昨秋の世界同時不況で韓国人観光客が激減した対馬市に、再びにぎわいが戻りつつある。連休中は韓国人客で満室という宿泊施設も出現。地元では早くも「韓国特需の再来」を期待する声が出ているが、宿泊料金などの引き下げでしのいでいる側面も強い。 (対馬通信部・犬束真一)
◆背に腹代えられず
「料金値下げが効いた。客足が戻り始めた」。同市厳原町にあるホテルの男性マネジャー(32)にも、笑顔が戻っていた。
100人が宿泊できる同ホテルは、昨秋まで月平均約1000人の韓国人観光客が宿泊していた。しかし、ウォン安が進んだ昨年11月以降、平日はがら空き、週末も20人程度という状況に陥っていた。
「背に腹は代えられない」と、今年に入って、韓国人向けに1人1泊4600円としていた宿泊料金を3500円に値下げ。韓国旅行社の反応は良く、同国でも連休中の5月初めは50の客室がすべて埋まり、年末まで月平均600人の予約が入るまで持ち直した。
◆「韓国頼み」根強く
2008年に対馬を訪れた韓国人観光客は、前年を約7000人上回る約7万2000人。しかし、右肩上がりの増加傾向は世界同時不況で一変し、11月以降は対前年比約50%にまで急落した。
今年3月ごろまでに、全島的に宿泊料金やバス料金などの値下げの足並みがそろい、ウォン安も一段落すると、4月の落ち込み幅は対前年比40%に回復。5月も同30%台が見込まれ、徐々に上昇軌道を描きつつある。
離島の対馬にとって、割高な交通運賃や知名度の低さなどの固有のハンディゆえに、国内客の誘致はままならない。一方、韓国人客に対しては「最も手ごろな外国旅行」という強みがある。県対馬振興局のまとめでは、韓国人観光客の07年の島内消費額は21億円以上と推計され、韓国人観光客に寄せる期待感は大きい。
韓国人釣り客誘致のパイオニア的存在で、同市美津島町で民宿を経営する神宮安実さん(61)は「回復傾向がこのまま続いてほしい」と願う。
◆「現状でぎりぎり」
現在、釜山発の対馬1泊2日の旅行代金は約2万2000円前後。韓国の国内旅行と比べてもなお割安感はあるというが、釜山の旅行会社に勤める金純淑(キムジュンシュク)さん(42)は「国内経済の先行きは不透明で、まだ海外旅行を控える人々が多い。対馬旅行も為替レート次第で再び減る可能性もある」と指摘する。
宿泊料金などの引き下げでかろうじて踏みとどまっている形の対馬にもまた、日本国内の不況風が吹き付けており、神宮さんは「現状の料金で採算ラインぎりぎり。これ以上の値下げを求められても無理でやっていけない」と語る。国境の島の観光の先行きには依然危うさが残っている。
=2009/05/04付 西日本新聞朝刊=