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《書 誌》
情報提供 TKC
【文献番号】 25400319
【文献種別】 判決/大阪高等裁判所(控訴審)
【判決年月日】 平成20年 2月28日
【事件番号】 平成19年(ネ)第2106号
【事件名】 損害賠償請求控訴事件
【審級関係】 第一審 25400318
奈良地方裁判所 平成18年(ワ)第234号
平成19年 6月15日 判決
【TKC提供判決概要】
一審原告が、一審原告の妻であった一審被告Y1が一審原告との婚姻中に一審被告Y2と不貞関係を持ち、一審被告Y2の子を一審原告との嫡出子として届けさせ、不貞の事実を隠して離婚を争い、多額の婚姻費用、養育費を支払うとの調停を成立させるなどし、一審原告に多大の精神的苦痛を与えたとして、不法行為に基づく慰謝料等の支払いを求めるとともに、原告が支払った養育費等について不当利得の返還を求めた事案の控訴審で、一審被告らが、真実を知らなかったために配偶者としての責任を負う趣旨で一審被告Y1に交付した家賃を含む婚姻費用分担金は、たとえ審判に基づき支払われたものであるとしても、一審被告の一審原告に対する不当利得を構成するとして、一審被告Y1に対する不当利得返還請求について原判決を変更した事例。
【裁判結果】 原判決変更
【裁判官】 永井ユタカ 楠本新 鹿島久義
【全文容量】 約24Kバイト(A4印刷:約14枚)




 《全 文》

【文献番号】25400319  

損害賠償請求控訴事件
大阪高等裁判所平成19年(ネ)第2106号
平成20年2月28日第7民事部判決
(平成20年1月17日口頭弁論終結)

       判   決

平成19年(ワネ)第64号事件控訴人・平成19年(ワネ)第67号事件被控訴人 A(以下「一審原告」という。)
訴訟代理人弁護士 佐藤真理
平成19年(ワネ)第64号事件被控訴人 B(以下「一審被告B」という。)
訴訟代理人弁護士 本多重夫
平成19年(ワネ)第64号事件被控訴人・平成19年(ワネ)第67号事件控訴人 E(以下「一審被告E」という。)
訴訟代理人弁護士 橋本豪志


       主   文

1 一審原告の控訴に基づき,原判決主文第1項及び3項を次のとおり変更する。
(1)一審被告Bは,一審原告に対し,1332万1500円及びこれに対する平成18年4月19日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(2)一審原告の一審被告Bに対するその余の請求を棄却する。
2 一審原告の一審被告Eに対する控訴及び一審被告Eの控訴を棄却する。
3 一審原告と一審被告Bとの訴訟費用は,第1,2審を通じて,これを2分し,その1を一審原告の,その余を一審被告Bの負担とし,一審原告の一審被告Eに対する控訴についての控訴費用は,一審原告の負担とし,一審被告Eの控訴についての控訴費用は,一審被告Eの負担とする。
4 この判決は,第1項(1)について,仮に執行することができる。


