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ああ、無情。
作:みあ



第五話


  ホイミが使えなかった……。 
 衝撃の事実が明らかになった。 
 が、しかし! 
 捨てる神あらば拾う神あり。 
 なんと、メラが使えたのだ。 
 適性がないのは、回復呪文か、勇者の道か。 
 ……もう人としての適性も無くしてるのかも知れないが。 
  
 
 俺は依頼の待つ村へと急いでいた。 
 何でも、古の魔物が封じられている洞窟から女の声が聞こえると言うのだ。 
 封じられた魔物は女性型のモンスターだという。 
 古文書によると、男をたぶらかし、精気を吸い取るという事だ。 
 だから、他称男好きの勇者に依頼が回ってきたんだが。 
 ……言っておくが、あくまでも他称だ。 
 俺は、普通に年下女好きだ。 
 だからこそ、俺にふさわしいとも言える。 
 大抵、この手の魔物はお姉さまか女王さまだからな。 
 俺の守備範囲外だ。 
 
 だと、思ってたんだがな……。 
 
「おお、勇者よ!! 死んでしまうとは情けない!」 
 
 気が付くと、俺は玉座の間にいた。 
 すげー久しぶりにオッサンに会った気がする。 
 
「で、勇者よ。 今回はどうしたんじゃ?」 
 
「いや、洞窟の最深部に扉があってな……」 
 
 俺はオッサンに事のあらましを語りながら、その時の事を思い出していた。 
 
  
 
「勇者様! よくぞお越しくださいました」 
 
「早速だが、案内してくれ」 
 
 俺は、着いて早々、村人に洞窟の入り口まで案内してもらった。 
 こんな仕事はさっさと終わらせたかったからだ。 
 
「勇者様、コレをお持ちください」 
 
 洞窟に入ろうとした俺に、村人が包みを差し出す。 
 中身は、たいまつ3本に薬草5つ。 
 代金は? と問う俺に村人は告げた。 
 
「餞別にございます。勇者様からお金を取ろうなどと滅相もない」 
 
 正直、非常にありがたかった。 
 実質、手探りで行こうとしていたからだ。 
 いざとなればメラもあるし。 
 そんなことを考えていた俺は、激しく心を打たれた。 
  
「わかりました。 ありがたく頂戴いたします。 例え死んでも、この依頼を全うしてみせます!」 
 
「さすが、勇者様! ですが、死んでもなどとは言わないでくださいませ。 無事なお帰りをお待ちしております」 
 
 良い村人だ。 
 あのクソ王とはエライ違いだ。 
 この村人のような人間ばかりなら、世界も平和だったに違いない。 
 何気に国王批判をしつつ、洞窟を下っていった。 
 
 思ってたよりも広いな。 
 俺の目の前には、大きな鉄の扉がそびえている。 
 まるで、「勇者の部屋」のようだ。 
 こんな所に閉じ込められるなんて、ついてないよなあ。
 昨日の自分を思い起こさせる。 
 ここまで来るのに、モンスターは現れなかった。 
 そのかわり、あちこちから尖った岩が突き出ていたり、落とし穴の如くポッカリ穴の開いた空間があったりと、たいまつが無ければ間違いなく、オッサンと何度も顔を合わす破目になっていただろう。 
 あの村人に感謝しながら、重い扉を開いた。 
 
 へえ、こんな風になってるのか。 
 中は、普通の住居のようだった。 
 暖炉もあるし、テーブルセットもある。それに何かの魔法なのだろう、ほんのりと明るかった。 
 そこでなにより目立つのは、部屋のど真ん中に置かれた天蓋付きの大きなベッド。 
 そして、そこに腰掛けて泣いている一人の幼女の姿だった。 
 
 年の頃は5才前後、銀色の長い髪がベッドの上に広がっている。 
 もったいない、俺はそう思った。 
 俺は、少女特有のさらさらとした長髪を手櫛ですくのがなにより好きなのだ。 
 たとえ今は守備範囲外でも、5年も経てば立派なレディーだ。 
 目の前で美しい髪が傷むのは見たくない。 
 そう思った俺は、彼女に声を掛けた。 
 
