COLUMN
いよいよブルーレイ時代が始まった。映像の美しさにこだわるアニメファンなら、少しでも良い条件で観たいのが人情というもの。ところが、フィルムとビデオの規格変換の問題が、ハイビジョン時代になって急浮上している。コマとコマの間がないと何ひとつ動いて見えないアニメーション。その差に関するファンの見識が、いま試される!
第16回目で「秒間24フレームと30フレームの間にある溝」について書いた後、いろんな方から追加情報をいただいた。作画用のタイムシートは一時期30フレームになっていて、ガイドに24フレームが併記してあったという。そして日本のアニメの基本となっている3コマ打ち(1枚を3フレームずつ撮影する手法)は30fpsだと4フレームずつ撮影することになる。24fpsに対して3コマ打ちだと1秒に8枚だが、30fpsに対して4コマ打ちだと1秒に7.5枚となるので、微妙だが枚数節約にもなるのだそうだ。 さて、技術の世界(特にIT関連)では「デファクトスタンダード(事実上の標準)」という考え方がある。本当のスタンダードは規格として関係省庁などが出す法令などに基づくものだが、民間の業界の中で主流になったり、ユーザーが利便性で選定するなどして淘汰され、統一されていく規格が「デファクトスタンダード」である。 アニメの世界では、たとえばハイビジョンの規格は通信・放送関係の政令も絡み、ITUという国際機関も絡んで決められた標準(スタンダード)だが、それをどう記録するかというDVD、ブルーレイディスク(BD)などは関連する企業が作るコンソーシアム、フォーラムといった任意団体が決めている。だから、過日のようにHD-DVD、BDのように規格争いも発生するのだが、それはデファクトスタンダードとなるための技術の開発競争でもあるのだ。 さて、こうした標準関係を考えるときには、同時代で併置されるもの以外に、過去から未来へどう規格を継承していくかという考え方が重要になる。これを「レガシー(遺産)」という呼び方をする。たとえばパソコンのUSBは、レガシー規格であるRS-232CやSCSIなどの役割を統一的に継承したデファクトスタンダードである。 映像の世界では、フィルムからビデオの時代になって、フィルムのレガシー規格である24fpsを30fpsのビデオ上でどうするかという問題が発生し、それを2-3という手法で解決した。そしてテレビ局へのビデオ納品が当然となったため、30fpsをデファクトスタンダードと考えるようになった。 ところがハイビジョン、高画質、ビデオグラム時代になり、すべての処理がデジタル化されていく中で、事情がふたたび変わっていく。DVDではMPEG2、BDではMPEG4という圧縮方式をとっている。したがって、秒間のコマ数が少ない方が限られた情報量が有効に使える、1枚あたりの画像をよりきれいに出せるというわけなのだ。 ということで、DVDでは60iをそのまま記録するビデオモードと、24pという映画のコマそのままを記録するフィルムモードの2種類が採用されることになった。これはもっぱらハリウッド映画の意向が重要視され、さらにワイドスクリーンの場合はスクィーズという左右圧縮した状態、つまりスコープサイズの映画を撮るときのアナモフィックレンズ(圧縮レンズ)に近い方式の記録も採用された。 おそらくハリウッド映画人の感覚としては、「DVD以後のビデオグラムは、フィルムのミニチュアを売る」ということになったのではないだろうか。 秒間のフレーム数が多いほど画質が良くなりそうなものだが、24fpsの方には「映画らしく見える」という「リアリティ(何を本当らしいと感じるか)のアドバンテージ」がある。実際に出画が24fpsのモニターやプロジェクターも発売が始まっており、いずれ映像作品では24fpsの方デファクトスタンダードとなるに違いない。という事情の中で、現時点では30fpsの方が古きもの、レガシーになりつつあるわけなのだ。 事実、ブルーレイ化にあたっては原版が24pのHD(ハイビジョン)で制作しておかないと、最高画質にならないという考え方が確実に出ている。デジタルアニメ化して間もない時期、前世紀末から2007年ぐらいまでの作品は、HDでさえなくSDが原版で、ワイド画面でもスクイーズのみ対応という作品が多い。そうした作品をブルーレイ化するとき、単純にSDをHDにアップコンするだけではすまなくなる。60i→24pへ変換して次世代対応の新原版を再制作するということが始まっている。 ところがこのレガシー対策についても、現時点ではさまざまな技術的課題が残っている。 アニメの作画を24コマベースで行い、24fpsの単位で2-3の変換後の関係を崩さずに編集さえされていれば、ビデオマスターから2-3の逆をたどって24コマに戻すことが可能である。実際、パソコンの映像編集ソフトでも逆2-3機能がついたものがあるくらいだ。 ところが60iになった状態でビデオ編集されてしまうと、編集点によっては2-3の関係が崩れてしまう。2-3、2-3と来た後に、2-2に2-3をつないでしまったりすると、機械的には戻せなくなってしまう。うっかりするとインタレースの半分しかない、通称「スダレ」が出る危険性がある。さらに編集したものにビデオエフェクトを上から60iでかけてたりすると、コマ間の関係がガタガタになってしまう。 結局、たとえ16mm原版であってもフィルム時代の作品の方が、1コマあたりの情報は多いし、編集点は確実に24fpsなので、すんなりブルーレイに移行できるということが分かってきている。アップコンするしかないデジタル制作時期のSD作品よりも、確実に高画質は実現できなるということのようだ。ただし注意が必要なのは、作画や演出の内容まで技術の変化で高品質になるわけでもない、ということ。 どんな内容のものを、どのランクの媒体で楽しむのが妥当なのか。投資に値するものかどうか。しばらくはアニメファンも審美眼ごと見識が問われる時代が続きそうである。