2008年03月03日

●ダイオキシンは本当に危険か(EJ第2276号)

 最近「環境問題」というと、水戸黄門の印籠ではないが、何で
もまかり通るようになっています。しかも国は、時間をかけて、
環境問題の責任を国から企業へ、企業から国民へと巧みにすり替
えようと画策しています。
 もともと環境問題は「公害」と呼ばれていたのです。水俣病や
四日市喘息などは、企業とそれを管理する行政側の問題であり、
国民は被害者の立場だったのです。
 1999年2月――当時のテレビ朝日の人気番組、久米宏司会
の「ニュースステーション」に総合環境研究所の青山貞一氏とい
う人物が出てきて、「所沢産のホウレンソウから高濃度のダイオ
キシンが検出」という内容の報道があったのです。私はそのとき
の「ニュースステーション」を見ていたのです。
 この報道によって、所沢産の野菜の不買運動が起き、農家が大
損害を蒙ったのです。しかし、この報道は後にウソであることが
わかり、テレビ朝日と青山貞一氏は所沢の農家から風評被害で訴
えられ、テレビ局は一千万円の和解金を支払って決着するという
事件があったのです。覚えている人もおられると思います。
 しかし、ウソ報道であったのに、なぜか「ダイオキシン法――
ダイオキシン類対策特別措置法」ができて、2002年12月か
ら適用されています。こういうことに官僚は素早いのです。なぜ
かというと、これによって対策費として予算が取れるからです。
 動いたのは、農水省、厚生労働省、環境庁(当時)なのです。
こういう悪法ができたおかげで、焼却炉に専用装置を付けたりす
る億単位の莫大な負担を強いられる義務を各自治体が負うことに
なるなど大きな問題が起こっています。
 しかし、もっと大きな問題があります。それは、これによって
国民に次の間違った幻想を植え付けてしまったことです。
―――――――――――――――――――――――――――――
     ダイオキシンは最悪の危険物質である
―――――――――――――――――――――――――――――
 一番大きな誤解は、ダイオキシンは焼却炉から出てくるものと
いう印象を国民に持たせたことにあります。しかし、日本人が摂
取するダイオキシンは95%が食品からなのです。したがって、
たとえ焼却炉からのダイオキシンをゼロにしてもほとんど実態は
変わらないのです。
 その危険性は、モルモットの実験データから得たものなのです
が、実はモルモットはダイオキシンに最も弱い動物なのです。な
ぜ、そんな実験データを針小棒大に取り上げるのでしょうか。
 この問題に詳しい東京大学教授の渡辺正氏は次のように述べて
います。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ダイオキシンに一番弱いモルモットの実験データを人間にあて
 はめたところで、人生10回分――820年分の食物を「イッ
 キ食い」しない限り“急性毒性”で倒れることはないんです。
                    渡辺正東京大学教授
 ――『暴走する「地球温暖化論/洗脳・煽動・歪曲の数々」』
                       文藝春秋社刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 渡辺正教授は、2003年に東大の文系の学生130名にダイ
オキシンのイメージを聞いたところ、次の3つが一番多かったと
いっています。
―――――――――――――――――――――――――――――
       1.焼却炉から出る猛毒である
       2.近代文明の生んだ悪の権化
       3.プラスチックの燃焼が主犯
―――――――――――――――――――――――――――――
 以上は完全なる間違いなのです。センセーショナルな報道や危
険を訴えるダイオキシン本などに感化された結果なのです。しか
し、法律までできているのですから、信用するのは仕方がないと
思います。ダイオキシン法が廃止されない限り、大気や水、土壌
などの環境試料の分析に毎年数十億円の税金が注ぎ込まれるとい
う事態が続くのです。国民は騙されているのです。
 実は空気中にもダイオキシンは含まれているのです。人間が一
回呼吸すると、そのつどダイオキシン分子を一億個吸い込んでい
るのです。普通の人は一億個というと驚いてしまいます。といっ
て、呼吸をやめるわけにはいかない。どうすればいいんだという
ことになるわけです。
 しかし、化学を少しでも勉強したことのある人であれば、分子
の一億個などゼロに等しいことは誰でもわかるはずです。しかし
そのことを知らない人――大部分の人がそうであると思いますが
――そういう人に対しては、一億個という数を使って相手を驚か
し、不安にさせることは容易にできることです。
 大きな矛盾なのは、ダイオキシンに恐怖を抱き、危険だと騒ぐ
人が、平気でタバコを吸い、コーヒーを飲み、焼き鳥屋の店でお
酒を飲んでいることです。これらは、ダイオキシンなどよりはる
かに危険なものであるにもかかわらずです。お酒などもイッキ飲
みをすれば死ぬこともあるではないですか。
 濃いコーヒーにはカフェインが0.1グラム入っていて、一日
5杯飲めば、致死量である5グラムの10分の1になるのです。
タバコにいたっては、1日に6本のタバコでダイオキシンの規制
値を超えるといわれているのに、喫煙は制限されているものの、
禁止されていないのです。
 普通の食品にも毒物は入っているのです。病原菌が付いていな
い食物はないのです。キャベツには青酸、ジャガイモにはソラニ
ンという毒物が入っているのですが、一部の劇薬は別として、一
般的に危険といわれているものでも、ごく微量であれば何ら問題
はないのです。
 このようにダイオキシンの危険性はここにきてかなり修正され
ているのにそのための対策は依然として前のままというのは何か
おかしいと思います。   ―――[地球温暖化懐疑論/18]


≪画像および関連情報≫
 ・久米ニュースステーションの終了/青山貞一
  ―――――――――――――――――――――――――――
  昨日、久米宏キャスターによるテレビ朝日のニュースステー
  ションが3月26日に終わった。環境総合研究所とニュース
  ステーションとの関係というと、誰しも「所沢ダイオキシン
  報道」と思われるだろう。しかし、私たち環境総合研究所が
  かかわったニュースステーションの番組には、ちょっと思い
  出すだけでも以下のように本四連絡架橋鉄道騒音問題にはじ
  まりたくさんある。いずれも思い出深いものばかりである。
   ●本四連絡架橋鉄道騒音問題    4本
   ●羽田空港新滑走路による騒音問題 1本
   ●湾岸戦争の環境問題       6本
   ●所沢ダイオキシン問題(土壌汚染)1本
   ●所沢農作物ダイオキシン汚染問題 4本
  http://eritokyo.jp/independent/nagano-pref/aoyama-col42.html
  ―――――――――――――――――――――――――――

久米宏/ニュースステーション.jpg
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2008年03月04日

●なぜレジ袋を廃止するのか(EJ第2277号)

 本当に二酸化炭素――CO2の排出量を減らすのが急務である
なら、2000CC以上の車を規制すべきです。2000CC以
上の車に高い税金かけ、軽自動車の税金をゼロにする――そうす
れば、間違いなく軽自動車へのシフトが行われます。
 また、14インチ以上のテレビ、200リットルよりも大きい
冷蔵庫に高い税金をかけ、それらの販売を抑制すれば確実にC0
2は削減されるはずです。CO2の増加が本当に深刻なら、この
くらい荒療治が必要です。
 なぜなら、もし、そのようなことを本当に行えば、確実に産業
の停滞を招き、國際競争力は減退するからです。当然自動車業界
や家電業界から大反発を食らうはずです。実際問題としてそうい
うことは国としては絶対できないことです。
 添付ファイルのグラフを見てください。これは、日本のCO2
の排出量とGDPの関係を示すグラフです。これは1990年を
100とした相対値をあらわしています。1980年の中頃まで
にエネルギー効率が高められたことで、日本のCO2の排出量は
GDPと正比例するまでになったのです。したがって、GDPを
減らさなければ、CO2の排出量を下げることはできない――そ
ういうことになるのです。
 そうなると、国は問題を国民にすり替えてきます。「環境を守
るためにあなたは何ができますか」というようにです。それが、
リサイクルであり、ゴミの分別であり、レジ袋の廃止であり、ク
ールビズなどの一連の環境対策なのです。
 そのようなことをやっても本当に効果があるでしょうか。ひと
つずつチェックしていくことにします。
 スーパーにおけるレジ袋の廃止について考えてみましょう。
 レジ袋は、石油を精製すると自然にできる成分を有効に活用し
たものです。なぜ、スーパーでレジ袋を無料でくれるかというと
本来なら捨てるしかない余りものの石油をなんとか袋にしている
からです。つまり、大変な資源の活用をしているわけです。
 スーパーで買い物をするときレジ袋に入れてもらい、ゴミを捨
てるときにレジ袋に入れて再び使う――これが最も資源の使用量
が少ない使い方なのです。
 しかし、これを追放しようという運動が実施され、しだいに普
及しつつあります。レジ袋を追放し、有料の「買い物袋」と「専
用ゴミ袋」にしようとしているのです。
 名古屋市では、次のような理屈に合わない理由をつけてレジ袋
の追放をしようとしています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 指定のゴミ袋の中にレジ袋に入れたゴミが多いので、ゴミの二
 重包装になる。だから、レジ袋を追放する。  ――名古屋市
―――――――――――――――――――――――――――――
 こんなのは理由にならないと思います。不要なのはレジ袋では
なく、指定のゴミ袋の方です。もともと買い物を入れて運ぶため
に使ったレジ袋を資源の有効活用のために、高いゴミ袋を節約す
るために、ゴミをレジ袋に入れて出していたのです。
 それを市が勝手にゴミ袋を指定して、それに入っていないゴミ
は引き取ってくれないので、市民は仕方なく指定のゴミ袋を使っ
ているのです。膨大な数の指定のゴミ袋を作るために出すCO2
は、どうなるのでしょうか。そして、指定のゴミ袋が定着すると
今度は二重包装をなくすためにレジ袋を廃止しろという――まっ
たくもってムチャクチャな話です。
 レジ袋は一枚に使う資源が少ないから軽く、環境にやさしい製
品だったはずです。レジ袋を廃止しても、それを使う余った石油
は再利用できず捨ててしまうことになるだけです。それでもなぜ
廃止になってしまうのでしょうか。
 もし、レジ袋を廃止して、「買い物袋」と「専用ゴミ袋」を作
るとなると、そのためにさらに石油を使うことになるのです。か
えって資源の無駄になるのではないでしょうか。
 レジ袋を止めることによるメリットは、次の式がプラスになら
なければならないのですが、環境省からはそういうデータは一切
出ていないのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 レジ袋に使われる資源 − (「買い物袋」と「専用ゴミ袋」
 に使われる資源)>0
―――――――――――――――――――――――――――――
 そもそも生活で使われているプラスチックは、日本国内で年間
約1400万トンが生産されています。レジ袋もそういうプラス
チックのひとつなのです。
 レジ袋に使用されるプラスチックは重さでいうと、最大でも約
30万トンで、現実に削減できるのは約10万トン程度であると
いいます。1400万トンのプラスチックの140分の1でしか
ないのです。そのためレジ袋を廃止しようとする環境省や行政側
は、レジ袋に使う資源の「重さ」をいわずに「枚数」でその効果
を偽装しようとしています。
 次のURLをクリックしてください。2007年1月1日から
のレジ袋の消費量が出ています。財務省の国の借金を示す借金時
計と同じ発想です。
―――――――――――――――――――――――――――――
     http://www.glwwp.com/main/bag.html
―――――――――――――――――――――――――――――
 既出の武田邦彦教授はこれについて次のようにいっています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 レジ袋は石油を精製すると自然にできる成分を有効に使用する
 から、もしレジ袋をなくし、もともと不足しがちなBTX成分
 を使って買い物袋(マイバック)をつくれば石油全体の消費量
 を増やさなければならない。   ――武田邦彦著/洋泉社刊
         『環境問題はなぜウソがまかり通るのか2』
―――――――――――――――――――――――――――――
             ―――[地球温暖化懐疑論/19]


≪画像および関連情報≫
 ・BTX――ベンゼン、トルエン、キシレン/芳香族炭化水素
  ―――――――――――――――――――――――――――
  石油化学製品は、大きく分けるとオレフィン系製品――ポリ
  エチレンなど、ポリエステル――合成繊維などにわけること
  ができる。また、石油化学製品も基礎製品、中間製品、最終
  製品がある。基礎製品としてはエチレン、プロピレン、ブタ
  ジエンなどのオレフィンのほか、芳香族であるBTXなどの
  合成原料がある。次に中間製品にはエチレンから生成する塩
  化ビニル、プロビレンから生成するアクリロニトリル、ブタ
  ジエンから生成するアジピン酸、ヘキサメチレンジアミンな
  どがある。そして、基礎製品、中間製品を原料として、ポリ
  エチレンなどのプラスチック、ナイロン6.6などの合成繊
  維、ブタジエンゴムなどの合成ゴムなどの最終製品が出来上
  がる。 http://www.chem-station.com/yukitopics/oil2.htm
  ―――――――――――――――――――――――――――

日本のCO2排出量とGDP.jpg
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2008年03月05日

●ペットボトルのリサイクルの実態(EJ第2278号)

