未来の情報を提供することで渋滞は緩和される

――西成先生は著書の中で、全員が知らない方がいい情報として、「カーナビのジレンマ」の話をされていたかと思いますが、この件に関してはいかがでしょう。

未来の情報を提供することで渋滞は緩和される

西成教授:裏道情報のお話ですね。カーナビに、「現在、この裏道が空いていますよ」といった情報を出してしまうと、皆がそっちに集中してしまうので、今度はその道が渋滞してしまうという話です。こうした裏道や渋滞回避ルートといった情報の場合、全体の3割以上が知ると意味がなくなります。できるだけ全員が知っていた方がいい情報と、全員に伝えてはいけない情報があるのです。裏道情報の場合、伝える人の割合を全体の3割に制限するというのがポイントです。

 現在のカーナビの渋滞回避情報は、リアルタイム情報だと言っていますが、実は5分間遅れて提供されるので、5分前の情報なのです。特に朝は道路状況があっと言う間に変わりますから、5分前の情報を提供されてもあまり意味がない場合も多いのではないでしょうか。

 ここに1つ、面白い研究結果が出ています。本邦初公開。今日は特別にお教えしましょう。

 それは、10分〜15分後の交通状況に関する情報を伝えることです。カーナビに、例えば「15分後、この道がこの程度混みます」といった情報を出すと、「じゃあ、こっちの道を通るか」という風に迂回するドライバーが出てきます。それによって、各クルマがうまく分散し、渋滞が軽減されるのです。コンピュータシミュレーションを行ったところ、経路が数通りあれば、均等に選択されるという結果が出ました。

 一方、リアルタイムの交通状況を発信してしまうと、今、空いている道だけに人が集中してしまい、かえって悲惨なことになるのです。つまり、未来の情報を提供する方が選択肢が広がり、人は分散するということです。最近、海外の研究者が論文の中で同じような内容を発表しているのを目にしました。

 “15分後”という未来の情報は、今の交通量を基に加速度計算することで簡単に求めることができます。今後、コンピュータシミュレーションの精度を高めていけば、30分後、1時間後の道路の状況をより正確に提供できるようになるはずです。それによって交通全体の流れが良い方向に向かうのではないかと思っています。

――どうもありがとうございました。これで、GWの渋滞対策は完ぺきです。