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一月三舟 −岩国 哲人− 「貴族院設立を」
2009/05/03の紙面より
知事や市長を住民が直接に選ぶという米国の制度を見習うときに、一つだけ見落としたのが二期を限度とする「多選禁止」の思想である。
市長や知事の多選弊害とともに民主主義の活力とみずみずしさを奪っているのが、議員の世襲という「超多選」であり、日本では国会でも地方議会でも、まるでそれが優秀で有力な議員の勲章であるかのように錯覚されている。 歌舞伎の襲名披露例えば三年前の自民党総裁選。自民党員だけで一億の日本人の総理を実質的にそこで選ぶことになる選挙だからこそ、すべての国民、納税者にとって無視できないことなのだ。その総裁選候補は、世襲政治を象徴するように世襲議員ばかり。まるで歌舞伎の襲名披露気分。 日本中に苦労をふりまいた政党が、最も苦労しないで議員になった人たちの中から代表を選ぼうというお笑い歌舞伎である。 国民に対する「使命感」よりも、一族の名に価値のある「氏名感」が先行し、それを制度的に加速させたのが小選挙区制であることは言うまでもない。 公平、公正な民主政治の実現を目指すとうたいながら、皮肉なことに日本の選挙法が実現してくれたのは、「家柄による差別」と、選挙区ごとに一票の価値が違うという「投票権差別」という、二つの格差である。 世襲議員の存在が政治の機能を低下させているという認識がようやく広まってきた一方で、「世襲議員を差別することになる」という反論も出ているがこれはおかしい。世襲の有利さは数々あり、そのために世襲でない候補者は充分に差別を受けているからだ。 世襲は新規参入の妨げ裏を返せば、世襲は世襲でない人たちから職業選択の自由を奪っていることになる。公平な参政権を回復するために、民主党などでは、現職国会議員の在職中や引退後、親族が同一選挙区または同じ県内から立候補するのを制限または禁止しようと考えている。世襲候補は、地盤・看板・鞄(かばん)(政治資金)を受け継ぐため、他の新人候補に比べて、圧倒的に有利である。 世襲の有利さは地盤、看板、鞄の三バンだけではない。二代目、三代目の議員となれば、先輩の指南番もつけば市議、県議が御庭番、御留守番をつとめ、集会の時には見張番、玄関番、下足番と、三バンの他にこれだけ多くの余禄がバンバンつけば、当選まちがいなしの太鼓バンも押してもらえるから、応援する人に骨折り損という後遺症も残らない。 このようにして世襲議員が増え、有為な人材の新規参入を妨げ、庶民感覚を理解できない政治家を増やし、政治の機能を低下させる。 毎日新聞の川柳にも 「衆議院 世襲ばかりの 貴族院」という句が投稿されている。 「要するに弱者も世襲なのね」という、格差固定社会への不安と怒りを代表する句もあった。 衆議院そのものが貴族院になってしまわないように、今からでも遅くはない、私は四つの提案をしたい。 発想の転換「政経手術」第一に、世襲議員と同じ条件を新人が備えるために必要な金額と時間コストの一応の目安として一億円を、同一県内の他選挙区の場合には五千万円の「世襲税」を徴収する。第二に、二代目、三代目といえども負担能力が乏しい場合は課徴金に代わる選択肢として、「調整票制度」を設けて、その選挙区の10%の票数を世襲でない候補に加算する。 第三に、世襲議員にも個々に見れば国政に若いころから関心を持ち、そのゆえにこそ優れた能力と人格で活躍する人材も少なくない。私の知る限りでも、自民に十五人、民主に八人。こういう人たちを政治の世界から失わないために、思い切って貴族院を設置して、そこで大いに国政を大所・高所から論じてもらってはどうだろうか。 世襲議員の中には、本人自身それほど政治が好きでもなく、性格的にも合わない方もいらっしゃることだろう。それが家の名誉というプレッシャーや、地元利益のためというしがらみから断ることもできずに世襲するケースが今後はますます増えてくる。 そのためにも貴族院を復活して、議員報酬なし、定数も制限しない。日本には伝統や先例もあることだから、日本のような成熟した社会に必要な一つの発想として検討を進めてはどうか。 第四に、政治家だけが先代の政治資金団体を無税で承継・相続できるという、政治家専用マル優制度を一般中小企業に広く開放し、わが国繁栄の基盤である中小企業活性化につなげてはどうか。五百万中小企業経営者とその事業承継予定者が一夜にして政治家に変身することで、政治にも大きな活力となろう。 これこそ発想の転換。政治も経済も大変化。私が唱えてきた日本の「政経手術」の一例である。 (衆院議員、元出雲市長) 好評連載中の「一月三舟」の2008年分が一冊の本になりました。『一月三舟第12巻』(今井書店、1500円)は近く書店で発売予定です。
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