 しばらくリサイクルの問題を考えてみます。最初にペットボト
ルのリサイクルはどうなっているのでしょうか。
 ペットボトルのリサイクルをはじめたのは1993年――平成
5年からです。この時点からペットボトルの分別回収がはじまっ
たのです。
 ペットボトルは便利なものですが、難点はかさばることです。
したがって、使い終わったペットボトルがゴミとして廃棄物貯蔵
所に持ち込まれたら、たちまち貯蔵所はいっぱいになってしまい
捨てる場所がなくなり、日本の環境は破壊される――だから、分
別回収し、資源を再利用しようということになったのです。
 リサイクルによって資源が再利用され、余分な資源を使わなく
なるので、ペットボトルの販売量の増加は抑えられるはずである
と誰でも考えられます。しかし、現実はどうなっているのかとい
うことはほとんど発表されていないのです。まして、成果が出て
いないと積極的に発表は行われないのです。
 添付ファイルのグラフを見てください。このグラフは、ペット
ボトルのリサイクルを始めた1993年(平成5年)から、20
04年(平成16年)までのペットボトルの消費量、回収量、再
利用量を示しています。
 このグラフで●グラフはペットボトルの生産量ですが、販売量
や消費量を意味しています。○グラフはその回収量をあらわして
いますが、両者は平行しており、両方とも増え続けているという
点が問題です。▲グラフは再利用量ですが、グラフを見てわかる
ように、その数はわずかなものです。
 1993年にペットボトルは約12万トン生産されています。
当時はリサイクルされていませんから、その12万トンはそのま
まゴミになっています。2004年になると、50万トンを超え
ています。国民一人当たりでいえば、500ミリリットルのペッ
トボトルを8日に一本使っていたのが、10年後には2日に一本
使うようになっていることを意味しています。
 1993年におけるペットボトルの形をしたゴミは12万トン
出たのです。それが2004年には51万トンになったのです。
この場合、●グラフと○グラフの差が企業や家庭から捨てられた
ペットボトルの形をしたゴミです。2004年現在の分別回収さ
れたペットボトルは24万トンですから、同年にゴミとして捨て
られたペットボトルは27万トンになるのです。なんと約10年
で倍以上になっています。
―――――――――――――――――――――――――――――
     51万トン − 24万トン = 27万トン
   1993/12万トン → 2004/27万トン
―――――――――――――――――――――――――――――
 しかし、この計算は分別回収されたペットボトルがすべて再利
用されるという前提に立った計算なのです。しかし、▲グラフを
みると、2004年時点で約3万トンです。つまり、24万トン
分別回収されても3万トンしか再利用されていない――つまり、
21万トンは回収されても結局はゴミになっているのです。した
がって、2004年のペットボトルのゴミの量は、48万トンと
いうことになるのです。再利用率はわずか6%です。
 しかし、日本の公的機関は「日本はリサイクルの優等生」と発
言しています。それは、そういわないとリサイクルのための予算
が出てこないからです。したがって、専門家も本当のことは口を
閉ざすのです。
 重要なことはペットボトルの分別回収したことによってゴミが
倍以上になったのではないかという疑いです。実は、ペットボト
ルの分別回収を始める前に「あいちごみ仲間ネットワーク会議」
という環境団体の岩月宏子代表は、ペットボトルの分別回収がは
じまると、小さなペットボトルが販売されるようになると予想し
次のように反対していたのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 小さくて気軽に飲むようになり、量が増えると、それだけ回収
 しにくくなる。空き缶みたいな感覚で、道路に捨ててしまう人
 もいるだろう。大量投棄に拍車をかける。
                 ――武田邦彦著/洋泉社刊
          『環境問題はなぜウソがまかり通るのか』
―――――――――――――――――――――――――――――
 なぜ、リサイクルするとゴミが増えるのでしょうか。
 ペットボトルのゴミが環境に深刻な問題を引き起こすことが誰
の目にも明らかになったとき、有力筋から「リサイクルすれば」
という意見が出ると、生産者である企業も消費者も何となく問題
が解決してしまうような気がするのです。
 ところが、企業も消費者もリサイクルを実施する当事者ではな
いのです。したがって、深く考えることなく、企業は売りやすい
小さなペットボトルを躊躇なく制作し、ますますペットボトルの
消費量が増加してしまったのです。岩月宏子代表の心配が当って
しまったことになります。
 消費者にとってペットボトルのリサイクルとは、飲み終わった
ペットボトルを回収箱に入れるだけです。それでリサイクルした
気持ちになってしまう――消費者なんてそんなものです。実際に
リサイクルがどんなに大変なのかなど考えてもいないのです。
 既出の武田邦彦教授は、ペットボトルのリサイクルについて次
のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ペットボトルのリサイクルは、(1)資源を節約し、(2)ご
 みを減らし、(3)資源をもう一度使う、と喧伝されてきたが
 事実は(1)資源を7倍使い、(2)ごみが7倍増え、(3)
 資源はほとんど再利用されない、というのが実態なのである。
                 ――武田邦彦著/洋泉社刊
          『環境問題はなぜウソがまかり通るのか』
―――――――――――――――――――――――――――――
             ―――[地球温暖化懐疑論/20]


≪画像および関連情報≫
 ・3Rとは何か
  ―――――――――――――――――――――――――――
  リサイクルとは、本来は再循環を指し、製品化された物を再
  資源化し、新たな製品の原料として利用することである。近
  年は、同一種の製品に再循環できないタイプの再生利用や、
  電化製品や古着などの中古販売についても広くリサイクルと
  呼ばれることが多い。リサイクルは、リデュース――減量、
  リユース――再利用とともに3Rと呼ばれる
                    ――ウィキペディア
  ―――――――――――――――――――――――――――

ペットボトルの消費量とリサイクル量.jpg

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2008年03月06日

●リサイクルすると環境にマイナス(EJ第2279号)

 ペットボトルを一回使って捨てるか、それともリサイクルして
使うか――その利害得失を検討する、武田邦彦教授作成の興味深
い数値モデルがあります。
 武田教授は、このモデルを使って、次の3つのケースについて
比較しているのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
    1.ペットボトルを一回使って捨て、焼却する
    2.ペットボトルをリサイクルして使うケース
    3.ペットボトルを5回使って捨て、焼却する
―――――――――――――――――――――――――――――
 これらの3つのケースを検証する前提となる数字をまとめてお
くことにします。
―――――――――――――――――――――――――――――
 1.1本のペットボトルを石油からつくるのに石油が80グラ
   ムがかかる
 2.1本のペットボトルを捨て、自治体の処理に石油が16グ
   ラムかかる
 3.リサイクルする一連のプロセスにおいて、石油が240グ
   ラムかかる
 4.リサイクルしたペットボトルの成形作業に石油が140グ
   ラムかかる
―――――――――――――――――――――――――――――
 まず、第1のケースから考えます。「ペットボトルを一回使っ
て捨て、焼却する」ケースです。
 このケースは、前提の1が1回、2が1回ですから、「80+
16=96」ということになります。
 次に、第2の「ペットボトルをリサイクルして使うケース」の
場合を考えます。
 このケースは、4つのプロセスにおいて、それぞれ1回ずつ必
要なので「80+16+240+140=476」となります。
しかし、このケースはリサイクルしてもう1回使うので「476
÷2=238」ということになります。
 最後に、「ペットボトルを5回使って捨て、焼却する」ケース
です。このケースは、1と2の「80+16=96」を5回使う
ので、「96÷5=19.2」ということになります。
 以上を整理してまとめると、次のようになります。
―――――――――――――――――――――――――――――
    1.ペットボトルを一回使って捨て、焼却する
       ――  96.0グラム
    2.ペットボトルをリサイクルして使うケース
       ―― 238.0グラム
    3.ペットボトルを5回使って捨て、焼却する
       ――  19.2グラム
―――――――――――――――――――――――――――――
 この結果によってわかるように、ペットボトルをリサイクルす
るよりも、一回使って捨てた方が石油の消費量が少なくて済むの
です。石油の消費量が少なければ、当然CO2の排出量も少ない
ことになります。
 一番環境にとって良いのは、ペットボトルを繰り返し使う方法
です。ここでの想定は5回使うというものですが、5回でなくて
も2回なら48グラム、3回なら32グラムであり、他のケース
に比べてはるかに少ない石油で済むのです。それなのに、なぜ、
リサイクルにこだわるのでしょうか。
 既に見たように、2004年のデータですが、ペットボトルは
年間50万トン以上製造しています。もし、仮にペットボトルを
5回繰り返し使うことが定着したとすると、ペットボトルの消費
量は5分の1の10万トンに減ってしまいます。しかも、5回使
い終わった後でそれを焼却すればゴミはゼロになります。
 そういう状況は、ペットボトルを作っているメーカーが困るの
です。さらにペットボトルの原料を作っている会社、ペットボト
ル飲料を製造している会社も大打撃を受けることになります。そ
れに、リサイクルに対して支出している600億円の税金も根拠
を失い、国も困るのです。
 そういう状況において出てきたのが「ダイオキシン猛毒説」な
のです。内容をまとめると、次のようになります。
―――――――――――――――――――――――――――――
 1.プラスチックを燃焼すると、ダイオキシンなどの深刻な有
   害物質が発生する
 2.ダイオキシンは史上最悪の毒物であり、プラスチックは燃
   焼すべきではない
 3.しかし、プラスチックを埋め立ててしまうと、廃棄物貯蔵
   施設が満杯になる
―――――――――――――――――――――――――――――
 EJ第2276号で述べたように、ダイオキシンの毒性は報道
されているものとはかなり異なります。したがって、プラスチッ
クを大量に燃やしても深刻な事態にはならないのです。
 しかし、燃焼のしかたには留意すべきことがあります。一般家
庭などから出た廃棄物を燃やして必然的に出る燃えないものの毒
性処理をきちんとやるということです。そうすれば、廃棄物貯蔵
所に行くゴミをゼロにできるのです。
 はじめに「ペットボトルのリサイクルありき」なのです。これ
を前提として、それを正当化する理屈を並べているのです。ダイ
オキシン猛毒説はその理屈のひとつとして登場しているのです。
 もうひとつ、ゴミを「燃えるゴミ」と「燃えないゴミ」に分別
して、行政の指定するゴミ袋に入れて出さなければならないよう
になっています。実はこれがガンになっているのです。
 国民は、ゴミの分別も指定のゴミ袋も「環境のため」というこ
とで、お金がかかっても手間がかかっても我慢してやっているの
です。しかし、それは、むしろ環境のために何の効果ももたらさ
ない面があるのです。   ―――[地球温暖化懐疑論/21]


≪画像および関連情報≫
 ・ゴミの分別できていますか
  ―――――――――――――――――――――――――――
  エコライフの一貫として、実は「ゴミの分別回収」も重要な
  役割を担っています。「燃えるもの」と「燃えないもの」を
  分けることで、廃棄コストの削減につながり、また、ペット
  ボトルや古紙・段ボールといった資源ゴミをリサイクルする
  ことで、資源の有効利用に一役買っているからです。
http://allabout.co.jp/living/mansionlife/closeup/CU20051008A/index.htm
  ―――――――――――――――――――――――――――

武田邦彦教授.jpg


posted by 平野 浩 at 07:38| Comment(0) | TrackBack(0) | 地球温暖化懐疑論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2008年03月07日

●前提条件を再検討すべきである(EJ第2280号)

 ゴミの分別回収が定着してから相当時間が経過しています。ゴ
ミを分別回収するのは、リサイクルして資源を有効に活用するた
めであり、それが環境問題に大きく寄与する――多くの人はそう
信じてやっているのです。しかし、必ずしもリサイクルは環境問
題に寄与しないのです。
 EJの今回のテーマは「地球温暖化懐疑論」です。いろいろな
角度から環境問題の問題点をあえて明らかにしています。しかし
決して環境問題に背中を向けているわけではないのです。
 環境問題に地球規模で取り組むことはとても大事なことです。
いま少しずつそういうムードができつつあり、それは大変望まし
いことです。先進国の中で唯一京都議定書を批准していない米国
でも州ごとにCO2削減に取り組んでいます。
 しかし、現在われわれがやっている環境対策が環境問題の改善
どころか、むしろマイナスに作用するとしたら、どうでしょう。
これは看過できないのではないでしょうか。
 現在われわれが地球温暖化のために取り組んでいる対策には、
前提とされる事実が違っているために正しい方向に向かっている
とは思えないものが多いのです。このテーマを調べていて、そう
いうことを感じています。ゴア氏のいうようにわれわれに残され
ている時間はそんなに多くないのです。したがって、環境対策に
間違いがあってはならないと思います。
 はっきりいって、環境問題はお金になるのです。やり方によっ
ては、なかなか良いビジネスになります。したがって、目的のた
めには手段を選ばない人たちもたくさん出てきています。環境対
策と称して、やると環境にマイナスになること、やってもやらな
くても同じであること――そういうことにお金を注ぎ込むことは
避けるべきです。
 環境問題を前向きにとらえて推進しようという人は、懐疑派の
意見を聞こうとはしないし、本も読みません。たとえ読んでも最
初から色メガネで見ているので、信用しようとしません。
 これに対して、これはおかしいのではないかと考えている懐疑
派の人は推進派の人よりもはるかに多くの事実を調べ、比較し、
研究し、そのうえで異論を述べている――私はそのように考えて
います。だから、彼らの意見も一聴に値すると思うので、こうし
てご紹介をしているわけです。
 今回のテーマを書くために参考にさせていただいている武田邦
彦教授のところには、環境推進派の人たちから多くの批判のメッ
セージが届くそうです。武田氏は次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 私の本を読んだ方の中で、ペットボトルを熱心にリサイクルさ
 れている方から、「武田は地球環境などどうなってもいいとい
 う反環境的な思想を持っている」と批判されたりもしたが、そ
 れはまったく適当ではない。私はこうした計算(EJ第227
 9号でご紹介した計算)から、環境を大切にするためにもペッ
 トボトルを安易にリサイクルに出す気持ちになれないだけだ。
                 ――武田邦彦著/洋泉社刊
         『環境問題はなぜウソがまかり通るのか2』
―――――――――――――――――――――――――――――
 さらに武田教授は、環境問題をまともに取り上げ、研究してい
る武田研究室のスタッフおよび実際にCO2削減を実践している
グループ全体が「環境に背中を向けている」と批判されるのは心
外であるとして、次のようにも述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 私の周りにいる人で「環境が悪くなってもいい」などと言って
 行動している人はほとんどいない。大学生をはじめ、普通に仕
 事で接する人とか、ご商売をしている人、どんな人でも環境に
 は強い関心がある。その人たちはレジ袋などを節約してくださ
 いと言えば、すぐ理解できる。しかし、その人たちを「庶民」
 と呼ばせてもらえば、庶民は「何をすれば環境によいのか?」
 ということがわからない。彼らがわからない原因は、少し傲慢
 な言い方になるが「専門家である私にもわからない」からであ
 る。そして私の見立てでは環境省すらもわかっていない。
                 ――武田邦彦著/洋泉社刊
         『環境問題はなぜウソがまかり通るのか2』
―――――――――――――――――――――――――――――
  さて、一般家庭から出されるゴミを分類すると次のようにな
ります。その割合にも注目してください。
―――――――――――――――――――――――――――――
        生ゴミ類   ・・・ 27%
        プラスチック ・・・ 12%
        繊維など   ・・・  4%
        紙      ・・・ 37%
        草木     ・・・  5%
        不燃物    ・・・ 15%
        ――――――――――――――
                  100%
―――――――――――――――――――――――――――――
 かつてこれらのゴミはゴミ焼却所に運ばれ、燃やして処理をし
ていたのです。つまり、焼却することによって毒物の蓄積を防い
できたのです。
 しかし、最近はダイオキシンや二酸化炭素の関係で「焼却する
のは環境に良くない」ということになっています。これは正反対
の論調です。われわれ国民は専門家にそういわれてしまうと「そ
うかな」と考えてしまいます。
 武田教授の著作の中に、『リサイクル幻想』(文春新書/13
1)というのがあります。この本に「『燃える』とはどういうこ
とか」という一節があります。これを読んで私は、「燃える」と
いう最も日常的なことをいかにこれまで知らなかったかがよくわ
かりました。来週はこの問題について考えることにします。
              ――[地球温暖化懐疑論/22]


≪画像および関連情報≫
 ・「リサイクルの幻想」に関するブログより
  ―――――――――――――――――――――――――――
  自分は基本的に環境保護に賛成の立場です。
  ipodのpodcasts で、 サイエンス・サイトークという番組で
  武田教授の2007年2月18日に「リサイクルの幻想」と
  いう題のお話を聞きました。ペットボトルは再利用がかえっ
  て資源を費やしてしまうという事実は世間にあまり周知され
  ていないですね。環境保護の目的が一緒でも事実認識が違っ
  ていたら努力が無駄になってしまう。
          ――http://taka.hamazo.tv/e386495.html
  ―――――――――――――――――――――――――――

『リサイクル幻想』/武田邦彦著.jpg
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2008年03月10日

●家庭ゴミはすべて焼却すべきである(EJ第2281号)

