COLUMN
メディアが新規になるたび、ファンならば「必ず買わずにはいられないタイトル」がある。観られればいい、確認できればいいと片づけられない、そんなタイトル。長年にわたるその変遷は何によるものなのだろうか?
地上波デジタル放送時代を迎え、エンドユーザーにハイビジョン画質を届けるブルーレイへの期待は高まる。新作アニメのビデオグラムもDVDとブルーレイの平行リリースがしだいに多くなってきた。とりあえず新作はすべてデジタル制作なので、オーサリングなどがうまく行けば、原版に極めて近い映像がユーザー宅でも再生できる。これは非常に画期的なことだ。 こうした新メディアが登場すると、気になるのがフィルム時代の「旧作」リリースである。ことに過去何度となくリリースされた名作は、当然ファンの期待も大きいわけで、フラグシップ的な役割を担って登場することになる。たとえば洋画では『ブレードランナー』や『2001年宇宙の旅』あたりがそんなタイトルだ。もういったい何度ビデオグラムを買い直したか分からない。 アニメでも、その「何度も買い直す古典」に相当するタイトルが2008年12月に出た。宮崎駿監督の劇場映画監督デビュー作『ルパン三世 カリオストロの城』がそれだ。 作品内容は今さらだから省略するが、TV放送(監督自らハサミを入れたもの)のエアチェックをしたにも関わらず、ノートリミング・ノーカットのセルビデオ、同じ内容のレーザーディスク(LD)、ネガテレシネ・磁気音声で品質アップしたリマスターLD(以上、東宝ビデオ)、後者のLDと同じ内容の海外版DVD、「ジブリがいっぱい」シリーズのDVD(ブエナ・ビスタ・ホーム・エンターテイメント)……さらにさらに、BOXにしか入っていないHD(ハイビジョン)リマスターのDVD(VAP)まで買い求めた。 その果てにやってきたのが、同じHDリマスターの今回のブルーレイ(VAP)なのである。 最初のエアチェックの生テープ代含めて、全部でいったいいくら使ったか分からない。セルビデオはベータマックスで19,800円もした。四半世紀前のことだから、今だったらDVD-BOXが軽く買えるくらいの価値がある。パッケージには「完全版」と銘打ってあるが、それは「90分版」というカットされた商品が存在するからだ。 ビデオグラムのごく初期、『ゴジラ』など全尺を90分に短縮して収録したものがあった。それは1/2インチの商品(ベータ、VHS)へダビングするために使う1インチマスターの上限が90分で、それを超える場合はマスターが2本になるという製造上の事情によるものだった。途中で切り替えられないから商品の方の尺を詰めるなんて、今となっては信じられない話である。 LDが2回出ているのも、途中の技術向上によるものだった。最初のビデオグラムは普通に劇場にかけるポジプリントを焼き、撮像管を使ったテレシネでNTSCビデオに落としたものである。もちろんエアチェックよりはるかに画質がいいが、今の目で見ると画像は眠い(ピントが甘い)し、発色もそれなりである。音声も光学トラックに焼きつけたものなので、帯域が狭くてAMラジオのようだ。 そこでリマスターである。プリントとは要するにネガからのコピーだから、マスターネガをテレシネしたものの方が一世代マスターに近づいて、鮮度も上がる。そして音声も音ネガは磁気テープに録音したシネテープから作るから、そっちが上位のマスターで、帯域もFMラジオ並みに広く明瞭度が高い。 そんな感じで時代が下るにしたがって、どんどん情報量が増えていき、状態はマスターに近づいていったわけだ。ブエナ版DVDはおそらくマスタリング時期にはまたポジテレシネが流行していたはずだが、テレシネ技術の向上で鮮明になった。何よりもDVDへの収録はスクイーズなので、左右を拡大してワイドTVに出せば、走査線はフルに使っていることになる。LDと同じレターボックスで収録された海外版DVDは天地の黒味の分だけ走査線情報が足りないのだ。そして収録は24Pのコンポーネント。これもさらにフィルムに近づいている。 問題は最新のHDマスターだ。このDVD版は42枚組、定価10万円の「LUPIN THE BOX -TV&the Movie-」(VAP)にしか入っていない。これは技術の進歩で、ネガを1コマずつデジタルでスキャンし、マスターの情報をすみずみまで引き出している。ルパンの背広のような淡いグリーンは、実はフィルム上で色が非常に転びやすい。明らかに黄緑系の色なのに「青ルパン」と呼ぶ人が多いのも、黄色の成分がポジでは少し抜けるせいである。 ブエナ版は「青ルパン」っぽい色味だが、VAP版はそのグリーン系が非常によく出ているHDマスターで、その違いはDVD版でもよく分かった。 その同じHDマスターがブルーレイ化されることで、発色の再現性がさらに上がった。解像度も向上したため、ニセ札の模様も不二子がルパンに送ってよこす新聞の「1968年」という日付も実にくっきり見える。モブの中にいる未来少年コナンも見つけやすいし、「重箱の隅」つつきには最適である。驚きは階調表現の明瞭さで、小林七郎の美術のデリケートな明暗がディテールの豊かさとともによく分かるようになった。主な舞台の城塞、その質感が非常によく楽しめる。 ブエナ版との比較ではそれこそ重箱の隅的な差がある。オープニングのラストカットには、次元の脚が草むらのBOOK(前景)の上に出てしまう重ねの撮影ミスがあった。ジブリ版ではこれがデジタルで修正されていたのだった。付録についている絵コンテ映像と同時収録したDVDではオリジナルのままで異同があるため、リリース時にはずいぶんと話題になった。今回のHDリマスターでも、「まず、どっちですか?」とマニアが膝を乗り出して聞いてくるくらい有名な修正である。 正解は「VAP版はオリジナルのまま」。他の要素も極力フィルムにある情報をそのまま出すと受け取れる印象の調整であり、それはブルーレイになっていっそうよく分かるようになった。セルとフィルムならではのアレコレ、たとえばホコリやセル浮きなど、これまでのビデオグラムでは目立たなかったアラも如実に見えてしまうが、それはそれで味のうち。非常に好感がもてた。何にせよ、これだけの長年にわたる莫大なる投資をもってして「よりオリジナルに近く」「よりきれいに」を望んでいたのだから、ようやくこれが終着点かなと思っている。あとはユーザー側の再生環境の充実だけという感じだ。 メディアが変わるたびに数次にわたって行うこの種の買い換え投資を、ファンの間で何と呼んでいるか御存知だろうか? それは「お布施」である。しもべとしての忠実なるご奉仕も、そろそろ限界に近づいた。最後の最後にかなり満足できるものが物体として入手できて、実に嬉しい。これで長年のお布施のかいもあったかなと思った。 そんな複雑な思いが絡みあったブルーレイ化であった。