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きょうの社説 2009年5月6日
◎高まる世襲制限論議 方向としては理解できる
民主党が現職国会議員の三親等以内の親族による同じ選挙区からの立候補を禁じる党の
内規をつくり、次期衆院選のマニフェスト(政権公約)に盛り込む方針を決めた。自民党でも、世襲制限に前向きな菅義偉選対副委員長を中心とした議員連盟が連休明けにも発足する見通しである。永田町を見渡すと、確かに世襲議員が目立つ。首相は小泉純一郎氏、安倍晋三氏、福田 康夫氏、麻生太郎氏と四代続けて世襲である。民主党も小沢一郎代表、鳩山由紀夫幹事長が、それぞれ二世、四世の政治家だ。 石川県関係では、森喜朗元首相の父親が旧根上町長、民主党の一川保夫氏は父親が石川 県議だったが、一般的に世襲議員とは呼ばれていない。次期衆院選に出馬を予定している奥田建氏は故・奥田敬和氏の長男で、地盤をそっくり引き継いだ形であり、世襲議員と見なされる。ただ、奥田氏周辺からは、敬和氏から直接、後継指名を受けていないことを理由に「世襲ではない」という意見も聞かれる。 選挙を勝ち抜くためには、地盤、看板、カバンの三つが不可欠といわれる。無名の新人 に比べ、親や親族が手塩にかけて育てた後援会組織と知名度、政治資金の集金システムを引き継ぐ有利さは、際立っている。政党の公認候補が一人しか出られない小選挙区制度で、息子などへの後継指名が当たり前のように行われていたら、政界全体の活力が失われ、人材の供給源が細ってしまう。そんな危機感を共有し、何とかして現状を打破したいと思う気持ちは理解できる。 世襲議員があたかも家業を継ぐような意識で議員バッジを付けているとしたら、多種多 様な価値観に裏打ちされた自由闊達(かったつ)な論議が生まれにくい。国民の感覚と微妙なズレが生じ、民意を反映しにくくなる懸念もあろう。 ただ、世襲制限には慎重な論議が必要だ。世襲議員にも高い見識、能力を持った政治家 がいる。世襲だからと一律には批判できないし、地元の支持を受けて当選してきた事実は重い。家業を継ぐごとく議員になるのはおかしいと言うなら、親が議員であるために子の立候補が許されないというのも、またおかしな話だといえる。 世襲制限の前に、まずすべきことは政治が失いかけている活力を取り戻す方法を、広い 視点から論議することだ。有能な新人を政界に迎え入れる仕組みを再構築し、閉塞感を打ち破ることである。 たとえば英国の政党は、強力な公認決定権を持ち、党主導で候補者を選挙区に振り分け る。各選挙区では、公募と予備選挙が厳密に行われるため、結果として世襲議員が同一選挙区から出馬する可能性はゼロに等しい。 マニフェストを掲げ、徹底した政党選挙を行う英国では、「落下傘候補」が多くなり、 議員と地元との関係は希薄になりがちである。日本の選挙区事情を考えると、英国の仕組みをそっくりまねはできないかもしれない。だが、世襲であろうとなかろうと無関係に、優れた人材を発掘し、政界に参画させる仕組みが確立している点は、大いに参考にしてよいのではないか。 評論家の塩田潮氏は、選挙地盤を「私有財産」と考え、政治家と支持者が共通の利害を 有する「利益共同体」化した現象が、中選挙区時代に大量の世襲議員を生み出したと指摘する。自民党の国会議員は四割近くが世襲といわれるが、当選五回以上の衆議院議員に限ると、世襲率は55%にはね上がる。意外に思うかもしれないが、世襲議員の比率は小選挙区制になって下がってきているのである。選挙地盤を「私有財産」、後援会組織を「利益共同体」と考える発想は、もはや時代にそぐわない。 自民党も、候補者を公募で決める制度を設けている。実際に公募に応じて無名の新人が 議席を射止めた例も少なくない。問題は、すべての空白選挙区に例外なく適応されるはずなのに、選挙区事情と称して公募を行わず、親が息子を後継に指名するといったことが公然と行われ、それが暗黙のうちに許されてしまうところにある。 世襲制限を言う前に、現職による親族への後継指名を安直に認めず、「公募の原則」を 徹底するのが先ではないか。
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