には、疑問を感じずにいられない。メディアがそれぞれのルートで調査を行い、事実関係に基づいて筋の通った分析や報道をするのであれば何ら問題ないが、この件については各メディアが横並びで世論を煽ろうとしているようにしかみえない。「たら」「れば」が充満している報道が何の解決にも繋がらないことはいうまでもない。ましてや世論を誤って誘導しお互いの国益を損うとなればなおさらだ。

■目新しくない中国の製品認証制度

 今回のITセキュリティー製品強制認証は、突然湧き上がったものではない。元々1984年に、電気・電器製品を対象にした認証制度として始まり、複数の部門が「CCIB認証」や「長城CCEE認証」として運用してきた。それを2001年のWTO加盟を機に統一し、より規範化した認証規格として策定したのが「CCC(China Compulsory Certification)」認証制度である。

 発効は2003年5月1日で、最初の対象製品は19分野の132品目に上った。今回は13品目のITセキュリティー製品を認証リストに追加しようとしたわけだが、あくまで中国市場に流通する工業用品の安全性を規定する工業規格であり、国際的にも決して目新しいものではない。

 ただ、今までのような電気・電器製品ではなく、ソフト製品を対象にしたことで先進各国ににわかに波紋が広がったことは理解できる。時代の流れからいうと当然のことであり、中国政府としてもできるだけ混乱を避けながら導入を進めていくと思われる。今回公表された2010年5月への導入延期や、対象を政府購買製品に限定するとの決定も軸がぶれているとはいえ、そのためだ。

 中国政府は4月27日、指定の認証機関や認証手続きの詳細を発表した。海外にはそうは映らなかったかもしれないが、中国政府はルールに則って政策を進めているつもりだろう。もちろん、中国政府は説明責任を果たす義務があり、制度をスムーズに運営していくうえでそれが不可欠なことであると認識する必要がある。

■ソースコード開示は杞憂?

 さて、その4月27日に発表された13品目のITセキュリティー製品認証の細則である。適用範囲や認証形式、申請プロセス、テスト項目などを細かく規定するもので、中国国家認証認可監督委員会のホームページに掲載されている。

 海外関係者の関心が集まる提出ドキュメントは、大きく申請企業の概要説明と製品説明の2つに分かれている。肝心な製品関連ドキュメントは製品の安全性について、配置・管理、納品・運営、開発、ユーザーマニュアル、製品ライフサイクルにおけるサポート、テスト、脆弱性評価の7つの側面から説明書類の提出を義務づけている。

 筆者も十分に精査したわけではないが、文面を見る限り、懸念されているソフト製品のソースコードの開示などに直接に繋がるような記述はないように見える。実際の運用がどうなるかはまだ分からないが、少なくとも今のところ先進国側の心配は杞憂に終わりそうな流れだ。

■外圧でなくパートナーとして議論を

 今回の件で中国国内は、日米欧など先進各国の騒ぎをさほど気にすることもなく、海外メディアの報道を引用するくらいで淡々と受け入れている様子だった。

 海外メディアの論点は主に、ソースコードの強制開示への懸念と国際慣例である相互認証の受け入れの2点にあった。しかし、前述のようにソースコードの強制開示への懸念はあくまでも一方的な憶測であり、それを裏付ける事実関係はない。相互認証の受け入れも相手のある話であり、中国だけを責めてもロジックが通らない。そもそも、ここでいう国際慣例は、日米欧間で決まってしまう場合がほとんどであり、中国との間でそうした協定が結ばれていないのはなにも中国側の意向だからではない。

 この2つの論点の背後には、いずれも中国を途上国として見下す心理が見え隠れしている。今の世界秩序は日米欧だけで決まらないのは明らかだ。国際慣例を盾に一方的な態度で中国を諭しても効果がないのは目に見えている。特に産業規格や認証制度など市場の「上流設計」に関しては、中国政府も国家戦略として簡単に妥協しないだろう。こういったプロセスに中国をうまく引き込んでいくことが、今後の世界産業や経済秩序の形成には不可欠である。外圧によるのではなく、パートナーとして対等に議論を重ねていくことが問題解決の近道になるのは間違いないだろう。

[2009年5月7日]

-筆者紹介-

肖 宇生(しょう うせい)

日本総合研究所 総合研究部門 主任研究員

略歴

 1991年中国の大学を中退、来日。92年大阪大学経済学部に入学、96年卒業後に金融機関を経て99年一橋大学大学院経済学研究科に入学、修士号を取得。2001年大手電機メーカーで中国向けの携帯ビジネスに携わる。2003年に野村総合研究所に入社し、中国に進出する日系企業を対象にしたコンサルティング業務に従事。日興アントファクトリーに移り、海外市場向けのベンチャーキャピタル投資に携わった後、2009年に日本総合研究所に入社、中国市場における経営コンサルティングサービスを担当。

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