ここから本文エリア 瀬戸際 憲法09 この人に聞く
4 映画監督 朴壽南さん(73)2009年05月04日
在日朝鮮人2世として、沖縄戦の集団自決から生き残った人々や、従軍慰安婦だった女性たちのドキュメンタリー映画を撮影してきました。そうした撮影の中で、「美しい海と空が好き」と沖縄に移り住んだ若い女性に出会いました。彼女は今、沖縄県名護市辺野古で、米軍の普天間飛行場代替施設建設に反対する座り込みを続けています。 彼女は「ここから戦争が始まっているんだ」と、初めて沖縄の現状を知ったそうです。そして、米軍基地のフェンスに「戦争反対」「基地はいらない」と書いたリボンを結ぶ戦いを始めました。彼女の戦いは、いつしかそこを訪れた人たちもに広がっていきました。 戦争で、沖縄戦で、何があったのか。集団自決って何? 沖縄での集団自決について「軍による強制」が教科書検定で削除されるなど、戦争を知らない世代は戦争の真実を知りません。真実を奪われてきているんです。沖縄に全国の米軍基地の75%が集中している現状や、どうしてそうなったのかを知らないで、本当に沖縄が好きと言えるのでしょうか。 私の仕事は歴史に葬られてきた人たちの掘り起こしから始まります。唯一の被爆国日本の中で、朝鮮人被爆者は完全に闇に埋もれ存在しませんでした。日本人には教えられていないんです。(以前に撮影した映画「もうひとつのヒロシマ」に登場する)申仙花さんは、被爆して、部屋で自分の子どもが焼けていてもどうしようもなかった。その後、焼け跡で子どもの名前を呼び続け、気が違ったのかと言われました。朝鮮人被爆者の沈黙は本当に深く、聞き出すのがつらく、やめていた時期もあったほどです。 朝鮮人被爆者の話に限らず、「南京大虐殺はなかった」とか、「従軍慰安婦は強制じゃない」などと、私たちだけでなく、日本人も歴史の真実を奪われてきました。朝鮮が武力で併合されたときに何があったのか、真実をお互いに知って、共有していれば憎み合い、殺し合うことはなかったでしょう。 歴史の真実が奪われてきたことは、日本人と私たちが愛し合うことを奪われてきたということです。真実を語り継ぐことは、お互いを愛し合うことです。真実は命であり、平和なのです。 これからは戦争を知らない、戦争の真実を奪われてきた世代に入れ替わっていくんでしょうね。歴史の真実を奪われた世代に選挙権が与えられること自体がとても怖いことだと思います。教科書検定も含め、憲法改正が実質的に、なし崩しに始まっていると思います。戦争をしない国が、戦争ができる、戦争をする国に作り替えられている今。現在進行形で進んでいる恐怖を感じます。 ◎パク・スナム 35年、桑名市生まれ。被爆朝鮮人や従軍慰安婦など戦争被害に遭った朝鮮人の証言を集めたドキュメンタリー映画などを撮り続ける。6月には最新作「ぬちかふう 玉砕場からの証言」が公開される。 ●沖縄戦教科書問題 第2次大戦末期の沖縄戦の集団自決をめぐり、「日本軍が強制」とした日本史教科書の記述について、教科書各社が06年度の検定意見に従い削除。07年春、事実が表面化し沖縄県民の怒りがわき上がった。文科省は検定意見を撤回しなかったが、各社は内容を修正。ただ、軍の「命令」「強制」という記述は復活せず、軍の「関与」で集団自決に追い込まれたと記した。
マイタウン三重
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