現在位置:
  1. asahi.com
  2. 社説

社説

アサヒ・コム プレミアムなら過去の朝日新聞社説が最大3か月分ご覧になれます。(詳しくはこちら)

こどもの日に―世代間負担を見直そう

 お父さん、お母さん。おじいちゃん、おばあちゃん。今日は私たち、子どもの話を聞いてください。

 最近の新聞では、すごく大きな額のお金をよく目にします。「経済危機対策のために予算規模が100兆円を超える」とか、「政府と自治体の債務残高が800兆円になる」とか。

 これは、国が借金だらけになることだと聞きました。よくわからないけれど、このお金は将来、私たちや弟、妹たちが払うことになるの?

 気になるのは、それだけじゃないんだ。今、おじいちゃんたちは年金というお金をもらっています。私たちがおじいちゃんぐらいの年になったら、同じようにもらえるのかな。

 今とくらべて、もらえるお金が減るかも、って先生が言っていました。これ以上やりくりが大変になったら、今の仕組みが続けられなくなるかもしれない、とも聞きました。

 私たちは一人っ子も少なくないから、みんなからお小遣いをもらえて、「ポケットがたくさんある」なんて言われる。でも同年代が少ないということは、税金なんかを1人でたくさん払わないといけないってことだよね。

 大人になってからの仕事のことも気がかりなんだ。お父さん、お母さんの友だちには、同じ会社にずっと勤める人が少なくなっているんだって。

 私たちのころにはどうなるんだろう。今までよりもたくさんお金を払わないといけないのに、ちゃんと仕事がなかったら、困ってしまう。

 大きくなったらお年寄りを助けないと。それは、わかっているんだ。でも私たちの未来について、大人たちは真剣に考えてくれているのかな。

 国の偉い人にも聞いてみたいけど、まだ選挙には行けないから……。

        ◇

 子どもたちの目から財政と社会保障の現状や雇用情勢を見たら、どう見えるだろうか。大人たちに何と言うだろうか。その思いを代弁してみた。

 子どもたちの心配は、決して誇張ではない。納税や社会保障などを通じた受益と負担の「損得格差」は、今の高齢者と未成年で生涯に1億円にもなるという試算がある。

 また新生児は、生まれた時点ですでに1500万円以上の「生涯純負担」を背負っている。秋田大の島澤諭准教授が世代会計という手法を使って、そうはじき出している。「私たちは将来世代が払うクレジットカードを使っている」と島澤氏は例える。

 経済も人口も、右肩上がりの時代ではない。世代間負担の仕組みを根本から見直さなければ、子どもたちの未来は削り取られる一方だ。

 この国の将来を支える世代に、どう希望を残すのか。それを考えるのは、参政権をもつ私たち大人の責務だ。

日立の転換―「脱総合」への厳しい道

 原子力発電所から半導体、冷蔵庫、薄型テレビまで何でも手がける「総合電機メーカー」として、日立製作所は長く君臨してきた。しかし、4月に就任したばかりの川村隆会長兼社長は「総合」の看板をおろし、「選択と集中」を進めると宣言した。

 日立は総合経営にこだわり、激変する経営環境に適応しきれない日本企業の象徴のように見られてきた。その転換は、21世紀のグローバル化のなかで聖域なき自己変革を求められている産業界の縮図ともいえる。

 戦後の高度成長時代には、多くの業界で「総合○○企業」が活躍した。長期安定的な収益部門を核にして、さまざまな新規事業へ手を広げ、経済成長の恩恵をくまなく業績に取り込む手法は、先進国に追いつき追い越す過程で無類の強みを発揮した。日立は最強の総合経営のひとつだった。

 しかし、右肩上がりの時代が終わると、かじ取りは難しくなる。日立でいえば、ドル箱だった電力業界の設備投資が減り始めた90年代後半が転換点だった。中核部門が落ち込んだうえ、新規事業も視界不良になった。

 総合経営は羅針盤なき「総花経営」に変質した。日立ばかりでなく、電機業界の多くがたどった道だ。

 だがここで、日立は「総合」の強化による生き残りを図った。自動車関連などに期待をかけたが、世界同時不況でどれも裏目に出た。09年3月期は日本の製造業として過去最大の7千億円の赤字に転落する。冷蔵庫でのエコ偽装も発覚し、880社にのぼるグループ経営のほころびがめだつ。

 そこで今後は、家電の比重を下げ、発電・送電や鉄道、企業の情報基盤など社会インフラ部門に軸足をすえるという。それを環境部門などと融合して社会の革新をめざす「社会イノベーション」をグループの柱にする。

 ただ、原点ともいえるこの分野も、盤石とはいえない。最近も原子力発電で、タービン損傷や蒸気配管データの改ざんなどが発覚している。

 しかも、低炭素社会への転換が課題になるのにともなって、変化が激しくなっている。

 太陽光や風力など、天候に左右される自然エネルギー発電が増えると、電力需要に合わせて発電をコントロールすることが難しくなる。それを可能にする発電・送電システムの開発競争が世界的に動き出している。

 原発など得意領域を磨くだけでなく、こうした低炭素化を進める社会インフラに幅広く取り組み新境地を開拓できれば、社会的にも意義深い。

 総合経営は追いつくときはいいが、競争の先頭に立ったときには新たな産業を生み出す力が弱い。脱・総合の課題は、新しい産業や社会の展望を開くことだ。その姿を示してほしい。

PR情報