くじで選ばれた二十歳以上の国民が刑事裁判に参加し、有罪・無罪や量刑を判断する裁判員制度がいよいよスタートする。二十一日以降に起訴される対象事件から適用される。
専門家任せだった刑事裁判に一般国民が参加することで、市民感覚や社会常識をより反映させるための制度だ。日本の司法制度の大改革といえる。
選挙人名簿から無作為抽出されたリストを基に裁判員候補者名簿を作成。地裁が対象事件ごとに五十―百人をくじで選び、裁判長による質問などを経て最終的に裁判員六人(原則)と欠員に備えた補充裁判員が選任される。プロの裁判官とともに審理に当たる。
だが、多くの人は、いまだに不安がぬぐい切れないといったところだろう。最高検が四月に公表した調査結果でも参加積極派は三人に一人だった。
少なくとも数日間拘束される負担は小さくない。企業などの理解が重要になろう。
人を裁くこと自体への不安も大きい。司法は分かりやすさや迅速化へ、事前に争点を絞る公判前整理手続きを導入し、難解な法律用語の言い換えなども進めてきた。司法には、引き続き裁判員に選ばれる側の立場に立った配慮が求められる。
実際の裁判を通じてクローズアップされた課題もある。毒物カレー事件の最高裁判決では状況証拠による立証、不明のままの動機、審理に時間を要した点などの論点が浮かんだ。自白に頼らない捜査が求められる中、状況証拠による立証は今後も増えると予想される。裁判員は難しい判断を迫られよう。
同事件の公判は一審で九十五回を数えた。裁判員裁判の多くは三日程度といわれるが、迅速化の結果真実解明がおろそかになってはいけない。昨年暮れ、女児殺害事件の広島高裁判決は犯行場所をめぐり一審の迅速審理を批判した形になった。
さらに、控訴審に関する問題もある。高裁は裁判官だけで原判決の是非を審理する。裁判員が加わった上での判決を、高裁が覆すことが想定できる。
これらはいずれも一朝一夕に答えは出ない。裁判員法には必要があれば三年後に制度を見直す規定がある。法務省は法律関係者以外も加えた見直し検討機関設置の方針を示している。運用状況を見ながら柔軟に改善していく姿勢が肝要だろう。
課題も不安もあるが、裁判員制度は人々の社会への参加意識そのものを高めるだろう。実施へ、前向きに臨みたい。
三井住友フィナンシャルグループが、米シティグループの保有する日興コーディアル証券と日興シティグループ証券の一部業務を買収することになった。大手銀が三大証券の一角を傘下に収める初の再編である。
日興コーディアルは個人向けの営業力で定評がある。業績は堅調ながら、シティが今回の金融危機で経営悪化し、子会社化したばかりの日興グループを手放すことになった。
三井住友は国内二位の大和証券グループ本社と合弁で大和証券SMBCを持ち、法人向け証券業務を行っている。だが、個人向けは中堅のSMBSフレンド証券しかなく、個人向け証券業務の強化が課題だった。
三井住友は日興コーディアルと日興シティグループ証券の一部業務を引き継ぐ新・日興証券を設立、十月一日付で傘下に収める。引き続き「日興」ブランドを使うという。
三井住友の奥正之頭取は、買収を機に大和との関係強化を進める考えを示した。国内トップの野村ホールディングスを追撃する構えだ。だが、大和側には銀行主導の再編に警戒感もあると言われる。今後の推移を見守らねばなるまい。
他のメガバンクも証券業務拡大に意欲的だ。「総合金融サービス」を旗印とし、銀行系証券が勢力を拡大しつつある。しかし、幅広い業務を傘下に置く欧米流のユニバーサルバンクはリスク管理の失敗などで大きくつまずいた。シティ自体がその実例といえる。
業務や規模の拡大だけでは道は開けない。奥頭取は買収発表で「新しい銀行・証券融合のビジネスモデルを示したい」と述べた。個人金融資産獲得競争の中で、顧客の利益を高める金融サービスを本当に提示できるかが問われている。
(2009年5月6日掲載)