 テレビのサスペンス劇場などで、家の中で人を殺した男が家の
中に灯油を撒いて火のついたライターをポンと投げると、ボッと
火がつく――こういうシーンを何回か目にしたことがあります。
 しかし、このシーンは少しおかしいのです。なぜなら、灯油は
そのときの温度や環境にもよりますが、テレビで見るようにそう
簡単には引火しないからです。
 灯油は引火性はありますが、引火点は40℃以上であり、常温
よりも高いため、常温では引火しないのです。そのようにいうと
いや、あれは灯油ではなく、ガソリンなのだという人がいるかも
知れません。確かにガソリンの引火点はマイナス46℃ですから
簡単に引火します。しかし、ガソリンは灯油のように持ち運べな
いのです。したがって、容器にガソリンを入れて持っていき、部
屋に撒くというのは実際にはあり得ない想定だと思います。
 灯油自身は燃えないのです。灯油がガスになったものが燃える
のです。その灯油をガスにする仕組みを持っている装置が石油ス
トーブです。また、熱い鉄板に上に直接灯油をたらして蒸発させ
るのが石油ファンヒーターです。
 ゴミは昔から焼却することで処理してきたのですが、最近では
ゴミを燃やすと二酸化炭素やダイオキシンが出るということで、
「焼却は環境に良くない」ということになっています。しかし、
その結果として、ゴミを「燃えるゴミ」、「燃えないゴミ」と分
別回収し、燃えないゴミをリサイクルしたり、埋め立てることで
対応してきています。しかし、これによって、廃棄物貯蔵施設が
満杯になってしまったのです。
 分別やリサイクルには膨大なコストがかかります。しかし、そ
のコストに見合う成果が出ているのかというと、きわめて疑問な
のです。そこで、もし、埋め立てていたゴミをすべて焼却した場
合、問題はほとんど解決できるのです。
 ダイオキシンの問題は、焼却の条件を設定すれば何ら問題はな
いのです。焼却は化学反応の一種であり、炭素、水素と酸素の反
応なのです。したがって、毒性の出ないような焼却条件を選べば
良いのです。
 武田邦彦教授によると、家庭から出るゴミの割合が大きく変わ
らない限り、不燃物を除きすべてを混合して焼却すべきであると
いっています。焼却熱が高いものと低いものが混ざってちょうど
良いからです。
 EJ第2280号でご紹介した家庭から出るゴミの割合を再現
し、それぞれのゴミの発熱量を示しておきます。
―――――――――――――――――――――――――――――
           ゴミの割合  物の発熱量(kcal/kg)
  生ゴミ類   ・・・ 27%          930
  プラスチック ・・・ 12%         7260
  繊維など   ・・・  4%         3900
  紙      ・・・ 37%         3130
  草木     ・・・  5%         1570
  不燃物    ・・・ 15%            0
  ――――――――――――――――――――――――――-
            100%   16820
―――――――――――――――――――――――――――――
 もっとも燃やしやすいゴミは、キログラム当り2000〜50
00キロカロリー程度のゴミなのです。このレベルから発熱量が
上がっても下がっても焼却には都合が悪いのです。そういう意味
において、家庭から出るよく燃えるゴミの割合は41%であり、
バランスのとれた割合であるといえます。
 問題はダイオキシンの発生です。「ゴミは全部燃やせ」という
意見に対して必ず出てくる反論は「プラスチックを燃やすとダイ
オキシンが出る」というものです。
 ダイオキシンとは、ベンゼン環とハロゲンを含む化合物です。
ちょっと専門的になりますが、2つのベンゼン環の間が2つの酸
素で結合されているので、「2つのオキシム」――ダイ(2つ)
オキシン(オキシム)と呼ばれるのです。つまり、ベンゼン環に
酸素または塩素が結合し、それが300℃程度で反応して重合し
ベンゼン環2つから成る化合物に変化するのですが、それがダイ
オキシンです。
 プラスチックはハロゲンを含んでいるので、それを燃やすと条
件によってはダイオキシンが出る場合があります。この場合、次
の3つはいずれも正しいといえます。
―――――――――――――――――――――――――――――
        1.出る
        2.出るとは限らない
        3.出ない
―――――――――――――――――――――――――――――
 ハロゲン化合物を含むプラスチックを焼却すると、ダイオキシ
ンが出るのは本当です。化学反応ですから、出やすい条件にして
焼却すればかなりのダイオキシンが「出る」のは事実です。
 このことでわかるように、ハロゲン化合物を含んでいてもダイ
オキシンが「出るとは限らない」というのも事実です。焼却条件
を調節すればハロゲン化合物を含んでいてもダイオキシンは「出
ない」のですから、上記2と3も正しいのです。
 つまり、プラスチックを燃やすとダイオキシンが出るか出ない
かは、次のように条件付きなのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ダイオキシンが出やすい条件で燃やせばダイオキシンは出る
―――――――――――――――――――――――――――――
 ダイオキシンを出ないようにゴミを焼却するのは、そんなに困
難なことではないのです。それほど費用もかからないのです。そ
うであるとすれば、ゴミの分別回収とかリサイクルは一体何だと
いうことになります。
 「ゴミは毒性のガスが出ないように焼却する」――これで問題
は解決することになります。 ―― [地球温暖化懐疑論/23]


≪画像および関連情報≫
 ・ダイオキシンとは何か
  ―――――――――――――――――――――――――――
  ポリ塩化ジベンゾ−パラ−ジオキシン――PCDDとポリ塩
  化ジベンゾフラン――PCDFをまとめてダイオキシン類と
  呼んでいます。添付ファイルの図1にどんな形の化合物であ
  るかを示しました。1〜4と6〜9の位置に塩素の付いたも
  のがダイオキシンです。塩素の数や付く位置によっても形が
  変わるので、PCDDは75種類、PCDFは135種類も
  の仲間があります。 これらは毒性の強さがそれぞれ異なっ
  ており、2と3と7と8の位置に塩素が付いたものがダイオ
  キシンの仲間の中で最も毒性が強いことが知られています。
     ――http://www.erc.pref.fukui.jp/news/d00.html#1
  ―――――――――――――――――――――――――――

ダイオキシンの構造式.jpg

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2008年03月11日

●焼却を前提とするリサイクルに変更(EJ第2282号)

 焼却がリサイクルに置き換えられているせいもあると思います
が、現在のほとんどの自治体の焼却施設は「焚き火の延長のお粗
末さである」――武田教授はそういっています。
 最新鋭焼却プラントの建設費は、従来のものよりも2割ほど割
高になるだけであるといわれます。しかも、焼却のさい出るエネ
ルギーは電力に利用できるのです。
 ドイツの焼却施設には、最新鋭の焼却プラントが稼動している
そうです。日本の自治体にも入っていますが、現在のところごく
一部です。この焼却プラントを使えば、ダイオキシンなどを出さ
ずにほとんどのゴミを焼却できるのです。
 ものを燃やす場合、発熱量の高い物質と一緒に燃やさないと、
完全に燃焼させることは難しいのです。とくにプラスチックは燃
えにくいですが、キログラム当り7260キロカロリーの発熱量
を出すといわれます。
 家庭から出るプラスチックのゴミは約12%ですが、それを分
別して外してしまい、残りのゴミを燃やすとカロリーが低いため
燃えにくいのです。そのため、焼却施設では重油をかけて燃やし
ているのです。まさに本末転倒もいいところです。
 家庭から出るゴミをそのまますべて燃やすと、その発熱量は、
2500キロカロリーぐらいになります。これは次の表からわか
るように「よく燃える」レベルです。
―――――――――――――――――――――――――――――
   燃えない  ・・・・・ 0    〜 1800
   よく燃える ・・・・・ 1800 〜 5500
   装置故障  ・・・・・ 5500 〜 8OOO
          単位=キログラム当りキロカロリー
―――――――――――――――――――――――――――――
 ゴミを焼却すると10分の1から20分の1程度に小さくなる
のです。このようにして、ゴミを燃やしていれば、廃棄物貯蔵施
設が満杯になるのを防ぐことができるのです。
しかも、焼却によって小さくなったものがまた役に立つのです。
ゴミを焼却すると出るものには、次の3つがあります。
―――――――――――――――――――――――――――――
           1.スラグ
           2.メタル
           3.焼却灰
―――――――――――――――――――――――――――――
 ゴミの中で燃えるものを燃やして、その後で残るものとは何で
しょうか。
 まず、土やガラスから成る「スラグ」があります。これは舗装
や埋め立て用に再利用できるのです。これこそ本当のリサイクル
ということになります。スラグの中には有害物質の鉛があります
が、これを技術的に危険のないレベルにすることは可能です。
 続いて、鉄と銅が主成分の「メタル」があります。この中に含
まれる銅についてはとくに貴重であり、資源として再利用すべき
であるし、それは技術的にも可能です。
 最後に「焼却灰」があります。焼却炉内から舞い上がる灰のこ
とですが、この中には水銀、鉛、砒素などの有害物質が多く含ま
れています。
 武田教授はこうした焼却後のゴミの再利用について次のように
述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 焼却した灰の中には、鉄や銅、希少な金属が含まれているので
 すから、国内の「人工鉱山」に埋め、資源の備蓄を心がけるべ
 きです。21世紀の中盤には、世界中で資源不足になります。
 もともと資源のない日本には、幸運なことに外貨がある。外国
 から鉱物を買って一度製品化した後、すべて人工鉱山に貯め、
 将来、これを効率良く取り出す技術を開発すればいいのです。
 リサイクルの「時空性」を良く考え、直ちに循環するのではな
 く、時間をかけて循環することが大切です。 ――武田邦彦氏
 ――『暴走する「地球温暖化論/洗脳・煽動・歪曲の数々」』
                       文藝春秋社刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 リサイクルとは何でしょうか。人間がいったん使って捨てたも
のをもう一度製品として再利用することを意味しています。目的
は資源の節約であるというのです。
 しかし、問題はコストなのです。しかも、リサイクルにおける
技術的困難さは、例の古紙再生の失敗を考えてみても、明らかで
あると思います。リサイクルして再製品化できるのはそのほんの
一部でしかないのです。
 一番愚かなことは、食糧や飼料として使えるコーン(トウモロ
コシ)を栽培しても食べないで、直接バイオ燃料化にすることで
す。環境のためといいますが、このような発想が世界中に広がる
と、人類は深刻な食糧危機に直面することになります。
 ここに面白い発想があります。石油はその85%はそのまま燃
やされています。「石油の生焚き」です。その主たる部分は、火
力発電所で稼動させて電気をとるためであり、自動車や航空機に
使われるためであり、または事業所や家庭で、ボイラーや暖房に
使われるのです。すべて石油を燃やしているのです。
 これは非常にもったいないことなのです。そこで発想を転換し
てみるのです。石油はいったんプラスチックや繊維という製品に
して人間が使い、使用後に熱源や発電のために有効に燃やしては
どうかというアイデアです。
 これは、武田教授が主張しているアイデアです。武田教授によ
ると、焼却を前提に考えた場合、石油からプラスチックをどのく
らい作れば有効に使えるかを計算してみると、3000万トンと
いう数字になるというのです。
 しかし、現在は、リサイクルは「善」、焼却は「悪」というイ
メージが完全に定着しています。なぜ、このようなことになった
のでしょうか。       ―― [地球温暖化懐疑論/24]


≪画像および関連情報≫
 ・ウィーンの焼却場について
  ―――――――――――――――――――――――――――
  ウィーンのゴミ焼却場であると同時にその排熱は周辺地域の
  暖房の熱源にもなっています。ダイオキシン発生量を極力抑
  えた最新型の焼却場で、中身はとても機能的な建物です。そ
  の外観デザインを画家のフンデルトヴァッサーが手がけてい
  ます。ちなみに大阪のゴミ焼却場の外観デザインも彼の仕事
  です。
  http://homepage3.nifty.com/archi-jpg/a_map/austria/spittelau.html
  ―――――――――――――――――――――――――――

シュピッテラウ焼却場/ウィーン.jpg
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2008年03月12日

●リサイクルするとゴミが増える(EJ第2283号)

「特定家庭用機器再商品化法」――家電リサイクル法という法
律があります。2001年4月から施行されています。使わなく
なった家電製品――冷蔵庫、エアコン、洗濯機、テレビの4品目
から、鉄、アルミ、ガラスなどの素材を取り出し、再商品化する
というものです。
 このリサイクルは家電リサイクル会社が行うのですが、家電リ
サイクル会社は、家電小売店やメーカーが子会社として設立して
います。リサイクル料金は消費者の負担となっており、冷蔵庫で
5000円程度であり、かなり高額です。
 しかし、果たしてリサイクルして再商品化することができるの
でしょうか。
 それはかなり難しいのです。材料は必ず劣化するからです。そ
れに上記4つの家電製品にはそれぞれ寿命があります。次はメー
カーが念頭に置いている使用期限です。
―――――――――――――――――――――――――――――
      1.冷蔵庫  ・・・・・ 15年
      2.エアコン ・・・・・  8年
      3.洗濯機  ・・・・・ 10年
      4.テレビ  ・・・・・ 12年
―――――――――――――――――――――――――――――
 これらの使用期限を過ぎた家電製品で、もう一度加工して製品
に戻せる材料は、金属材料のごく一部――具体的には銅とアルミ
程度に過ぎないのです。これは容積比で、全体の10%程度しか
ありません。しかも、それをやるには高い技術と相当の時間がか
かるのです。
 武田邦彦教授は、製品リサイクルについて、自虐的に次のよう
に述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 やや逆説的ですが、どうしてもテレビのキャビネットをリサイ
 クルをしたければ、「材料が劣化しないうちに捨てる」しかな
 いでしょう。つまり、テレビを買ったら使わないで捨てれば、
 リサイクルできるということです。
             ――武田邦彦著/文春新書/131
                    『リサイクル幻想』
―――――――――――――――――――――――――――――
 このように、リサイクルに出された家電製品の材料のほとんど
は劣化しているので、家電製品に再利用できないのです。それで
はどうするのかというと、家電製品よりも下位の用途にリサイク
ルされるのです。このようなリサイクルを「カスケード・リサイ
クル」というのです。例えば、テレビのキャビネットは、公園の
杭やベンチなどにカスケード・リサイクルされています。しかし
これには量のバランスが取れないのです。
 なぜなら、使い終わった家電製品はすべてリサイクルに出さな
ければならないことが法律で決まっているので、どうしてもリサ
イクルされる製品はどうしても供給過剰になってしまいます。例
えば、テレビのキャビネットで公園のベンチばかり作ったら、日
本中の公園はベンチで埋まってしまいます。そうすると、それが
さらに新しいゴミを生んでしまうことになるのです。
 この家電リサイクル法より前の2000年に施行された容器包
装リサイクル法――容器包装に係る分別収集及び再商品化に関す
る法律によって、日々のペットボトルを分別して出すことが義務
づけられています。
 しかし、ペットボトルを回収してもそれを同じペットボトルに
再生することはできないことになっています。理由は2つあって
一つは劣化している材料で飲み物を入れる容器としては使えない
ことと、完全に再商品化することは技術的に困難だからです。無
理に再商品化しようとすると、原料である石油からペットボトル
を作るよりも、より多くのエネルギーを必要とするのです。
 この数字を具体的にいうと、ペットボトルを一個作るのに必要
な石油の量を1とすると、リサイクルする場合の石油の量は4に
なるのです。これについて武田教授は次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ペットボトルを石油から作り、消費者の手元に届けるまでの石
 油の使用量は、ボトルの大きさにもよりますが、約40グラム
 です。ところが、このボトルをリサイクルしようとすると、か
 なり理想的にリサイクルが進んでも、150グラム以上、つま
 り4倍近く石油を使うことになります。
             ――武田邦彦著/文春新書/131
                    『リサイクル幻想』
―――――――――――――――――――――――――――――
 リサイクルの難しさを如実に示した例は、トップの辞任にも発
展した古紙偽装問題です。日本製紙のトップは次のように述べて
古紙100%配合紙を廃止すると発表しています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 古紙100%配合紙は全く配合していない紙に比べ、製造工程
 では化石燃料由来のCO2排出量が増加するケースがあり、再
 生紙が地球温暖化に与える影響が大きくなっている。
                     ――中村雅知社長
―――――――――――――――――――――――――――――
 新しいクオリティの高い紙を作るよりも、古紙をリサイクルす
る方がエネルギーを余分に消費し、コストがかかるのです。これ
では何のためにやっているのかわからないので、即刻やめるべき
ですが、なぜかそのままやっているのです。本当に理解に苦しむ
ところです。
 家電リサイクル法においては、家電製品一台につき、3000
円〜5000円がかかるのです。家電を分別してリサイクルして
もそこから得られる資源はほとんどないのです。
 家電をゴミとして捨てるお金として考えることもできますが、
それにしても高いのです。ヨーロッパなどては、キログラム当り
10円程度なのです。    ―― [地球温暖化懐疑論/25]


