新型インフルエンザ WHO・チャン事務局長「現代のロビン・フッドになりたい」
いまだに収束の気配が見えない新型インフルエンザは、北アメリカ以外にも広がり、フェーズ6への引き上げの条件がそろいつつある中、ウイルスとの闘いはどのようなステップに進むのか、WHO(世界保健機関)の判断を世界中が見守っている。
4月29日、WHOのマーガレット・チャン事務局長は「わたしは、新型インフルエンザの警戒水準をフェーズ4からフェーズ5への引き上げを決断しました」と語った。
それは、緊急委員会の諮問を経ずに決められたチャン事務局長による決断だった。
WHO緊急委員会の田代真人委員は「マーガレット・チャンが記者会見をする直前というか、その前にわれわれエマージェンシー・コミュニティー(緊急委員会)のメンバーにメールが回ってきて、こういう状況で(フェーズ5に)上げることにしたから」と話した。
16人の緊急委員会に対し、事後承諾という形で決断したチャン事務局長の強い意志は、これまでの経験に裏打ちされていた。
マーガレット・チャン氏のWHO事務局長就任は、香港衛生署の署長時代、鳥インフルエンザとSARS(重症急性呼吸器症候群)という2度の難局を乗り切った手腕を買われたもの。
2003年、当時のチャン香港衛生署長は「わたしたちには、香港市民を守る義務がある」と語っていた。
2007年、WHO事務局長に就任したチャン氏が一躍注目を集めたのが、1997年の鳥インフルエンザだった。
当時、香港衛生署長として陣頭指揮を執ったチャン氏は、中国本土からのニワトリの輸入を禁止し、ニワトリ150万羽の処分を決断、集団感染を封印した。
さらに、2003年のSARS大流行の際にも、対策の先頭に立ち手腕を振るった。
チャン事務局長と親しい香港の医師、WHO香港支部所属のセト・ウィン・ホン医師は「わたしたちの何人かは、彼女のことを『大姉』、ビッグシスターと呼んでいます。彼女は、非常に信頼できるリーダーです」と話した。
欧米メディアが「ウイルスをねじ伏せるときの彼女は冷徹だ」と評しているチャン事務局長は、同時に政治家的な一面も持ち合わせているという。
WHO西太平洋地域事務局の尾身 茂元局長は「いざとなったら、イギリスのサッチャーさんにも負けないぐらい、いざとなったらしっかり信じたことをやるという」と語った。
SARS発生を受け、WHOとして決めた香港への渡航延期勧告を伝えた尾身氏に対し、香港衛生署長だったチャン氏は、食い下がったという。
尾身 茂元局長は「正確なデータを出すから、1日待ってくれということで、われわれは待ったが、しかし実態は変わらなかったので、WHOの歴史で初めての渡航延期勧告を出した」と語った。
チャン氏は、SARSでは、情報を機密扱いする中国当局の壁を破れず、初動が遅れたと批判された。
しかし、チャン事務局長は、伝説の義賊になぞらえ、地元新聞の取材に「現代のロビン・フッドになりたい」と語った。
これは、弱者である貧困国に救いの手を差し伸べる姿勢を強く示したもの。
さらにこのとき、途上国にタミフルを供給するよう製薬会社に強く求めているとも語っている。
先が見えない新型インフルエンザとの戦いで、チャン事務局長はロビンフッドになれるのか。
尾身 茂元局長は「(フェーズ)6になることも、ヨーロッパ例えばスペイン何かのこれからの動向によっては、経済的なあるいは社会的な影響っていうのは当然あるので、難しい判断になることは間違いない」と話した。
「ウイルスをねじ伏せる冷徹な指揮官」の次なる決断は、いつどんな形で下されるのか、注目される。
(05/08 00:20)