COLUMN
画面を通じて伝わる情報って、オリジナルからどれくらい劣化しているのか? オリジナルを気にするのも、重箱の隅が好きな傾向のひとつ。リマスターされた劇場版ファーストガンダムで、そんなこだわりを検証!
劇場版『機動戦士ガンダム』3部作のDVD-BOXが年末に発売される。今回の製品化は、「オリジナル音声」ということが強調されている。しかし、もっと注目すべきなのは、よりオリジナルに近づいた画質の方ではないか。 解説書を担当させていただいた関係で、一足お先にサンプルを拝見してみたら、ここ数年間のマスタリング技術はまさに日進月歩という感慨があった。昨年のTV版もかなりのレベルだったが、またさらに良くなっているのである。最新のデジタル処理を駆使、富野由悠季監督の徹底監修を受けたHDプレミアムマスターは、間違いなくこれまでのファーストガンダム中で最高画質と言える!(注:2007年11月現在、TVでオンエア中のCMは旧マスターの画質で、製品とは異なる)。 スプライス傷やネガ傷が消え、画面揺れが感じられなくなっているのはもちろんのことだが、特殊なフィルタソフトの採用でセル、背景、全体のフィルムの質感がまったく損なわれていない。しかも、デジタルアニメっぽくパキパキした感じにもなっていない絶妙さが嬉しい。 個人的には「26年前、劇場版ガンダムの井荻スタジオで雑誌用セル撮影のため、実物を見て触って知っている、あのセル画と背景の色」が、見事なまでに再現されているのでビックリだ。「ようやくここまで来たか」と、思わず涙ぐむほど。セルの人物やメカはツルッとした透明感を出しながら鮮やかに、背景は背景で質感を保ったまま中村光毅美術監督の独特の色彩感覚を伝えてくれて、記憶がよみがえってきた。 特に強調したいのは、鮮やかの一語につきる色味だ。たとえばガンダムの胸はオリジナルのセルの色味では、よく商品化されている藍色ではなく、抜けるようなスカイブルーなのである。ブライト・ノアの髪の毛も黒ではなく濃緑色。シャア専用ザクやミライ、セイラの制服のピンクはこの作品のために調合された特色で……なんて、くどくど言わなくても画面から充分にそれが伝わってくる。 今までリリースされてきたビデオグラム、あるいは立体物など2次商品のちょっと渋めの色味に慣れている人には、もしかしたら「ガンダム世界って、こんなに派手な色味じゃないぞ!」と拒否感があるかもしれない。だがしかし、これは紛れもなく制作スタッフがあの当時、手塩にかけて作り出したオリジナルカラーの再現なのである。 どうしても渋めにしたければ、今の大画面モニタはかなり細かく彩度・明度をいじれるので、出画の方で調整すればいい。 本当は「色彩再現性」は「重箱の隅」じゃなくて根源的というか、鑑賞時の心理的な印象を左右する抜本のもののはず。だが、どうしてもアニメファンはまず「作画」とか「声優の演技」に先に行きがちではないかな。1980年代初等、まだ「テレビまんが」の言葉が残っていた時期の劇場版『機動戦士ガンダム』のオリジナルの色味にこめられた鮮やかな息吹を、存分に満喫してほしい。 ……と言うべきことを言っておいた後で、おまけで本当の「重箱の隅」を。 ガンダムの胸って、「面影(メンカゲ)」が採用されているのは知っているかな? 『機動戦士ガンダム』は低予算番組だったため、セル画の色数が非常に少ない。80色前後で制作されているのだ。しかも基本的に「カゲなし」である。 なぜ「カゲなし」か? セル画の実線部分はトレスマシンで機械的に転写されるが、カゲをつける部分にはカゲ色の絵の具とペンで「色トレス」をしなければいけないので1工程増え、絵の具の色数も全体で倍に増える。セル仕上げは団地の主婦にバラまいていたので、色数が増えてしまうと、団地に持ち込むとき絵の具のビンが箱に入らなくなるという、なんともはやな物理的制約によるものであった。 しかし「カゲなし」だと立体感が損なわれる。ガンダム本体の色の基本を決めたのはアニメーションディレクターの安彦良和氏、というのは有名な話だが、最終的には色指定の専門家と詰めるとき、さまざまな駆け引きが行われた。その結果、胸だけ「メンカゲ」が認められたのだという。 どういうことか? ガンダムの脇の下の「面」とコア。ブロックの出っ張りの「面」だけ、実は最初から「カゲ色」に指定されているのだ。つまりカゲ指定がなくても、その2つの面だけが少し暗く指定されているので、全体でカゲなし指定になってても、ガンダムには何となく立体感があるというわけ。 ところが腹の赤い部分には「メンカゲ」がないので、よ〜く見ると同じ平面上なのに、脇の下だけ暗くて腹はノーマルで、胸だけ選択的に光があたってるみたいな、あり得ないヘンな立体になってるのである(笑)。胸の突起も脇の下も、ガンダムが光源に対してどっちをどう向いても常にカゲ色なので、それもなんだかヘン(笑)。一回、胸の色を気にしだすと、どの場面でも気になってしまって、まさしくこれが「重箱の隅」。 いつかどなたか、「アニメのオリジナル色指定どおり、脇の下とコア・ブロックの出っ張りだけ少し暗いガンダム」のプラモ制作&塗装に挑戦してほしいものである。