昨日、1月22日に新宿ロフトプラスワンで開かれたイベント、「岡田斗司夫の『遺言』第二章」に行ってきた。
当日のトーク内容をメモと記憶を元に箇条書き形式(敬称略)で書き起こそうと思う。ちなみに、「(笑)」の記載がある箇所は、場内で笑いが起こったポイントである。
(予めお断りしておきますが、結構長い&興味のない人には全く面白くない文章です。あと、実際に参加された方で、「そこは違うよ」ってところがある方は是非ご指摘ください。こちらの勘違い・思い違いがあるかもしれませんので。よろしくお願いします)
「王立宇宙軍」
・アメリカ版(ハリウッド)の話が持ち上がる。とは言え、全米公開するわけではなく、ある劇場で1回ひっそりと上映して、それを「ハリウッドでも上映!」という形で宣伝するための企画であった。
・不本意ながらも、結局アメリカ版のために音声吹替版を制作することに(日本は字幕文化だが、アメリカは吹替文化。理由として、アメリカの識字率が100%でないといったことが挙げられる)。
・そこで、アメリカの声優を呼んでアフレコしてもらうも、あまりに下手すぎる。
アメリカでは、声優というものが日本のように職業化されていない。
ハリウッドを頂点としたヒエラルキーの存在 → その底辺がアニメ吹替
だから、アニメ吹替をする連中は自分を売り込むことばかり考える(アドリブを入れる、キャラの名前を変える…)
・チェックのためにアフレコに立ち会った山賀監督の帰国直後の落ち込みが全てを表していた(当時、バンダイとの契約で「王立〜」に関することには全て山賀監督のチェックが必要ということになっていた)。
山賀「あれなら、自分たちでやった方がマシですよ」(笑)
・連中は、勝手に台詞を変更して盛り上げようとする―確かに盛り上がりに欠ける作品だけど―が、こっちとしては余計なおせっかい。
・アメリカでは、アニメは子どもが観るものだから大人がそれを面白くしてやらんといかん、という考え方がある。
・「王立〜」の扱いを巡って、その当時のバンダイ内部は、「撤退派(どうやってガイナックスから手を引こうか…)」と「推進派(この作品はこれから伸びるに違いない)」に二分していた。
・当時の状況―製作費、8億 興行収入、1億〜1億5000万…大赤字
しかし、長期的に見れば、LDやビデオ、テレビ放映などによる収入で黒字になる可能性もあった。
・推進派の側から、TVシリーズ(全52話)の案が持ちかけられる。←山賀監督は乗り気
岡田「(TVシリーズでやるとして)『王立〜』で描かれた時代より過去の話をするの? それとも未来の話をするの?」
山賀「いや、映画の2時間を52話に伸ばすんですよ」(笑)
・山賀監督がTVシリーズでやりたかったこと…8月15日・終戦記念日のあたりの回で核実験エピソードを放映する
・それに対して、岡田「それ絶対チェック通らないよ(笑)。手塚先生の24時間テレビアニメ手法(放映2時間前にとにかく謝りながら納品)を使って、ギリギリで納品すれば可能かもしれないけど(笑)」
・山賀「いや、まぁ監督生命を賭けてまでやりたいかっていうと、『ノー』なんですけど(笑)」
・しかし、TVだと、1話あたりの製作費1500万×52話+1話あたりの放映時間確保2000万×52話=約18億という巨額の資金が必要になってしまう。そこで、TVシリーズの話は立ち消えになり、2億で続編映画を作らないかという企画が持ちかけられる。
・映画で2億だと、テレビより少しマシかなというレベルの作品。2億の作品は、4億の作品に比べて半分のクオリティかというと、そうではなくて、実はもっと低い10分の1くらいのクオリティになってしまう。ただ、いくらでもお金をかければいいというわけではなくて、8〜9億くらいが上限かな? それ以上は、いくらお金をかけてもそう良くなるわけではない。
・続編の設定
「王立〜」の100年後の世界(「王立〜」の登場人物たちは伝説となっている)
ワープ航法が確立され、宇宙戦艦が建造されている。
その宇宙戦艦が、6光年離れた惑星と接触する。そして、それが地球。
