交代制勤務の看護師の厳しい労働実態が明らかになった。看護師の23人に1人、全国で推計2万人が月60時間以上の時間外労働により過労死の危険水準にあることが分かった。また残業分の4割しか時間外手当が支払われていないなど、看護現場での人事労務管理の不十分さが浮き彫りになった。現場からの悲鳴にも似た声に耳を傾けたい。
昨年10月、大阪高裁が過去3カ月の平均残業時間が56時間のケースで看護師の過労死を認定した。これを受けた日本看護協会は1万人の病院看護師を対象に昨年10月の勤務実態を調査、3010人が回答した。
看護労働の実態をみてみよう。月平均の残業は23.4時間、年齢別にみると20代が25.9時間と最も長く、慢性的な疲労を訴える率も他世代より高かった。疲労の自覚症状が多い看護師ほど、医療事故の不安を感じているというから深刻だ。
このほか、院内研修や持ち帰り残業を時間外勤務として申告していない▽タイムカードがなく時間外の把握ができない▽上司が時間外の申告をカットしてしまう▽時間外手当に上限がある▽新人は時間外の申告ができない--などの回答が寄せられた。こうした回答から、看護の現場では労働法が徹底されていないという実態が浮かび上がってきた。
医療の現場では過酷な勤務によって、産科など特定の診療科で医師不足が深刻化しており、看護労働でも同じような問題を抱えている。医療崩壊が内部から始まっていることを重く受け止める必要がある。
特に、日勤と夜勤を繰り返す不規則な交代制勤務の職場での長時間残業によって、看護師が過労死と隣り合わせになっている状況は早急に改めてほしい。これは病院勤務の看護師の離職率が12%にもなっている要因でもある。適正な労務管理を行い、労働法が守られる職場にすることが必要だ。結婚し子育てしながら働ける職場にするために、短時間勤務など多様な勤務形態の導入も急いでもらいたい。
なぜ、看護師の労働時間管理ができないのか。これには「長年の慣例・習慣」「職員定数を増やせない」「欠員補充できない」という答えが上位を占めた。
多くの医療機関が社会保障費の抑制方針の下で苦しい経営を余儀なくされており、欠員補充や人件費引き上げへの対応が十分ではない。長時間労働や未払い残業の問題も、こうした医療現場が直面している問題が背景にある。まずは各医療機関で改善を図ることが必要だが、それだけでは限界がある。入院基本料の見直しや看護の特別技術の評価など、診療報酬を見直し看護への配分を手厚くする検討も急ぐべきだ。
毎日新聞 2009年5月8日 0時34分