−−嫁ぐ日を待つ淑女たち−−
進化するダッチワイフ事情(4)
人間の欲求とどまらず…
ダッチワイフを生み出す子宮とも言うべき工房は下町の住宅地の真ん中にひっそりとあった。
シンナーの臭いが立ち込める室内ではマスクに白い作業服のスタッフが4人。
型流し、型抜き、組み立てから、目玉入れ、カツラ付け、メイクなど細部の作業まで、すべてがハンドメイドで行われていた。
頭部顔型は3Dソフトを使用して作られている。
「最新のメイクや髪形を常に参考にしてるんです」
若いスタッフの手で、現代的な新しい頭部型が作られていく。もはや最終形と思われるダッチワイフだが、今後も改良は続けていくという。
「人の欲求は様々ですからね。こちらが考えている以上のことを望まれることもあります。アナルもできるようにとか、声が出るように、と言われることもありますし……」(『オリエント工業』代表の土屋日出夫氏)。
技術的に人形が声を出すようにすることに問題はないが、その虚無感を考えると導入には踏み切れない。
「どこまでやっていいものなのか……難しいところなんです」(同・土屋氏)
皮膚感覚の問題、可動関節の限界など、より精巧な人形にするために改良するべき点はある。
工房には実験段階の精密な女体パーツが数多く並んでいた。その感触たるや、生身の人間を凌駕するリアリティがある。
このままダッチワイフが進化すれば、より精巧なロボット、アンドロイドに近づいていくのだろう。
アニメキャラとの擬似性交も
「この2月からなんですが、こういうアニメタイプフィギアも手掛けてみようと思いまして」
土屋氏から手渡された真新しいパンフレットにはアニメのヒロイン風美女が2人写っていた。
ビジュアル系の《エルミナ》とポピュラータイプの《メグ》。どちらも、サイズはT140、B68・W51・H76、体重は約8キロ。価格は両名とも14万8000円。
いわゆる1/1等身大スケールのフィギアだ。もちろん、アニメファンのインテリアとしても使用はできる。が、同社開発の『プライベートホール』の装着もでき、実際の相手としての使用も可能になっている。
つまり、実在しない空想上のヒロイン、二次元世界との性交になるわけだ。
以前取材した某声優に、アニメマニアの青年がアニメの主人公との行為を想像して自慰にふけるという話を聞いたことがあった。
女性声優のファンになるのもアニメのキャラクターを好きになることのほうが最初だと聞いた。
つまり、生身の女性より絵に描かれたヒロインに女性としての魅力、性欲を感じるそうだ。
「これも、お客さんの意見を取り入れた結果なんです。まだ、反応を待っている状態です。恐らくこのコたちに関してもお客さんからのアドバイスはたくさん寄せられると思いますから」
さまざまな事情から、人形に愛情を注ぐ理由は理解できたつもりだった。
だが、アニメドールに関しては、正直言えば日本の性はここまでキテいたのか、という驚きも感じた。と同時に《エルミナ》と《メグ》のふたりは大ヒット花嫁になる予感もした。
日本において男が弱くなったと言われて久しい。反対に女性はますます強くなり自立していると言われる。
コミュニケーションをとらなければならない、生身の女性との接触を避ける(面倒に思う)男性は確実に増えてきているようだ。
もし、この世にSF小説に出てくるような意志の疎通さえ取れる人造人間的なダッチワイフが存在したら……。恋人も妻もいらない、という男性は意外なほど多いのではないだろうか。
上野駅への帰り道、道端に座り込みながらファーストフードにかぶりつく目元と唇を白く塗った女子高校生の集団に遭遇した。
これなら人形のほうがイイと思う男たちが大勢いてもおかしくないな、と思った。
この項おわり
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