≪画像および関連情報≫
 ・経済産業省/製紙業界に実態調査指示/古紙偽装問題
  ―――――――――――――――――――――――――――
  日本製紙が再生紙の古紙配合率を偽っていた問題で、経済産
  業省は1月17日、日本製紙連合会の鈴木正一郎会長(王子
  製紙会長)を呼び、実態調査を今月中に完了するよう指示し
  た。同省は、日本製紙以外のメーカーでも、コピー用紙など
  再生紙全般で配合率を偽っていた可能性があるとみており、
  調査結果を公表する方針。大手5社を中心に個別ヒアリング
  も実施しており、偽装問題は業界全体に波及してきた。
  http://www.business-i.jp/news/sou-page/news/200801180026a.nwc
  ―――――――――――――――――――――――――――

古紙偽装問題.jpg


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2008年03月13日

●紙の官製リサイクルの問題点(EJ第2284号)

 公認会計士・山田真哉氏の書いたベストセラーに『さおだけ屋
はなぜ潰れないのか?』というのがありましたが、チリ紙交換屋
が姿を消しているのをご存知でしょうか。
 考えてみると、日本は20年以上前から紙のリサイクルを盛ん
にやっていたのです。読み終わった週刊誌や新聞を紐でくくって
おくと、チリ紙交換屋のおじさんがトイレットペーパーと交換し
てくれたです。そのチリ紙交換屋が姿を消しつつあるのです。
 それでは、紙のリサイクルは何のためにやるのでしょうか。
 それは森林資源を守るためである――学校ではそのように子ど
もたちに教えています。現在、このことを疑う人はあまりいない
と思います。どうも、最近の日本人はあまりものごとを深く考え
ないようです。少しでも理屈に合っていると、簡単にそれを信じ
てしまうようです。
 はっきりしていることは日本の森林は紙の原料としてあまり使
われていないということです。森林であれば、どんな森林からも
紙の原料のパルプが採れるわけではないのです。
 それなら、日本以外の森林を使っていることになりますが、ど
この森林を原料として使っていると思いますか。
 何となく南の方――つまり、熱帯雨林とか開発途上国の森林を
頭に描いていないでしょうか。それも違うのです。テレビや新聞
では、熱帯雨林の森林や開発途上国の森林がどんどん減っている
映像をよく見せられるので、そう考えてしまうのです。
 森林を大別すると、次の2つになりますが、1990年までの
15年間でみると、開発途上国や熱帯雨林の森林が大きく減少し
ているのに対し、先進国の森林はわずかながら増加しています。
―――――――――――――――――――――――――――――
    先進国の森林   ・・・・・ +1%増加
    開発途上国の森林 ・・・・・ −7%減少
―――――――――――――――――――――――――――――
 ところで、日本人が使っている紙の原料は、そのほとんどが北
方の先進国の森林から採られているのです。紙の原料であるパル
プは次のように先進国の森林から多く採れるのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
   先進国の森林   ・・・・・ 全体の14.0%
   開発途上国の森林 ・・・・・ 全体の 2.5%
―――――――――――――――――――――――――――――
 森林を守って環境を保護しよう――一見このスローガンは正し
いように響きます。しかし、自然を守れの名の下に森林を保護し
ようとすると木材の需要が減少するのです。しかし、森林という
ものは、太陽の光を受けて成長するので、絶えず成長分をカット
していかないと、森林は育たないのです。
 現在、北欧の森林が環境運動の高まりによって、木が腐りつつ
あるというのです。これが事実なら、環境運動は環境を破壊して
いることになります。本末転倒とはこういうことをいうのです。
 ところで、チリ紙交換屋の話です。チリ紙交換は、家庭では不
要なものから有用なもの(チリ紙)を得ることができ、回収を行
う業者にとっては、集めた紙を売ることによって利益を得ること
ができる――しかも、回収した紙はリサイクルされるので環境に
良いというのですから、理想的な古紙回収方法だったのです。
 もちろん、そこには1円の税金も使っていないのです。国民の
側からみれば願ってもないシステムであったといえます。しかし
そのシステムを壊したのは、製紙業界と自治体なのです。それに
国が環境運動の名の下に強力な後押しをしたのです。
 製紙業界としては、何とかして古紙の価格を下げたかったので
す。添付ファイルの上のグラフを見てください。これは、チリ紙
交換屋が追放される前の古紙の価格です。1972年から198
5年までの古紙の価格は、最も安いときでキログラム当り10円
高いときで50円となっており、価格幅はかなり大きいといえま
す。それでも徐々に平均化され、15円から20円台になってき
ていたのです。
 しかし、製紙業界は不満で、これをもっと下げようとして経済
産業省に働きかけたのです。その結果、折からの環境運動の高ま
りを利用して、チリ紙交換屋による民間リサイクルを官製リサイ
クルに変更してしまったのです。
 その結果は歴然としています。添付ファイルの下のグラフを見
るとわかるように古紙の価格は15円から下落して、1998年
頃から10円を割り込み、さらに下がりつつあります。一体どう
してこんなに下がったのでしょうか。
 それは官製リサイクルになったからです。官製リサイクルにな
ると、自治体は特定の古紙回収業者――政治力のある業者と契約
し、回収を委託するとともに、子供会、老人会、自治会などのボ
ランティアにも呼びかけて、古紙を集めて自治体に届けると何が
しかの小遣いがもらえるようにしたのです。この場合、特定の古
紙回収業者に支払われるお金や子供会や老人会などのボランティ
アに渡す小遣いには国民の税金が使われているのです。
 民間リサイクルのときは、チリ紙交換屋が持ってきた古紙を製
紙業者がお金を払って買い取っていたのです。あくまで民と民の
取引であり、そこには税金の入る余地はないのです。
 しかし、官製リサイクルになると、製紙業者がチリ紙交換屋に
支払っていたお金は不要になり、すべてが国民の税金から支払わ
れるようになったのです。製紙業者にとってこんなうまい話はな
いのです。だからこそ、それこそ必死で経済産業省に働きかけた
のです。「環境の名の下に」――すべてがこの言葉で美化されて
しまっているのです。
 結局損をしたのはそんなことに税金を使われる国民とチリ紙交
換屋です。民から官への移管です。一昔前に戻っています。しか
も、一番得をした製紙業者が古紙再生を偽装していたのです。技
術的に100%古紙再生は技術的に不可能である、と。何をいま
さらです。結局、環境には何も役立っていないのです。 
              ―― [地球温暖化懐疑論/26]


≪画像および関連情報≫
 ・製紙会社OBのブログより
  ―――――――――――――――――――――――――――
  私は常々日本の製紙技術は世界最高水準を行くと確信してい
  ると言ってきた。それは日米両国の製紙会社を経験し、その
  現場や技術者に接してきたし、原木(原料)の相違点、需要
  家の紙質ないしは品質受け入れ基準の違い等々に接してきた
  から言えることであると思う。日本の古紙回収→再生システ
  ム、その再生の技術は世界に比類ないものとも信じている。
  その技術を以てしても年賀葉書に5〜20%残しの配合が限
  度で、40%はあり得ないのである(日本製紙の当初の弁明
  より引用)。コピー用紙(PPC)にしても現在のような高
  速コピー機が広く普及している時代にあっては、偽装とされ
  た配合率がユーザや消費者を満足させるものなのである。
  ――http://chomon-ryojiro.iza.ne.jp/blog/entry/465398/
  ―――――――――――――――――――――――――――

古紙価格の推移.jpg
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2008年03月14日

●ペットボトルのリサイクルは意義があるのか(EJ第2285号)

 ここまで調べてきていろいろなことがわかってきています。こ
こでもう一度リサイクルの目的をペットボトルのケースで考えて
みましょう。
―――――――――――――――――――――――――――――
      1.資源である石油を無駄にしない
      2.CO2の排出量を極力抑制する
―――――――――――――――――――――――――――――
 学者でも何でもないごく普通の人は、ペットボトルをリサイク
ルするといえば、一度使ったペットボトルが回収され、何らかの
再生過程を経て元のペットボトルとして使用可能になり、再び店
頭に並ぶと考えます。
 しかも、それがCO2の排出量の削減につながり、環境にやさ
しいというのですから、面倒なゴミの分別作業も仕方がないかと
いう気持になるというものです。
 しかし、実際はそうではないようなのです。ペットボトルのリ
サイクルは、非常に効率が悪く、再商品化できるのは回収された
ペットボトルのごく一部であるうえ、再生するには新たに生産す
るよりも多くの石油を使い、かえってCO2を多く排出すること
になるというのです。
 ところで、ペットボトルはどのように作られるのでしょうか。
 ペットボトルは、石油精製の過程でできるテレフタル酸とエチ
レングリコールを合成し、高温でポリエステルというプラスチッ
クにし、ブロー成型という成型過程を経て完成します。これを飲
料容器として利用するときは、ラベルを貼り、飲料を充填し、ト
ラックで運んで、やっと店頭に並ぶわけです。
 ペットボトルをリサイクルするときは、ボトルを回収して異物
を選別して、ラベルを剥がします。このラベル剥がしがかなり大
変であるといわれます。そして、新しいボトルを製造するときと
ほぼ同様のプロセスを経てリサイクルされます。
 しかし、既に述べたように「使えば材料は劣化する」というこ
ともあり、どうしても下位の用途に使わざるを得ない――すなわ
ち、カスケード・リサイクルになるのです。さらに、リサイクル
したペットボトルは、現在のところ衛生上の観点からペットボト
ルとしては利用されていないのです。
 しかも、ペットボトルを石油から作って店頭に並べるまでに使
う石油の使用量は約40グラムであるのに、リサイクルの場合は
約150グラムくらい必要になるのです。つまり、新しく作るの
に比べてリサイクルはその4倍の石油を使うのです。これでは、
リサイクルの2つの上記目的を両方とも果たせないことになって
しまいます。
 実は、リサイクルをするということで一番困るのがそれがペッ
トボトルを製造する側の免罪符になってしまうことなのです。そ
れまでは、資源も有効活用しなければならないし、環境にも配慮
する必要があるということで抑制気味だったものが、どうせ、リ
サイクルをするのだからということで、気にしないで大量生産に
入ってしまうことです。
 ペットボトルもリサイクルが始まるときには、1年で15万ト
ン程度であったものが、その後10年経過したら、生産量は年間
で50万トンを超えて、さらに増え続けているのです。しかし、
リサイクルの方はほとんど進んでいないのです。
 それでは、分別回収されたペットボトルはどこに行ってしまう
のでしょうか。
 この疑問に答える前に、リサイクルを定めた「○○リサイクル
法」という法律について研究する必要があります。ペットボトル
の場合は、「容器包装リサイクル法」ということになります。
 この「容器包装リサイクル法」ですが、これは略称であって、
本当の名前は次のようになっています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 「容器包装リサイクル法」=
 容器包装に係る分別収集及び再商品化の促進等に関する法律
―――――――――――――――――――――――――――――
 法律名にはどこにも「リサイクル」の文字はなく、「再商品化
の促進」という曖昧な表現になっています。法律の規定によると
この法律の目的は、分別、回収、処理に限定されていますが、こ
れらは次のような機関や団体によって実施されるのです。しかし
これらの団体の中心の作業は「回収」であって、リサイクルにつ
いての責任は曖昧なのです。要するに、リサイクルについては、
一応義務はあるものの、そこに明確な責任はないのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
    1.PETボトルリサイクル推進協議会
    2.(財)日本容器包装リサイクル協会
    3.アルミ缶リサイクル協会
    4.飲料用紙容器リサイクル協議会
    5.紙製容器包装リサイクル推進協議会
    6.ガラスびんリサイクル促進協議会
    7.スチール缶リサイクル協会
    8.プラスチック容器包装リサイクル協議会
―――――――――――――――――――――――――――――
 それにしても、「容器包装リサイクル法」に関する団体だけで
このように8つもあるのです。この中の財団法人日本容器包装リ
サイクル協会は「再商品化率」という数値を発表していますが、
その計算式は次のようになっています。
―――――――――――――――――――――――――――――
          ペットボトル本体をフレークにした量
 再商品化率 = ―――――――――――――――――――
             指定業者に渡された量
―――――――――――――――――――――――――――――
 フレークはペットボトルを素材の薄片状にしたものです。自治
体によっては、業者に渡した量を「再商品化」としているケース
もあるということです。   ―― [地球温暖化懐疑論/27]


≪画像および関連情報≫
 ●回収率の定義改訂、旧回収率から新回収率へ
  ―――――――――――――――――――――――――――
  使用済みPETボトルの回収率はこれまで分母に指定PET
  ボトル用樹脂生産量を用いていましたが、今回、産構審のガ
  イドラインに従い指定PETボトル販売量に変更しました。
  また、分子の一部である事業系回収量をボトル製造時の成形
  ロスを除いた使用済み指定PETボトル事業系回収量(以下
  事業系ボトル回収量)に変更しました。以後、これまでの回
  収率を「旧回収率」、改訂された回収率を「新回収率」と呼
  びます。    http://www.petbottle-rec.gr.jp/top.html
  ―――――――――――――――――――――――――――

プラスチックの再生プロセス.jpg


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2008年03月17日

●専門家はなぜ沈黙を守るのか(EJ第2286号)

