急ぎ駆けつけると、5人の若い方たちが椅子に座っていました。とてもなごやかな雰囲気だったので、スーパーバイザーが対応するべき緊急事態が起きたとは思えませんでした。 ワーキングリードから状況を聞かされ、その5人の若い方たちは全員芸能人だとわかりました。
みなさんはスペースマウンテンに並んでいるときに、まわりのゲストに発見されて、大勢に取り囲まれてしまったそうです。大混乱になった出口で身動きが取れなくなったみなさんを、ワーキングリードが機転をきかせて控え室まで誘導してきました。
テレビのリポート取材や雑誌の撮影などで、東京ディズニーランドには多くの有名な人たちが訪れますが、そのときは広報の担当者がパーク内で混乱を招かないよう随時エスコートさせていただくことになっています。
一方でお忍びで訪れる芸能人も多く、このたびのご来園も私たちには知らされていませんでした。 東京ディズニーランドは芸能人の方を特別扱いいたしません。他のすべてのゲストの方と同じように、どれだけ混雑していてもアトラクションには並んでいただきます。
しかしこのときはあまりにも人目につきすぎました。他のアトラクションに入ろうものなら、またそこでも同じような混乱を生む危険性がありました。東京ディズニーランドにきているゲストたちは、芸能人に会いにきているのではありません。
そこでこの日のパーク運営責任者と話し合い、私がエスコートをさせていただくことになりました。みなさんはスペースマウンテンに並んでいただけで、決して特別扱いを求めていたわけではありません。ディズニークリスマスの世界を純粋に楽しみにきた、私たちの大切なゲストなのです。
私は5人を静かに見守りながら同行しました。3時間くらいのツアーだったでしょうか。みなさんは心から楽しんでいたと思いますし、少しはしゃぎすぎなくらいだったと記憶しています。
イッツアスモールワールドでは5人が一列に並び、歌って踊りながら行進していらっしゃいました。カリブの海賊では、目を皿のようにしてすべての光景を注意深く見渡していらっしゃいました。スプラッシュマウンテンでは、なぜかメインドロップのときに全員で頭の上に丸をつくろうという話になり「中村さんも一緒にやってくださいね」と頼まれました。
その後、おひとりの方がまとめてスプラッシュダウンフォト≠購入されて、そのうちの一枚を私にもくださいました。長年のキャスト生活の中で、これがゲストの方と一緒に映った、たった一枚の写真となりました。
最後にみなさんをメインゲートでお見送りするとき、私はキャストを代表して深く頭を下げました。そして自由に行動していただけなかったことと、一部舞台の裏側を目に入れてしまったことをお詫びしました。
「楽しかったです」
しかしみなさんはそうおっしゃって、まるで子どものように手を振りながらゲートを出ていかれたのです。実際にゲストを楽しませていたのは、アトラクションやショップのキャストたちによる素晴らしいおもてなしでした。
私はただのエスコート役でしたが、みなさんのやさしさに触れてとてもすがすがしい気持ちになりました。
<転載終了>
この一行とは、TBSテレビ「聖者の行進」出演者の方々でした。
後日談ですが、テレビの対談番組においていしだ壱成さんが「番組の出演者でディズニーランドにいったこと」を楽しそうに話していた、と同僚から聞きました。
また、その日から8年近くたった2005年9月10日の朝日新聞
「夏休み。仕事が終わってから、自らハンドルを握り、5歳の娘とディズニーランドへ」というスプラシュダウンフォトをくださった雛形あきこさんのインタビュー記事を見つけました。
あの時のスプラッシュ・フォトの「とてもユニークな写真」は私の手元にもあります。そのユニークさをお見せできないのが残念ですが・・