       事実及び理由

第1 控訴の趣旨
1 平成19年(ワネ)第64号
(1)一審被告Bは,一審原告に対し,2665万1500円及びこれに対する平成18年4月19日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(2)一審被告Eは,一審原告に対し,550万円及びこれに対する平成18年4月14日(附帯請求起算日に関する一審原告の控訴理由書14頁の記載は誤記であって,上記の趣旨と解する。)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 平成19年(ワネ)第67号
(1)原判決中,一審被告Eの敗訴部分を取り消す。
(2)一審原告の一審被告Eに対する請求を棄却する。
第2 事案の概要等
1 事案の概要は,原判決の「第2 事案の概要」に記載のとおりであるからこれを引用する。ただし,次のとおり補正する。
(1)原判決5頁「イ」の不当利得に関する主張は,後記の当審で減縮した内容に読み替える。
(2)原判決6頁「ア」の2行目の「被告Bが」を「一審被告Bと婚姻前に男女関係を持って交際していたところ,同被告が」と改める。
2 原審が,一審原告の一審被告らに対する各請求の一部を認容し,その余を棄却したところ,一審原告及び一審被告Eが,それぞれ敗訴部分について控訴を申し立てた。
3 一審原告は,当審において,一審被告Bに対する原判決別紙費用一覧表記載の不当利得返還請求の金額1819万9369円のうち,次の部分を取り下げた(したがって,当審における上記の請求金額の合計は1425万1500円となった。)。
(1)上記費用一覧表(2)のうち,平成12年8月分から平成13年10月分まで15か月分の家賃143万2500円(したがって,当審における家賃に関する請求額は410万6500円である。)
(2)同費用一覧表(4)のうち,婚約指輪ダイヤ1C 130万円,交換指輪(結婚指輪)9万5000円,和服(着物代)112万0369円(以上合計251万5369円を差し引くと,当審における結納金関係に関する請求額は533万円である。)
第3 当裁判所の判断
1 当裁判所は,一審原告の一審被告らに対する慰謝料請求については,原審の認容した額が相当であって,これを超える部分は理由がないけれども,一審被告Bに対する不当利得返還請求については,原審がこれを棄却した部分のうちの一部は理由があり認容すべきであると判断する。
 その理由は,次の補正をして引用する原判決の「第4 争点に対する判断」の「1」ないし「3」に記載のとおりである。
(1)原判決11頁「(2)」の2行目の「被告Bと交際を始め,」を「一審被告Bと男女関係を持つなどして交際を始め,一審原告との縁談等について,」と改める。
(2)原判決11頁「(3)」の1行目の「被告E」から4行目までを「一審被告Bがその少し前に婚姻したことを知っていた一審被告Eと男女関係を持った。」と改める。
(3)原判決12頁「(7)」の末尾に続けて,改行の上,次のとおり加える。
「前記調停が不成立となった後,上記の審判がされたのをみて,一審原告は,平成13年12月17日,一審被告Bを被告とする離婚請求訴訟を奈良地方裁判所葛城支部に提起した(同支部平成13年(タ)第38号事件)。同事件において,平成14年4月10日,和解が成立した。その和解の内容は,一審原告と一審被告Bの夫婦は当分の間別居し,その間,一審原告がFと面接交渉を行うというものである(乙1,2)。」
(4)原判決13頁「ア」の2行目の「被告Eと」を「一審原告との縁談が進んでいる間に男女関係を持っていた一審被告Eと引続き」と改める。
(5)原判決13頁「ア」の10行目から同頁末尾までを次のとおり改める。
「一審被告Bが,上記各調停において,一審被告Eとの不貞関係に気付いてない一審原告に対して,上記関係及びFが一審被告Eの子である可能性について口を閉ざしていたことは,前記認定のとおりであるから,そのような一審被告Bが,上記各調停において,婚姻費用を一審原告に要求できる筋合いでないことはいうまでもないところである。そして,そのような事情は,一審原告の慰謝料の額についての考慮事情となる。
 しかし,これらの事情及び本件に顕れたその他一切の事情を考慮しても,慰謝料額が400万円を超えるものとは認められない。」
(6)原判決14頁「ア」の9行目から12行目までを削除する。
(7)原判決14頁「(ア)」の末行の「とおりである。」の次に「ただし,一審原告が本件で請求するのは,原判決別紙費用一覧表について前記請求の減縮をした787万1500円である。)」を加える。
(8)原判決15頁「(エ)」の4行目から末行までを,次のとおり改める。
「前記認定事実によると,〔1〕一審原告は,一審被告Bの夫としての責任を負う趣旨で,前記家賃を含む婚姻費用分担金を出捐したものであること,〔2〕しかし,一審原告は,一審被告Bが一審被告Eと不貞関係を続け,Fをもうけた事実を知っていれば,上記の出捐をするはずがないこと,〔3〕一審被告Bは,上記事実の当事者として真実を知り尽くしていたばかりか,〔4〕一審原告に上記事実を告知してしまえば,一審原告が上記出捐をしないことがわかっていたので,一審原告が気付いてないのをよいことに,上記事実について沈黙していたこと,がそれぞれ推認できる。
 これらの事情を総合すれば,一審原告が,真実を知らないために,配偶者としての責任を負う趣旨で一審被告Bに交付した金銭は,一審被告Bが一審原告に真実を告げさえすれば,交付されるはずがなかったものであり,上記〔1〕ないし〔4〕のような事情の下に支払われた金員は,たとえ審判に基づき支払われたものであるとしても,これを一審被告Bにおいて保持することを適法とするのは,著しく社会正義に反し,信義則に悖るものである。したがって,上記支払われた婚姻費用分担金及び前記家賃については,一審被告Bの一審原告に対する不当利得を構成するものと解するほかはない(なお,この理は,前記調停調書に基づき支払われた養育費についても同様である。)。
 したがって,一審被告Bは,当審で一審原告が請求する787万1500円を,一審原告に返還すべきである。」
(9)原判決16頁「(1)」の2行目の冒頭から3行目の「聞きながら,」までを「前記の認定事実によれば,一審被告Eは,一審被告Bから,一審原告との婚姻後間もないころに,婚姻したことを聞いていたのに,」と改める。
(10)原判決17頁10行目の「かかる主張」から同11行目までを「前記の認定事実によれば,一審被告Eは,一審原告に知られることなく,同原告と一審被告Bが婚姻したころから,同被告と長期間にわたる不貞関係を結んでいたものであり,同原告が上記関係に気付かないままで,上記婚姻は,平成17年2月21日に成立した調停離婚によって終了したものであり,一審原告は離婚後に上記不貞関係を知り,これを理由として慰謝料を請求しているものであって,離婚によって生じた慰謝料を請求するものではないところ,前記で認定した一審原告と一審被告Bとの婚姻関係の終了に至る経過及び婚姻期間が短期であったことに照らすと,一審原告が一審被告Bと別居を開始した時期や上記婚姻関係が破綻した時期などによって,慰謝料額が左右されることにはならない。」と改める。
2 以上によれば,本件各控訴のうち,不当利得返還請求に関する一審原告の請求は上記の限度で理由があり,その余は理由がないので,これと異なる原判決は変更を免れない。