※普通、「異星人との接触」というと、自分たちと姿形が全く違う生物との接触をイメージしがちだが、そこに自分たち人類とそっくりの異星人が現れた場合、また彼らと戦争することになった場合、人類はどう対応するのか、といったところを描きたかった。
・この話を軸に、「オネアミス側」と「地球側」の2本を作ろう! と考えるも、これまた立ち消えに…。
「幻の『ガイナックス版ガンダム』」
・当時のガイナックスは、スタッフへの給料不払いが続く、ほぼ破産と言っていい状態(このときの経験から、「給料不払いだけは絶対やりたくない」と思うようになる)。
・そんな折、サンライズから「ガイナックス版ガンダム」が提案される
・そこで企画案として出されたのが「ガンダム以外のMSが出ないガンダム」。
当時、「子どもは悪役にお金を使わない」ということが既に統計的にわかっており、ヒーロー・ヒロインの数を増やせば、関連商品も増え、おもちゃの売り上げも伸びると予測された。そのため、「これからのビジネスモデルはこれですよ」と推される。
・確かにビジネスとしては正解だけど、アニメファンとしては「それってどうなの?」
・でも、後でそれが現実になっちゃうんだけど…何が「ストライクガンダム(注:「機動戦士ガンダムSEED」に登場するガンダム)」だよ(笑)(拍手も起こる)
・オランダ代表のガンダムは風車が付いてるとか(笑)。知らない人のために言っておくと、後で「機動武闘伝Gガンダム」っていうのをやったんですけど、そこでは各国代表のガンダムが出てくるんですよ(笑)。
・ここからが「ガイナックス(岡田)版ガンダム」の企画案。
・当時、会社のコピー機がよく故障した。自分たちではどうにも直せないから、ゼロックスのメンテの人を呼ぶと、その人はいとも簡単に直してしまう。一体なぜなんだ、と思い、話を聞くと、「あなたたちはこのコピー機の使い方を知らないんですよ! ちゃんと説明書読んでくださいよ! 縮小だってね、このレンズのとこにちゃんと合わせればしっかり縮小されるんですよ!」と説教された。
・この経験から、MSを作るメーカーのメンテ要員がパイロットに説教する話をやりたいと考えた(笑)。
・例えば「ズゴックだってね、爪振り回して相手の腹に刺せばいいってもんじゃないんですよ!」(笑)。または、黒い三連星が説教されるとかね(笑)。「いいですか、ザクとは違うんです。ここは地球で、あなたが乗るのはドムなんですから」(笑)
―さらに、例えば…
ジムのメンテ要員が「ジムだって、ちゃんと上手く使えばゲルググくらい落とせるのになぁ…」と言ったのを聞いて、パイロット連中が「じゃあ、お前がやってみろよ! 出来なかったら、ジムは配備から外すからな!」とけしかける。もし、そのメンテ要員がジムに乗ってゲルググを落とせないという事態になれば、ジムは発注されなくなり、メーカーとしては大打撃を被ることになってしまう。そこで会社としては、何としても成功させるため、ジムにマグネットコーティングを施したり(笑)、こっそり仕掛けをしたりする(笑)んだけど、メンテ要員はそのプライドから、カスタム・ジムに乗るのを拒否する(笑)とか。
・絶対、やられた方は相手の戦力を誇大表現するはずなんだよ。「あの白いヤツの目から出るビームがすごい!」とか(笑)。
・そういう現場の連中の言うことを聞きながら、戦争という状況の中で社会人として働く人々の「正義」の視点で「ガンダム」を描くと面白いんじゃないかと思った。
・戦争ものは「正義」をつくりにくい。
・ガンダムの場合、ジオン内の独裁を狙う「ザビ家」という倒すべき対象を作ることで、「正義」を作り得た。しかし、この手はもう使えない。
・では、どう「正義」を描くか? → 戦争を「仕事」「生活」と割り切る
例えば、「戦い」を仕事とする傭兵の話も描きたかった(戦争が終わり、仕事を失った彼らが、シャアに戦争を起こさせる)が、それはいわゆるガンダムの正史とは全くズレてしまう。
・そして、この話も立ち消えに…。
「トップをねらえ!」
これ以降、次回の「アニメ夜話」のネタバレになる可能性があるとのことですので、ご注意ください!
