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ああ、無情。
作:みあ



第二十二話


 王城とは海をはさんだ向こう側。 
 そこが最終目的地、竜王の城。 
 一体、竜王とは如何なる姿をしているのか? 
 どれほどの強さを誇るのか? 
 何も判らないまま、俺達は進まなければならない。 
 ……旅の終わりは近い。 

 
 俺は、海の向こうに見える竜王の城を見つめている。 
 全てのアイテムは揃った。 
 太陽の石と雨雲の杖、そして、ロトの印。 
 これを聖なるほこらに持っていけば、竜王の城への道が開ける。 
 シアちゃんがそう教えてくれた。 
 聞けば、ご先祖様も同じ道を辿ったらしい。 
 道理で、太陽の石を知っていたわけだ。 
 
「あるじ、どうした?」 
 
 城の屋上に立っている俺が気になったのだろうか、シアちゃんが声を掛けてくる。 
 
「シアちゃんこそ、今日は姫と買い物に行ったんじゃなかった?」 
 
 明日の朝に出発する予定なので、今のうちに必要な物を買い揃えると、2人して出かけて行ったのを見送ったはずだ。 
 
「衣装合わせとか言うて、仕立て屋で着せ替え人形じゃ。面倒じゃったので、途中で逃げて来た」 
 
 顔をしかめながら話す。 
 余程、嫌だったらしい。 
 
「衣装合わせ?」 
 
「祝勝会で着るんじゃと」 
 
「気の早い事だな」 
 
「そうじゃな」 
 
 2人で示し合わせたかのように、声を上げて笑う。 
 ひとしきり笑ったところで、シアちゃんが再び問いかけてくる。 
 
「で、わらわの質問には答えてもらえぬのか?」 
 
 やっぱ、ごまかせないか。 
 俺は、観念することにした。 
 
「……ずっと、不安なんだ」 
 
「不安? おぬしは死んでも生き返るのじゃぞ?」 
 
「俺の事なんてどうでもいいんだ。ただ、2人を失う事になるかも知れないのが怖い」 
 
 幼い頃に両親を失った。 
 親代わりの人は居たが、どこか寂しさは拭えなかった。 
 でも、旅に出て、シアちゃんに出会って、姫に再会して、俺は幸せだった。 
 この幸せを失うのが、また独りになるのが、たまらなく怖い。 
  
「何じゃ、そのような事で悩んでおったのか」 
 
 しかし、不安にかられる俺を、シアちゃんは笑い飛ばす。 
 
「そんな事って、俺は本気で!」 
 
「あるじが本気なのはわかっておる。わらわとて、別れを体験しておる。ずいぶん昔の事じゃがの」

 その言葉で、熱くなった頭が急速に冷えていく。 
 
「ごめん」 
 
「良い。わらわとて、魔王の城に臨みし時、同じように悩んだわ」 
 
「シアちゃんも?」 
 
「うむ。まだ14の小娘じゃぞ。当然ではないか」 
 
 自分が死んだら、親兄弟は悲しむだろうか。 
 仲間達が死んだら、自分はどうなってしまうのか。 
 色々な思いが駆け巡って、その場を動けなくなってしまったそうだ。 
 
「その時、アルスが笑いながら言うた。『大丈夫だ。俺達は強い!』とな。思わず笑ってしもうたわ」 
 
 ご先祖様。やっぱスゲーよ、アンタ。 
 達者なのは、夜だけじゃねーんだな。 
 
「故に、我らも先代に習うとしようぞ」 
 
「でも、俺は……」 
 
「気にせずとも良い。わらわも、姫も、おぬしを強いと思うておる。力の大小ではない。おぬしの心が、じゃ」 
 
「俺の心……?」 
 
 いきなり何を言い出すんだ? 
 
「アルスは、死ぬ事を恐れていた。死を恐れ、死にたくないがために強くなった」 
 
 おぬしとは、正反対じゃなと笑う。 
 
「おぬしは、仲間を失う事を恐れておる。自らの死を厭わず、仲間を失わぬために強くなろうとする」 
 
「でも、俺は弱い」 
 
「だからこそ、わらわ達も強くあろうと願う。仲間を失いたくないという、おぬしの想いに応えるために」 
 
 正直、シアちゃんの言っている事はよくわからなかった。 
 ただ、俺が2人を想うのと同じくらい、2人が俺を想ってくれていることが、とても心強かった。

「ありがとう、シアちゃん」 
 
「礼を言うのは、わらわの方じゃ。おぬしに愛される事を、わらわは誇りに思う」 
 
 俺達は、どちらからということもなく、自然に抱き合い、唇を重ねようとした。 
 
「見つけましたわ!」 
 
 突然響いた大音声に、咄嗟に離れる。 
 
「アリシアさま、続きが待っておりますわ」 
 
 姫は素早く駆け寄ると、シアちゃんの腕をとる。 
 
「では、勇者さま。アリシアさまは、お借りしていきますわ」 
 
 俺はうなずくしかできない。 
 姫は、そんな俺を見つめると、おもむろに唇を重ねた。 
 
「あーーー!! 何をしておるか!!」 
 
 シアちゃんが姫の腕の中で暴れている。 
 目を白黒させている俺に、姫はいたずらっぽく笑う。 
 
「私も、勇者さまの愛をいただきました。これは、そのお礼です♪」 
 
 えっ? それって……。 
 
「さあ、行きますわ」 
 
 姫は、俺が問い返すより早く、シアちゃんを抱き上げながら去っていく。 
 
「おぬし、どこから聞いておったんじゃ?!」 
 
「さあ? 何の事でしょう?」 
 
 言い争いながら遠ざかって行く2人を眺めながら、俺は心が軽くなっているのに気付いた。 
  
「俺達は強い!!」 
 
 海の向こう、竜王の城に届くように、思い切り叫んだ。 
 どこか遠くで、2人が笑ってるような気がした。  












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