シャンパーニの塔

RPGツクールでいつかRPG作れるといいな

魔王の側近

2006-01-22 02:12:21 | ショートショート
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 初めに断っておくが、俺が今から語る話は
これでもかというくらいコテコテのファンタジー世界での、
猫があくびをしてしまうくらいありふれた出来事だ。
 それでも読んでくれるなら、君に深く感謝する。






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 その世界には魔族がいて、その頂点として魔王が君臨している。
魔王には大勢の部下がいる。これは重要なことだ。
 魔王一人で世界を掌握することはとても非効率的である。
魔王自らが街から街へと渡り歩き一つ一つ街を滅ぼしても、
また別の場所で人間に街を作られてしまってはきりがない。
あるいはどこぞの詩のように、
馬を走らせる男の息子の命を魔王が奪ってしまう、
という程度が関の山だ。
 そこで魔王は部下を使って人間たちを管理する。
その中では人間社会のように魔族にも上下関係があり、
幾多の魔族が他人を蹴落とし自分の地位を上げることを狙っている。
誰も他人の下でこき使われることは嫌だもんな。
 ところが上位クラスまで登りつめると出世欲は薄れるものらしい。
 魔王直属の、つまり魔族の中でトップクラスの奴らは、
酒を飲んだり暇つぶしに殺しをしたり博打をしたり、
下らないことに時間を浪費する毎日だった。
 特にその傾向が強いのが、
魔王軍ナンバー2の地位に就く”ラモン”だ。
ラモンは魔王の右腕として魔族の中では群を抜く実力を持っていた。
魔王の言うことさえ聞かない気ままな奴だ。
他の奴らがどう思っているのか分からないが、
俺個人としてはラモンのことが嫌いだ。
あいつは与えられた力を乱暴に振るうことしか知らない。
 それに対して俺は魔王の左腕という役割を負っている。
地位で言えば魔王軍ナンバー3。
最も魔王に従事していると周りから言われている。
そして、”雑用係”とも。
 俺の仕事は主に部隊の統率、内政。
俺が人間の一国を攻めると決断すれば、
魔王軍全体が動くほどの権力を持っている。
もっとも、上位クラスの魔族たちは俺の言うことなんて
一つも聞きはしないだろうが。
 魔王軍の指揮を執っているだけあって俺は頭が切れる方だ。
魔族なんて戦うことだけを目的として生まれてきたものだから、
猫じゃらしに飛びつく猫のような知性しか
持ち合わせていない奴らばかり。
そいつらをまとめあげなきゃいけないのだから、
魔王は俺にそれなりの脳みそを与えてくれたのだ。
それでもようやく人間の賢者と同程度だが。
 統率を執るために俺はナンバー3という地位を与えられているが、
戦闘力で言えばトップ10からさえ除外されてしまう。
俺のような例外を除いては強さで地位を決めるこの魔族社会で
俺がどんな扱いを受けるか想像がつくだろう?
今日もラモンの奴が俺の影口叩いて笑いをとっているに違いない。
しかも俺に任される仕事といえば、
魔王の城の建設を人間の奴隷にやらせるだとか、
そういった戦闘には無関係なものばかりだ。
仲間から言わせると”雑用”というようなことをやらされていた。
そんなだから周りが俺を揶揄するのも分からなくはない。
 え? いつも学級委員に推薦される、影の薄い奴みたいだって?
 お前らの世界の人間で例えると、
おそらくそんなところだろうな。
 ようするに、俺は魔王の左腕なんて肩書きはいらないんだ。