 「地球温暖化懐疑論」というタイトルで、環境問題を取り上げ
て今回で28回目です。そろそろまとめに入る時点にきていると
思います。
 ここまで述べてきたように、現在各国が取り組んでいる環境対
策は、地球温暖化にストップをかけるという本来の目的を外れて
きわめて政治的な色彩の濃いものになりつつあります。
 2008年3月15日の日本経済新聞には、次の記事が掲載さ
れています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 欧州連合(EU)は14日に首脳会議を開き、温暖化対策が遅
 れる国には製品輸入を規制する対抗策を取る方針を決めた。ま
 た、年600億ユーロ(約9兆5000億円)にのぼるコスト
 負担を避ける狙いから、EU企業が米国や中国などに生産拠点
 を移すのを防ぐ。EUは京都議定書以降の取り組みを定めた包
 括的な温暖化対策で基本合意。
          ――2008.3.15付、日本経済新聞
―――――――――――――――――――――――――――――
 これを見てわかるように、明らかに地球温暖化問題はEUを中
心とする国際政治戦略になっているのです。日本は、環境問題に
熱心なEUと京都議定書に参加していない米国や中国のはざまで
最も損な立場になる恐れがあることは既に述べた通りです。
 本当に地球温暖化にストップをかけるには、当たり前のことで
すが、正しい環境対策が必要なのです。そのためには専門家、す
なわち、学者たちがもっとしっかりする必要があります。
 「ラッセル・アインシュタイン宣言」――こういう宣言をご存
知でしょうか。
 1955年のことです。あのアルベルト・アインシュタインと
英国の哲学者であり、数学者であったバートランド・ラッセル卿
が発起人になって、当時の第一線級の科学者11人が集まって行
われた宣言のことです。この宣言は次の内容だったのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
    「ラッセル・アインシュタイン宣言」
     核兵器の廃絶と科学技術の平和利用を訴える
―――――――――――――――――――――――――――――
 しかし、この宣言をした科学者たちの頭の中には「環境」とい
う意識はなかったようです。それから7年後の1962年になっ
て、米国の女性生物学者レイチェル・ルイーズ・カーソンの次の
有名な本が出たのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
  レイチェル・ルイーズ・カーソン著
  『沈黙の春』/Silent Spring, ISBN 978-4102074015
―――――――――――――――――――――――――――――
 この本は、DDTをはじめとする農薬などの化学物質の危険性
を鳥たちが鳴かなくなった春という出来事を通して訴えた作品で
す。この本は米国内だけでなく世界に衝撃を与え、当時米政府が
推進していた「化学薬品による有害生物絶滅計画」が、この本に
よって中止になったほどの影響があったのです。
 しかし、執筆から40年以上経過した現時点の最新の科学的知
見から見ると、その主張の根拠となった1950年代の知見の中
には、疑問符が付けられたものも多く存在しますが、本書が環境
問題の告発という人類史上重要な役割を果たしたという評価には
いささかも変わりはないといえます。
 しかし、現時点では、環境問題には誰も反対できない雰囲気が
出来上がっています。まさに「錦の御旗」です。これを利用して
メディアや政治家を巻き込んだ利権グループが自分たちに都合の
良いように法整備を進めてきたのです。問題はそれが必ずしも地
球温暖化を止める環境対策になっていない点です。
 ペットボトルのリサイクルしかり、スーパーのレジ袋廃止しか
り、ゴミの分別回収しかりです。こういう事態に環境問題の学者
たちの意見や提言があまりにも弱いように感じますが、一体どう
なっているのでしょうか。
 日本には、循環型社会形成推進基本法という法律があります。
これは、日本における循環社会の形成を推進する基本的な枠組み
となる法律です。これによって、廃棄物・リサイクル政策の基盤
が確立されているのです。
 この法律はどのようにして形成されたのでしょうか。武田邦彦
教授は次のようにその実情を明かしています。
 5人の官僚と5人の学者が集まって、環境に関するある政策を
決めたとします。この場合、官僚側からはいくつかの基本線が示
されます。そうでないと予算が出ないからといわれると、学者は
弱いものです。お金がないと研究活動はできないので、官僚の示
す基本線に異議があってもOKせざるを得ないのです。
 続いて、この政策を審議会にかけて承認させる必要があるので
すが、そこは官僚が入っていますから、その政策は審議会でオー
ソライズされます。審議会でオーソライズされると資金――研究
的競争資金という補助金が出るのです。この資金は総額で数兆円
規模という巨額なものです。
 補助金を手にした5人の学者は、自分の関係する学者たちにお
金――数百万円程度を配ります。そのときこう聞くそうです。こ
れを食べたいかと。学者たちはお金が欲しいので、「はい、食べ
たいです」と答えることになります。武田教授はこれを「青虫を
食べる」と表現しています。
 一度でも青虫を食べてしまうと、約3年で報告書を書く義務を
負うことになります。この場合、このお金は循環型社会形成に関
する資金であるので、報告書にはリサイクルの手法や成功例を書
くことになります。
 このあとに「循環型社会形成推進基本法」の原案が出てきたの
です。これに反対の意見を持つ学者でも、青虫を食べてしまった
あとでは反対できないことになります。いわば補助金は国からの
賄賂だと武田教授はいうのです。― [地球温暖化懐疑論/28]


≪画像および関連情報≫
 ●レイチェル・ルイーズ・カーソンについて
  ―――――――――――――――――――――――――――
  レイチェル・ルイーズ・カーソンは、1907年に米国のペ
  ンシルベニア州に生まれ、1960年代に環境問題を告発し
  た生物学者である。米国の内務省魚類野性生物局の水産生物
  学者として自然科学を研究。当時、州当局が積極的に散布し
  ていたDDTなどの合成化学物質の蓄積が環境悪化を招くこ
  とはまだ顕在化しておらず、その啓蒙活動を行った彼女の意
  義は大きかったのである。      ――ウィキペディア
  ―――――――――――――――――――――――――――

レイチェル・ルイーズ・カーソン.jpg
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2008年03月18日

●反対意見の中に真理がある(EJ第2287号)

 既に「錦の御旗」になっている環境問題――これに対する国の
環境対策に本を出したり、マスコミに登場したりして、堂々と異
を唱えている学者は、私の知る限り5人ほどおられます。
―――――――――――――――――――――――――――――
   武田 邦彦氏 ・・・・・    中部大学教授
   池田 清彦氏 ・・・・・   早稲田大学教授
   渡辺  正氏 ・・・・・    東京大学教授
   伊藤 公紀氏 ・・・・・  横浜国立大学教授
   薬師院仁志氏 ・・・・・ 帝塚山学院大学教授
―――――――――――――――――――――――――――――
 この中でも急先鋒なのは、おそらく武田邦彦教授ではないかと
思います。EJでは、とくに武田教授の所説を中心にここまでご
紹介してきております。
 武田教授の主張する日本の環境対策への反論は常識的に考えて
も納得のいくものであり、まさに目からウロコであるからです。
しかし、武田教授に関しては賞賛も多い一方で、理不尽なバッシ
ングも少なくないそうです。
 これに関して武田教授は、自分に対する攻撃は学問とは何かを
よく考えていない人のそれであるといっています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 学問というのは、ある現象に対してひとつの見方があれば、そ
 れを覆すような考え方もあることを互いに認め合うものです。
 それぞれの人が個々の考えを持っていて、それを尊重しあう。
 自分と違う考えを聞くことによって、なるほどこういう事実に
 対してこういう見方もあるんだなという視点を得る。それ自身
 がある意味、学問のひとつの形です。ですから、間違っている
 かどうかは究極的にわからないわけで、あなたはこういう考え
 を持っていて私はこういう考えを持っているという相互理解が
 学問の世界の前提です。(中略)学問の自由とか言論の自由と
 いうものは、そのときの権力、政府、巨大な組織に批判的、懐
 疑的だからこそ獲得できるもので、自ら権力にすり寄ったら自
 由は発揮できません。その点でも勘違いして「公的発表と違う
 から武田の数値は誤っている」と堂々と書かれる大学の先生が
 おられるのはビックリします。  ――武田邦彦著/洋泉社刊
         『環境問題はなぜウソがまかり通るのか2』
―――――――――――――――――――――――――――――
 国の施策というものは、さまざまな人の知恵が少しずつ追加さ
れていくというのが望ましいと武田教授はいいます。この方式な
ら、あとで前に決めたことが違っていることに気が付いた場合、
容易に修正できるからです。
 しかし、実際は最初に少数の人で決めた基本線が絶対的に正し
いということになってしまい、後からは誰が何をいっても変更で
きない仕組みになっているのです。環境問題もまさにそうなって
いると武田教授はいいます。
 その最初の基本線を決める委員を官僚が選ぶとき、官僚が考え
ていることに正面切って反対の意見を唱える人――例えば武田教
授のような人は絶対に選ばれることはないのです。このようにし
て、官僚が自らの省の省益をベースに考えている線で基本線が決
められると、あとはそのまま突っ走ってしまうのです。
 そして、後からそれが明らかに間違っていると気づいても絶対
に路線は変更されることはなく、そのまま政策が進められるのが
常です。官僚の考えていることにいかに間違いが多いかは、昨今
の年金問題、道路問題、防衛省問題などを考えてみれば容易にわ
かると思います。
 環境問題に限らず国として何かを研究しようというとき、最初
の基本線を決める段階で、官僚の考えていることに賛成派の人が
80%、反対派の人が20%にする構成にし、競争的競争資金も
その割合で配分せよと武田教授はいっていますが、官僚中心国家
になっている日本ではそういうことは難しいと考えます。
 武田教授にしても、池田教授にしても、ネットなどではボロク
ソにいわれていますが、テレビで環境問題について公開討論を呼
びかけても一向に相手があらわれないといいます。これについて
池田清彦教授は次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 世間の通説について、誰かが「それはウソだろ」と言った時、
 自分でもそれまでわかっていて黙っていた人たちは「これはヤ
 バイ」と、ただひたすら沈黙を守っているわけです。嵐が過ぎ
 るのを待って、「あいつが死んだらまた何か始めようか」とか
 「年だからそろそろくたばるか」とかそういう話にしかならな
 い。                  ――池田清彦教授
                 ――武田邦彦著/洋泉社刊
         『環境問題はなぜウソがまかり通るのか2』
―――――――――――――――――――――――――――――
 実に情けない日本の実情ですが、これからの時代を担う日本の
若者のさらに情けない実態が明らかになっています。次のデータ
は、10年ほど前に日本、米国、中国の高校生にアンケート調査
した結果です。数字は%、各項目を良しとする割合です。
―――――――――――――――――――――――――――――
              日本   米国    中国
  先生に反抗する    70.1  15.8  18.8%
  親に反抗する     84.7  16.1  14.7%
  学校をずる休みする  66.2  21.5   9.5%
  売春をすること    25.3 ―――    2.5%
  性的サイトを見る   70.1 ―――    6.1%
             ――日本少年研究所/1996
―――――――――――――――――――――――――――――
 ゴミの処理は基本的にはマナーの問題です。いくらマナーを守
っても、約束を守らないゴミの不法投棄が増えれば、どのような
立派な環境対策も実施してもすべてが無意味になってしまうから
です。           ―― [地球温暖化懐疑論/29]


≪画像および関連情報≫
 ●武田邦彦氏の講演より
  ―――――――――――――――――――――――――――
  「地球」の温度はあまり変わっていませんが、私たちが生活
  をしている「地表」の気温は高くなってきています。「地球
  温暖化」という言葉を使っているのは日本だけで普通は「気
  候の温暖化」と言います。気候が温暖化しているという理由
  は二つ考えられます。
   1)太陽からの熱が増えた
   2)地球から宇宙へ逃げる熱が減った
  大気の温度は太陽からの熱と宇宙へ逃げる熱のバランスで決
  まっています。そして、現在の気候の温暖化がどちらかは結
  論がでていないのです。
  http://homepage2.nifty.com/shokuiku/subkankyou0311.htm
  ―――――――――――――――――――――――――――

日本の環境対策に反論する学者.jpg
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2008年03月19日

●ゴアが取り上げた10の誤解(EJ第2288号)

 世界各国が真剣に取り組まざるを得ない地球温暖化問題――今
回のEJのレポートは、現在わが国が取り組んでいる地球温暖化
対策について批判的な立場に重点を置いてここまでレポートして
きました。
 ゴア氏の『不都合な真実』の最後の部分――「気候の危機の解
決に手を貸すためにできること」の部分に「地球温暖化をめぐる
ありがちな10の誤解」をまとめています。
 果たして誤解であるかどうかは別として、これを取り上げてみ
たいと思います。これらの10の誤解は、地球温暖化に関する反
論をまとめたものと考えられます。
 ゴア氏の指摘する10の誤解をすべて出したうえで、コメント
をすることにします。
―――――――――――――――――――――――――――――
 [誤解 1]/人間が地球の気候変動を引き起こしているのか
 どうかに関して、科学者の意見は一致していない。
 [誤解 2]/気候に影響を与える可能性のあるものはたくさ
 んある。だから、二酸化炭素だけを取り出して心配すべき理由
 はない。
 [誤解 3]/気候とは、時の経過とともに自然に移り変わる
 ものだ。だから、私たちが今見ている変化はどれも、自然の周
 期の一環にすぎない。
 [誤解 4]/オゾン層の穴が地球の温暖化をもたらしている
 のだ。
 [誤解 5]/温暖化について自分たちにできることはない。
 すでに手遅れだ。
 [誤解 6]/南極の氷床は大きくなりつつある。だから、温
 暖化のせいで氷河や海氷が溶けているというのは、本当のはず
 はない。
 [誤解 7]/地球温暖化はよいことだ。なぜなら、寒さの厳
 しい冬がなくなるし、植物の成長も早くなるから。
 [誤解 8]/科学者が記録している温暖化とは、単にヒート
 アイランドの影響であって温室効果ガスには何ら関係がない。
 [誤解 9]/温暖化の原因は、20世紀の初めにシベリアに
 衝突したいん石である。
 [誤解10]/気温が上がっていない場所がある。だから、温
 暖化なんて嘘っぱちである。
               ――アル・ゴア著/枝廣淳子訳
       『不都合な真実』より ランダムハウス講談社刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 ゴア氏がなぜこれらの「10の誤解」を本の巻末に置いたかで
すが、それは少なからずある地球温暖化の対する懐疑的意見にも
配慮して、それに反論することによって、自己の主張の正当性を
強調したかったものと思われます。
 しかし、よく見るとわかるように、これら1Oの誤解はいずれ
も核心を衝く誤解になっていないのです。なかでも「誤解9」と
「誤解10」に関しては、コメントの余地はないと思います。
 さらに「誤解6」の海水面の上昇の問題、「誤解7」の温暖化
はマイナスばかりではないということ、「誤解8」の気温測定の
問題については、既に本レポートで検討をしたテーマです。
 「誤解4」のオゾン層の破壊の問題は荒唐無稽であり、そのよ
うなことを主張している人がいるとはとうてい思えないです。オ
ゾン層の破壊は事実であり、人類にとって深刻な問題です。
 オゾン層というのは、地上から10〜50キロメートルほどの
成層圏にあるもので、このオゾン層によって、太陽がもたらす有
害な紫外線から生物は守られているのです。ところが、このオゾ
ン層が破壊されて、オゾンホールができていることが南極上空で
発見されたのです。1985年のことです。
 破壊の主な原因は、冷蔵庫、クーラー、ヘアスプレーの噴射剤
など、日常生活で使われているフロンガスだったのです。オゾン
ホールの発見によって、国際的な対策のひとつとして、ウィーン
条約で、オゾン層保護が採択され、日本は1988年に加入して
います。この条約には、2007年11月現在、190ヶ国およ
びEUが締結しているのです。
 「誤解1」「誤解2」「誤解3」はいずれも、地球温暖化は自
然現象であって、人知の及ぶものではないということをいってい
るのだと思います。しかし、これは明らかに誤っている考え方で
あり、確かに人間は地球環境を汚しています。
 昔から人間は自然からエネルギーを受け取り、それを使って活
動してきたのです。とくに農業社会では、すべて自然から種、土
地、水をもらい、食料を作ったのです。工業社会でも自然から原
材料を確保し、石炭を焚いて動力としたのです。
 そして、使い終わったものは川に流し、裏山に捨てたりしてい
たのです。それでも廃棄物は自然が片付けていてくれたのです。
つまり、最初のうちは自然の浄化装置が働いていたのです。
 添付ファイルを見てください。これは、武田邦彦教授が作られ
た図ですが、人間の活動である「活動系」と自然の「回生系」の
関係を示しています。
 上の図が「昔の循環」、下の図は「現代の循環」です。昔――
1940年以前は人間の活動系の流れよりも、自然の回生系の流
れが大きかったので、自然の浄化装置が働いていたのです。した
がって、何の問題も起こらなかったのです。しかし、1940年
を超えると、人間の活動が自然の回生系を上回るようになったの
です。つまり、自然が回生し切れなくなったのです。自然の浄化
装置の能力を超えてしまったわけです。したがって、「誤解1」
〜「誤解3」は本当に誤解なのです。CO2にしてもこのまま野
放しにしてはならないのです。
 そうすると最後に「5」が残ります。ゴア氏が一番いいたかっ
たことはこれだったのではないでしょうか。事実彼自身この誤解
は最悪であるといっています。手遅れなどではない。これからで
も十分間に合う、と。    ―― [地球温暖化懐疑論/30]


