きょうの社説 2009年5月3日

◎憲法記念日 「思考停止」から抜け出して
 憲法をめぐる国会の風景は閑散とした印象である。憲法改正手続きを定めた国民投票法 は来年五月十八日に施行され、憲法改正原案の起草や審議がいよいよ可能になるが、衆参両院に設置された肝心の憲法調査会は依然、休眠状態が続いている。

 日本をとりまく安全保障環境と自衛隊の役割は変化し、国民生活を左右する世界の金融 ・経済システムが歴史的な転換点を迎えている。個別法の対応だけでなく、憲法の観点から絶えず国と国民生活のありようを考えることが政治の最も根本的な務めであり、現在の「思考停止」の状態から抜け出ることを与野党に求めたい。

 憲法審査会は国民投票法制定に伴い二〇〇七年に設けられた。しかし、あくまで形式上 の設置であり、委員数など定めた審査会規程が制定されないため機能せず、有名無実の状況にある。衆院議院運営員会は四月に与党の規程案の審議に入ったものの、野党の反対で成立のめどは立っていない。

 民主党は「規程の制定には反対しないが、与党は政争の具にしている」と反発している 。衆院選を控え、改憲派と護憲派が同居する民主党に揺さぶりをかけようという与党側の思惑を感じ取っているようだ。政治決戦に向けて国会審議は政局優先になりがちだが、審査会規程の先送りは、立法府として怠慢のそしりを免れまい。

 国会では憲法論議そのものが下火になり、未曾有の経済危機にあって衆院選の争点にな る気配はない。自民党は憲法改正推進を政権公約に掲げる方針というが、改憲を前面に出して敗れた〇七年参院選のトラウマもあるようだ。

 改憲発議の高いハードルを乗り越えるエネルギーを、今の国会に求めるのは無理であろ う。それでも、例えば、自衛隊の国際平和協力活動の拡大や「ねじれ国会」で問われる二院制の在り方など、憲法と切り離して論じることのできない課題はいくつもある。

 憲法審査会での改憲論議に関して、野党側から「機が熟するのを待つべきだ」という声 も聞かれるが、改憲の民意を興し、機を熟させるのも政治の役割であることを忘れないでほしい。

◎漫画で地域おこし 素材の魅力引き出したい
 大型連休で北陸の行楽地がにぎわうなか、輪島市にオープンした永井豪記念館は異色の 観光スポットであり、漫画やアニメの力で地域の魅力を高めるユニークな試みとなる。

 北陸では氷見市が出身者の藤子不二雄(A)さんの人気漫画「忍者ハットリくん」など を生かした取り組みを進めているが、漫画による地域活性化を軌道に乗せるには、拠点施設の運営にとどまらず、作品に描かれた魅力的なキャラクターを地域資源と組み合わせ、相乗効果を引き出す視点が欠かせない。成否のかぎを握るのは、素材が生き生きするような斬新な企画力や情報発信力である。作者の協力を得ながら、両市が刺激し合い、アイデアを競ってもらいたい。

 永井豪記念館は旧信金の建物を活用し、「マジンガーZ」像や漫画の原画、パソコンに よる漫画家体験コーナーなどが設けられた。永井さんの歩みを紹介する顕彰施設としての性格も持つが、朝市通りという輪島のシンボルロードに完成したからには、開館効果を地域全体に波及させる必要がある。

 輪島市は二〇〇七年から永井さんを招いて「マンガキャラクター仮装コンテスト」を開 催している。このような漫画を切り口にしたイベントを地域に定着させたい。輪島塗や朝市、千枚田など、既存の地域資源とは性格が異なるが、観光を基盤にする輪島にとっては漫画は大きな可能性を秘めたソフトであり、新たな客層を掘り起こす好機となる。

 漫画による地域おこしは「ゲゲゲの鬼太郎」で知られる水木しげるさんの出身地、鳥取 県境港市の「水木しげるロード」が成功例である。百体以上の妖怪ブロンズ像を商店街に設置し、鬼太郎音頭や鬼太郎列車、鬼太郎ビール、世界妖怪会議、妖怪そっくりコンテスト、妖怪検定などの企画を矢継ぎ早に打ち出し、観光客は年間百万人を超えている。

 その徹底ぶりの背景には、水木さんの故郷への愛着、地元にアイデアマンがいたことに 加え、住民の遊び心もある。地元が漫画文化を積極的に受け入れ、楽しんでこそアイデアも沸いてくるだろう。