・ここからは、実際に本編の映像を流しながら、要所要所で岡田さんの解説が入る、オーディオコメンタリーのような進行になる。
・第1話―劇中の新聞記事に書かれた文章「しびれるぜ、鋼の巨体」 ← んなこと言う訳ない(笑)! こういうおフザケ要素を入れてくるのが樋口の真ちゃん(笑)(樋口真嗣)。
・OPに登場する日本列島…当時の同人誌ではよくネタにされたけど、よく見ると原発のある地域が水没している。こういう話はNHKでは何故かカットされちゃう。
・今でこそ、結構支持されてる作品だけど、当時は「もっと真面目にやればいいのに」と言われ、受けが悪かった。
・ロボットに器械体操させるとか、縄跳びさせるとか、後で出てくる「お姉さまが鉄ゲタ」(笑)とか、実際に作画するアニメーターに「何故このシーンが必要なのか」ということを説明しなきゃいけなくて、それは徹夜なんかで作業してもらう人に対して当然のことなんだけど、これが意外に辛い! だって、大変な苦労をして描いてもらうのに、そのシーンを登場させる理由が「面白そうだから」なんて言えないじゃない(笑)
・この作品では、実在の商品を劇中に登場させてるんだけど、それまでは何故かそれが「いけないこと」とされてきた面があった。そう言う人たちは権利がどうこうとかって言うんだけど、「その権利って何なの?」って聞くと上手く答えられなかった。で、この作品で出してみたら、別に何も問題は起こらなかったんだよね。
・「トップをねらえ!」制作に関して
1本1500万で6本のOVAを作らないか、と提案された。
1本約20分と考えると、6本で約2時間。OVA2時間で9000万は破格である。そこで、2時間のものを6つに分けるという考えで制作された。
・脚本は僕(岡田斗司夫)ってことになってるけど、山賀が書いたところもあった。でも、その当時、彼はこの作品がガイナの暗黒面になると思ってたらしく、「僕が書いたってことは一生言わないでください」ってお願いされた(笑)。それで、言わないでおいたんだけど、あいつ、この作品が売れたら、あっさり「実は僕が書いたんですよ〜」なんて言い出しやがって(笑)。
・アニメは個人がつくるんじゃなくて、その「場」がつくる。その年、その夏、その冬でなければできないような「場」が。だから、同じメンバーでやれば同じくらいいいものが出来るかっていうと、そうじゃない。
・(「戦う理由」について)「戦いに理由などない。人間は憎しみ合う動物だ」と言ったイデオンのようにネガティブなものにはしたくなかった。かと言って、そこをないがしろにするわけにはいかなかった。そこで考えたのが「宇宙怪獣」という設定。
・やや話が脱線して…
ガイナの作品から、「岡田斗司夫」のクレジットが少なくなっていく。初めはそんなに気にしなかったんだけど、さすがにこれはちょっと気味が悪いって思ったときに何でか聞いてみた。そしたら、どうもガイナックスに対する「岡田斗司夫」の影の大きさが自分が思っていた以上に大きいらしいということがわかった。つまり、ガイナックスと言えば、一番には庵野監督が来て、その次くらいに「岡田斗司夫」が来るらしい。そこで、「岡田斗司夫」のいないガイナックスを出していかなければならないってことらしい。
・そのことで揉めてどんな利益があるかって考えたら、特にないよなぁなんてことを思ってたんだけど、これ、「パチンコ『トップをねらえ!』」とか有り得るよね(笑)? 揉めた方がいいのかな〜(笑)。でも、ベストセラー出して、金には困ってないからな〜(笑)
・話戻って…
・タカヤ・ノリコは馬鹿である。
・「でも、何とかやらなくちゃ」みたいな、どこか飛び抜けた考えをする人間がいないと、話が進まない。
・リアルな人間を描くと、枠に収まりきれなくなる。必ずどこかでキャラの知能指数をグッと下げてしまわないといけない。
・ガンダムはその下げ幅を最小限にしたわけであり、完全にリアルな人間を描いたわけではない。よく見ると、アムロにしても、シャアにしても、ブライトにしても、ものすごく頭の悪いことを言っている場面がある。ただ、その直前に感情的にならざるを得ないようなシーンが描かれていて、「感情的になったから、冷静でいられなかったのだ」というような見せ方をしている。
・全てをリアルに描いたのが、イデオン。
・さて、「トップ〜」は「努力と根性」がテーマだと言われるんだけど…。
ここで15分休憩。
「トップをねらえ!」第2部
・実は、5話と6話の間には幻の6話プロローグがある。
・幻の6話プロローグ
壊滅状態になった地球。その地球で、ヱルトリウムによってエリートのみを地球から脱出させようとする人々と、それに反対する人々との間で大内乱が起こる。結局、逃げるにしても全人類が逃げられるわけではないのだから、やはり戦うしかない、という結論に達する人類。そして「戦うことを宣言する」大統領演説が開かれるのだが、そのとき大統領が射殺される。
・という感じで、5話と6話の間の15年間のうちに地球で何が起こったのかということを描こうと思っていたが、庵野監督にあっさりカットされる。
庵野「ここはいらないです。理屈はいいんです」
・確かに必要ないと言えば、必要ないんだけど、ちょっと不満(笑)
・6話をモノクロにした意味
モノクロは情報量が少ない代わりにスタイルがある。昔、「ウルトラQ」を観た後に、「ウルトラマン」を観たとき、色が付いた代わりにスタイルが失われた気がした。
未来に対するイメージが白いもやで、それで超未来・超科学を表現したかった。
・「努力と根性」がテーマ…?