「どうしたんだい? お嬢さん」 
 
「…………すいてるの」 
 
「ん? なんだって?」 
 
 顔を上げる彼女。 
 予想以上に可愛らしい。 
 5年後にはさらに美しくなっていることだろう。 
 
「おなかすいてるの」 
 
 真っ赤な瞳が俺をじっと見詰めている。 
 
「だから、お兄ちゃんの血、ちょうだい」 
 
 
「お主、バカじゃろ」 
 
 オッサンの第一声は、俺の繊細な心に深いダメージを与えた。 
 
「第一、洞窟の最深部、扉の向こう側の時点で普通の人間でないことが分かりそうなもんじゃろ」 
 
「だって、可愛かったんだぞ。あれが魔物だなんて普通思わねーだろ」 
 
  
 そうだ、あれは反則だ。 
 俺はリベンジのため、再びあの洞窟へと潜った。 
 そして、扉を開けた。 
 
「お主、何故生きておるんじゃ?!」 
 
 そこには、あの少女の姿があった。 
 否、あの時よりも微妙に成長している。 
 見た所、8才くらいか。 
 
「何故、と言われても困る」 
 
 微妙にオッサンと喋り方がかぶる少女は、驚きを隠せない様子。 
 そこはそれ、勇者だから? 
 俺にも分からないことを聞くな。 
 
「ならば、もう一度吸い尽くしてくれる!」 
 
 
「おお、勇者よ! 死んでしまうとは情けない!」 
 
 また死んだらしい。 
 
「じゃあ、もういっぺん行って来るわ」 
 
「うむ、頑張るのだぞ。勇者よ!」 
 
 オッサンに見送られて、また洞窟に潜る。 
 
 
「ヒィーッ! 何故生きておるのじゃ?!」 
 
 また成長している。今度は10才くらいか。 
 おもしろい。 
 どこまで成長するのか試すことにしよう。 
 
 再び、彼女の接吻を首筋に受ける。 
 3度目ともなると、余裕が出てきたな。 
 血を飲み下そうとしているのだろう、ときたま首筋に当たる舌の動きが何ともエロい。 
 おお、意識がぼーっとしてきた。 
 
「これで、二度と生き返るまい」 
 
 彼女の言葉を最後に意識が閉じた。 
 
 
「おお、勇者よ。死んでしまうとは情けない」 
 
 再び、オッサンの前。 
 
「じゃ、行って来る」 
 
「うむ、行って来い」 
 
 
 四度、扉を開ける。 
 
「ヒ、ヒィーー!! 許してたもれ、許してたもれ!」 
 
 彼女は、俺の姿を見た途端、ベッドの中に潜り込んでしまった。 
 一瞬、垣間見た彼女の姿は12才くらいだった。 
 良し! 俺は心の中で喝采を送った。 
  
「怖がることは無いよ。 俺は何もしないから」 
 
 そう語りかけながら、ベッドに近付く。 
 
「ほ、本当か? 嘘じゃあるまいな。 嘘だったら、メラゾーマ喰らわすからな!」 
 
 メラゾーマかよ! 
 内心、ビビリながら優しく諭す。 
 
「大丈夫。 今までだって何もしなかっただろ?」 
 
 正確には、出来なかっただけだが。 
 
「む、そういえばそうじゃったな」 
 
 シーツからちょこんと頭を出して、上目遣いにこちらを見詰める。 
 ぐはっ! ダ、ダメだ、そのカッコでこっちを見るな。 

「自己紹介がまだだったな。俺は、勇者をやってる……」 
 
「勇者!?」 
 
 オイ、最後まで紹介させろ。 
 はあ、仕方ない。 
 俺は、渋々うなずく。 
 
「そうだ、お……」 
 
「勇者ならば、あの不死性も理解できる」 
 
 最後まで喋らせろ。 
 
「お主、竜王を倒すために旅をしておるのじゃな」 
 
 閉じ込められていたわりに情報通だな。 
 
「そうだ、た……」 
 
「ならば、わらわも連れて行け!」 
 
 だから、最後まで喋らせろと……。 
 ああ?! いきなり何言ってやがる。 
 まあ、確かに願っても無いことだが。 
 
「構わんが、そ……」 
 
「では、すぐに準備をしよう!」 
 
 人の話を聞け! 
  
