ああ、無情。(6/32)PDFで表示縦書き表示RDF


ああ、無情。
作:みあ



第六話


 突然告げられた衝撃の事実。 
 今にして思えば、確かに兆候はあった。 
 スライムとの命を懸けた死闘の日々(52戦6勝45敗1分け)。 
 プライドを捨てて手に入れた200ゴールドが無駄になった勇者コース(メラは共通)。 
 そして、魔法使いにしか装備できないどくばり、そしてそれに980ゴールドも使ったこと。 
 ん? 途中から金の話に変わったな。 
 まあいい、これからは魔法使いとして生きよう。 
 そうすれば、俺の人生も薔薇色だ。 
 ……薔薇色っても、ソッチ系の趣味の事じゃないからな! 

 街へと帰る道を俺は歩いている。 
 行きと違うのは、一人の少女を連れている事。 
 自称「守護者」兼「下僕」のシアちゃんだ。 
 そして、俺の装備も変わっている。 
 布の服が、みかわしの服になった。 
 なんと、シアちゃんがくれたのだ。 
 
「わらわのあるじとして、相応しい格好をしてもらわなければ困る」と言って。 
 
 メラを使えるようになったから、スライムなんて目じゃないぜ! 
 しかも、装備は格段にレベルアップ。 
 なにしろ、みかわしの服といえば、3000ゴールドもするからな! 
 
 スライムがあらわれた。 
 
 勇者はメラをとなえた。 火の玉が指先からほとばしる。 
 
 スライムに6のダメージをあたえた。 
 
 スライムを倒した。 
 
「焼きスライムの出来上がりだ」 
 
「うむ、ゼリーのようでうまそうじゃな」 
 
「たいして美味いもんじゃ無かったぞ」 
 
「食ったのか?!」 
 
 いや、金が無くてな。 
 死んで生き返っても、腹が膨れるわけじゃないしな。 
 スライムのぷりぷりとした身が美味そうに見えてつい。 
  
「生きてる奴を、ガブッと」 
 
 何気にひのきの棒よりも攻撃力が高かったのは悲しかったな。 
 しかも、見事にあたった。 
 俺の歯形のついたスライムが動きを止めると同時に、俺も意識を失ったからな(冒頭文の1分け)。

 
 うん、あの時のオッサンの言葉ほど、心に響いた物は無かったな。 
 
「さすが、勇者はやることが違うのう」 
 
 シアちゃんが、あの時のオッサンと同じ事を言う。 
 
「それで、その後どうしたのじゃ?」 
 
「さすがに見かねたのか、衛兵のおっちゃんが金貸してくれた」 
 
 あの時は、あのおっちゃんが神様に見えた。 
 
「しかも、20ゴールドだぞ。20ゴールド。出世払いで構わんとか言ってくれて」 
 
 あの時は、おっちゃんにすがって、マジ泣きしたな。 
 
「……苦労したんじゃな、あるじ」 
 
 アレ? 景色が滲んで見える。 
 泣いてない、俺は泣いてないぞ。 
 
  
 そうこうしている内に、街が見えてきた。 
 もうすぐ街に着く、その時、奴があらわれた。 
 そう、俺のライバル、不倶戴天の敵、スライムベスだ。 
 だが、俺もあの時の俺とは違う! 
 
「シアちゃんは下がっていろ! アレは、俺が決着を付けなきゃいけない相手だ!」 
 
「イヤ、ふう、……もう何も言うまい」 
 
 シアちゃんは激励の言葉をかけようとしたのだろう。 
 だが、俺たちの間にそんな言葉は意味をなさない。 
 それに気付いて、言葉をおさめたのだろう。 
 
「さあ、来い! 勝負だ!」 
 
 勇者の攻撃。 
 
 勇者はメラをとなえた。 しかしMPが足りない。 
 
「アレ?」 
 
 スライムベスの攻撃。 
 
 スライムベスは体当たりを仕掛けてくる。 
 
 勇者は、身をかわした。 
 
「さすが、みかわしの服!」 
 
 勇者の攻撃。 
 
「ここは、ひのきの棒で!」 
 
 スライムベスはかわした。 
 
「やるな! さすがは我がライバル!」 
 
 だが、ここで俺は致命的な隙を見せてしまった。 
 ひのきの棒を振り下ろした体勢のまま、奴の攻撃を受けてしまったのだ。 
 
「やばい! やられる?!」 
 
 だが、ここでみかわしの服が驚異的な回避を見せた。 
 ……俺の身体を無視して。 
 
 ゴキッ!! 
 
 勇者は身をかわした。 
 
 しかし、20のダメージを受けた。 
 
 勇者は死んでしまった。 
 
「あるじ……、それはどーかと思う」 
 
 シアちゃんの悲しそうな声を最後に意識が途絶えた。 
 
 
「おお、勇者よ! 死んでしまうとは情けない!!」 
 
 久しぶりに見たオッサンの顔が、何故か滲んで見えた。 












ケータイ表示 | 小説情報 | 小説評価/感想 | 縦書き表示 | TXTファイル | トラックバック(1) | 作者紹介ページ


小説の責任/著作権は特に記載のない場合は作者にあります。
作者の許可なく小説を無断転載することは法律で堅く禁じられています。




BACK | TOP | NEXT


小説家になろう