 よって,主文のとおり判決する。
大阪高等裁判所第7民事部
裁判長裁判官 永井ユタカ 裁判官 楠本新 裁判官 鹿島久義

控訴理由書
2007年8月13日
大阪高等裁判所
第7民事部 御中
控訴人訴訟代理人
弁護士 佐藤真理

       記

第1 控訴理由
はじめに
 原判決は、婚姻直後から不貞行為を繰り返した被控訴人B(以下「B」という)とその相手である同僚の被控訴人E(以下「E」という)に対して、慰謝料の支払いを命じた点では正当であるが、各400万円(不真正連帯債務)の慰謝料額は余りに低額に過ぎる。

 家賃等の婚姻費用や結納金の返還請求を斥けたのは、従来の判例の枠からすれば考えられなくはない判断ではあるが、本件の特異性、きわだったBの悪質性、背信性を正確にとらえたものと言えるだろうか。貞操観念=婚姻関係の基本を形成する義務がともすれば稀薄になりがちな傾向にあるとも評される一部世論に迎合し、その風潮を容認、後押しする結果とならないのか、十分な吟味が必要であると思われる。
 控訴人の「人間の尊厳」を踏みにじり続けたBの慰謝料支払義務がEと同一の400万円に留まるというのでは、到底納得できるものではない。
1 原判決の3頁以下「1 前提事実」について
 原判決は、Bが認めている控訴人との婚姻前の1998年(平成10年)10月末か11月初め頃にEと肉体関係を持つに至り、結納の前後に2回にわたって肉体関係を持ったとの事実(B97~99、105~107)を否定しているが、明白な事実誤認である。