≪画像および関連情報≫
 ●オゾン層と紫外線について
  ―――――――――――――――――――――――――――
  オゾン層は、太陽からの有害な紫外線の多くを吸収し、地上
  の生態系を保護する役割を果たしている。紫外線は波長によ
  ってUV−A、UV−B、UV−Cに分類される。最も波長
  が短く有害なUV−Cはオゾン層によって完全に吸収され、
  地表に届くことはない。UV−AとUV−Cの中間の波長を
  持つUV−Bは、そのほとんどがオゾン層によって吸収され
  るが、その一部は地表に到達し、皮膚の炎症や皮膚がんの原
  因となる。最も波長の長いUV−Aは、大半が吸収されずに
  地表に到達するが、有害性はUV−Bよりも小さい。
                    ――ウィキペディア
  ―――――――――――――――――――――――――――

1940年以前と以後の循環.jpg

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2008年03月21日

●地球温暖化よりもっと怖い石油枯渇(EJ第2289号)

 現在、われわれ日本人は、何となく汚れた環境の中で生活して
いると考えていないでしょうか。
 結論からいうと、それは錯覚なのです。日本は世界に誇るべき
高度な環境技術を持っており、環境の汚染を目に見えて改善して
いるのです。
 実際問題として空気も水もとてもきれいになっているのです。
とくに日本の水道水は世界でもトップクラスであり、そのまま飲
んでも大丈夫です。しかもその安全性にいたっては、皮肉なこと
に市販の水よりも高いといわれているほどです。
 さらに食物も新鮮だし安全といいたいところですが、賞味期限
偽装や中国産ギョーザ事件で食の不安は高まっています。しかし
それでも国産の食品は世界的に見て安全といえます。
 人間の活動が急激に増えて、環境に大きな影響を与えたのは今
から200年前と70年前の2回だけです。200年前とは、産
業革命が成功し、蒸気機関が発明され、機械による大量生産がは
じまったときです。70年前とは、第2次世界大戦の直前におい
て工業技術が急速に発達した時代です。
 添付ファイルのグラフを見てください。グラフの下方に「自然
の活動による放出」というタイトルの付いた横線があります。自
然の活動による放出とは、大自然が火山の活動や生物の腐敗など
で硫黄を空気中に放出することを意味しています。その量はおよ
そ30兆グラムといわれています。しかし、グラフの線が横一線
になっているのは、自然は自らが出すものは自らが片付けている
からであり、だから一定を保っているのです。
 しかし、今から約70年前/1938年頃になると、人間の活
動が盛んになるにつれて、石炭や石油、鉱石の精錬などで硫黄の
放出量が高くなり、遂に1940年には人間の活動によって排出
する硫黄の量が、自然の出す硫黄の放出量を上回ってしまうので
す。かくして、「人間の活動による放出」のグラフが急上昇して
いくのです。
 1940年を超えると、環境への影響/公害が次々と発生した
のです。1952年のロンドンにおいて、1万人以上の死者を出
したスモッグ事件、日本においても1953年の水俣での公害患
者の発生に始まる次の4大公害事件が起こったのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 1.水俣病/水俣市不知火海沿岸地域 ・・・ 1953年
 2.第2水俣病/新潟県阿賀野川流域 ・・・ 1967年
 3.イタイイタイ病/富山県神通川流域 ・・ 1968年
 4.四日市喘息/三重県四日市石油化学 ・・ 1967年
―――――――――――――――――――――――――――――
 EJ第2286号でご紹介したレイチェル・ルイーズ・カーソ
ンの『沈黙の春』はこういうときに発刊されたのです。環境問題
がこの本を契機に一気に社会問題化したのは当然でしょう。
 添付ファイルのグラフをもう一度見ていただきたいのです。こ
のグラフには、日本のダイオキシン排出量(−■−)、二酸化炭
素濃度(−○−)のグラフが加えられています。これを見ると、
1950年から1970年までの20年間というのは環境にとっ
て大変な時代だったということがわかります。
 しかし、日本は優れた環境技術の開発によって、この環境危機
を乗り超えています。ダイオキシンや二酸化炭素濃度は1970
年をピークに急激に下がり、現在では何も問題がないレベルにま
で達しているのです。
 環境に問題があると、一番身体の弱い乳幼児やお年寄りが真っ
先に被害を受けることになりますが、日本の乳幼児死亡率やお年
寄りの死亡率は世界でもっとも低い水準にあるのです。それは、
日本の環境が健全であることの何よりもの証明です。そういう意
味で、日本人はもっと環境問題に対して自信と誇りを持ち、世界
をリードするぐらいの気概が欲しいものです。
 しかし、ここにきて日本の環境対策には大きな疑問がいくつも
出てきています。最初のボタンのかけ間違いをしたのか、何かが
おかしくなっています。国民が努力して行っていることが、肝心
の目的の達成に結びつく可能性が低いからです。
 目下のところ世界レベルの環境問題は、各国の生産量の拡大に
よるCO2の排出量の増加が地球温暖化の危機を引き起こすとい
うものですが、CO2の問題はそんなに心配しなくても良いとい
う説もあるのです。
 それはどうしてかというと、そう遠くない将来に石油が枯渇す
るからというものです。これは実に恐ろしい話です。地球温暖化
と石油の枯渇は、確かに両方とも怖いですが、これら2つの危機
は同時には来ず、確実に石油の枯渇の方が先に来るのです。
 石油の枯渇が先に来ると、人類はCO2を排出したくてもでき
なくなります。現在の地球温暖化危機論は、石油が永遠に使える
という前提に立っているといえます。
 いや、石油は枯渇することは多くの人はわかっていますが、現
実問題としては認識できていないのです。それは、「いずれ」で
あって、そんなに「すぐ」には来ないと考えている人が多いから
です。また、そんなこと恐ろし過ぎて現実的に考えられないとい
う人もいるでしょう。
 まだまだ石油は枯渇しないと考える人もいます。しかし、昨年
来からの「1バレル=100ドル」を軽くオーバーする原油高は
今までにないものです。なぜ、原油価格が下がらないかというと
少しオーバーにいうと、石油の枯渇を前提にして、原油価格は今
後は下がらず、上昇するのみと判断した世界の大量の投機資金が
原油市場に流れ込んでいるからです。地球温暖化危機よりも石油
枯渇に対する対策こそ推進すべきなのです。石油をなるべく使わ
ないようにする――そうすれば確実にCO2は減って地球温暖化
の大きな原因は取り除かれることになります。
 このテーマは今回をもって終了しますが、石油問題を引き続き
取り上げます。引き続きご愛読のほどお願い申し上げます。
          ―― [地球温暖化懐疑論/31/最終回]


≪画像および関連情報≫
 ●ロンドン・スモッグに言及しているブログ
  ―――――――――――――――――――――――――――
  このロンドンのスモッグ、「世の中が二間四方に縮」まるく
  らいなら罪はないのですが、何と1952年、死者1万人以
  上という大惨事を引き起こす原因に。世に言う「ロンドンス
  モッグ事件」。この年12月、寒気が居座るロンドンでは竃
  という竃が途切れる間もなく石炭を消費。遂には「暖房器具
  や火力発電所、ディーゼル車などから発生した亜硫酸ガス−
  二酸化硫黄などの大気汚染物質は冷たい大気の層に閉じ込め
  られ、滞留し濃縮されてpH2 ともいわれる強酸性の高濃度の
  硫酸の霧を形成した」。その結果、気管支炎、気管支肺炎、
  心臓病などにより死者は1万人を突破。こうした事態を受け
  イギリス政府は1956年、1968年と二度にわたって、
  「大気浄化法」を施行している。
http://paperbackwarehouse.jp/blog/C1692707094/E20070404142337/index.html  
  ―――――――――――――――――――――――――――

技術で克服された大気への汚染.jpg
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2008年03月24日

●財務省が国家を動かしている(EJ第2290号)

 株安、円高、原油高――日本の経済状況が大きく変調をきたし
ています。今までも株安、円高はありましたが、そのときの原油
価格は「1バレル=17ドル」程度、現在の原油価格は「1ドル
=100ドル」をはるかに超えています。
 3月22日付の日本経済新聞は、「2つの『100』企業に重
荷」と題して次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 (2つの『100』の一つは)1ドル100円を突破した円相
 場。このまま推移すると円高による営業利益の減少額は来期、
 トヨタだけで5000億円。ホンダ、日産自動車も含めた大手
 3社では計1兆円強に達する。もう一つの「100」は1バレ
 ル100ドルを突破した原油先物市場。こうした資源価格の上
 昇は鋼材や部品のコスト上昇要因になる。
            ――3月22日付の日本経済新聞より
―――――――――――――――――――――――――――――
 ところで、原油はなぜこのように高騰しているのでしょうか。
そもそもどのようにして原油価格は決まるのでしょうか。そして
この原油高はいつまで続くのでしょうか。
 石油の問題は分からないことが多いものです。そこで、EJで
は、『石油危機を読む』と題して、石油の問題にメスを入れ、そ
れを中心に日本経済の問題を考えていきたいと思います。しばら
くはその周辺問題について書きます。
 3月16日のテレビ朝日の『サンデープロジェクト』で、民主
党の鳩山幹事長が非常に印象的な発言をしたのです。それはキャ
スターの田原総一郎氏が、鳩山幹事長に対して次のように聞いた
ときのことです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 民主党党首の小沢一郎氏は、自民党が日銀の総裁候補として提
 示しようとしていた武藤敏郎氏をなんとなく容認するような姿
 勢を見せていたのになぜ一転して拒否する姿勢に転じたのか。
                     ――田原総一郎氏
―――――――――――――――――――――――――――――
 この問いに対して鳩山幹事長は、次のような趣旨のことを答え
たのです。これはまさしく民主党の本音であったと思います。
―――――――――――――――――――――――――――――
 民主党は今度衆院選があると、政権が取れる可能性がある。そ
 の場合、もし今回武藤氏を拒否すると民主党は財務省を完全に
 敵に回すことになる。それでスムースな政権運営ができるのか
 ということまで考えたからである。  ――鳩山民主党幹事長
―――――――――――――――――――――――――――――
 これは、実に驚くべき発言であると思います。なぜなら、それ
は財務省という存在が、いかに強力で抗し難い組織であるかを如
実に表しているからです。そういうことになると、日本という国
を動かしているのは、政府でも自民党でもなく、財務省というこ
とになります。
 それに、「武藤日銀総裁案」に民主党をはじめとする野党が参
議院で不同意にしたことに対して、与党にどちらかというと批判
的な朝日新聞まで含めて、日本のほとんどの新聞が一斉に非難を
したことです。これも極めて異常な現象です。ここにも財務省の
力が働いていると考えられます。
 野党の武藤氏不同意には、いくつかの情報が飛び交っているの
です。そのひとつに武藤氏の英語力に問題があるという説があり
ます。これは複数の情報源から情報で、民主党も把握しているは
ずですが、個人の能力に関することなので、正面きっていえない
ので、「財政と金融の分離」の原則に反する人物として反対を打
ち出したと考えられます。
 それならば、民主党は自民党が最後に提案してきた田波耕治氏
をなぜ拒否したのでしょうか。
 田波氏を強く推したのは、元大蔵次官の保田博・資本市場振興
財団理事長と財務省の意向を受けた額賀福志郎財務相であるとい
われています。ちなみに保田博氏は、福田首相の父、赳夫元首相
の秘書官を務めた人物です。実は、財務省が田波耕治氏を推した
のには深い読みがあるのです。これに関しては、須田慎一郎氏が
自らのコラムで財務省有力0Bの言葉として、次のように述べて
います。
―――――――――――――――――――――――――――――
 田波氏はその入省年次において武藤前副総裁よりも2つ上、と
 いうのが今回の“提案”の最大のポイントだ。霞ヶ関的発想で
 言うならば、年次が上の田波氏が日銀総裁に就任するというこ
 とは、武藤氏が日銀総裁に就任する目が残ることを意味する。
 つまり、田波氏の役割は、晴れて武藤氏が日銀総裁に就任する
 までの“つなぎ役”というところにあったのだろう。
  ――3月19日『夕刊「フジ」/金融コンフィデンシャル』
―――――――――――――――――――――――――――――
 驚くべき深謀遠慮です。何が何でも武藤日銀総裁実現のための
あの手この手です。成功すれば、かつて慣例となっていた日銀総
裁の財務省と日銀とのたすきがけ人事の復元になるのです。どう
しても日銀総裁を財務省の天下りポストにしたいわけです。
 国益よりも省益優先――これは実に困った問題です。米国のサ
ブプライムローン問題で米国経済に赤ランプが点り、日本経済に
影響が出てきているこの大事なときに、すべての省庁に隠然たる
勢力を持つ財務省が省益優先ですから、せっかく回復しかけてい
る日本経済を失速させかねないからです。
 株安、円高、原油高の現在の状況において、政府は何一つ有効
な手が打てていないのです。それどころか、財務省はこの経済状
況において、本来行うべきは減税政策なのに、逆に増税すら画策
しているのです。いや、事実上の増税路線を敷いているのです。
それは恒久減税と称した定率減税を廃止し、暫定税率を維持させ
ようとしているからです。これは、増税以外の何ものでもないと
いえます。          ―― [石油危機を読む/01]


≪画像および関連情報≫
 ●日銀総裁「迷走」は官僚の利権への執念が原因
  ―――――――――――――――――――――――――――
  福田政権の動きがおかしい。おかしいとは、滑稽という意味
  ではなく、「変」ということだ。3月18日、日銀総裁人事
  で、参議院で蹴られた武藤氏を再度提出したかと思えば、今
  度はすぐに、やはりたすきがけ人事のセオリーで元大蔵政務
  次官の田波耕治氏(68)を総裁候補にするとの意向を示し
  た。またもう一人の副総裁には日銀審議委員の西村清彦氏と
  のことだ。これについて、民主党は、西村氏については同意
  したが、田波氏の総裁就任は「不同意」とした。またもや福
  田政権の意向は、肩すかしを食らった格好だ。
http://www.news.janjan.jp/government/0803/0803183068/1.php
  ―――――――――――――――――――――――――――

鳩山民主党幹事長.jpg

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2008年03月25日

●円高が加速する要因を探る(EJ第2291号)

