きょうの社説 2009年5月4日

◎舳倉・七ツ島調査 海女が生きる海を誇りに
 「里山」に対して「里海」という。人手を加えることで生物の多様性と高い生産性を持 つようになった沿岸海域を指す言葉である。

 北國新聞社の舳倉島・七ツ島自然環境調査団で、アドバイザーを務める国連大高等研究 所いしかわ・かなざわオペレーティング・ユニットのあん・まくどなるど所長は、「舳倉島の海女さんは、里海の原形の一つ」と言う。日々、海と対話しながら水産資源を管理し、自然と共生する海女さんのライフスタイルは確かに、海の生態系を壊さず、人が自然と深く付き合っていく持続的なシステムそのものだ。

 舳倉島、七ツ島周辺海域で毎年夏にアワビやサザエ、モズクの潜水漁が解禁となると、 多くの海女が島に渡る。その数は昨シーズンで約二百五十人に上った。平安時代末期の「今昔物語集」にアワビの産地として登場する島で、伝統の海女漁が今もなお盛んなのは、里海の豊かさ、自然と人間とのかかわりの深さゆえだろう。

 きょうの「みどりの日」は、生物学者だった昭和天皇にちなんで名付けられた。自然の 恵みを受けて、多くの海女が生きていける古里の海を誇りにしたい。

 能登では、七尾湾を豊かで美しい里海として創生するため、石川県が産学官連携のプロ ジェクトを始動させている。県は来年十月に開催される生物多様性条約第十回締約国会議(COP10)の関連会議の誘致を目指しており、里海を見直す活動は一層盛んになるだろう。

 だが、海女たちの里海は、環境異変という大きな危機にさらされてもいる。本社の調査 団は今年初の調査で、舳倉島の海岸植物の生育状況から、地球温暖化による海面上昇が疑われる現象を見つけた。昨年は酸性雨の計測で、金沢や小松で観測されなかった日に、舳倉島で観測されるという驚きの調査結果もあった。中国大陸から偏西風に乗ってやってきた大気汚染物質が原因だろう。

 舳倉島、七ツ島の調査は、自然科学から考古学まで多岐にわたる。「海女の自然観」を 追究するあん所長の独自の視点は、多彩な調査活動に、さらなる深みをもたらしてくれるはずだ。

◎加賀友禅で浴衣 さらに間口広げる努力を
 夏の到来を前に協同組合加賀染振興協会が加賀友禅の技法を生かした浴衣を開発し、新 たな需要掘り起こしに力を入れている。加賀友禅の生産額はピーク時の四分の一に落ち込んでおり、金沢市は今年度「加賀友禅技術振興研究所」を設けて市場開拓のてこ入れを図る。これを機に加賀友禅の「間口」を広げる努力をさらに重ねてほしい。

 浴衣は近年、夏祭りや花火大会の定番ファッションとして若い女性らの人気を集めてお り、大手衣料メーカーが「和のカジュアルウエア」として安価な商品開発を進めている。そうした低価格指向の一方、大都市圏では四十代前後の女性を中心に、上質のオーダー浴衣を求める客も多いという。

 浴衣市場は、少子高齢化でメーンの顧客層の二十歳前後が減少するため、三十代以上の 需要開拓がより重要になってくるとされる。こうした状況を考えると、上質な加賀友禅浴衣を市場に投入する余地は十分あると言えよう。

 加賀友禅業界は以前から、伝統の着物だけでなく洋装やインテリア商品の開発など新分 野への進出に力を入れている。最近は、IT技術を活用して漫画の主人公をデザインに取り込んだ加賀友禅の商品製作が、経済産業省の地域産業資源活用事業に認定された。

 こうした商品開発とともに大事な顧客開拓では、増加傾向にある外国人観光客への売り 込みも積極的に行いたい。金沢市の加賀友禅伝統産業会館で行われる着付け体験が外国人客に好評であり、日本政府観光局の調査では、外国人旅行者が日本で購入したい物の一番は「着物・浴衣」という。

 また、加賀友禅は石川の和装文化の中心をなす伝統産業であり、児童生徒に対する和装 文化教育にも一段と力を入れてもらいたい。今年度から一部先行実施される新しい学習指導要領は伝統文化の尊重を重視しており、中学校の「技術・家庭」では、和服の基本的な着装を学ぶことが明記されている。和装文化教育の推進に協力することは、将来の顧客獲得など加賀友禅業界にとっても大きなメリットがある。