 けだし、B及びEの双方とも、自らの責任の軽減を意図して、相手方に責任転嫁をはかるような供述をしている部分があり、その部分については必ずしも信用できない。しかし、控訴人との婚約前後にEと肉体関係を持ったとの事実は、EよりもむしろBにとってより不利益な事実であり、Bが作り話をすることは考えられない。
 しかるに、Bの供述にもかかわらず、結納(1998年11月28日)前後、即ち同年8月22日の婚約成立の後にBとEが肉体関係を持った事実を原判決が認定しなかったのは、経験則に著しく違反するもので、事実誤認である。
2 Bの不法行為責任と慰謝料額について
(1)原判決は、Bの不法行為責任を認め、400万円の慰謝料の支払を命じたが、余りに低額過ぎる。
 原判決は、Bが控訴人と婚姻後まもなく、貞操義務に反して、Eと男女関係を持つに至ったこと、Eとの関係を、その後5年以上にわたって控訴人に秘したまま継続し、控訴人との別居中にEと一時同棲生活もしていたことを認定し、「これらの事実に鑑みれば、被告Bの前記不法行為により原告が被った精神的損害は、相当大きいと言わざるを得ない」と判示している。
 しかし、原判決は、慰謝料額の算定にあたって、〔1〕婚姻前からBは控訴人とEを両天秤に掛け、控訴人との婚姻に対する真摯な態度が欠如していたこと、〔2〕婚姻直後から控訴人に隠れてEと不貞行為を繰り返して「不義の子」を妊娠、出産しながら、平然とEとの不貞関係を5年間も続けたこと、〔3〕Bは控訴人とは入籍前の新婚旅行中から「全く性格が合わず、何かにつけてもめるようになった」(B7~10)と言いながら、控訴人からの離婚調停において、不貞の事実を隠し続けて、調停を引き延ばして金銭給付のつり上げをはかったこと、〔4〕不貞行為を繰り返して控訴人を裏切り続けてきたことについて、ただの一度も謝罪しようとしなかったこと、等の事情を十分に斟酌していない。

