歌手でタレントだった清水由貴子さん(49)が父の墓前で死んでいるのが見つかった。「ご迷惑をかけてすみません」の書き置きがあり、遺体の隣の車いすには衰弱した母がいた。
清水さんは1977年に歌手デビュー。庶民的なキャラクターが人気で、「欽ちゃんファミリー」でも活躍したが、病弱だった母の介護のため06年に所属事務所を辞めていた。
親の介護で離職する40~50代は多い。国民生活基礎調査(04年)によると、同居家族を介護している人のうち40代は12・2%、50代は28・5%を占める。介護生活が長期間に及ぶ人、介護のために故郷にUターンする人も珍しくない。
清水さんは自殺の数日前まで普段と変わらない様子だったというが、明るく見えても心身にストレスを抱えている人は少なくない。厚生労働省研究班の調査(05年)によると、介護者の23%が抑うつ状態で、「死んでしまいたいと思ったことがある」のは65歳以上で約3割、65歳未満でも2割に上る。
介護保険が始まって10年目。同居家族がいると生活援助サービスが受けられず、要介護認定でサービス利用が絞り込まれるなど、制度変更のたびに介護給付は抑制されてきた。介護者が仕事を失うことで、生計が苦しくなり、サービス利用を控える人もいる。清水さんが住んでいた東京都武蔵野市は高齢者福祉の先進地で、清水さんは週に何日も介護サービスを利用していたというが、介護事業所が足りない地域もまだまだ多い。
施設よりも住み慣れた自宅で暮らすことを望む高齢者は多く、親の面倒は自分で見たいと思う家族も少なくない。ただ、昼間はサービスを利用できても、夜は逃げ場がない。がんばってきた人ほど肉親の介護から手を引くことをためらうものかもしれないが、要介護度が進んだらプロに任せる機会を増やし、もっと家族を介護から解放してほしい。それには、疲れた人が安心して弱音をはけるよう、温かくきめ細かい相談支援やケアマネジメントがなくてはならない。本当は、仕事を辞めなくても親の介護ができるような制度の充実を求めたい。
清水さんは幼いころ父を亡くし、母の手一つで育てられた。その母が衰えて認知症が出てきたとき、芸能界を引退して自分で介護することを決めた気持ちが胸に重く響く。面会に来る人もなく捨てられたように高齢者施設にいる人々のことを思うと、清水さんのような介護者を悲劇へ追い込む社会はあまりにやるせないではないか。
毎日新聞 2009年5月4日 東京朝刊