 円が1ドル=100円を割ったのは、2008年3月13日の
ことです。円が100円割れを起こしたのは、1995年10月
以来、12年5ヶ月ぶりのことなのです。
 しかし、今回の円高は12年前の円高と比べるとかなり違って
います。これに関して、財務省幹部は「円高ではない」といい、
日本経団連の御手洗富士夫会長は、次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 円高というよりドル安。日本の産業も過去10年の不況で鍛え
 られ、筋肉体質になり、抵抗力が強くなっている。
             ――日本経団連の御手洗富士夫会長
―――――――――――――――――――――――――――――
 しかし、今回の円高は2週間で8円も上がるなど、急速な円高
となっています。どうして、円高は加速したのでしょうか。これ
を理解するには、背景的な事実を知る必要があります。
 「円キャリートレード」というものがあります。これが、20
05年から2007年前半まで主として海外の投資家を中心に盛
んに行われ、円安を加速してきたといわれています。
 「円キャリートレード」とは、低利の円を調達して高金利通貨
で運用して金利差を稼ぐ運用方法のことです。いま多くの個人投
資家が行っている外国為替証拠金取引(FX)も円キャリートレ
ードの一種といえます。
 なぜ、これが流行したかというと、2002年〜2005年に
かけて各国中央銀行による超金利緩和政策によってお金が豊富に
出回り、市場が大きく上下動しなくなったからです。市場のこう
いう状態を「ボラティリティが低い」というのです。
 こういう時期は、トレーダーや投資家は、為替や債券、株式を
売って値ざやを稼ぐことが難しいので、持っているだけで利益が
出せるキャリー取引を活発化させようとするのです。その結果、
本来は経常収支の黒字によって円高が進行するはずの日本で、円
売りが多いために、逆に円安が進行していたのです。
 ところが、2007年の夏以降のサブプライムローン問題を契
機にして、市場が「ボラティリティが高い」という状態になって
しまったのです。この状態になると、円キャリートレードを新た
に行うメリットは消滅します。
 この円安を後押ししていた円キャリートレードの魅力がなくな
ることによって、円高になりやすい状態になったのですが、金利
が低く、先行きの経済成長も望めない日本の通貨をどういう人が
果たして買うのでしょうか。
 今回の円高加速要因について、JPモルガン・チェース銀行の
佐々木融氏は、こういう状況において市場が円を買う理由として
次の3つを上げています。
―――――――――――――――――――――――――――――
   1.日本は多額の貿易黒字を抱えていること
   2.日本は世界最大対外純資産国であること
   3.円キャリトレードの巻き戻しがあること
―――――――――――――――――――――――――――――
 第1の要因から考えることにします。
 日本は多額の貿易黒字を抱えている国です。貿易黒字は輸出か
ら輸入を引いた数がプラスになることをいうのです。日本で作っ
たものを日本人が買わないと貿易黒字は増えます。
―――――――――――――――――――――――――――――
     貿易黒字額 = 輸出額 − 輸入額
―――――――――――――――――――――――――――――
 それでは、なぜこれまで日本は円安だったのかというと、日本
の投資家と企業による対外投資額が貿易黒字額よりも多かったか
らであるといえます。
 具体的にいうと、2005年と2006年の対外投資額は、年
間14兆〜15兆円であるのに対し、貿易黒字額は年間10兆円
前後だったのです。そうすると、対外投資には円売りを伴うので
差額の4〜5兆円分が円安になります。
 しかし、2007年の対外投資額は12兆円程度に減る一方、
貿易黒字の方は12兆円程度と増えて、円売りと円買いの額が拮
抗したのです。日本は貿易黒字から生ずる円買いが常に存在する
ので、対外投資が貿易黒字以下になると円高になるのです。
 続いて第2の要因について考えます。
 日本は世界最大の対外純資産国であり、その額は、2006年
末現在で、215兆円もあるのです。その多くは対外証券投資で
すが、それらを国内に持ってくるとき円買いを行うので、結局は
円高になります。
 これだけドル・円相場が下がっているので、為替リスクを嫌う
日本の投資家が、外貨建て証券を手仕舞いして、円を買い戻すこ
とも十分起こりうるのです。このように、円を買う理由はいくら
でも出てくることになります。
 最後に第3の要因について考えます。
 実は円キャリトレードはさまざまな形で広範に行われているの
です。例えば、専門的になりますが、海外における円建て住宅ロ
ーン、輸出企業におけるヘッジの遅れ、輸入企業による長期の為
替予約、外国人投資家の保有する日本株の為替ヘッジなどです。
 これらのキャリートレードが積み上がっている状態は、いずれ
急激な円高を引き起こす要因となるのです。いずれにせよ、これ
らは今後、円買い戻しの中心になり、円高を加速するのです。
 ここまで輸出立国をはかってきた日本では「円安は景気にプラ
ス」というのが常識でしたが、この常識に対して異論が出ている
のです。それは、「円高が進むと、GDPを0.4 %〜0.5 %
押し上げる効果がある」という説がそうです。
 実際に2005年頃から、輸出物価が上昇基調なのに、輸出数
量が増えているのです。これは高機能の薄型テレビや工作機械と
いった海外メーカーが真似ができない輸出品の割合が増えている
ためなのです。また、円高になると、高騰している原油の輸入価
格が下がるメリットもあります。―― [石油危機を読む/02]


≪画像および関連情報≫
 ●円キャリートレードの巻き戻しについて
  ―――――――――――――――――――――――――――
  [東京 2007年6月8日 ロイター] 渡辺博史財務官
  は8日、都内での講演で、円キャリートレードについて、巻
  き戻しがあっても大きなものにはならないとの認識を示した
  うえで、現時点で大きなリスクはないと述べた。渡辺財務官
  は、世界経済について安定しているとの認識を示すとともに
  日本経済に関しても「企業部門の利益が上がっており、個人
  消費も高まっている。ますます労働市場は引き締まると考え
  ている」とし、良好な状態にあるとした。
  http://jp.reuters.com/article/businessNews/idJPJAPAN-26345120070608
  ―――――――――――――――――――――――――――

佐々木融氏.jpg
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2008年03月26日

●漂流を続ける日本経済(EJ第2292号)

 止まらない円高――昨日のレポートでも述べたように、この円
高トレンドは簡単には収まらないと考えられます。それでは、今
後日本経済はどうなっていくのでしょうか。
 多くの経済の専門家が今後の日本経済の展望について述べてい
ますが、「週刊エコノミスト」3月25日特大号に掲載された安
達誠司氏――ドイツ証券シニアエコノミストの次の論文は大変参
考になります。
―――――――――――――――――――――――――――――
   小さくなる自立余地
   『頼りは「米国回復」だけ日本経済の漂流は続く』
    ――ドイツ証券シニアエコノミスト/安達誠司氏
―――――――――――――――――――――――――――――
 以下、安達氏の論文をベースにして、今後の日本経済の展望に
ついて述べていくことにします。
 今や米国の景気は、リセッション(景気後退)入り直前のとこ
ろにきています。この米国の景気後退は世界経済にどのような影
響を与えるのかについては、次の2つの考え方があります。
―――――――――――――――――――――――――――――
 1.米国のリセッションは世界経済に相応のマイナスショッ
   クを与える ・・・ リカップリング(再連動)論
 2.米国のリセッションがあっても、新興国などが世界経済
   を牽引する ・・・ デカップリング(非連動)論
―――――――――――――――――――――――――――――
 2008年に入ってから世界的な株価調整が行われており、現
時点では、上記リカップリング(再連動)論が優勢となっている
と安達氏は指摘しています。
 日本では、3月13日の日経平均株価終値は、1万2433円
44銭となっており、約2年7ヶ月ぶりの安値水準に落ち込んで
います。2007年2月26日から今年の3月11日までの株価
騰落率を主要株価指数で示すと次のようになります。
―――――――――――――――――――――――――――――
   米国ダウ平均 ・・・・・・・・・・  3.8%減
   英国FTSEIOO ・・・・・・・ 11.6%減
   日経平均 ・・・・・・・・・・・・ 30.5%減
―――――――――――――――――――――――――――――
 サブプライムローンではほとんど傷を負っていない日本の株式
の下落幅は突出しています。もともと日本の経済の体質が外需依
存経済であることと、株式市場においても外国人投資家への依存
度が高いので、こういう結果になったものと思われます。
 今後起こりうることとして輸出の減速が考えられますが、安達
氏によると、これはリカップリング(再連動)論による影響では
ないというのです。
 つまり、米国経済の後退による欧州や新興経済圏への外的ショ
ックが日本の輸出の減速をもたらすのではなく、それらの国々の
行き過ぎた不動産ブームがもたらしたインフレ懸念と、それを封
ずるための金融引き締めによって景気が減速し、それによって起
こるといっているのです。すなわち、リカップリングではなく、
デカップリングによるものであると安達氏はいうのです。
 欧州及び新興経済圏では、2003年以降の約4年間、金融緩
和政策を取っており、それがグローバルな不動産ブームを巻き起
こしたのです。この不動産ブームは、日本が比較的優位を有する
建設機材や発電機などの資本財や自動車の輸出を拡大させたので
すが、その不動産ブームが行き過ぎたことにより、インフレが懸
念されるまでなったのです。
 このようにして、この不動産ブームは欧州では既に終焉を迎え
ていますが、新興経済圏では今も金融引き締めが強化されている
のです。その結果、当然のことながら景気は減速することになる
のです。これにより、日本の輸出は減速することになります。こ
れについて、安達誠司氏は次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 この(不動産ブーム)の終焉とそれに伴う当該地域の内需減退
 は、これらの日本の輸出、いや、日本経済全体を牽引してきた
 比較的優位産業の業績悪化につながりかねない。輸出産業の企
 業業績予想では、米国経済の減速は大方織り込まれているもの
 の、現時点では、欧州や新興経済圏の減速は織り込まれていな
 いと思われる。 ――「週刊エコノミスト」3月25日特大号
―――――――――――――――――――――――――――――
 さて、サブプライムローン問題に端を発した米国における金融
混乱はFRB(連邦準備制度理事会)のバーナンキ議長によって
積極的な金融緩和策が実施されています。
 米プリンストン大学のクルーグマン教授は、金融緩和に加えて
ゼロ金利の必要性を説いています。これに関してFRBは、20
02年に次の論文を発表しており、1990年代に日本が実施し
た金融政策をFRBが取る可能性があります。これは、当時日銀
(速水総裁)の取った量的緩和とゼロ金利政策が、適切な政策で
あったということを示しています。
―――――――――――――――――――――――――――――
   『デフレを回避するために――90年代日本の教訓』
                      ――FRB
―――――――――――――――――――――――――――――
 もし、米国がゼロ金利と量的緩和を取った場合、それは日本経
済にとってかなりの円高インパクトをもたらすことになる可能性
があります。
 そうすると日本経済は、新興経済圏の景気減速と長期化する円
高のダブルショックを浴びることは確実であり、外需依存を強め
た日本経済の成長率をかなり押し下げる可能性があると安達氏は
予測しています。
 こういう状況において、日本はどのように舵取りをしたら良い
のでしょうか。この問題については、明日のEJで考えることに
します。           ―― [石油危機を読む/03]


≪画像および関連情報≫
 ●デカップリングとリカップリング
  ―――――――――――――――――――――――――――
  デカップリングとは、元々、何かと何かを離す、あるいは分
  離することを意味する。昨年、米国でサブプライム問題が表
  面化した後、経済専門家による、この言葉の使用頻度が眼に
  見えて上昇した。彼らが言うデカップリングの意味は、サブ
  プライム問題によって減速傾向が顕在化しつつある米国経済
  と、その他の諸国、特に高い成長率を続ける新興国の経済が
  離れる=違った方向に進む、つまり、米国の経済が減速する
  一方、新興国の景気は堅調な展開を続けるという見方だ。新
  興国の経済が堅調であれば、世界経済も、それほど米国の影
  響を受けないで済むというのがデカップリング論の概要だ。
  デカップリングの反対が、リカップリング=動きが一緒にな
  る、つまり、米国経済の減速で、世界経済全体の景気が悪化
  するとの考え方だ。
       ――http://diamond.jp/series/keywords/10020/
  ―――――――――――――――――――――――――――

安達誠司氏.jpg
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2008年03月27日

●なぜ、日本株が下がっているのか(EJ第2293号)

 行き過ぎた不動産投資のバブルの崩壊による海外の景気減速と
米国の金融混乱がもたらす円高――これらは日本経済に深刻な影
響を与える要因になります。
 外需がダメなら内需に頼るしかないが、景気の減速による雇用
調整圧力が高まるため、個人消費の基礎となる所得環境は厳しい
ままの状態です。生活に関連する物価が上がっているのに対し、
収入は増えていないのですから、消費が大きく伸びる可能性は薄
いと考えられます。しかし、もし、消費が落ち込んでしまうと、
景気の下支えは弱くなります。
 これについて安達氏は、そうかといって消費は大きく落ち込む
ことはなく、安定的に推移すると見ています。GDP統計ベース
の家計消費と所得の関係を分析すると、消費は必ずしも所得の動
きに制約を受けていないことがわかっているからであるとしてい
ます。これを「消費平準仮説」というのです。
 この点において安達氏は楽観論に立っていますが、日本の個人
消費については悲観論も多いのです。
 BNPパリバ証券東京支店経済調査本部長の河野龍太郎氏は個
人消費については次のようにいっています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 中堅・中小企業を中心とした賃金回復が遅れ、原材料高による
 値上げが、家計の実質購買力を低下させ、消費を抑制する。コ
 スト増の悪影響がついに家計に波及しつつある。
  ――河野龍太郎氏/「週刊ダイヤモンド」3/1/2008
―――――――――――――――――――――――――――――
 しかし、安達氏のいう「消費平準仮説」に立っても、1996
年〜97年の金融危機のようなことが起きると、消費は確実に大
きく落ち込むことになります。なぜなら、消費は将来の所得見通
しに基づいて決定されるからです。したがって、大手金融機関が
経営破綻するような状況になると、消費者は将来に不安を感じ、
消費を抑えることになるのです。
 幸いにもサブプライム問題が日本の金融機関の経営を揺るがし
金融不安を再燃させることは今のところ考えられないので、最悪
の事態は避けられる見通しです。
 問題は、現在の日本の景気減速の大きな原因となっている住宅
投資の落ち込みです。2005年に発覚した構造計算書偽装問題
を受けて、2006年に成立した改正建築基準法が2007年6
月から実施されたのですが、これによって、法改正以降の建築確
認申請は滞ったままの異常な状態が続いたのです。
 これは、現場知らずの国交省による法改正のミスなのですが、
そのために住宅着工は大幅に遅れ、日本の景気の足を引っ張った
のです。国交省といえば、目下道路特定財源の問題で火の車です
が、こんなひどいミスも冒しているのです。
 といっても、2008年1月の住宅投資は、年率換算で120
万戸まで回復しており、マイナス効果は一巡したと見られるので
す。しかし、これは景気の下支えにはなるものの、景気を上へ引
き上げる力はないと安達氏はいっているのです。
 つまり、日本経済は海外の景気減速や円高によって、沈むこと
はないものの、そうかといって、自力で上に上がることはできな
い状態なのです。これが「日本経済は浮遊する」理由のひとつで
ある――このように安達氏はいっています。
 それでは、日本経済を「浮遊」ではなく、「上昇」させるには
どうすればいいのでしょうか。
 重要なことは、欧州を中心とする不動産バブルは明らかに崩壊
しつつあるが、日本はそのブームの完全に蚊帳の外にいるという
事実です。一般的にいって、バブルの崩壊局面において、バブル
の拡大場面で対象外であった金融資産の評価は相対的に改善する
ものです。日本株こそまさにその金融資産であるといえます。ま
して、日本はサブプライムローン問題でも蚊帳の外なのです。
 しかし、ここで大きく値を上げていいはずの日本株が前にも増
して相対的下落――アンダーパフォームしているのです。アンダ
ーパフォームとは、その株の株価上昇率が日経平均などの株価指
数を下回ることをいうのです。反対語としてアウトパフォームと
いう言葉がありますが、これはその株の株価上昇率が日経平均な
どの株価指数を上回ることをいいます。
 ここで添付ファイルを見ていただきたいのです。これは、20
03年1月以降の日米相対株価の推移をあらわしています。日本
株は2005年8月の郵政解散以降、米国株にアウトパフォーム
して上昇してきたのですが、それを止めてしまったのは2006
年3月9日の日銀による量的緩和解除であり、アンダーパフォー
ムを決定づけたのは、2007年2月21日の日銀の第2次利上
げと7月29日の参院選での自民党の大敗、さらに9月13日の
安倍晋三内閣の突然の退陣だったのです。グラフはそれをはっき
りとあらわしています。
 日本の悪いくせは、少し景況感が回復すると、すぐ金融を引き
締め、改革路線を後退させてしまうことです。とくに2007年
5月1日の三角合併解禁以降の「外資締め出し・金融鎖国」路線
は大きな問題です。三角合併解禁とは、消滅会社の株主に存続会
社の親会社の株式を交付して企業合併ができるようになったこと
をいいます。
 問題だというのは、この法律によって、比較的簡単に企業を買
収できるようになるということで、主要企業による相つぐ買収防
衛策の発表や外資に対する空港設備規制の動きが顕在化している
ことです。なかでもまずかったのは、空港設備規制の動きが、福
田首相がダボス会議において、今後も改革路線を推進すると発言
して日本に帰国した直後に顕在化したことです。
 これでは、そうでなくても外国人投資家への依存度が大きい株
式市場から外国人投資家が逃げ出すのは当然のことです。外国人
投資家から見ると、日本が何を考えているかわからなくなってし
まっているのです。日銀総裁の空席もその一環として大きなマイ
ナスになっているのです。   ―― [石油危機を読む/04]


