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【科学】

揺れない 落ちない 夢の飛行機 東大と宇宙機構

2009年5月5日

写真

 空の旅を楽しむ人がどっと増えるゴールデンウイーク…。飛行機は、実は統計的にみると最も安全な乗り物の一つなのだが、やはり苦手だという人も多い。東京大と宇宙航空研究開発機構(宇宙機構)では、コンピューターを駆使して故障しても正常に飛行できる「落ちない飛行機」や、風の動きを読んで飛行する「揺れない飛行機」を研究している。今年になって、そんな実験飛行に一部だけだが成功した。 (永井理)

 「飛行機の墜落は、およそ百万回の離陸に一回の割合で起こる。その数字はここ二十年変わらない。飛行機の故障率はすでに十分下がっており、これ以上下げることは難しい」と東京大の鈴木真二教授(飛行力学)。

 事故の確率が下げ止まれば、便数の増加に比例して墜落事故は増えるばかりだ。どうしてもこれ以上、墜落確率は下げられないのか。鈴木教授は「故障を致命的な事故に結び付けなければ墜落の確率はもっと減らせるはず」と、故障しても落ちない飛行機の可能性を指摘する。

■瞬時に計算

 飛行機には主翼のエルロン、垂直尾翼のラダー、水平尾翼のエレベーターという、三つの舵(かじ)がある。パイロットはこの三つの舵を動かし、旋回、上昇、下降する。

 もし舵の一つが故障すれば、機体の空力特性が変わってパイロットは経験したことのない状況に直面する。特性の変化をすぐに把握し、それに柔軟に対応することは、ベテランパイロットでも難しい。

 今年二月に米バファローで起こった旅客機墜落事故では、機体に氷が張り付いて舵の特性が変わったことが墜落の原因ではないかと言われている。

 鈴木教授は、一つの舵が故障しても残り二つで上手に操縦できる、パイロット支援システムを開発した。学習能力に優れたニューロコンピューターを使う。機体の情報を常に収集し、異常を感知すると故障の程度を判断、残りの舵でどう操縦するか瞬時に計算する。

 一般に、右旋回するときはエルロンを使うが、エルロンが故障するとこの支援システムは、ラダーを切って機体を左に横滑りさせ、その時生じる力で機体を右に傾ける。

■熟練者並みに

 鈴木教授らはこの支援システムを、宇宙機構の双発ターボプロップ「ミューパルα」に搭載した。同機はさまざまな故障状態を自在に作り出せる実験機で、エルロンを止めて飛行したところ、支援システムが見事に失った機能をカバーしてくれた。

 試験飛行を担当した宇宙機構の増位和也・飛行技術研究センターユニット長は「シミュレーション装置の訓練でパイロットが機体の揺れを抑えられても、実際に飛ぶとうまく制御できない場合がある」と、支援システムの重要性を説明する。

 「故障のない時と同じとまでは言わないが、影響を最小化できる」と鈴木教授。「ビジネスジェットが増えているが、パイロットの技量はエアラインの場合ほど均一ではない。故障時に誰でも熟練者並みに飛べるようになれば」と、まずはビジネスジェットでの実用化を目指している。

 本年度は、翼の一部が脱落するという恐ろしい事故なども模擬する。実験は、全長一・五メートルの模型機を使う。

■乱気流も回避

 気流による機体の揺れで乗客や乗員が負傷する事故も多く、今年は国内ですでに二件起きた。

 雲を伴わない乱気流はレーダーで見えず、思いがけず巻き込まれることがある。宇宙機構は、飛行機の機首からレーザー光を発し、レーダーに映らない乱気流を検知する研究も進めている。約千五百メートル以下の高度で、約六キロ遠方の風速を測定することにも成功した。

 「自動車の教習程度の訓練で飛行機が使えるようになるには、簡単で安全に飛べるような仕組みが必要。その助けになるのでは」と鈴木教授。空の旅の安全がどんどん高まることを期待したい。

 <記者のつぶやき> 飛行機は大好きだが、気流で揺れると生来の高所恐怖が顔を出し、座席のモニターでゲームに没頭して気持ちをそらす。揺れずに安全な飛行機ならもっとゆっくり寝られる。

 

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