2007年6月1日から携帯電話をF904iに機種変更した。ポータブルな映像再生に興味が強まり、ワンセグ搭載機が欲しくなったからだ。「携帯にTVがついてどうするの?」と思っていた方だが、食事の注文待ちや電車内など隙間時間にニュースをつけると、字幕放送も出るのでけっこう良いなと思ったりして。
そして、アニメ視聴にも意外な余録と発見があった。ワンセグは地上波デジタルの一部なので、アスペクト比16:9のワイドスクリーンで放送している。地デジ機器はまだこなれていないので「買い待ち」の筆者にとって、ワイド化の進展がワンセグでより明確に分かるようになった。この数年、天地に黒味の入った「LB:レターボックス」(郵便受けからついた名称)で放送するアニメが目立っている。平行して放送している地上波デジタルでは、16:9の隅々まで使ったワイド画面になって黒味はない。すでに、情報量にものすごい格差ができつつある。
しかし、LBは「ワイド化」が把握しやすいからまだいい。ワンセグ機で一番ビックリしたのが、『サザエさん』がワイド化していることだった! 調べてみると2005年10月からすでにハイビジョン制作になっていたらしいが、アナログでは16:9画面の左右を切って放送しているので、分かりにくかった。「何となく黒味があると思いこんでいた」人も多いはずで、恥ずかしながら筆者もその一人。しかし、アニメファン的に困ると思った。それは原版がワイドかどうか見分けのつかない上に、「不完全な画面で鑑賞しているからには、いつの日かもう一度、原版どおりに観ないといけないのか?」などと思ってしまうからだ。
しかも、テレビ欄もアニメ雑誌も「WS」(ワイドスクリーン)や「LB」などのような表示はあまり対応していない。モノクロ・カラーの差とか、モノラル・ステレオの差はずっと表示していたのに? 非常に不可解でさえある。
ワンセグをずっと見続けていると、すでにニュース番組やドラマでもデジアナ両用画面が着実に増えている様子が分かるが、気持ち悪いのはアナログで「裁ち切り」になる部分に大事なものが入ってこないように配慮していることだ。ワイド画面を横切る字幕スーパーは画面の途中から出て途中へ消えるし、4人の座談会が写ると左端に1人分、右端に1人分ぐらい入りそうな「余白」がある。ふだん「レイアウト(画面設計)」をキチンと追いこんで密度を上げてるアニメばかり観ているせいで、その「隅のスカスカ感」が気になって気になって仕方がない。
で、現に『サザエさん』の画面を見つめていると、左右の「裁ち切り」が「禁断のエリア」になっているようだ……。カツオやワカメは画面の中央に集まって演技してるし、なかなか左右の方に行かない。さらに、ときどきその「裁ち切り線」ギリギリのところでフスマが閉めてあったりして、「このラインで閉めてることには、何か演出意図があるのかな」と不要な注意を喚起してしまう。いや、画面の隅を決める「フレーム」とは本来的にそういう役割をもつものなので、それを2つ意識しながら作っている現場は大変だと思うが……。完全に地デジに切り替わるまでは、こうした過渡期の映像が増殖し続けるはず。本当に困るのは、左右が切れたアナログの方がレイアウト的に引き締まって見えることが多いことなのだ。そりゃそうだよね、切れてもいいものしか置いていないんだから。
しかも友人にこの話をしてみたら、さらに驚くことが発覚。「何を言ってるんですか。『サザエさん』は、まだセル画とフィルムの制作ですよ」と怒られてしまったのである。これはスゴイことだ!
『サザエさん』のアニメが始まった1969年は、まだモノクロ制作のアニメ作品が残っていた時期。カラー化は時代の先端だった。しかも、制作方法は「ハンドトレス」という、動画をペンでセルにトレスする手法。他の作品は続々と「マシントレス」というカーボンコピーを使った機械化に置き換わっていくのに、『サザエさん』は切り換えなかった。さらに2000〜2002年近辺のアニメ業界のフルデジタル化転換も、『サザエさん』は2世代前の制作手法を継続して乗り越えた。その上で、2011年の地デジ転換も乗り越えてTVアニメ草創期のまま、続けていこうとしているのだ。
これはもはや「伝統工芸」の世界である。どんな手段を講じても、ぜひ続けてほしい。SF全盛期の1970年当時、未来社会を展望したもと科学少年として、予想もつかなかった未来がここにある! 「セルアニメでハンドトレスだけど、ワイド画面になった『サザエさん』を携帯電話で見る21世紀」!! エアカーも月面基地も、まだ実現していないけど、われわれは「超シュールな未来」に生きているのだ。
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