−−嫁ぐ日を待つ淑女たち−−
進化するダッチワイフ事情(2)

購入者の深刻な事情

 取材中も、特殊ボディー専門メーカー『オリエント工業』の電話はひっきりなしに鳴る。

 「問い合わせは毎月300件以上あります。で、月に50人は嫁いでいきますね。でも、決して率のイイ商売じゃないんですよ」(同社代表・土屋日出夫氏)

 膨大な開発費や素材の経費を考えると一体20万円以上の価格もギリギリのライン。現在、月に製造できるのも40〜50体が限界だ。いわゆるアダルトグッズであれば、バイブレーターなどの商品のほうが開発、材料費も安く、さらに壊れやすく販売個数も出る。

 「購買層ですか…、いろんな方が購入されていきますね。年齢層でいえば40代から80代が中心でしょうか。でも、なぜ利用するのかは聞けませんね。唯一、事情がわかるのはお客さんからの手紙なんです」

 事務所には手紙の束が置かれていた。そのいくつかを見せてもらったが、いずれも細かく丁寧な文字で感謝や感想、そして改良してほしい点を書き込んである。

 最も印象に残った手紙は、女性らしい美しい文字でつづられていた。それは、障害者の息子を持つ母親からの感謝の手紙だった。

 息子の年齢が上がり、肉体的に成長すると性処理は深刻な悩みとなった。それまでは母親の手で処理していたが、息子の性的欲求は強くなるばかり。すがるような思いでダッチワイフを購入し、その悩みが解消されたという内容。

 手紙の最後には、“地獄を見ずにすみました”と書かれていた。少し複雑な思いに駆られていると、土屋氏はそっと言う。

 「こういう場合が実は一番多いのかもしれません。だから、ある意味で仕事をやめられないんですよ」

 ちなみに、同社では社会貢献の一環として心や身体にハンディキャップを持つ人たちを対象に、購入代金の割引制度も導入している。

ガングロは×、色白は◎

 「あとは高齢者の方が愛用されていることも多いですね。今は皆さん元気なんですよ。70代でも80代でも現役なんです。先日も77歳の方が奥様公認で3体ほど購入されました。もう、奥様は性交渉に応じるのがイヤなんだそうです。下手に風俗で遊ばれるよりは人形のほうがイイ、ということですかね」

 巷には性風俗産業があふれているが、高齢者ほど昔の感覚でたとえ遊びでも女性に情を求めるようだ。

 イマドキの風俗ギャルには人形よりも情がない、と感じることも多いのだろう。

 「それと感じるのは、人形っていうのは使う人の情が移るものなんですね。うちがアフターケアとしてやっているのは人形の引き取りです。何年も使用した愛着のある人形を捨てることはできないんです。“自分では忍びなくて捨てられない”と言われる。戻ってくる娘たちはどれも驚くほどきれいな状態です」

 不思議なのだが、最初はあまりの精巧さに、ある種の戸惑いを感じていた人形も、長く見つめていると違和感が全くなくなる。もし、この人形と生活をしていたら愛着がわくという心理は十分理解できる。

 「人形の顔立ちは絶世の美女というより親しみやすい美人にしています。昔のモデルに比べると少しずつ現代的な顔立ちにしているんです。これも、お客さんの意見を十分に聞き入れた結果なんです」

 人形の顔は専門の造形師がシリーズごとに刷新して作っている。

 たしかに現在リリースされている8人の女たちに共通しているのは、色白でおとなしそうな顔だち。イマドキのガン黒コギャル、ヤマンバは当然のことながらひとりもいない。

 「お客さんの要望は十人十色ですけど、そういう要望はいままで一度もありませんね。ああいう顔は嫌いなんでしょうねぇ、普通は」

 その通りだ、とうなずいた瞬間、色白の人形たちも少しだけうなずいたような気がした。



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