2009年04月24日

業界は売り逃げを許すのか:出版偽装「最後のパレード」

 著作権侵害など多くの問題が発覚したベストセラー本「最後のパレード」。
 なにも決着がついていない。

 出版社側は、著作権侵害を認め謝罪をしたようだ。
 ところが、著作権者との交渉を進めるものの、この本の意義は変わらないとして、販売を続けるつもりらしい。
 何とか今回の騒動をやり過ごして、売り逃げようとする姿勢が見える。

 この本の問題は、多岐にわたる。

1.著作権の侵害。
 他人の体験談を勝手に転用した。
   →読売新聞に掲載された体験談とほぼ同じ文章が含まれていた。
 ネット掲示板に公開されたエピソードを転用した。
   →どの書き込みが盗用されたのかの検証がネット上で進んでいる。

2.不当表示
 キャストだけが知っているというのはウソ
   →実態は、多くのエピソードをネットの掲示板からネタをかき集めた。
 TDLで本当にあったというのもウソ
   →ほとんどがネット上のネタであり、事実かどうかの確証がない。
   →明らかにほかの遊園地のエピソードを盗用していることも発覚。

3.機密情報漏洩の疑い
 ディズニーランドへの客からのサンキューレターの内容がそのまま使われている可能性がある。
   →これは、企業内の機密情報が外部に漏洩した疑い。
      →オリエンタルランド社の情報管理の問題に発展する。

 これだけの問題を含んでいるのだ。
 ちょっと、本の表記にミスがありました、という程度ではない。
 明らかに、本を売るために、他人の著作を勝手に盗用し、表示を偽装しているのだ。
 読者をだまして、本を売ろうとしている。
 出版社は、「無断で引用してしまった」と単純ミスで済まそうとしているようだが、そんなレベルではない。
 そもそも引用というには様々な条件があるが、何一つクリアできていない。
 はじめから、引用のつもりはなく、どうせ読者には分からないだろうと見て、他人の著作物を勝手に寄せ集めて売れそうな売り文句をつけたものと言うほかない。

 これは、食品偽装と同じではないか。
 外国産の牛肉を国産と偽って販売するのと同じ。
 食品偽装はただちに店頭から商品が撤収され、業者側に返品される。
 取引先との契約は解消され、経営者は社会的な批判にさらされる。
 消費者を裏切った報いは大きい。

 今回の盗用問題は、「出版偽装」といっていい事件だ。
 出版業界はこの問題にどう対処するのだろうか。

 いまのところ出版社は、商品回収する気はない。
 むしろ、今の騒ぎをうまくやり過ごせば、さらにベストセラー街道を驀進させられるぐらいの腹だろうか。
 既に流通在庫は相当の部数が出ており、次の増刷もかけてしまっているようだ。
 もう引き返せないところまで来てしまっている。
 出版社には、延命しか頭になく、誠実な対応を期待しても無理だろう。
 著者は、自身のブログで悪態を放っているだけで、まともな対応はできていない。
 ほとんど責任能力はなさそうだ。

 あとは、書店や取次がどう判断するかだ。
 いまだに従来通り平積みで販売し続けている書店があるらしい。
 だまっていれば、知らない客が買って行ってくれる。
 せっかくのベストセラーなんだから、今のうちに売ってしまおうということか。

 しかし、これだけの問題が発覚した書籍を「いま売れてる本」として販売しつづけることは、出版偽装に加担していることにならないか。
 著者や出版社と同じように、客をだまして商品を売りつけているのと同じだからだ。
 本の帯には「キャストだけが知っている」と書かれている。
 表紙には、「TDLで本当にあった」と書かれている。
 外国産と知りながら国産表示の牛肉を売り続けているのと同じだ。
 後で、この騒ぎを知った購入者は、「知っていながら黙って売っていたのか!」と裏切られた思いがするだろう。
 このような店も、客を欺いていることになる。

 今回の事件について、出版業界がどのような対応をするのかを注視したい。
 「この程度のことなんか、よくある話」「これがダメと言ったら、売る本がなくなってしまう」とやり過ごしてしまうのか。
 それとも、出版業界において著作権侵害や不当表示が堂々と行われることは看過できないと、厳しい対応をするのか。

 食品業界が食品の安心や安全に敏感なのと同じように、出版業界は著作権や内容の真偽に敏感になって当たり前だ。
 今回の事件がうやむやにやり過ごされるようなことがあれば、出版業界そのものに対する信頼を失墜させる。
 いま、出版不況といわれ、本が売れない時代だ。
 これを放置していたら、本当に客離れを起こしてしまうに違いない。


 
 
 
 
 
posted by 平野喜久 at 22:36| 愛知 霧| Comment(4) | TrackBack(0) | 世事雑感 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
早速、「出版偽装」使わせていただきます。

出版偽装は食品偽装と同じです。同感です。
食品偽装した経営者は食品を撤去され、業者と契約を切られ、社会的な批判に晒される。

一方、出版偽装はどうか。盗作がばれても、
ごめんちゃい。
次の増刷分からは帯の文句は変えておきますね。うるさいからwwww
まだまだ売れるし回収しないよ。
むしろ増刷するしwwwww

って事がまかり通ってしまうと、
出版業界自体の信用も失墜、
犯罪やったモン勝ちになってしまうわ。
報いを受けてもらわんと。
Posted by サワダ at 2009年04月25日 02:07
盗用に関してだけでも、

まず、誰が(ネットからネタを集めることを)発案し、
どういう作業(探す、より分ける、文体の改変等)を、
どこまで誰が行ったのか、
と、出版社+著者の関与の度合いがあると思います。
OLCへ(ディズニーランドを題材にした本を書くと)許可の申請をしなかったのは、意図的なのか、どうか?
著者は10年前とは言え15年OLCで働いていたわけなので、許可の必要性は熟知のはず。

計画当初から盗用を前提としていたのであれば、計画的と言わざるをえない。
その首謀者、発案者とその計画全貌をはっきりしてもたいたいものです。
Posted by at 2009年04月25日 02:46
私も同感です。
食品偽装されたものは、店頭からすぐに撤去されるのに、
近所の本屋では大きなPOPこそ撤去されたものの、
店入り口の「今売れている本ベスト5」では
1位のコーナーに本が置かれていました。
勿論、店の事情もあるのかもしれない、
悪いのは出版社と著者だと思うのですが、
明らかに偽りがある本を堂々と売られてしまうと、
消費者として一体何を信用していいのか、
今後わからなくなる。
金銭的なことだけではなく、各書店は
プライドを持った仕事をしてほしいと思うのです。
Posted by r at 2009年04月26日 00:57
著者も版元も情けないですね。
ネット上から収集しておきながら「キャストだけが知っている」は無いでしょう。
しかもTDL以外の普通の遊園地の話まで紛れ込ませ、そこに登場する着ぐるみのキャラをディズニーの「ドナルドダック」に変えてしまう。

「偽装のパレード」っていうタイトルに変えたほうが宜しいのでは?

食品の偽装の際、店頭から撤去されるのを見て、「どうせ買わないから撤去するのはムダ」なんて言う意見を見ますがムダじゃないです。
置いてても売れないモノを置いてる場所がムダなんですね。代わりに売れるモノを置いたほうが良い。
この本の場合、売り場から撤去されないのは、「置いてたら売れる」からでしょうね。
こんな本、買っちゃいけませんぜ。
Posted by ひろくん at 2009年04月26日 10:22
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