「割り込みたい車にはどんどん割り込んでいただき、先に行っていただけばいいんです」(西成教授)

――渋滞にはまると、ドライバー同士の心理戦のようなものが始まりますよね。車間を空けようと思っても必ずそこに割り込んでくるクルマがいるので、「正直者はバカを見る」という気分になります。

西成教授:それは全く気にしなくて構いません。割り込みたいクルマにはどんどん割り込んでいただき、先に行っていただけばいいんです。そうしているうちに、自分の周囲は割り込まないクルマだけの集団になります。10台程度の集団ができれば、後ろから来たクルマも割り込めなくなります。そういった集団を早めに作ることです。そしてその集団がひとかたまりとなって渋滞領域に向かっていけば、もう大丈夫です。

 割り込まれて、車間距離が狭まってしまったら、少しずつ車間距離を取っていくようにします。私の書いた本を読んでいる人は皆、そうします(笑)。渋滞ができる領域というのは、例えばトンネルの2km前など大体決まっていますので、その前から車間距離を空けるように努めるのです。仮に追い越して先に行くクルマがあったとしても、彼らはその先で必ず渋滞にはまって動けなくなっています。また、そうしたクルマは途中で進んだり止まったりを繰り返しているので、非常に燃費が悪くなります。でもこちらはその間、ほとんどノンストップで、しかも渋滞が解けたころに渋滞領域に着くので、渋滞にはまることがありません。

――あまりに出来すぎた話のようにも聞こえますが(笑)、渋滞領域に着く頃には渋滞が解消されているというのはなぜでしょう。

西成教授:渋滞の長さが1〜2kmであれば、渋滞領域の4〜5km手前から時速70kmで行けば、渋滞領域に到達する頃には渋滞がかなり小さくなっているということが、私の計算結果で明らかになっているからです。これがまさに私が提唱している運転方法です。

 この方法に関する実証実験の様子を今年6月に警察庁がDVD化して、ドライバー教育などに使ってくれることになっています。教習所などでも流してもらえるようになれば、徐々に世の中は変わっていくと思います。JAFにも協力してもらっており、「JAF Mate2009年6月号」でも大々的に紹介してもらう予定です。JAFメイトは発行部数1400万部という日本で最大級の媒体ですので、かなり大きな反響があるのではないかと思っています。

――どういった実証実験ですか?

西成教授:警察庁とJAFの協力の下、「渋滞吸収隊」というものを作りまして、2009年3月15日の午前11時に、相模湖インターチェンジから小仏トンネルまでの間を、警察庁とJAFのステッカーを貼ったクルマ4台で時速70kmで走行しました。“印籠効果”のあるステッカーを貼ってあるので、一般のクルマは我々を追い越すことができません。すると時速60kmまで下がっていた速度が80kmまで回復し、交通渋滞を起こさずに済んだのです。

――ほぉ。免許の更新の際にも紹介できるといいですね。

西成教授:ちょうど今、全日本交通安全協会ともそういった話をしているところです。渋滞解消に関しては今のところ特効薬というものはありませんが、1人1人の知識が向上することで徐々に世の中は変わっていくと信じています。

 小仏トンネルは以前、渋滞個所の道幅を広げることで渋滞解消を試みましたが、再び道幅が狭くなるところで新たに合流の渋滞が発生し、結局、渋滞は解消されませんでした。

 しかし、知識の向上であればコストはほとんどかかりません。インフラ整備や政策よりも効果があり、しかもコストがかからないということで、私はその部分を全面的にバックアップしていきたいと思っているのです。