天文や物理を研究する大勢の科学者たちが、宇宙の軍事利用を食い止めようと声を上げている。昨年8月、平和目的に限ってきた宇宙利用に防衛目的も加える宇宙基本法が施行され、先月28日には具体的な方針をまとめた宇宙基本計画案も公表された。戦争のための研究をさせられてはかなわないと、平和憲法の精神を大気圏外でも守りたい考えだ。
国立天文台(東京都三鷹市)の助教石附(いしづき)澄夫さん(44)は06年3月、新聞を読んでいて一つの記事に目がとまった。宇宙基本法案が国会に提出されるという。「まずい」と感じた。
日本の宇宙利用は平和目的に限ることが69年に国会決議され、軍事目的は抑制されてきた。ところが、法案には「安全保障への寄与」が盛り込まれ、防衛のための軍事利用解禁にかじを切る内容だ。「軍事目的の研究はしたくない。『防衛上の秘密』が増え、学問の自由も縛られるのではないか」と思った。
80年代半ばには、宇宙を利用してミサイルを迎撃する米国の戦略防衛構想(SDI)の研究協力に多くの科学者が反対。「戦争目的の研究には応じない」「軍事機関と共同研究しない」と次々に平和宣言を発表した。だが、今回は同様の運動が見あたらない。
石附さんは普段、電波望遠鏡の観測データを使って銀河の星間物質を研究している。社会に向けて意見を言ったり、市民運動にかかわったりしたことはなかったが、「自分がやるしかない」と決意。新聞や雑誌に投稿し、講演に飛び回った。「宇宙の平和利用の堅持」を呼びかけるホームページを開設し、法案成立直前の5月、署名を募った。
面識のない人も含め、天文学、物理学、宇宙工学の研究者ら420人の署名が3日間で集まり、与野党に提出。その後も賛同者は増え続け、これまでに900人以上から「宇宙は人類の共通領域。平和目的以外に利用してはならない」「宇宙の軍事化は人類の将来を危うくする」などの声が寄せられた。