岡山市出身の文筆家内田百〓は子どもの時から、朝は後楽園のタンチョウヅルが鳴きわたる声で目を覚ました。
 観光カレンダーからちぎり取った後楽園の写真をピンで止め、いまわの際まで眺め続けたともいう。「後楽園は一生忘れる事の出来ない夢の園である」。随筆「古里を思ふ」に書き残すほど思い入れは深かった。
 三百年を超える歴史を誇る日本三名園の一つ。その歩みを絵図や書画、文献資料などでたどる特別展「岡山後楽園」が岡山県立博物館で開かれている。目を引くのは、一七一六年の「御茶屋御絵図」。園内を百分の一の縮尺で描いた巨大絵図だ。
 シンボルの唯心山はまだ築かれていない。田畑の広がりが目立ち、築庭間もないころの姿が浮かび上がる。幕末期の「御後園絵図」になると芝生にツルも描かれ、現在の後楽園にかなり近づいた様子がわかる。
 江戸時代の絵図を思い描きながら園内を散策するのも楽しい。鮮やかな芝生の緑に、紅白のツツジが彩りを添えている。X字形の園路が芝生を割る明るく開放的な中央部。対照的なのは、深山幽谷の趣がある花葉の森などの景観だ。懐の深さを実感する。
 薫風が心地よい季節。後楽園に限らず、身近な「緑の遺産」に接し、その魅力を再発見するのも悪くはない。きょうは「みどりの日」。
(注)〓は「間」の「日」が「月」