・この作品を観る側も作る側も、「努力と根性」がテーマだとは思っていない(実際、そう思うような作りにはしていない)。
・この作品は、「努力と根性」と聞いて「ああ、わかるわかる、あれね」というように熱くなれる感覚を共有しているアニメファンのために作ったのであり、「『努力と根性』を信じる」ことがテーマである。
・ラストの「オカエリナサイ」には、アニメファンに対する「『トップ〜』はいつでも君たちを待ってるよ」というメッセージと共に、「君たちはこの作品を受け入れてくれるよね」というメッセージが込められている。
・そういう意味で言えば、これは「オタク全肯定アニメ」。
・って、こんな話をすると、「トップ2!」、けしからん! 鶴巻さん、わかってない! って話になっちゃうよね(笑)
・これは、オタクをどう捉えるか、そのスタンスの違いなんだよね。
・「本当の〜」っていうのが嫌い。「本当の〜を見ろ」とか「本当の〜を知れ」とか。その「本当」って一体何なの? それがわからない。
・ただ、「何か」を観て感動したとする。そのとき、その「何か」がアニメであっても、それに感動した「心」っていうのは間違いなく本物だろう。それが一番大事なんじゃないか。
・「王立〜」と「トップ〜」というコインの裏表みたいな2作品を作ったことで、作りたかったアニメは作れた。
・「トップ〜」に関して、やっぱり続編の話が来た。
山賀はやる気。
岡田「1万2千年後の世界だよ? どうやって続編作んの?」
山賀「いや、地球には普通にキミコたちがいて、普通の生活をしてるんですよ」
岡田「え? どういう設定?」
山賀「それを今から岡田さんが考えるんでしょう(笑)」
・作りたいものがなくなった。あとは、「王立〜」と「トップ〜」でやっていないこと探しをするしかない。そんな消極的な作り方はしたくない。
・しかし、スタジオを構えている以上、仕事がないとスタッフに給料を払えない。
と、第二章はここまで! 第三章を2月12日にやります(笑)(&場内拍手)
以降、質疑応答。その中で印象的だった、「評論のスタンス」について。
・評論には4つのスタンスがある。
・マンガ夜話が何で成立するかっていうと、4人のスタンスがそれぞれ上手い具合にバラバラだから。
1.研究―夏目房乃介 マンガは紙の上のインクのしみ(マンガはあくまで研究対象)
2.作品論―いしかわじゅん 作者→マンガ(作者と作品との関係性を見る)
3.感想文―岡田斗司夫 読者→マンガ(読者がその作品を読んで、どう反応するかを見る)
4.作家論―大月隆寛 信者→マンガ(作家が言いたいことを積極的に汲み取ろうとする)
・この4つの要素のブレンド具合によって、評論家の個性は決まるのではないか。
最後まで読んで頂いた方、大変ありがとうございます。書ききれなかった話もあるのですが(特に「トップ〜」関連)、当日の話の内容・雰囲気が少しでも伝われば幸いです。
帰りに、出入り口のところで、少しだけ岡田さんと話をすることが出来た。以前、ある冊子の企画で、友人とともにインタビューさせていただいたことがあって、「何とか一言挨拶だけでも」と思っていたので嬉しかったのだが、いざ、ご本人を目の前にすると、何か頭が真っ白になって、しどろもどろになってしまった。まぁ、そのインタビューのときもそんな感じだったのだけれど…。「幻となった『ガイナックス版ガンダム』の話、すごく面白かったです!」って直接伝えたかったなぁ…。
いや〜、それにしても、メモを元に当日の話の内容を書き起こすのがこんなに大変だとは思わなかった。でも、よく考えてみたら、本編の話だけで約3時間もあったんだよね。その後の質疑応答がまた1時間半弱…。岡田さん、相当疲れただろうな。
とりあえず、今回は当日の様子をレポートするという形で、個人的な感想はほとんど抜きにしてます。もうこれだけで何時間かかったことか…。感想はまた改めて、ということで。
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