日本人の園芸好きは江戸時代の半ばに始まったと言われる。このころから花木をふんだんに使った回遊式の庭園や生け花、盆栽が世の中に広がり、接ぎ木や品種改良などの技術が発展した。
そんな伝統も最近、先細りだと聞く。2000年前後のガーデニングブームは過去のもので、園芸人口は減少を続けている。社会経済生産性本部の「レジャー白書」によると、07年に「園芸、庭いじり」をやった人は3050万人。過去最高だった01年より940万人減った。テレビゲーム人口が07年に3180万人となり、園芸人口を抜いたのとは対照的な歩みだ。
背景について、業界関係者は「成長まで時間のかかる園芸は、早く結果を求めたがる時代にそぐわないのではないか」と語る。一度は園芸に親しんだ人、特に女性が離れていくケースが多く、うまく育たなかったりすると、気持ちがなえてやめてしまう傾向があるようだ。また、同じように手間がかかるペットを飼う人は増え続けていることから、意思を通わせやすい動物と違い、物言わぬ点がネックなのかもしれない。
園芸離れを趣味の多様化、時代の流れと片づけてしまうのは寂しい。花や草木を育てるのは確かに難しく根気がいる。失敗すると、やり直しは1年後の季節の再来まで待たなくてはならない場合もある。しかし、それだけにうまく育った時の満足感や達成感はひとしおだ。水やりを怠ってしおれかけた植物がみるみる生気を取り戻す姿に、逆に力をもらうような喜びもある。ベランダ菜園程度の経験しかない者にとっても、その醍醐味(だいごみ)は得難いものだ。
植物を世話し土をいじることを通じて心を癒やしたり、機能回復に取り組んだりする「園芸療法」は、そんな効用に根ざす。園芸の本場・イギリスに始まり、農園や病院などで広く実践。米国でも帰還兵の心のケアなどに活用されている。
日本では02年に、公的機関としては全国で初めて兵庫県立淡路景観園芸学校に園芸療法士を養成する課程が開設されるなど、最近注目を集めている。心身を癒やす効果だけでない。世話をする植物の姿に自らをなぞらえるのか、単調でつらく、成果がなかなか出ない理学療法のリハビリに積極的に取り組む効果もあるという。
植物は食べ物を人や動物に授けたり、二酸化炭素を吸収したり、かけがえのない存在だ。その重みを考え、かかわりを見直す機会は森林浴や植樹、農作業など遠出をしたり、特別な準備が必要なことに限らない。すがすがしいこの季節、庭やベランダで土に触れ、草花や樹木と語らってみてはどうだろう。
毎日新聞 2009年5月4日 東京朝刊