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衛藤晟一厚生労働部会長の年金問題基礎講座(2) |
世代間扶養の理念と賦課方式 |
「世代間扶養」の理念で成り立つ年金制度
日本の年金は、自分が貯(た)めた年金を自分がもらうという積み立て方式をとらなかったし、とれませんでした。スタート当時は経済成長の時代でインフレでしたから、自分の積み立てた金額では到底老後の生活に足りなくなるわけです。積み立て方式は公平のようですが、実質的には年金としての意味をもたなくなります。
ですから、今働いている人たちが高齢者の生活を支え、それが次の世代にも続いていくという世代間扶養の方式をとっていて、現在、もらう年金は、現役で働いている人の約六割という形になっています。
おじいちゃんが働いていた時は、まだ給料が安かった。でも、これだけ豊かな時代になって、当時積み立ててきた貯金では足りないでしょうから、やっぱり税金の補助を含めて若い自分たちが負担しましょう、という世代間扶養の理念に基づくものが賦課方式です。
年金改革の方向として一部で積み立て方式の方がいいんだ、という意見もありました。デフレの時はそういう側面もありますが、すでに日本も経済成長率三%とかの時代に入っているわけで、そういう意味でもやはり賦課方式の方が優れていると思います。
それに、世代間扶養というのは世代間を大事にし、お互い皆で助け合っていこうという考え方から生まれたもので、素晴らしい制度だと思います。
自助・共助・公助の3つの力が必要
私どもはこの数年来、「自助と共生」を年金制度の基本的な考え方にしようと努力しています。
具体的な制度として言うと、自分も年金を払い、自立的な努力をしていきましょうという「自助」。また、お互いに助け合っていきましょうという「共助(共生)」。さらに、今後は国庫負担を基礎年金の三分の一から二分の一に引き上げます。これが「公助」。
この自助、共助、公助という三つの力で、自分も努力するし、お互いに助け合っていくし、国も加勢するという形でいく。これは私はとても温かい、いい形だと思います。
保険方式が年金の助け合い精神と公平性を保つ
基礎年金を全部税金で賄う、という意見がありますが、そうなると年金を納めなかったり、努力しなかった人も、努力した人と同じく年金を受け取れることになります。これは年金の性格とはちょっと違うんじゃないかと思います。
私どもは年金を払う自己努力をお願いしていますが、やはり世代間の助け合いの気持ちを皆さんが確認し、年金制度を維持していくんだという気持ちがなかったら、今の年金制度は続きません。
お互いに先輩の方々に対して、ご苦労様でした、お世話になりました、というような世代間での感謝というか優しい思いがあって初めて制度が成り立ちます。
また、皆さんが努力して保険料を収めることによって、「公平性」という年金の基本が貫かれているのです。
全部税金で賄うとなると、年金を納めた人も、納められるのに納めなかった人も全部一緒、という問題が起こってきます。不公平な形では国民の納得は得られませんし、もちろん財源をどうするのかという大きな問題もあります。
年金制度を支える保険方式と賦課方式
しかし、逆に年金制度をなくしてしまうということになると自己責任のみになります。
これは大変なことですから、お互いに助け合っていくのが一番良いでしょう。
世代間扶養という理念を基に、保険方式と賦課方式、この二つが年金制度を支える基本的な枠組みです。また、これがなければ信頼性が確保されません。
ですから特に若い世代に年金制度をよく知ってほしいのです。年金にはたくさんの税金が入っています。事業主負担もあります。こういう制度がなかったら、私たちは老後に年金と同じような保障が受けられるでしょうか。金融機関に積み立ててもこれだけのものはありません。やっぱり得になるようにできているんです。
厚生年金で2.3倍を国が保障
Q.若い世代にとって年金は損?
自分たちが納めた年金、それが今のお年寄りを支えているわけです。しかし、自分が高齢になった時にはその納めたお金にプラス、事業主負担や税金が入っていますから、もらう額のトータルとしてみたらやっぱり得です。
若い世代に「今六十歳代の人は自分の払った年金の三倍以上もらえるけど、二十歳代は一・七倍で払っても意味がない」という声が聞かれます。しかし年金制度以外で将来同様の保障が受けられるでしょうか。
どこかに預けていたら運用が成功して上がるというケースも時々あるでしょうが、逆にいうとリスクも高いわけですね。 平成十六年の改革で、昭和六十年以降に生まれた二十歳代は国民年金で支払った額の一・七倍、厚生年金だと二・三倍の給付が受けられます。
これを国が責任を持って保障していくということですから、やはり年金が安心であり、得ということになります。