 彼女は、ベッドを飛び出すと惜しげもなく肌をさらす。 
 白くてとてもキメの細かい肌だ。 
 銀色の髪が彼女の裸体に纏わりついて、とてもよく似合う。 
 陳腐な言い方だが、まるで女神のようだった。 
 じっと見ていると、ふと彼女の真っ赤な瞳と目が合う。 
  
「なんじゃ? わらわに欲情しておるのか?」 
 
「すまん、こんな所で理想の女性に会ってしまって、理性が抑えられないんだ」 
 
 その言葉に、彼女は何故か頬を染め、とんでもないことを口走った。 
 
「良いぞ。お主はわらわのご主人様じゃからな、契約もせねばならんしな」 
 
 その言葉に、俺は必死に握っていた理性の手綱を手放すことにした。 
 
 
「おお、勇者よ! 死んでしまうとは情けない!」 
 
 あ? ……何で俺、ここにいるんだ? 
 ひょっとして、これが世に言う『腹上死』って奴か? 
 
「ああ、またな。オッサン」 
 
 オッサンへの挨拶もそこそこに再びあの洞窟へ。 
 果たして、彼女はそこにいた。 
 
「すまぬ、初めてじゃったので加減が効かなんだ。許してたもれ」 
 
「いや、気にするな。 そういえば名前を聞いてなかったな」 
 
 順序が間違ってるような気もするが、気にするな。 
 
「わらわはアリシアじゃ。 シアちゃんと呼んでたもれ」 
 
 シアちゃんか。 
 
「シアちゃん」 
 
「なんじゃ、あるじ」 
 
 打てば響くようなこの返事。 
 これだよこれ、俺に足りなかったのは。 
 
「シアちゃんのフルネームは何て言うの?」 
 
「わらわの名は、アリシア・フォン・クローベルじゃ」 
 
 じゃあ、今度はもう少し深く。 
 
「シアちゃんはいくつかな?」 
 
「さんびゃくとんで、じゅうにさいじゃ。っと、あるじ。 レディーに年を聞くのはマナー違反じゃ」

 
 と同時に、彼女の右手から灼熱の炎がほとばしる。 
 ああ、これがメラゾーマか……。 
 炎に焼かれながら、俺は思った。 
 312才って、どこも飛んでねーだろ、と。 
  
「ナイス、突っ込み……」 
 これだけを言い残して、俺は死んだ。 
 
 
「おお、勇者よ! 死んでしまうとは情けない!」 
 
 いや、さすがにあれは死ぬだろ。 
  
「して、どうなった?」 
 
「落とした」 
 
 端的にそれだけを告げた。 
 ひょっとしたら、落ちたのは俺のほうかもしれんがな。 
 
 そして、再び洞窟へ戻る。 
 そこで、俺に関して衝撃の事実が明かされた。 
 
「あるじよ。お主、先程のメラゾーマ、防いだじゃろ」 
 
「いや、完膚なきまでに死んだが」 
 
「本当なら、骨も残さず焼き尽くすはずじゃ」 
 
 何気に怖いことを言う。 
 そういえば、喋る余裕があったな。 
 
「あるじの対魔法守備力、それなりに回る頭、ひょっとして……」 
 
 さりげなく酷いことを言われた。 
 それなりって何だよ。 それなりって。 
 だが、それ以上に続きが気になった。 
 
「お主、魔法使いではないか?」 
 
 は? 開いた口がふさがらなかった。 












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