COLUMN
アニメファンは1コマの作画も見逃さない、鋭い動体視力をもつと言われている。にもかかわらず、その再生ハードウェア上で1コマがどう扱われているのかには、案外無頓着であったりするのではないだろうか。コマとコマにずっとこだわってきたこの連載、今回はフィルムとビデオのコマの差に迫ってみる!
カメラが水平移動したとき、その滑らかさを気にしたことはあるだろうか? 画面に字幕がフェードインして重なったとき、その浮き具合をチェックしたことはあるだろうか? 筆者はある。そこに「ビデオくささ」を感じると非常に気持ちが悪くなるのである。 1秒間に24コマか、30コマか。前者は映画館で流れるフィルムの標準。後者はNTSCと呼ばれるテレビ、ビデオの規格。コマが多いほど動きが滑らかに見えて良いのか。アニメーションの場合は、そうでもないと思う。アニメならではの動きは「フィルムっぽさ」にも支えられているというのが個人的な感覚だ。 フィルムをビデオ化する工程をテレシネというが、そもそも両者はコマ数が合っていない。その違いをどう埋めているのか。動きの素片を問題にするアニメファンなら、根源的なことを知っておいて損はないだろう。 24fpsという言い方がある。fpsはフレーム・パー・セカンドの略だが、24fpsであるフィルムの映像をどうやって30fpsにテレシネするのだろうか。 ここで実はビデオ信号が本当は30fps(秒間30コマ)という理解では不足ということを知る必要がある。現在の地上波アナログで用いられているNTSCのビデオ規格は60iと呼ばれている。えっ、30じゃなくて60? なぜ2倍? "i"とはインタレース(飛び越し走査線)を意味する。つまり走査線を偶数番、奇数番と飛ばした「フィールド」を秒間60枚送信しているのがテレビ。だから60iである。2つのフィールドが1つのフレームを構成するようになっているから数字が2倍なのだ。 どうしてこんなインタレース方式なんてややこしいことをするようになったのか。 初期のテレビ受像器はブラウン管に対して電子銃で画を描くものだった。だが、こうやって飛び越しで描き、人間の脳内の残像で補完しないとチラついて見えるという技術的な課題があったからだ。 テレシネではこのフィールドを応用してコマ数のすり合わせを行う。ここでは「2-3プルダウン(3-2 プルダウンとする書籍もあり)」という方法がとられる。つまり、1コマ目を2フィールドに割り当て、2コマ目を3フィールドに割り当てる。以後ずっとそれを繰りかえすことで、2コマ分を5倍することになる。1秒あたり12回の2-3を行うので、12X5=60フィールドの映像が生成され、帳尻が合うわけである。 この60iがどれほど支配的だったのか……。 古い話だが、LD(レーザーディスク)の記録方式はデジタルではなく、基本的にこの60iでアナログ記録されている。記録ピットがCDのようになっている光ディスクなので誤解されやすいが、LDの映像記録方式はアナログ、と強調しておく(イメージや思い込みはコワイ)。 CAVと呼ばれる標準ディスクの場合、このフィールドにアドレスを打ち込むことで、コマ送りをしても24コマのブレていない静止画を出すことが可能であった。アドレス処理をしていないCAVでは、2枚の絵が重なってプルプル震えたような画が出ることがある。これは2-3段階で別々のコマで形成された2フィールドが1フレームとして出るからである。震えないコマを探すのが大変だった記憶が残っているベテランアニメファンも多いだろう。 初期のVHSデッキでも静止画が震えていたが、これもヘッドがどの任意の2フィールドを取るか分からなかった(制御できなかった)ためである。フィールドで静止画を出すという荒技を使ったデッキもあったが、それだと画素数が半分になってしまう。ベータマックスのF11の淡い静止画とかがソレだった。結局、その後はデジタルメモリが低廉化するにつれて、2フィールドをメモリ蓄積して確実な1フレームを作れる技術が確立した。これでようやくブレない静止画が出るようになったわけだ。LDのCAV(長時間ディスク)の静止画も、それにならったはずである。 このように60iベースで考えることは、ビデオグラムがVHS、LD主流の時代には当然であった。フィルム原版の作品にしても、スタジオで2-3処理したNTSCの60iをマスターにするしか選択肢がなかったからである。 ところが90年代中盤にDVDが登場し、またハイビジョン撮影を映画に適用するという流れ(『スター・ウォーズ』のエピソード1)のあたりから、事情が一変する。ハリウッドの映画業界の強い要望で、劇場用の24フレームこそがスタンダードな記録方式であると、そういう方向に大きく転換する。 これにはブラウン管ベースとするテレビの考え方が時代遅れになってきた事情も絡んでいる。技術の進歩により、飛び越しで描かないとチラつくという課題はブラウン管でも解決されていた。パソコン用のブラウン管モニタはすでにインタレースではなくドット表示になったし、さらに平面ディスプレイの液晶、プラズマなどが主流になり、ブラウン管が消滅する方向性も出てきた。確かに現在、まさしくそうなっている。 こうした事情から、ブラウン管テレビもインタレース表示でなく、一度に走査線をフルに表示するプログレッシブ(順次走査)のものが出てくるようになる。これはメモリで補完して60iのものを60pにしたものだった。その方が見た目上の画質が向上するからだ。 こういう流れの中で、最近のDVDが24pと呼ばれる映画フィルムと同じ標準に基づいて記録されていることは、案外知られていないのではないか。つまり2-3のテレシネに相当する処理は、24pのDVDの場合はプレイヤーが行っているのである。スタジオで2-3された60iを記録するビデオモードもあるが、画質にこだわるなら24pのフィルムモードなのだ。 やっとフィルムと同じ情報が届けられるようになった時代になったというわけだ。なのに、なぜあまり知られていないのだろうか。さっそくコマ送りをしてみよう! ただし、劇場アニメなどもとが確実に24コマの方が良いかもしれない。90年代以後のTVアニメだと60iのビデオ原版のものも少なくないからだ。特にデジタル化以後のものは……。 レガシー的な規格には拘束力がある。それは意外にあなどれない。分野は異なるが、標準化活動に参加したことがあるので、その辺も身に染みて分かる。その話は、またの機会にしてみようと思う。