 以下、詳述する。
(2)Bは、交際の最初の段階から控訴人との婚姻に対する真摯な態度が欠如していた。

 Bは、控訴人と1998年(平成10年)6月に見合いをし、8月中旬に結婚の約束をし、8月22日には親、仲人を含めた7人の「顔合わせ」で正式に婚約し、11月28日に結納をかわした。
 ところが、Bは、他方で同年10月頃から会社の同僚であるEと交際を始め、同年10月末か11月初め頃肉体関係を持つに至った(B97~99、105~107)。Bは控訴人との結婚に迷いを感じていて(同100)、「Eさんの方がいいかなと思った」(同103)ことから、控訴人が結納を入れる少し前頃に2度にわたってEと肉体関係を持ったのである(同109)。
 Bは、妻帯者であるEと不倫関係を結ぶ一方、同時に見合い、婚約、結納と控訴人との婚姻に向けた手続きを進行させたのである。いわばEと控訴人とを「両天秤」にかけたわけであり、Bには最初から控訴人との婚姻に対する真摯な態度が欠如していたと言わざるを得ない。
(3)婚姻直後からの不貞行為
 何よりも重要なのは、Bが1999年(平成11年)6月初め頃に、Eと肉体関係を結んだことである(B16~25、126~135、E37)。6月初め頃といえば、結婚式(5月2日)から1か月後、婚姻届(5月25日)から10日も経過していない時期である。
 その後も、月に1回程度(B及びEが認めた頻度であって、回数はもっと多い可能性が濃厚である)肉体関係を持ち続けるという明白な背信行為をBは繰り返したのである。
 婚姻前に両天秤にかけて、少なくとも控訴人との婚約後に2度にわたってEと肉体関係を持ち、婚姻直後からその関係を復活させたという事実は、Bには、控訴人と実質的に夫婦共同生活をする意思が初めからなかったことを示している。
(4)不貞行為は5年以上もの長期に及んだ。
 Bは婚姻の翌月(1999年6月)初め以降、2004年9月ころまでEとの間で月1回程度の男女関係を継続した(B137~139、E39、46、丙1の5頁)。
 控訴人は、Bの不貞に全く気付かず、疑ってもいなかったのであるが(控訴人59~60、B30、160)、Bは控訴人を欺いてEとのダブル不倫の関係を実に5年以上もの長期にわたって続けていたのである。
 そればかりか、控訴人に気づかれていないことを奇貨として、控訴人が実家に戻って別居した後の2002年(平成14年)春にBは控訴人との住まいであった賃貸マンションにEを引き入れて堂々と2か月間も同棲していたのである(B145~146、E45)。
(5)不貞の事実を隠し続けて、金額のつり上げを図った。
 Bは、控訴人からの離婚調停の申し立てに対し、自らの非を認めて早期に円満に別れるどころか,不貞の事実をあくまで隠し続け、不倫関係を平然と継続しながら、「早く離婚したい」との控訴人の気持ちを逆手にとって、時間をかけて控訴人をじらして多額の金銭を引き出そうと画策した(B159~165)。即ち、離婚には応じずに多大の婚姻費用の分担を要求し続け、ようやく第1次離婚調停の申立(2000年8月8日)から4年6か月余の後の2005年(平成17年)2月21日、多額の養育費(Fが成人に達するまで、年間150万円、合計2270万円)の支払を控訴人から受けることを条件に、調停離婚に応じたのである(甲9)。
 この点について、原判決は、a「原告が被告Bの不貞を主張し、これを被告Bが否定した事実は証拠上認められない」、b「各調停の当時、被告BがFを原告との間の子でないと認識していた事実も証拠上認められない」として、Bが各調停において、不貞の事実を隠蔽して金銭給付のつり上げをはかったとの控訴人の主張は採用できないと判示した。 