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 今日も魔王直属の部下たちは
賭け事をしたり人間を弄んだりして遊んでいた。
 そのことを告げ口しても魔王は別段気にしない。
魔王は理解してるんだ。
あいつらは楽することしか頭にないってな。
だから初めから奴らには期待していない。
そしてそんな魔王の性格を知っているから、
あいつらはこうやって怠けているんだ。
これじゃあ悪循環だよ。
 しかし幾ばくかの人間が
魔王軍に痛手を負わせるようになってくると
さすがに状況は変わってくる。
 魔王は刃向かってくる人間たちを倒すことを
最下層の魔物に命じた。
また、強大な力を持つ人間が出てこないように
一つずつ街を滅ぼすことにした。
片っ端から人間を殺していこうというわけだ。
魔王の城にもし人間が乗り込んできたときのために、
直属の部下には訓練をして力をつけるようにと仰せられた。
 けどまあ、部下のほとんどはそんなの無視。
人間が城まで来れるとは、はなっから思っていないし、
そんなことがあったとしても楽に片付けられると思ってるんだ。
 だが魔王の右腕であるラモンは
自分の力をより強大にすることに興味を抱いた。
奴は世界中の封印された悪魔を解放し、
その力を取り込むことによって着実に強さを増していった。
 そんな中、俺は奴隷の人間たちに城の清掃をさせたり
魔族の食料を調達させたりしていた。






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「いざとなればお前も戦わなければならない。
うつつ抜かしてる場合ではないぞ」
 部下のほとんどは遊び呆けてるというのに、
しっかりと命令を聞く俺に対して魔王はこんなことをほざく。
仕事を一生懸命やってる俺が
どうしてこんなことを言われなければならない?
頭の中で魔王を罵る言葉が渦巻く。
 俺はもう、どうにでもなれといった気持ちで
自分の仕事を半端に投げ捨てて、
自分の戦闘能力を磨くことに専念することにした。
そこには魔王直近の部下たちへの妬みもあった。
俺に力がないために奴らに罵言を浴びせられるんだと考えていた。
 魔王の右腕であるラモンは奴らしい方法で力を得ていたが、
俺は人間の秘めている力の原理を探ることにした。
人間が魔族を苦しめるだけの力をどこから入手したのか、
俺は気になっていたのだ。
 脅迫という手段を使えば、
強大な力を持つ人間にはすぐに接触することができた。
彼は自らを仙人と名乗っている。
森の中で数人の弟子たちと修行して暮らしていた。
仙人とは言え俺の力には到底及ばない。
体術には心得があるようで打撃は与えられなかったが、
魔法で火を放てば軽々と倒すことができた。
俺はこいつの首筋を掴みあげながら訊いた。
「塵から生まれたお前たち人間が、
何故ここまで力をつけることができた?」
「ぐっ。そんなこと、貴様に教えるわけにはいかぬ……!」
 答えを吐かせるには人間の性質を利用するのが楽だった。
俺は仙人の弟子の一人を掴んだ。
若い、というよりはまだ幼さを残した女だった。
女というのは俺たちにとって珍しい生き物だ。
繁殖することを許されなかった魔族には雄雌の区別はない。
魔族はもともと、神によって作られた。
その中の生き残りだけが現代の世を憚っている。
 人間たちは知っているだろうか。
いつしか神に逆らい地獄に落とされた天使の名を。
天を二分した空前絶後の規模の戦争の名を。
 女の肉体は仙人より遥かに柔かかった。
ほんの少し力を入れれば頭部と体を引き離してしまいそうだった。
「やめろっ! お前の望んでいる答えを与えてやる。
だからその子を離せ!」
「だ、ダメ……です……。言ってしまったら……
人間が魔族に抗う術が……なくなってしまいます……!」
 俺に持ち上げられて体が宙に浮いた女は抵抗しながら言う。
「そうか、それなら仕方がない。
ここのいる全員を片付けてから、
別の人間をあたることにしよう」
「待てっ! 人間の力の源を教える!
人間の強さは人を愛する心だ」
 その答えに俺は落胆する。
「愛? なんだそれは? 
それが物理的にどんな作用を及ぼす?
言葉はエネルギーか? 感情は力か? 
信仰は本当に未来を齎すのか?
そんなもの幻にすぎない。下らん、本当のことを言え」
「これが事実だ! それだけが人間に残された望みだ!
さぁ、その子を離してくれ! 
私を代わりに殺しても構わん!」
「この小娘を生かすために自分を身代わりにするだと? 
正気か?  お前が生き延びた方が
人間たちに遥かに利を与えることができるだろう?
全ての生き物の目的は種族を生き残らせることのはずだ。
それはこの世に細菌が生まれたときから今まで変わっていない。
お前のしようとしていることは合理性に欠けている。
クソッ! お前らなんかに訊くべきではなかった」
 頭が怒りで煮えたぎる。
俺は女を放り投げてその場を後にした。
けほっ、けほっ。グロリア、大丈夫か? はい、なんとか。
人間の下らない会話を背中に受け、
それがまた俺の神経を逆撫でした。







