2009年5月5日4時15分
フェリチン膜の断面の電子顕微鏡写真。つぶつぶは、一つ一つがたんぱく質。膜の厚さは約60ナノメートル=物質・材料研究機構提供
従来の千倍の速さで水をこせる濾過(ろか)膜を、物質・材料研究機構の一ノ瀬泉・ナノ有機センター長たちのグループが開発した。低コストで効率よく水を処理でき、途上国での飲料水製造や水の浄化に役立つほか、人工透析などの医療用にも使えそうだ。先月、英科学誌ネイチャー・ナノテクノロジー(電子版)に掲載された。
この膜はフェリチンという球状のたんぱく質を数珠つなぎにして詰め込んだ構造で、サケの「筋子(すじこ)」のような形をしている。球と球の間の2.2ナノメートル(ナノは10億分の1)ほどのすきまを水が通る間に、不純物がこし取られる。
膜の厚さが数十ナノメートルでも十分にこし取る力があり、膜が薄くてすむため、速く濾過できる。塩分は除去できないが、農薬やウイルス、着色物質などの物質を取り除ける。ナイロンなどと同程度の丈夫さで扱いやすく、安価でもある。
浄水装置に使われているセラミックス製の膜は、厚くて透過力が低く、外から圧力を加えて水を絞り出している。フェリチン膜なら圧力をかけずにすみ、省エネにつながるほか、浄化装置が安価で簡便に作れれば、途上国でも威力を発揮しそうだ。(嘉幡久敬)