 しかし、aは事実であるが、bは事実誤認である。Eが「平成11年7月に、Bに呼び出され、原告とはほとんど性交渉はないので、あなたの子供かもしれない、生みたいと妊娠の事実を告げられました。私は、子どもを産むことに断固反対しました」(E40)、「Bから妊娠の事実を告げられた際、私の子どもかもしれないという認識を持ちました」(同42)と供述していることからも、BはEとの間の子であることを気づいていたはずである。思い当たることがあるからこそ、2005年10月17日、控訴人が申し立てた親子関係不存在確認事件の第1回調停期日に出頭して、「私が不倫をしていたと疑われるのは心外である」などと主張しながら、すぐにEとともに私的なDNA鑑定を受けたのである。Bが当初からFはEとの間の子であること、少なくともその可能性が高いと認識していたことは間違いない。
 いずれにせよ(aの事実だけ、あるいはaの事実に加えてbの事実が認められたとしても)、Bが不貞の事実を隠蔽して金銭給付のつり上げをはかったとの控訴人の主張を斥ける根拠とはなりえない。
 けだし、Bは、婚姻前の段階から控訴人との結婚に疑問を抱き、新婚旅行の最中から全く性格が合わないと感じてもめ続けたというのであるから、控訴人との間で夫婦としての愛情をはぐくもうとの意思は全く看取できない。Bは、婚姻届は提出したものの、婚姻の前後を通じてEと不貞関係を続けるという背信行為を続けていたのであり、控訴人の「離婚したい」との申し出自体には異存がなかったはずである。にもかかわらず、背信行為を隠して時間稼ぎをおこなったのは、まさに金銭釣り上げ目的以外の何ものでもない。これだけの背信行為をしていることに疚しい気持ちがあるなら、そこそこの条件で速やかに離婚調停に応じるのが普通であり、控訴人の最初の調停申立から離婚成立まで4年と2か月余りも要することは考えられないのである。
(6)謝罪の表明もなかった。
 離婚の調停や裁判の過程ばかりか、FがEの子であることが判明(2005年10月)して以降も、Bは控訴人に対して謝罪したことがまったくない。手紙1本も出そうとしなかった。長期にわたるBの背信行為を知って、衝撃を受けた控訴人が、代理人を通じて、2005年12月27日到着の手紙で、謝罪文の交付、事実関係の書面による説明、婚姻に伴う控訴人の支出費用の返還及び慰謝料の支払を求めた(甲10)が、Bはこれを無視し、黙殺した。
 さらに控訴人が穏便な家事調停の手続きをとった(甲11)のに対しても、Bは誠意ある態度を示さず、わずか1回で調停は不成立となった(甲12)。
 本件訴訟に至っても、Bは8頁に及ぶ詳細な陳述書(乙3)を提出しながら、その中ではEの子と判明して「目の前が真っ暗になって自殺まで考えた」などとは書かれているが、ただの一言も控訴人への謝罪のことばを書いていない(B166~171)。
(7)以上の通り、Bは妻帯者のEと不倫し、控訴人との婚約後においても結婚式直前頃までこの関係を続けた疑いが濃厚であり、入籍直後から再び控訴人に隠れて不貞行為を続けていたことになる。そのあげくに「不義の子」を生み、何も知らない控訴人に嫡出子として届けさせたのである。
 Fの出生(2000年○月○日)後も、さらに4年半以上にわたって(BとEは2004年9月ころまで不倫関係が続いたことを認めているが、乙5等を見ると、Bが(株)Gを退職した2006年2月頃まで続いていた疑いがある)、平然と不倫関係を継続していたのである。
(8)このように、Bは結納前から離婚までの期間を通じて、控訴人を「大事な人」として思いやる態度は一切なく、一貫して無視ないし軽視し続けたのである。いわば「虚仮(こけ)にされ続けてきた」のであり、「ばかにするにも程がある」(控訴人72)との控訴人の無念さははかりしれない。
 控訴人のBに対する慰謝料額は1000万円が相当である。
3 家賃その他の婚姻費用の分担金
(1)Bには控訴人との婚姻意思が認められず、控訴人との婚姻は無効である。
 Bは、控訴人との見合い前後頃には妻帯者のEと交際を始め、婚約後においても、結納の直前頃に少なくとも2回の男女関係を持っていたことを認めているので、結婚式の直前まで男女関係が続いていた可能性が高い。
 さらに、婚姻後において、Eとの関係を清算するどころか、入籍直後から控訴人に隠れて不貞行為を続け、「不義の子」を妊娠、出産したのである。