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 それから間もなく城へ帰還したが、内部は特に問題なかった。
俺がいなくとも何もかもが円滑に進んでいた。
珍しく俺が出かけていたことに気づかなかった奴さえいた。
 俺が脅した仙人は人間の力は愛だとか言っていたが
別の人間たちを脅してもまた同じ答えが返ってくるような気がした。
城の自室で憤りを静めた俺は、
なぜだかあの仙人がいる場所へ足を運んでいた。
恐怖に怯える弟子たち。それを仙人は庇おうとする。
俺は単刀直入に申し入れる。
「俺はどうやったら強くなれる?」
 その一言を発したところで初めて、
俺は自分がどうやったら強くなれるのか、
少しも知らなかったことに気づいた。
 俺はこの仙人の元で修行することに決めた。
もしこれで強くなれなかったなら
弟子共々皆殺しにするという旨も伝えた。
 半ば強制的に弟子入りしたが、
修行は俺が思っていたどんなものとも違った。
それは精神を鍛える修行だった。
心を無にしたり、一つのものに神経を集中させたり、
自分の周りの空間全てに均等に注意を払ったりする修行をした。
時折精神に乱れを起こす俺に、この修行は非常に役立った。
頑丈になったのは精神だけでなく、
何一つ武術の修行はしていないのに
敵の全ての攻撃をかわせそうな気さえした。




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 俺が修行に熱心になっているところを見て、
以前に首を絞めた若い女が励ましてくるようになった。
今の俺に敵意がないことを察知したんだろう。
悪い気はしなかった。
 彼女の名はグロリアといった。
グロリアにどんな事情があったかまでは知らないが、
彼女は街を追い出されてしまったのだという。
そこを仙人に拾ってもらったということらしい。
何かしら彼女の境遇は俺と似ているような気がして
俺は彼女に少しばかり好感を、
持ってしまったのかもしれなかった。
 俺は着実に力を増していった。
当然それをよく思う奴なんて俺以外にいない。
グロリア以外の弟子たちはいつ自分が殺されるかを危惧している。
仙人の元を逃げ出す奴もいた。
そんなことはどうでもいい。俺は修行が進むたびに達成感を得た。
もう二度と魔王の城へ帰りたくないという感情がこみ上げてきた。
だがそれは許されないことだった
 ある日、魔王の右腕であるラモンが俺の前に現れた。
「少しは強くなったか? 
しかしまさか、貴様が人間たちと馴れ合っているとはな。
弱い者通し気が合うんだろうな」
「邪魔するな。俺はまだ修行の途中だ」
「そういうわけにはいかないんだ。
お前が抜けてから内政が悪化してきているんだ。
かと言ってお前以外に適役はいない。
すぐにでも戻ってもらわないとな」
「ふんっ。そんなのはお前らだけでなんとかしろ」
「ほう。俺の命令を断ったのはお前が初めてだ。
だが、お前はこれでも戻らないつもりか?」
 ラモンは傍にいたグロリアの手を掴み挙げた。
「やめろ!」
 これでは俺が仙人を脅迫したときと真逆の立場だ。
皮肉な運命だった。悪寒がした。
 ラモンは躊躇など一切なく、グロリアの腕を引きちぎる。
声にならない悲鳴が上がる。グロリアの腕が土の上に落ちる。
 俺は考える間もなくラモンに殴りかかる。
同時にラモンも俺に拳を振るう。
遅い。拳が止まって見える。
俺は軽々とかわしてラモンに渾身の一撃を与える。
「くっ。貴様ごときに俺が倒されるか!
俺は何百もの悪魔から力を奪ってきたんだぞ!」
 俺にとってラモンはむしろ弱くなっているようにさえ思えた。
一つ一つの攻撃は確かに強大な威力を持っていた。
一撃で俺を貫けるほどの破壊力だ。
だがその攻撃は擦り傷程度さえ俺に負わせることはできない。
 俺はラモンに隙ができるのをじっくりと待って、
拳をぶつけた。 ラモンが衝撃で吹き飛ぶ。
「裏切るのか? 圧倒的な兵力を持つ魔王軍を。
魔王の左腕という肩書きが泣くぜ」
 そうだ。俺はもう引き返せないのだ。
ならばここでラモンを倒さなければならない。
俺はラモンをひたすら殴る。それだけに集中する。
何度も何度も殴り続ける。
ラモンが既に生き絶えていることさえ気づかない。
俺の封印していた怒りが爆発したのだ。
魔族は他人のために怒ることはない。
自分を侮辱されたときにだけ憤りを見せる。
じゃあこのときの俺は何故怒りを覚えた?
グロリアが酷い目に遇わされたからじゃないのか?
何故俺はここまで強くなることができた?
俺は魔族としての欠陥を持ってしまったのではないだろうか。
 グロリアが大量の血を流して倒れていた。
髪は乱れ、顔は涙で濡れていた。
俺一人ではグロリアを運ぶことはできなかった。
彼女を引きずることはできるが、
持ち上げて運ぶことなど俺には不可能なのだ。
このままだと彼女は死んでしまう。
俺は急いで仙人に助けを求めに行った。
グロリアは草の上に血溜まりを作り、
左腕が途中からなくなっていたが、
弟子の回復魔法によって命は取り留めることができた。
グロリアが深い眠りから覚めると、彼女は俺に深く感謝した。








