アサヒ・コム プレミアムなら過去の朝日新聞社説が最大3か月分ご覧になれます。(詳しくはこちら)
全国の原子力発電所の08年度の稼働率が60%にとどまったと、経済産業省の原子力安全・保安院が発表した。
2年連続の低水準である。国際的にも際だって低い。米国や韓国、フィンランドのように90%前後の国もあるほか、独仏やカナダも、おおむね75〜80%を維持している。
日本も90年代の半ば以降は80%を超え、98年度には84%にも達していた。70%を切るほどに低迷するようになったのは、ここ5、6年のことだ。
電力会社によるトラブル隠しの表面化や事故などで、各地の原発が止まったことが背景にある。
しかも新潟県中越沖地震の後、東京電力・柏崎刈羽原発(全7基、計821万キロワット)が止まっていることが、稼働率を大きく引き下げている。
このうち7号機は、連休明けにも新潟県知事が試運転を認める可能性があるものの、残る6基の再開にはそれぞれ慎重な検討が必要だ。
原発稼働率が落ちることで不足する電力は主に火力発電で補われるため、二酸化炭素(CO2)の排出が増えてしまう。稼働率の低迷は、地球温暖化の防止の点から問題を抱えている。
温室効果ガスの削減を先進国に義務づけた京都議定書で、日本は「08〜12年度の平均で90年比6%削減」という義務を負っている。それ以降の次期枠組みでは、さらに意欲的な削減目標を国際的に求められるだろう。
原発は運転の際にCO2をほとんど出さない。さまざまな負の側面を抱えているとはいえ、こうした国際公約を達成するには、少なくとも当面の間は、安全性に配慮しつつ今ある原発を活用せざるをえない。
今年、原発の定期検査の間隔を、従来の13カ月から最大24カ月にまで広げることに道を開く新たな仕組みができた。政府が安全性を認めた原発に適用される。電力各社の品質管理の努力によっては、諸外国なみの稼働率の実現も可能になる。
ただ、原発の地元では、定期検査の間隔が開くことに安全面での不安も根強い。電力各社は安全最優先の意識を改めて徹底し、事故やトラブルの防止に全力をあげてほしい。
稼働率を優先するあまり、点検や補修の際に慎重さを欠いたり、検査データを改ざんしたりするのは論外である。稼働率を上げるには、原発への社会の理解と信頼が欠かせない。
だが、そもそも原発の新たな立地が難しいことを考えると、原発にばかり依存していては日本の温暖化対策は進まない。
社会や産業のグリーン化で温暖化に立ち向かうことを基本にしたい。長い目で見れば、自然エネルギーの拡大やエコカーの普及など、原発に頼らない低炭素化の充実が不可欠だ。
ガソリンエンジンとモーターを併用するハイブリッド車が、ガソリン車と同じぐらいに安くなってきた。新しいクルマの世紀がいよいよ開く。
ホンダが2月に発売した新型「インサイト」(排気量1.3リットル)は189万円だ。トヨタ自動車も対抗して、今月発売の3代目「プリウス」(1.8リットル)では、現行型より30万円近く安い205万円ほどに抑える。
ハイブリッド車の燃費は軽自動車を上回り、二酸化炭素の排出量を大幅に減らすことができる。
だが同クラスのガソリン車より数十万円割高で、買うのは環境志向の人に限られていただけに、低価格競争で普及に弾みがつくよう期待したい。
実際、新型インサイトの受注は目標の2倍強、プリウスも4月初めから予約を受け付けたところ、もう5万台前後に達したという。環境に優しく、しかもガソリン車並みという値段に、消費者が飛びついているのだ。
4月からの税制優遇に加え、政府・与党がまとめた新経済対策に入った買い替え補助により、最大40万円ほど負担が軽くなるのも効いている。
世界初の量産車「T型フォード」の発売からちょうど100年となった昨年は、大型化やスピードを競ってきたクルマのあり方が問われた年でもあった。今年は、環境対応を第一に考える時代の出発点にしたいものだ。
JPモルガン証券のリポートは、ハイブリッド車の昨年の世界市場規模は57万台だが、各国の普及促進策などもあって、2018年には900万台半ばへ拡大すると予測している。家庭用電源で充電できるプラグイン・ハイブリッドや、モーターだけで走る電気自動車の実用化も遠くはない。
そんなエコカーによる脱ガソリン、すなわち低炭素社会への転換の先頭を日本車には走ってもらいたい。
日本では、家庭で出す二酸化炭素のうちマイカーが約3分の1を占める。06年度は約8千万トンで、90年より50%近くも増えている。途上国で車の普及が進んでいるだけに、先進国は脱ガソリンを急がないといけない。
その点で、新経済対策のエコカー購入補助が対象となる車の燃費基準を緩くしたのは残念だ。雇用への影響が大きい自動車産業を一時的に支援するために基準を緩くしたのだが、その結果、脱ガソリンを進める政策効果が甘くなってしまった。政府は支援のハードルを上げていくべきではないか。
自動車の脱ガソリンは、高性能電池の開発といった新たな産業の拡大にもつながる。低炭素社会の実現には、こういう形でさまざまなビジネスチャンスが出てくるはずだ。
低炭素化の取り組みは、自動車業界だけでなく、産業界全体にとっても、新しい時代を開くに違いない。