 Bには、控訴人と実質的に夫婦共同生活をする意思は当初からなかったのである。したがって、婚姻意思がなく、婚姻は無効である(最判昭和44年10月31日判時577号67頁、最判1996年3月8日判時1571号71頁参照)。
 よって、控訴人には婚姻費用を分担する義務はない。Bは不当利得として民法703条、704条により別居開始翌月からの家賃を含む婚姻費用分担金930万4000円の全額の返還義務がある。
 しかるに、原判決は、「被告Bは原告と婚姻届を提出し、約1年2か月間同居し、その間、夫婦としての生活をしていたものであって、被告Bに原告と婚姻する意思がなかったと認めることはできない。よって、原告の主張は前提を欠き、採用できない」と判示する。ともかく、婚姻届を提出して、1年程度の期間同居していさえすれば、婚姻意思は認められるというのであろう。
 しかし、入籍直後から以前から交際していた妻帯者のEとダブル不倫を重ねながらの「同居期間」が「夫婦としての生活をしていた」と評価できるのであろうか。婚姻意思を外見的なもののみで判断する原判決の立論には疑問がある。
(2)仮に、婚姻意思が認められたとしても、客観的にみて夫婦共同体としての実体は成立していなかった。
 控訴人とBの同居期間は1999年5月から2000年7月までの僅か1年2か月である。2000年2月6日から3月中旬、3月20日から5月下旬まで、Bは実家に帰っていたので、実質的な同居期間は11か月程に過ぎない(甲14、控訴人40~49)。
 この間もBはEと不倫関係を続け、不貞行為を続けていた。同居期間の短いこと及びBの態度や行動を総合すると、事実上夫婦共同体としての実体は成立していなかったものと解すべきである。
 よって、控訴人には婚姻費用を分担する義務はなく、Bには不当利得の返還義務がある。
 ところが、原判決は、この点についても、「同居期間は1年2か月であり、その間も被告Bが被告Eと不貞関係を続けていたとしても、直ちに夫婦共同体としての実態が成立していなかったとまではいえないから、原告の主張は理由がない」として排斥している。入籍後の同居期間が1年程度あれば、その間に妻が不貞行為を継続するという背信行為を繰り返していても、「夫婦共同体としての実体が成立していなかったとまではいえない」というが、貞操義務は一夫一婦制の基本であり、夫婦共同体の核心ではないのだろうか。原判決の判断は一般社会の倫理観、道徳観に背馳するものと言わざるを得ない。
(3)百歩譲って、仮に婚姻意思が認められ、さらに夫婦共同体が事実上成立していたとしても、信義側上返還義務がある。
 Bは、控訴人との婚約中からEと男女関係を持ち、婚姻後1か月も経たないうちにEと肉体関係を持ち、婚姻届提出の翌月にEの子を妊娠し、その子がEの子である可能性が高いと知りながら、何食わぬ顔で控訴人との間の嫡出子として届け出た。その後も控訴人に隠れてEと不倫関係を5年以上に渡って継続したのである。
 このように、婚姻関係の破綻はBの不倫と背信行為にあることは明らかである。その上、不貞の事実を隠匿して控訴人に多額の婚姻費用を支払わせ、Eとの間の子と知りながら控訴人に養育費を支出させたのである。
 Bの行動は控訴人に対する著しい背信行為であり、Bが控訴人に対して婚姻費用の負担を求めることは信義則に反することは明らかである。
 Bは控訴人が支払った家賃その他の婚姻費用につき、信義則上返還義務を負担する。
(4)しかるに、原判決は、aBがFをEの子と知りながら原告との間の嫡出子して届け出ていたことは証拠上認めがたい、b調停において、不貞の事実を隠蔽して金銭給付のつり上げを図ったとの評価ができないとの2つを理由に挙げて、「被告Bが、信義則上婚姻費用分担金の返還義務を負うと言うことはできず、原告の主張は理由がない」と排斥した。
 しかし、a、bとも理由がないことは、前述(2(5))の通りであり、少なくとも信義則上Bは控訴人に対し、家賃その他の婚姻費用の返還義務を負うことは明らかである。