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 ここに留まることはできなかった。
魔王軍が俺を血眼になって探すはずだ。
そんなことをしたら
グロリアがどんな目に遇うか分かったもんじゃない。
しかしこの状況は逆にチャンスかもしれなかった。
魔王の右腕であるラモンと、魔王の左腕である俺。
魔王はその両方を同時に失ったのだ。
今なら俺は魔王さえ倒してしまえるかもしれない。
 俺は魔王城に戻り、部下達を軽く蹴散らし、魔王と対峙した。
両腕を失った魔王は言う。
「ラモンやお前に意思を与えるべきではなかったな。
政治も戦闘も自らが行えば良かったのだ。
部下に全てをやらせたりせず、
自分で一つ一つ街を渡り歩いて人間を滅ぼしていくべきだった。
怠けていた代償がここに現れたな」
 左腕も右腕もない魔王は敵ではなかった。
腕がないから殴ることも魔法を使うこともできない。
口から火を吐くことだけはできたが、
それも些細な抵抗でしかない。
魔王は右腕と左腕があってこそ力を発揮できるのだ。





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 造作もなく魔王を倒した俺は、
仙人たちに快く迎え受けられた。
グロリアが残った右腕で俺の体を優しく包み込んで
感謝の言葉を言ってくれた。
俺は魔王の元で働いていても
こんな言葉は一度も言われたことがなかった。
自分を受け入れてくれる場所を見つけた気がした。


 グロリアの左腕はついにくっつくことはなかった。
 彼女の腕の切断面が次第に丸みを帯びていった。
 彼女は左腕を失ったせいで何をするにも不自由していた。
 そこで俺は一つの案を思いつく。
 俺はグロリアの左腕の切断面にくっついた。
なんと魔王の左腕であるはずの俺が、
グロリアの切断面に見事にフィットしたのだ。
「これだ! 俺をグロリアに固定して同化させ、
俺がグロリアの左手となればいいんだ!
これでグロリアは不自由なく両腕を使える!」
 グロリアは俺の提案を聞いて眉間にしわを寄せる。
「……そんなこと言って、
本当はいやらしいこと考えているんでしょう!?」
「は?」
「このスケベ!」
 俺は訳も分からずグロリアの右腕で殴られた。












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