≪画像および関連情報≫
 ●アンダーパフォームとアウトパフォーム
  ―――――――――――――――――――――――――――
  一定の期間にその株がどれだけの収益を投資家にもたらした
  か(もたらしそうか)を測る場合には、「その期間に何%上
  昇したか(上昇しそうか)」という絶対評価と、「平均的な
  収益を何%上回ったか(上回りそうか)」という相対的な評
  価がある。アンダーパフォームは相対的な評価に使う。アナ
  リストが投資判断する時に使う。比較対照となるのは、日経
  平均やTOPIXなどの株価指数で、それらをベンチマーク
  と呼ぶ。反対語はアウトパフォームである。
    http://allabout.co.jp/glossary/g_money/w001663.htm
  ―――――――――――――――――――――――――――

日米相対株価の推移.jpg
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2008年03月28日

●福田政権バスの行き先はどこか(EJ第2294号)

 「石油危機を読む」というタイトルを掲げているのに、なぜか
円高や株安のことを書いていて、石油の話がなかなか出てこない
――このように考えている方も多いと思います。
 株安、円高、原油高を「三重苦」と書いている新聞や雑誌もあ
りますが、円高は原油高のマイナスを少し和らげてくれる効果が
あるので、本当は歓迎なのです。なぜなら、石油はドル建てであ
るからです。
 しかし、今回の円高――実は米国に対してだけなのです。ユー
ロを含む15種類の外貨に対しては円安なのです。それもプラザ
合意以後の1985年10月と同程度であるという歴史的円安な
のです。ちなみにユーロに対しては現在は150円台後半程度で
あり、2000年に「1ユーロ=90円」を突破するまで上昇し
た円相場がまるでウソのようです。
 この2000年以降の円安傾向は、急成長するアジアの新興国
や、原油高で潤う資源国通貨が円に対して強くなったことに加え
て、日本で景気が低迷して物価下落が続いたからなのです。
 これを見ると、もはや円ドル相場だけを見ていたのでは、市場
全体が読めなくなってきており、輸出立国をはかってきた日本も
そろそろ円安政策を見直すときであるといえます。これはまさに
経済失政そのものであり、日本の経済の現在の実力を如実に示し
ているといえます。そういう日本経済が置かれている状況を展望
した上で、原油問題を考えてみようとしているのです。
 愛読している「日経BPネット」の「田中秀征の一言啓上」の
第71回に実に面白いレポートが出ています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 小泉純一郎政権をバスに例えれば、行き先はもちろん「郵政の
 民営化」。バスの前に「郵政民営化行き」と大きく標示してあ
 る。それどころかバスの腹にも後ろにもそう書いてある。その
 上、街宣車のように、運転手の小泉さんが大声で叫びながら走
 る。小泉バスは郵政の民営化が終着点。運転手は降りてしまう
 し、バスもほかには行かない。乗客である国民は、特に郵政民
 営化に行きたかったわけではない。しかし、運転手があまりに
 確信をもって走るものだから、次第に乗客もそれに同調した。
  ――「日経BPネット」/「田中秀征の一言啓上」第71回
―――――――――――――――――――――――――――――
 田中秀征氏は自民党の政治家だったのですが、1993年6月
に自民党を離党し、新党さきがけを結成、代表代行を務めた人で
す。私の印象では、政治家というより学者タイプの人です。現在
は、福山大学教授として教鞭をとっています。
 ここで田中氏が強調しているのは、小泉元首相は「行き先」を
明らかにして走ったということです。政治において、これほど重
要なことはないのですが、それをやった総理大臣は非常に少ない
といえます。
 続く安倍バスはどうだったでしょうか。田中氏は次のように書
いています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 安倍晋三政権は、バスの行き先が多すぎた。どこから先に行く
 のかもはっきりしなかった。それに運転手の技能にも乗客は危
 うさを感じた。「小泉さんが熱心に乗車を薦めたから乗った」
 という乗客も多かった。その人たちも、次第に途中で降りてし
 まった。        ――田中秀征氏の上掲レポートより
―――――――――――――――――――――――――――――
 確かに安倍政権はあれもこれもだったのです。目指すべき行き
先が多いのに優先順位がはっきりしなかったのです。それに運転
――政権運営も稚拙であったといえます。
 それでは、現在の福田バスはどうでしょうか。田中氏は次のよ
うに書いています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 福田康夫首相が運転する現政権の行き先はどこだろうか。それ
 が必ずしもはっきりしていない。運転手は実直な人柄。運転も
 慎重で安全。しかし、行き先が分からなければ、不安は消えな
 い。「何を目指しているのか」、それがもっと明確であれば期
 待や支持が大きく広がるはずだ。
             ――田中秀征氏の上掲レポートより
―――――――――――――――――――――――――――――
 正直いって、福田政権の行き先は安倍政権のそれよりももっと
わからないのです。田中氏はさきの日銀総裁人事における首相の
リーダーシップはとても褒められたものではなく、新しい政権像
や首相像を打ち出す絶好の機会をこれによって逸してしまったの
ではないかと述べています。全くその通りであると思います。
 このところ目に見えて、日本の国力が落ちていることを感じま
す。それは政治のリーダーシップ――すなわち、首相のリーダー
シップが弱くなっているからであると思います。
 田中秀征氏は、福田首相が描いている政権像や首相像は、おそ
らく父・福田赳夫首相のそれではないかといっています。もし、
そうであれば、内外の環境が一変している今の日本の政治状況に
は、対応できないと指摘しています。首相は経済の現況に対して
あまりにも無関心であるように見えます。
 今回の円高は、対処のしかたが今までとは違うと思うのです。
なぜなら、今回は、その背景にドルの信認が揺らいでいるという
構造的な問題があるからです。
 ここ数年の世界経済は、経常赤字を膨大させながら消費を続け
る米国に世界中がモノを売るという危ない均衡の上になんとか成
り立っていたのですが、それがサブプライム問題を契機に限界が
来てしまったのです。
 したがって、同じ円高、株安、原油高でも従来とは異なる手を
打っていかないと、経済の展望が開けないのです。このあたりの
ことをよくチェックしながら、そのなかで、原油の問題を考えて
いきたい――そう考えています。ドルに対する円高はかなり長く
続きそうです。   ―― [石油危機を読む/05]


≪画像および関連情報≫
 ●2008年3月21日/円対ユーロ
  ―――――――――――――――――――――――――――
  円は対ユーロでは3営業日ぶりに大幅に反発して始まり、そ
  の後はやや上げ幅を縮小している。12時時点では1ユーロ
  =153円35―39銭銭前後と19日の17時時点と比べ
  2円28銭の円高・ユーロ安水準で推移している。金や原油
  が大幅に続落し、商品先物相場と反対の動きを示しやすいド
  ルが対ユーロで大幅高となったことにつれて、円も対ユーロ
  で上昇した前日の海外市場の流れを引き継いだ。その後は利
  益確定目的の円売り・ユーロ買いも出て、円はやや伸び悩ん
  でいる。              ――日経ネットより
  ―――――――――――――――――――――――――――
●「田中秀征の一言啓上」/第71回

http://www.nikkeibp.co.jp/style/biz/column/shusei/080321_71st/

田中秀征氏.jpg
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2008年03月31日

●既に円高に強くなっている日本企業(EJ第2295号)

 円高の影響についての考察をもう少し続けましょう。円高が伝
えられると、すぐ企業業績――とくに輸出企業の業績が悪化する
ということで、株が売られて株安になる――これが今までの常識
だったのです。
 実際に3月17日、東京外国為替市場ではドルが売られ、一時
「1ドル=95円台」になったのです。この円急騰を受けて、株
が売られ、その日の終値では前週末比で454円安の「1万17
87円」と、1万2000円台を割り込んでいます。
 この株の暴落はアジアに波及し、インド・ムンパイ、フランク
フルト、ロンドンというようにヨーロッパにも波及して、そして
ニューヨーク市場のダウ平均を一時3%押し下げて、やっと底を
打ったのです。
 日本には過度の円高恐怖症があります。1995年に円が「1
ドル=79円75銭」になったときのトラウマが再現してしまう
のです。それは次の図式です。
―――――――――――――――――――――――――――――
   円高→輸出企業が競争力失墜→株価暴落→円高不況
―――――――――――――――――――――――――――――
 しかし、今回の円高は、1995年のときとは明らかに違って
いるのです。日本の経営者は1995年の円高のときの苦い経験
を生かしているのです。日本企業は、過去2回にわたる石油危機
でも同様の対応策をとって危機を乗り越えているのです。
 『日経ビジネス』/2008年3月24日号では、円高でも為
替差益を出したスズキの例を紹介しています。
 次の数字は、スズキが2007年10〜12月期に得た為替差
益です。
―――――――――――――――――――――――――――――
     ドル ・・・・・・・・・・・・ −16億円
     ユーロ ・・・・・・・・・・・ +24億円
     ルピー ・・・・・・・・・・・ +20億円
     オーストラリアドル ・・・・・ +12億円
     ポンド ・・・・・・・・・・・  +1億円
     ―――――――――――――――――――――
     合計              +47億円
    『日経ビジネス』/2008年3月24日号より
―――――――――――――――――――――――――――――
 2007年10〜12月期といえば、円高が本格化しはじめた
時期です。トヨタはこの時期に200億円規模の為替差損を出し
ているのです。
 これに対してスズキは、競争の激しい北米市場に重点を置かず
に他社が進出していないインド、ハンガリーなどに進出していま
す。そして現在、スズキはとくにインドには力を入れているので
す。先週のEJでも述べたように、円はドルに対しては円高です
が、ユーロをはじめとする他の通貨に対しては円安なのです。こ
の点をしっかりと押さえておく必要があります。
 皮肉な話ですが、ニューヨーク在住のエコノミストは、ドルが
円に対しても下げたことに衝撃を受けたといわれます。日本経済
も落ちたものといわれても仕方がないでしょう。
―――――――――――――――――――――――――――――
 (ドルがユーロに対して下げたことは)自力のあるユーロなら
 説明ができた。しかし、弱いはずの円に対してまでドルが大き
 く下げたということは、明らかにフェーズが変わったことを意
 味している。     ――ニューヨーク在住のエコノミスト
       『日経ビジネス』/2008年3月24日号より
―――――――――――――――――――――――――――――
 円高に対する備えを早くから考えて実施している企業も多いの
です。そのひとつに松下電器産業があります。松下では、中村邦
夫会長による指示もあり、為替に左右されない事業構造作りに取
り組んでいるのです。
 その取り組みのひとつが「為替マリー」といわれるものです。
これは輸出で得た債権と、輸入で発生した債務を円に転換しない
で、そのまま同一通貨内で相殺することをいうのです。そうすれ
ば、為替リスクをヘッジできるのです。
 この制度によって、松下電器産業は、徐々に輸出額に占める為
替マリー率を上昇させてきているのです。その結果、2000年
には17%に過ぎなかった為替マリー率を2007年には70%
近くに上昇させています。金額にすると、輸出額2兆5OOO億
円中1兆6000億円を為替マリーに適用してきているのです。
そして、松下電器としては、近い将来は為替マリー率を100%
にしたいといっているのです。そうすれば、為替変動に業績は左
右されなくなるからです。
 このような為替リスクを最小限に抑える対策は、究極は「現地
生産現地販売」という事業構造に行きつくのです。しかし、日本
でしか作れない競争力のある製品は円建てでも売れるのです。半
導体の製造装置メーカーなどにそういう企業は多いのです。しか
し、そういう企業でも今回のような急激な円高になると、ライバ
ル企業との競合が厳しくなるといいます。
 いずれにせよ、それぞれの企業努力により、かつての円高恐怖
症は乗り越えられつつあります。『日経ビジネス』では、その理
由を次の3つにまとめています。
―――――――――――――――――――――――――――――
   1.輸出企業は収益源を米国以外に移している
   2.大企業は「為替リスクゼロ」経営に転換中
   3.長期円高は輸入企業にとって追い風になる
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 急速なドル安を受けてポールソン米財務長官は「強いドルは国
益」とかつての主張を変えていないが、日本全体では、ドル建て
の取引は、輸入額の70%、輸出額の50%に及んでいます。こ
の構造から見ると、明らかに円高の方が国内経済に良い影響があ
ることになります。      ―― [石油危機を読む/06]


≪画像および関連情報≫
 ●為替マリーとは何か
  ―――――――――――――――――――――――――――
  為替マリーとは、例えば、輸出で回収したドルを円に転換せ
  ずにドルのまま保有し、輸入の決済にドルが必要になったと
  きにそのドルをそのまま決済に充当するという方法である。
  つまり、外貨建ての債権と債務を個別に円決済せずに、双方
  を相殺させる形でヘッジするものである。
  ―――――――――――――――――――――――――――

中村邦夫会長.jpg

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