 なお、控訴人は、家庭裁判所の審判(甲8)以前の家賃(2000年8月分ないし2001年10月分までの15か月間の家賃)合計143万2500円)の返還請求は取り下げる。
4 結納金の返還
(1)結納は婚姻の成立を予定してなされる一種の贈与であるから、一旦婚姻が成立した以上返還を求めることはできないのが原則である。しかし、形式上婚姻が成立していても、夫婦生活の期間が短く、事実上夫婦共同体が成立していない場合には婚姻予約不履行に準じて結納の返還義務が認められる(福岡地裁柳川支部判決昭和37年8月8日判タ146号85頁)。また、結納の受領者側において婚姻当初から誠実に婚姻を継続する意思なく、そのため婚姻の破局を来したと認むべき場合においては、信義衡平の原則に照らし、婚姻不成立の場合に準じて結納の返還義務が認められる(鳥取地裁判決昭和27年8月13日下級裁判所民事裁判例集3巻8号1132号)。なお、この鳥取地裁判決は、最高裁判決昭和39年9月4日(判時388号31頁)により変更されたと見るべきではない(久貴忠彦ら著『民法講義7親族』有斐閣大学双書の68~69頁・右近健男執筆部分参照)。

 控訴人とBの同居期間は1年2ヶ月(実質は1年弱)で、その間夫婦関係も少なかった。BはEと肉体関係を持ち続け、Eの子をもうけている。このように、控訴人とB間には、事実上夫婦共同体が成立しているといえず、またBには婚姻当初から誠実に婚姻を継続する意思なく、そのため婚姻の破局を来したと認むべき場合に当たることは明らかであるから、Bには結納金の返還義務がある。
(2)しかるに、原判決は、「結納は、婚約の成立を確証し、あわせて、婚姻が成立した場合に当事者ないし当事者両家間に情誼を厚くする目的で授受される一種の贈与であるところ、原告と被告Bは、前記の通り、挙式後1年2か月間夫婦として同居生活を続け、その間婚姻の届け出も完了していたものであり、これによれば、挙式は一応その目的を達したものということができるから、たとえ、被告Bが被告Eとの間で不貞関係を続けていた事実があったとしても、被告Bには上記結納金を返還すべき義務はないというべきである。
」して、控訴人の請求を斥けた。
 しかし、婚姻届と約1年の同居期間さえあれば「結納は、一応その目的を達した」というのは、実質を見ない形式論と言わざるを得ない。
 原判決は、結納を定義して、「…当事者ないし当事者両家間に情誼を厚くする目的で授受される一種の贈与」としているが、婚姻後のBの言動は、当事者である控訴人の尊厳を踏みにじるものであり、かつ、両家間の情誼を厚くするとの目的と著しく矛盾するものであったことは明白である。
 前記の2つの判例に照らし,信義則上、結納金の全部ないし一部の返還をBに命ずべきが当然と思料する。
(3)控訴人は、結納金関係費合計784万5369円の内、現金で交付した533万円(原判決末尾の費用一覧表の(4)結納金関係の結納金から化粧品まで。控訴人136)の返還を求め、その余の請求は取り下げる。 
第2 請求の一部の取り下げ・減縮
1 控訴人は、本件控訴にあたって、請求の一部を取り下げ、請求を減縮した。
 月額9万5500円の家賃の取り下げ対象期間を1か月間違えたこともあるので、原判決末尾の費用一覧表に基づいて、費用の請求額を次の通り、整理する。
(2)別居後の家賃 2000年(平成12年)8月分ないし2001年(平成13年)10月分までの15か月間の家賃の返還請求は取り下げるので、2001年11月分~20056年5月分の43か月分合計410万6500円の返還を請求する。
(4)結納金関係
結納金、車代金、松魚料、酒樽料、化粧品として交付した現金合計額533万円の返還を請求する。その余の請求は取り下げる。
(1)養育費、(3)婚姻費用分担金は、費用一覧表記載の通りである。
 よって、請求する費用合計は1425万1500円である。
2 慰謝料請求額は、B、Eに対し、それぞれ1000万円、500万円である。
3 弁護士費用の請求額は、B、Eに対し、それぞれ240万円、50万円である。
4 よって、控訴状の控訴の趣旨の第2項を次の通り訂正し、請求を減縮する。

       記

第2 控訴の趣旨
1 原判決を次の通り変更する。
2 被控訴人Bは、控訴人に対し、2665万1500円及びこれに対する2006年4月19日から支払い済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 被控訴人Eは、控訴人に対し、550万及びこれに対する2006年4月19日から支払い済みまで年5分の割合による金員を支払え。
4 訴訟費用は、第1、2審とも被控訴人らの負担とする。
との判決並びに第2、3項につき仮執行宣言を求める。
添付資料
甲16「判決文を読んで」と題する文書(控訴人作成)


 

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