ポイントは「速さ÷車間距離」を一定に保つこと

「速さ÷車間距離を一定に保つことがポイント」(西成教授)

西成教授:しかしながら、例えば、時速100kmで走行していたクルマの速度を70kmに制限することで、逆に後ろに渋滞を作ってしまう場合もあります。私はそれに対してももちろん対策を考えていています。

 簡単に言うと「速さ÷車間距離」を一定に保つことです。例えば、時速100km、車間距離60mで走っているクルマの時速を70kmに制限した場合、車間距離を42mにするのです。100÷60=70÷42=1.666・・・というわけです。そうすると、自分のクルマの減速波によって、後ろに渋滞が発生しないということが、ある計算式から導き出されています。この値約1.67を常に一定に保つように運転できる人は非常に優秀なドライバーになれます(笑)。

 しかしながら、普通はなかなかできるものではありません。そこで、この値をリアルタイムにカーナビに表示するといったことができるようにしたいと思っています。そのため、現在、カーナビメーカーへの提案なども行っているところです。

キーワードは「スローイン&ファーストアウト」

――ITS(高度道路交通システム)に取り入れるといった計画はないのでしょうか?

西成教授:まだやっていませんね。ITSが何百憶円といった巨額の予算をかけてシステム を構築していますが、私としてはそれを補う形で、「ドライバーの知識が向上するだけで、こんなに世の中が変わる」といった、もっと人間的なことをやりたいんです。こういったスタンスで、社会に貢献したいと思っています。できれば、予算はほぼゼロでやりたいですね。

 例えば「坂道の渋滞をどうやって防ぐか」といった場合、「ここは坂道ですよ」と看板を立てるだけでも効果があります。しかしながら、何の知識もなければこういった看板が立てられていても、「だから何?」となるでしょう。ですから、知識は非常に重要なんですよ。予算の節約にもなります。元来、教育とはそういうものであり、それが一番大事なことなのではないかと思っているのです。私は人間が大好きなので、人間中心に考えたいんです。「コンピュータを使って自動化する」といった世界はあまり好きではありません。

――「速さ÷車間距離」の値をリアルタイムに計算するには、車間距離を知る必要がありますよね。

西成教授:車間距離はレーザービームを使って計測する必要があります。既に車間距離をセンシングできるクルマは市販されていますが、もちろんすべてのクルマがそれをできるわけではありません。ですから、今、誰でもできることとしては、「スローイン&ファーストアウト」がキーになると思います。つまり、渋滞領域にはゆっくりと近づき、渋滞領域に入った場合はできる限り早く抜けるということです。これによって、渋滞という怪物から逃れることができます。

――それでもピタっと止まってしまったら、車間のとりようもない……。

西成教授:大概、みなさんは渋滞にはまってしまうと諦めてしまい、前のクルマが動き始めていても、「もういいや」という態度を取ってしまいがちです。でも、そういった態度では、渋滞は成長する一方です。渋滞は早く抜け出すことで、成長を弱め、渋滞の先頭の解消を早めることができるのです

 そのためには、2、3台前のクルマが動き始めたら、自分もある程度、見切り発車して動き始めることです。2、3台前のクルマを見ながら運転することで、反応時間がものすごく速くなり、渋滞の先頭が解ける速さも増します。こういった知識を持っているだけで、渋滞の距離を縮めることができるんです。