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「従軍慰安婦」という呼び方に関する
VAWW-NETジャパンの見解と提案
「従軍慰安婦」という用語は、今もマスコミをはじめ国会議員や市民などの間で使われています。しかし、これまで幾度となく被害女性から「私たちは自らの意思で日本軍に従軍したわけでも、日本兵を慰め安んじる『慰安婦』になったのでもない」と、この呼称に対して異議申し立てがなされてきました。こうした被害者の声を受けて、今年6月にソウルで開催された「日本の過去の清算を求める国際連帯協議会」で、韓国の尹貞玉さんから用語統一の提案がなされました。
VAWW-NETジャパンは、2000年に開催された女性国際戦犯法廷をきっかけに「日本軍性奴隷制被害者」「日本軍『慰安婦』問題」という用語を使用していますが、マスメディアや公的発言・文書には未だ「従軍慰安婦」という用語が使用されており、被害者の声や被害実態に鑑みて事実認識に立った用語が使われるべきだと考えます。
「従軍慰安婦」という言葉の発祥について
まず、「慰安婦」という言葉ですが、これは当時の日本軍の軍関係文書にも使われており、ある意味で「歴史用語」ということができます。しかし、「従軍慰安婦」という言葉は戦後作られた造語です。この言葉が最初に使われたのは1971年に発行された『週刊実話』の「“性戦”で“聖戦”のイケニエ、従軍慰安婦」という記事だといわれていますが、50年代には富田郁彦氏(『戦場慰安婦』/1953年刊行)が、60年代には伊藤桂一氏(『兵隊たちの陸軍史』番町書房1969年/『オアシスへの郷愁―戦場慰安婦について』1971年)が「戦場慰安婦」という用語を使っており、70年代に入ってからは金一勉氏が『軍隊慰安婦』(1977年刊行)という用語を使っています。決して歴史用語ではない「従軍慰安婦」という言葉が定着していったのは、1973年に刊行された千田夏光氏の著書『従軍慰安婦』(双葉社)がベストセラーとなり、多くの市民の目に触れたことがきっかけであったといえます。かつて千田氏本人もバウネットの質問に対して「私が作った俗称」と答えており、公的用語として拘る必要はないものと考えます。
「従軍」という形容詞について
94年度版高校日本史に続き、97年度版中学校全教科書に「従軍慰安婦」が記述されるようになると、記述を削除せよという攻撃が激化していきました。記述に反対する「自由主義史観研究会」の藤岡信勝氏らは「『従軍』という言葉は軍属という正式な身分を示す言葉で、軍から給与を支給されていたが、慰安婦はそういう存在ではなく民間の売春業者が連れ歩き、兵士を顧客とした民間人であった」と主張しました。しかし、「従軍僧侶」も「従軍記者」も「従軍看護婦」も軍から給与を支給されていたわけではなく、「軍属ではないから『従軍慰安婦』という言葉は不適切だ」という主張は正確さを欠くものです。
「従軍」とは辞書的には「軍に従って戦地に行くこと」ですが、この言葉は慰安所に入れられ「慰安婦」を強いられた女性たちの連行実態を見えにくくするもので、歴史用語でもないこの言葉を使い続けることは誤った認識を定着しかねません。バウネットは藤岡氏らの視点とは全く異なる視点、すなわち奴隷状態に置かれて性的暴力を受けた被害者の視点と、それを強いた日本軍の加害の視点を明確にすべきだとの考えから「従軍慰安婦」という用語を使用すべきではないと考えます。
「性奴隷」という言葉について
「慰安婦」を強いられた女性たちは拒否する自由も逃げる自由も奪われ、暴力と監視の下で自由意志を剥奪され日本兵の性の相手を強いられた「性奴隷」というべきものでした。93年に国連人権委員会がこの問題が取り上げられて以来、国連関係文書では彼女たちの被害を戦時性暴力に位置づけ、「性奴隷」という用語を使っています。また、女性国際戦犯法廷は日本軍「慰安婦」制度について「日本軍性奴隷制」という用語を使用し、被害を受けた生存者を「サバイバー」と記しています。
言葉は認識に関わるもので、彼女たちが受けた体験は「日本軍性奴隷制」の下での「性奴隷」にほかならず、彼女たちはまさしく「性奴隷被害者」です。
「日本軍『慰安婦』」という言葉について
しかし、一方で「日本軍が犯した犯罪」という、「慰安婦」問題の固有性を曖昧にすることはできません。「戦時性奴隷」は戦争・武力紛争下で女性を監禁して強かんする性奴隷の総称であり、日本軍性奴隷制はその類型に入ります。従って日本軍が犯した犯罪という視点を曖昧にしないため、又、日本軍が作った都合のいい言葉である「慰安婦」という用語の欺瞞性を薄めないため、固有性を示す場合は、「慰安婦」を「 」で括って「日本軍『慰安婦』」とするのが適切であると考えます。
結論
私たちは、今は亡き被害者、名の知れぬ被害者、声を上げられた被害者、全ての被害を受けられた女性たちの尊厳が回復されることを願い、そのための闘いと、この犯罪を決して忘れないという決意を込め、「従軍慰安婦」ではなく、「慰安婦」または「日本軍『慰安婦』」という用語を使用し、制度については「日本軍性奴隷制」または「日本軍『慰安婦』制度」、「『慰安婦』制度」、被害者については「日本軍性奴隷制被害者」「日本軍『慰安婦』被害者」「『慰安婦』被害者」という言葉を用いることを、ここに提案致します。
「戦争と女性への暴力」日本ネットワーク(VAWW-NETジャパン)
(2005年2月12日・13日 第七回日本軍「慰安婦」問題アジア連帯会議にて発表)
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